野菜じゃなくてもいい
繰り返すけれども、「野菜なら大食いでもヘルシー」ということが言いたいのではない。どちらかというと「でかいものを一気食いすると征服感がすごい」が本稿の趣旨なのだ。
じゃあなんで野菜なのかというと、隙間が多いからだ。量に対して見た目のサイズが大きく、これが「食ったった!」という満足感を呼んでいる。
僕の体重が10トンあったら、「牛を丸ごと一頭食べると面白い」という記事を書いていただろう。とにかくでかいものを全部食べると面白いのだ。
今日はちょっと食欲のタガを外したいなー、という日がだれにでもあるのではないか。
ラーメン大盛りいっちゃおっかな、とか、カレーのライス2倍にしちゃおっかな、とか。バイキングでたらふく食うぞ!という手もあるだろう。
しかし、ここで新たに提唱したい新しいバカ食いがある。それは「でかい野菜をまるっと食べる」である。
ちょっと前に家の近所に野菜の路上販売がきていて、サニーレタスが破格の80円だったので買った。
僕はサラダバーが好きなのだけど、新型コロナ以降なんとなくバイキング系は行きにくくなってフラストレーションがたまっていたところだ。買ったサニーレタスをまるっといっこ、全部ちぎってサラダにしてしまった。
成人男性がたじろぐに十分な量があったが、思いのほかすんなり食べることができた。
食べ終えると、おなかの満腹感とともに、「一個ぜんぶ食ったった!」という謎の精神的満足感がある。これは征服感といってもよい。
あのでかいレタスが、ひと玉ぜんぶ俺の胃袋の中に。卵をまる飲みして胴体が丸くなったヘビの映像を思い出し、愉快な気分になった。
野菜をまるっと食べるのは、レジャーだったのだ。
当時の写真は上に貼った1枚しか残っていなかったので、記事執筆にあたり改めて食べてみることにした。
今回はスーパーに並ぶ葉物野菜から、いちばん大きなものを選んだ。ロメインレタス。サニーレタスとレタスの中間みたいな感じの野菜だ。
初めて買った野菜だったが、ロメインレタスはスイカみたいな爽やかな香りがした。根本のほうはちょっと香ばしい、ナッツみたいな匂いもする。おいしそうだ。
外側の硬い葉3枚はコンソメスープに、他はちぎってツナをのせてサラダにした。ごま油に麺つゆと塩少々を混ぜたドレッシング。
葉っぱを無心でむしゃむしゃほおばる。
野菜をたくさん食べることはよく「青虫のように」と形容されるが、それでは間に合わない。この量は最低でもヤギ、できれば牛になる必要がある。
全部食べて、感覚としては大盛りラーメンくらい。「かなり食ったなー」という満腹感はあるが、普通に食べられる量ではある。
しかし野菜まるっと食いのおもしろさは、その見た目の大きさにある。なんたって元のレタスは顔よりでかいのだ。
同サイズの肉の塊を食べようと思うと4キロくらいはあるだろう。そんなの到底たべられないし、ごはんだって無理だが、野菜ならきれいにお腹に収まってしまう。
これが「食ったった」という征服感を満足させるのである。
カレーやラーメンに替わる新しい大食いの形、それが野菜まるっと食いなのだ。
さて、レタスはあくまで前にやったことのおさらいにすぎない。
ここから未体験ゾーンに突入する。これである。
でかい。ちょっと大きめの職場を退職するときにもらえる花束くらいある。
写真にうつった自分の胴体とくらべて、明らかにこの中に納まりそうにない。
1/4くらいは野菜スティックにして、味噌マヨネーズを添えて。
のこりは刻んでサラダに。おつまみのイカ燻製と一緒にイタリアンドレッシングであえた、拙宅の定番メニューである。
さて、果たして、食べきれるのか……?
