部屋に詳しくなった
この絵本をつくるにあたり、ドトールで契約書例に書き込みを入れながら真剣に読み込んでいたので、まわりから「すごい真面目に住む人だな」と思われたろうなと思う。
次回作、『ぼくと生命保険』にご期待ください。
契約書の類が苦手だ。文字が多くて窮屈だし、出てくる単語や漢字もむずかしい。
難解な書類に直面すると筆者は「よくわからないものボックス」という、よくわからないものを放り込む箱にいったん閉じこめている。テレビ台の下に置いたそのおぞましい箱が、見て見ぬ振りをしているうちに日々どんどんと膨張されていくのである。
契約書を、筆者でも読みたくなるようにしたい。たどり着いたのは絵本だ。
今の部屋に住んで5年目に差し掛かった。「なんだか毎日冴えないし、環境変えようかな」と思い立ちここに引っ越してから、日常は好転しているような気もする。
賃貸は2年契約だ。筆者の部屋の上の階、大家さんの家のリビングで更新手続の話をなんとなく聞きながら、契約書にサインをしてカバンにしまう。
正直、契約書はあまり目を通せていない。よくないな、とは思う。しれっと自分にめちゃくちゃ不利な条件が忍び込んでいるかもしれないのだ。
もしかしたら「誰でもあなたの部屋に入ってキッチンを使っても構わないものとする」とか「賃料は月ごとに倍になるものとする」などと書かれているかもしれない…そう思いながらつい読み飛ばしてしまう。ああ、契約書がもう少しだけでも読みやすければ…
そんなわけで絵本である。
子ども達でも理解でき、楽しく読める絵本。そんな絵本にすれば、きっとこんな筆者のような人間でも契約書を理解することもできるだろう、という算段である。
というわけで、絵と文章をワクワク用意していく。
意外とスムーズにぼくだけのオリジナル契約書、『とないのちいさな家』が完成した。さあ中身を紹介していこう。
契約書は、まず貸主、借主、そして連帯保証人を明確にするところからはじまるよ。
大切なのはわかるけど、契約書を通して乙だか甲だかが右へ左へ暴れ回り、とにかく登場人物の把握が大変だ。
このままでは読んでいる途中で誰が誰だか混乱してしまう。そうなったらもうその書類は「よくわからないボックス」行きだ。今回の絵本ではちゃんと名前で呼ぶよ。
時代はオンデマンド。名前がひとりひとりに合わせて差し代わる契約書があってもいいのに、なんてぼくは思う。
契約書の文面はとてもむずかしいんだ。
あ、そしてこれはとても大切なことなのだけど。契約書の文面をそのまま載せたことでなんやかんやあって今のぼくの家に住めなくなってしまったりすると困るので、今回の文面は一般的な「住宅賃貸借契約書」の例から抜粋する形で紹介するよ。
どうにかぼくでもわかるようにしよう。まずは初めのこの見開きから。
最初のページは「物件の使用目的」。今回契約した部屋を扱う上での禁止事項について。絵本ではこんなふうに描いたよ。
元の契約書例はこんな具合なんだ。
よくわからない。
ぼくなりに解釈してざっくりと上の絵本にまとめてみたけど、不備があったらごめんね。「又」とか「若しくは」とか、とにかく契約書は漢字が多いのだなぁと思う。
そして次のページは大事な部屋の鍵について。
あー、あー。善良なる管理責任…要するにこんな感じかな。
ニュアンスは伝わる、かな!なんとなくコツをつかんできた気がするよ。どんどん絵本にしていこう。
暮らしをしていく中で、ぼくもキミも、近くに住んでいるひとたちとトラブルになってしまうこともあるかもしれない。契約書ではそんな問題について「損害賠償等」というかたちで項目が設けられているんだ。
今までよりは多少やさしい文章かな、絵本にするとこんな感じ。
できれば平穏に暮らしたい。
でも、いろんな理由があってこの家に住めなくなることだってあるんだ。どんなときに契約が解除されてしまうのか、書類にはしっかりと記載されているよ。
ごめんごめん、いきなりたくさん文字が溢れ出したのでびっくりさせてしまったかもしれないね。実際、ぼくもこの文章が目に飛び込んだとき「ぎゃっ」って小さい声が出てしまったんだ。
そんなときはどうするかって?そう、絵本にするんだ。
どうかな。なんとなくは伝わるだろうけど、ふわっとしたものになってしまった。
もし「大あばれって、どれくらい?」と聞かれたらキミは困ってしまうかもしれない。そう考えたら、契約書の文章が長くなってしまうのにもちゃんとした理由があるのかもしれないね。
さて、ぼくがピンチになってしまったとき、助けてくれるひとだっているんだ。それが丙…いや、ぼくのお父さんだ。
一切の債務を負担する!やっぱりお父さんはすごい!
ハンコがまだまだ大事らしいことも契約書からわかってきた。契約とハンコは切っても切れない関係なんだね。
さて、がんばって契約して大きな問題を起こさず暮らしていたぼくにも、やがて今の家を離れるときがくると思う。部屋を返すことを「明渡し」というみたいだ。
えーと、だから、つまり…
こういうこと!
部屋をきれいに元どおりにして、笑顔でお別れができるといいね。
なんとなく、今の家で気をつけなきゃいけないことがわかってきたかな。もちろんいま紹介した注意事項は契約書のほんの一部分。しっかり契約内容を読み込んで、たのしく暮らそうね。
じゃあね。
この絵本をつくるにあたり、ドトールで契約書例に書き込みを入れながら真剣に読み込んでいたので、まわりから「すごい真面目に住む人だな」と思われたろうなと思う。
次回作、『ぼくと生命保険』にご期待ください。
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