どうせならどんぶりにもこだわりたい
どうせやるならイメージの中の夜鳴きそばをできるだけ再現してみたい。
まず夜鳴きそばのどんぶりの側面は赤いものでなければならない。そんなこと、誰が決めたのかといえば、誠に勝手ながら私が決めさせていただいた。
しかし、側面が赤のラーメンどんぶりは意外にも手に入りにくく、通販サイトにはあったが値段が高かった。
あきらめかけていたところ、店舗用のリサイクルショップのご自由にお持ちくださいコーナーに側面の赤いラーメンどんぶりがあったのを見つけた。
それはご自由にお持ちくださいと謳うだけあって、タバコの灰などですごく汚れており持ち帰るかどうか躊躇した。
しかし屋台のどんぶりというものは、そういうものだと自分に言い聞かせ、持ち帰ってよく洗って使うことにしたのである。
ラーメンを作ろう
肝心のラーメンは、昔ながらのラーメンがよかろうとインスタントの生麺タイプの醤油味でいくことにした。
公園までの移動時間を考慮して、ゆで時間は一分ほど短くした。
これを公園に持っていけば久しぶりに夜鳴きそばが食べられるぞ!
外へ行く
このラーメンをどうやって公園まで運ぶか?
以前、突撃される視点でみる突撃!隣の晩ごはんという記事で使ったフードコンテナーに入れて移動することにした。
フードコンテナーの中身は、さきほど作ったラーメン、コショウ、飲料水、それとラーメンと書いてある提灯である。
これらを持って移動する間、何一つやましいことはないのだが他の住人に見られたらご近所トラブル扱いされるのではないかと考えると、そばの前に俺が夜泣きしそうである。
さて、マンションの敷地を出て公園に向かおう。
よーーし!提灯を掲げたらグッと気分が盛り上がってきたぞ。
ただの公園が一気にガード下にある移動式ラーメン屋台になったみたいだ!
実食
念願のセルフ夜鳴きそばの実食のときが来た。
作ったラーメンをいつものようにテーブルへではなく、公園に持ってきただけなのだがとても愉快な気持ちになる。
そのうえ、どんな味がするのか初めてやってきたラーメン屋さんの味を確かめるようなワクワク感もある。
などと心の中で架空の店主に話しかけてみるのも一興。
しかし、実際に声に出すのは世間体のことを考えると避けたいところである。
こっ、これは!
ガチでうまい。部屋で食べるより4倍くらいうまい。
どうしてこんなにうまいのか。
寒いところで食べるラーメンはただそれだけでうまいのは分かっている。
だがしかし、決してそれだけではない。
部屋での食事はサブスクで何を観ようかリモコンをカチカチ操作しながら食べて、結局選んでいるうちに食べ終えてしまったりする。
そのように味どころか自分が何を食べているのかさえよく考えないままのことが多いが、外で食べると食事に集中して余計に美味しく感じるのである。
立ち食いスタイルにシフトチェンジ
夜鳴きそばと言えば立ち食いでしょ、と立って食べてみる。
こうしてみると、提灯を用意したのは正解だった。提灯なしで公園で湯気の立つラーメンを食べているのは異様であるからだ。
ただし、提灯に引き寄せられて近隣の人がラーメンを注文しに来たら困るが。
完食
食べているのはインスタントの醤油ラーメンに違いないが、うますぎて箸が止まらない。
あっという間にラーメンの残りも少なくなってきた。
実食開始からわずか4分で完食。それだけ美味しかったということでもあるが、我ながらよく噛んで食べたほうがいい。
このためにここまでやってきたと思えるほどラーメンのあとの水がまたうまかった。落語で「酔い覚めの水千両に値が決まり」などと耳にする。だとすると、夜鳴きそばのあとの水だって八百両くらいに値が決まってもおかしくない。
手軽な夜のアウトドア誕生
自宅で作ったラーメンを外に持っていって食べるだけという手軽なアウトドア〝セルフ夜鳴きそば〟が誕生した。
これは今後おおきなムーブメントとなり、夜の住宅街を提灯とラーメンを持った人たちが何人も歩くことになる。
そして、犬を散歩させている人同士がお互いを「ショコラちゃんのパパ」「マロンくんのママ」などと連れているワンちゃんの名で呼びあうように、提灯を持ち歩く人同士もまた「鶏白湯のパパ」「旭川ダブルスープ縮れ中細麺のママ」などと各々の作ったラーメンの名で呼びあい、夜の防犯パトロール代わりとして安全な街づくりに一役買うことになるのである。
この活動はACジャパンに支援された結果、世界中にひろがり、やがて夜鳴きそばという言葉は、kawaiiやmottainaiなどと同様、yonakisobaとして海外でも通じる日本語となるにちがいない。
そろそろ寝ます。