好きなんですよ、セロリが。野菜というよりハーブと呼びたくなるその香りの強さ。
頬張るたびにその芳香が鼻孔をくすぐる…のはいつものセロリだが、今日は物理的にも胃にどんどんたまっていく。
3/1くらい食べたところですでに満腹感がやってきた。
そして想定外だったのが、セロリのシャキシャキした歯ごたえ。いつもなら気持ちのいい噛み心地が、今回ばかりはあだとなった。
アゴが痛い………。
結局、野菜スティック少し、サラダにいたっては半分を残してギブアップ。
正直、胃のキャパ的にはまだいけたのだが、アゴが無理になってしまった。初めての敗北である。
残りは夕食に家族で食べた。ラーメンの大盛りは残しておくと伸びてしまうが、野菜はこうして残しておける。既存の大食いカルチャーに対する大きなアドバンテージであろう。
ちなみにこの日、夜までずっと舌がピリピリしていた。パイナップルはタンパク質を溶かす酵素を含むので口がピリピリすることがあると聞くが、セロリにも似たような成分があるのかもしれない。
さてここで強調しておきたいことがある。野菜のまるっと食いは、「健康に配慮して野菜をたくさんとる」とか、「ダイエットのためにお昼をサラダで済ます」みたいなことでは断じてない。
健康の観点では少しずついろいろ食べるのが正義なわけで、ひとつの野菜をアホほど食べるのは言語道断。さらに調味料も多めになるので塩分もとりすぎな気がする。
野菜まるっと食いは、とにかく量を食べて、肉体的にも精神的にも満足感を得ることが目的なのだ。ダイエットなんておしとやかなものとも一線を画する。
「こんなでかいものが腹に収まった」という驚きを楽しむ、それが野菜まるっと食いの真骨頂なのだ。
翌日。葉物から離れて、こんな野菜にチャレンジすることにした。
大きさを追求するのではなく、数を増やしていくという方向性である。
正直、セロリで固いものに懲りたというのもある。
よく火の通った玉ねぎは柔らかくて、味もやさしい。それほど時間もかからず、ペロっと一気に平らげてしまった。
しかし食べ終わったあとになってどんどん満腹感がふくらんできた。
これは野菜に限ったことではないが、柔らかいものほど素早く食べてしまい、あとで遅効性の満腹感がやってくる。暴飲暴食の際は気にかけていただきたい注意点だ。
ともあれ、玉ねぎ2個も征服。翌日はさらに数を追求していく。
これまで最大の重量を記録したが、ひるむことはない。バナナは皮が重いのだ。
輪切りバナナだけでは甘かろうと思い、口直しのトマトを添えた。
それでも1品では飽きそうだったので、ネットでレシピ検索してカラメリゼにしてみた。
生バナナはもうちょっとお腹にたまって大変かと思ったけど、適度に柔らかく食べやすいこともあって、わりとペロっと食べてしまった。
それよりなにより、カラメリゼがおいしい。カリッとしたカラメルの中から、熱を加えてトロトロになったバナナが染み出てくる。
こんなおいしいものを食べさせてやりたい……と、思わず学校に行っている子供の顔が脳裏に浮かんだ。(一人で食べたが)
一個まるっと食いから、ひと房まるっと食いへのレベルアップ。
征服感としては敵の一個小隊を全滅させたとか、村を一個壊滅させたくらいのインパクトがあった。もう誰にも負けない!
自信もついたところで、いよいよ最後の野菜だ。正直、どう考えてもまるっと食べられない野菜はいくつかある。キャベツとか、ダイコン、そしてカボチャである。
しかし今日はスーパーの店頭で、こんなものを見つけた。
生でも食べられるかぼちゃだという。なんだそれは。
左手前から、コリンキーのナムル、生コリンキーのサラダ+味噌マヨネーズ、左奥からフライドコリンキー、そしてコリンキーのポトフ。
生のコリンキーは、シャキシャキしてて歯ごたえが最高。甘くはないけど、オレンジ色なのもあって食感が柿っぽい。
ただニンジンを生で食べたときみたいな青臭さがちょっとある。それも含めて、新鮮でおいしい。
こっちはこっちで、柔らかくておいしい。あんまり火を通しすぎると柔らかくなりすぎてしまうので、ホクホクを狙わずに手短に揚げるくらいがちょうどいいかもしれない。
4品もあると、一心不乱にむしゃむしゃ……というよりも、普通に豊かなランチになってしまった。シャキシャキのサラダからとろけるポトフまで、食感が幅広いのも今までにないリッチ感である。
季節の味をしっかり堪能してなおかつ大食い。これほど贅沢なことがあろうかという締めの一食になった。
繰り返すけれども、「野菜なら大食いでもヘルシー」ということが言いたいのではない。どちらかというと「でかいものを一気食いすると征服感がすごい」が本稿の趣旨なのだ。
じゃあなんで野菜なのかというと、隙間が多いからだ。量に対して見た目のサイズが大きく、これが「食ったった!」という満足感を呼んでいる。
僕の体重が10トンあったら、「牛を丸ごと一頭食べると面白い」という記事を書いていただろう。とにかくでかいものを全部食べると面白いのだ。
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