梨は美味いし、品種は面白い!
この記事でお伝えしたいのはリキュールの味わいは品種で異なるし、品種を知っていると楽しみが増えるということだ。ただそんなことは全部ほっぽり出しても梨は美味しい。私は梨が好きで、数年前に個人的に梨の文献を漁り、フィールドワークもした。そこでたどり着いた答えは「梨は結局全部美味い」だった。その中でもこのリキュールは梨の味を感じ取れて美味しいと思う。
梨というものがある。梨には「洋梨」「中国梨」「和梨」の三つが存在するが今回は「和梨」の話だ。この記事で「梨」と書かれていたら「和梨」のこと。梨は日本固有の種だ。
品種も様々あり、8月頃から11月頃までが旬と言える。もちろん品種によって味は異なる。梨はそのまま食べても美味しいのだけれど、リキュールにもなっていた。しかも品種別で。飲み比べてみたいと思う。
リキュールは酒税法では「酒類と糖類その他の物品を原料とした酒類でエキス分が2度以上のもの」と定義されている。カクテルのベースとしてよく利用される。17世紀に開発された養命酒は日本独自のリキュールだ。
いろいろなリキュールがあるけれど、今回は梨のリキュールを3本買った。それぞれで使われている梨の品種が異なる。梨の品種はいろいろあるのだ。大正時代から昭和初期にかけて日本各地で行われた梨属の調査では、亜種を含めると80種類以上が命名されている。
先の命名はいろいろと混乱をもたらしたそうだけれど、現在は60種類ほどの品種があるようだ。確かに梨の時期にスーパーに行くといろいろな品種を見ることができる。また品種のおかげで8月から11月という長い期間で梨は旬を迎える。
日本人は昔から梨を食べてきた。日本書紀にも梨は登場するし、弥生時代の遺跡からも梨の種が発見されている。ただ私的には梨の歴史は1893年に販売が始まった品種「長十郎」以前と以後に分けることができると思う。長十郎以前の梨はおそらく今と比べると美味しくない。
江戸時代は梨の品種が150を超えていた。江戸時代に刊行された「江戸名所図会」にも、梨栽培の様子を見ることができるから活発に生産されていたわけだけれど、先にも書いたように、今の梨と比べれば美味しくはなかったはずなのだ。
1878年に日本を旅したイザベラ・バードが書いた「日本奥地紀行」に、梨を食べた感想があり、「酸っぱくて香りがない」と不満を書いている。また当時の品種の一つ「淡雪」を実際に食べた人と話したことがあるのだけれど、「大根を食べているようだった」と言っていた。
そして、多摩川の下流域「川崎」で偶発的に誕生した「長十郎」が、それまでの梨を全て過去のものにした。大粒の赤梨で甘みも強い。食べたことがあるのだけれど、とても美味しいという感想を持った。正岡子規が詠んだ「行く秋の梨ならべたる在所かな」の梨はおそらく長十郎だろうと思う。
長十郎以降の梨は我々がよく知る梨の味だ。近年の品種は甘みを意識したものも多い。私は梨が好きで、いろいろな品種の梨を食べたけれど、正直どれも美味しい。その美味しい梨がそれぞれリキュールになっているのだ。ぜひ飲んでみたいと思い購入したわけだ。
いま日本で一番育てられている梨の品種は「幸水」だ。栽培面積の約4割が幸水となっている。1959年に発表されたもので、埼玉県が力を入れ、栽培方法を確立した。イメージする梨の味に一番近いというか、バランスが取れた味わいだ。
幸水のリキュールを飲んでみる。これが非常に美味しい。アルコール度数的にもこれが一番低いので飲みやすく、甘みも強いがさっぱりとしている印象を受ける。サラサラとしているけれど、幸水の特徴であるジューシーを十分に感じることができるのだ。
幸水は今では一般的な誰もが知る梨ではあるけれど、多くの努力によって現在に至る。病気に弱かったのだ。埼玉が頑張った結果なのだ。ありがとう、埼玉。この梨と、このリキュールに出会えることができました、ありがとう、埼玉。
豊水は栽培面積が2位の品種だ。1972年に登録された。長らく「リー14」と「八雲」から生まれたとされていたけれど、DNA鑑定の結果「幸水」と「イ-33」の交配種とわかった。サイズは幸水よりも大きい。
豊水のリキュールも美味しい。風味に梨の理想とも言えるものを感じとることができる。お手本のような梨の風味なのだ。甘みにも深みがある。豊水のよいところが全てこのリキュールに含まれているのではないだろうか。
豊水には「イ-33」の要素がある。「イ-33」には二十世紀(梨の品種)が入っている。そのため二十世紀の血が強く、完熟期に「みつ症(簡単に言えば実がやわらかくなりすぎる病気)」を発生しやすい。二十世紀よりも発症率が高い。そのような病気を乗り越えて我々の食卓届く。ありがとう、農家さん、なのだ。
私は勝手に「あきづき」を梨界のエリートと呼んでいる。それはなぜかと言えば、今の梨の全部が入っているからだ。栽培面積一位が幸水、二位が豊水、三位が新高なのだけれど、あきづきは新高と豊水を組み合わせたものに、幸水を交配したものなのだ。トップ3が全部入っている。2001年に品種登録された。
甘みに重みがある。あきづき自体が、甘みが強く酸味が弱い品種で、リキュールからもそれを感じる。甘いのだ。ただ甘いだけではなく、深みと表現してもいいし、重みと表現しても正解のような味わいを感じることができる。
このリキュール3つは茨城県にある「来福酒造」が作っているものだ。酒蔵に行って売店もあったのでそこで買った。美味しい飲み方を聞くと、氷をギチギチに入れてロックで飲むと美味しいと教えてくれた。
飲んでみると美味しい。梨は8月のまだ暑い時期から食べるので、氷で冷やされるとより美味しく感じる。細胞が喜ぶ感じの味わいになるのだ。氷でマイルドになるというよりかは、純粋にさらに美味しくなっているように思える。
炭酸で割るのもオススメと教えてもらった。王道の飲み方だ。王道というだけあってやはり美味しい。喉越しが変わる。私はビールが好きなのだけれど、喉越しなんですよね。炭酸が喉越しを生み出してくれている。
品種を知っていると上記のような楽しみもできる。幸水と豊水を一緒に入れればほぼ「あきづき」なのだ。新高の要素とかがないけれど、ほぼ「あきづき」。甘みが強くなりあきづきに近い味わいになった気がする。品種って面白いし、リキュールも梨も美味しいのだ。
この記事でお伝えしたいのはリキュールの味わいは品種で異なるし、品種を知っていると楽しみが増えるということだ。ただそんなことは全部ほっぽり出しても梨は美味しい。私は梨が好きで、数年前に個人的に梨の文献を漁り、フィールドワークもした。そこでたどり着いた答えは「梨は結局全部美味い」だった。その中でもこのリキュールは梨の味を感じ取れて美味しいと思う。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |