特集 2020年9月15日

ラーメンのスープの油をつついて集めて「ラーメン」と書く

今回の成果物です。

「最近、ラーメンのスープの油をつついて集めてないなー」と思った。

あれは楽しい。「最近寿司食べてないなー」とか「最近映画観てないなー」と同じ温度でふと思い出した。ここで一度、しっかり準備をして存分に楽しんでおきたい。

1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

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心置きなくスープをつつく方法を探す

ラーメンのスープの油を集めるやつ、やった記憶はあるのだけど、いつ、どこでやったかを全く思い出せなかった。思い出せるのは丸い油をつついて大きくするワクワク感だけである。思い出す映像も、ラーメンの丼から外に出ない。前のめりだったんだろう。どこにいるんだ、昔の自分。

なんとなく醤油ベースの透き通ったスープだとやりやすいような印象はあるので、そこを取っ掛かりに始めてみよう。

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見つけました。そういうラーメン。
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麺と具を食べる。つつき甲斐のありそうなスープである。

しかし、やっぱりラーメン屋さんですることではないなと思う。店員さんも、作って出した食べ物を、いくら真剣とは言え箸でつついている客がいたら良い気持ちはしないだろう。

僕も、どう思われてるかなとドキドキしながらラーメンのスープをつつきたくはない。これってもっと心穏やかにやる行為じゃないか。

あれ、じゃあ記憶の中の自分はどこでラーメンのスープをつついていたのだろう。フードコートだろうか。

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家ならそういう心配はないぞと思って袋麺を作ってみる。
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油、なかった。ないよな、そういえば。

意外と難しいことに足を突っ込んでしまったのかもしれない。心置きなくラーメンのスープをつつくにはどうしたらいいのか。

考えられる方法はいくつかあるのに、どれもなんとなくしっくりこない。

  • ラーメン屋さんで → つつくのは失礼。長居できない
  • インスタント麺 → 家でできるが油があるものを探さないといけない

  • テイクアウトか出前 → これも家でできるが油があるものを探さないといけない。何回かやる場合、一杯ごとに買いに行くか出前を頼まないといけないので面倒

  • どの案も、最初に細かい麺や具をきれいに食べるのがけっこう大変

  • じゃあもう水に油垂らしたら? → そういうことじゃないんだ。ラーメンがいいんだ

  • インスタントラーメンに油垂らしたら? → 違うんだ。おいしく作ったラーメンでたまたまできる、というのがいいんだ

書き出してみるとすごくわがままだ。しかしやるからにはもう何の心配も無いという状況を用意したい。ここはこだわるべきだ。そういう確信がある。

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見つけました

そんな時にスーパーでこれを見つけた。

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ラーメンのスープだけ。

これなら家で簡単に作れるし、麺や具を食べなくていい。上に書いた心配事を全部解決できる。

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お湯で溶くとこんな感じ。いい油だ。
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よし、やるぞ。
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油に自分が映った

準備が整った。スープをつつくだけなのに気持ちの上ですごく試行錯誤した感触がある。いよいよつつけるのだ。

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油同士を引き寄せて、境界線をつつくと大きくなる。
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細かい油が密集している部分はつんつんすると勝手にまとまって箸で操れる大きさの油になる。

楽しい。やはりこれは一人でやった方がいい。安心して夢中になれる。外を走る車の音を聞きながら一人でラーメンのスープをつついた。これ以上もう何もいらないと思える時間。『なにも足さない。なにも引かない。』というウイスキーのコピーを思い出した。

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丼の上にカメラをセットして動画を撮っていたんだけど、前のめりすぎて頭が写り込んでる。
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こうやって撮っています。
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油が大きくなると、油に夢中な自分が映る。何だこれ。怖すぎないか。
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別の日にもう一回やって、今度は自分を撮った。こんな前のめりだったんだ。

やっている間はずっと宇宙のことを考えていた。地球は50億年後に太陽に飲み込まれるという説がある。物体はどんなものでも引力を及ぼし合っているらしいので、そうやって大きなものが小さなものを飲み込んで、最後にはひとつになるのかもしれない。

小さな油を飲み込んで大きくなっていく油を見ているとよく分かる。みんなどこかひとつの場所に帰っていくのだ。いや、もともとひとつだった、というのが正しい表現かもしれない。今表れている「大きい」とか「小さい」とかいう特徴も、たまたまそうなっているに過ぎないのだ。元の塊に戻ればそんな特徴もなくなってしまう。みんな同じだ。

そんなことを考えていると、油の表面に自分の目が映る。

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本当になんなんだこれ。怖え。

宇宙のことはさておき、ある程度まとめていくと、かなりの量の油が丼の縁に集まっていることが分かった。

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この縁の透明なやつ。
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今日はこれも集める。

ここまでやるのは初めての経験だった。ある程度できたかな、というところから更にごっそり集まるので気持ちがいい。宇宙も「果て」の部分は何かがごっそり集まっているのかもしれない。

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縁も集めてこんな感じになりました。

集まった集まった。この行為を「最後」までやったのは初めてだった。「最後」はこんな感じで、こんな気持ちになるんだ、という妙な感慨があった。

始終を撮った動画です。12分50秒ある。焚き火の映像を見るような気持ちで見てください。

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文字を作ってみよう

一つにまとめるのはできた。結局2回やった。

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見せるほどでもないのですが、2回目はこんな感じ。

だんだんコツを掴んでくると、油で文字を書けるんじゃないかと思うようになった。

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「ラーメン」と書いてみよう。

今度は必要な数の油の塊を作り、程よい場所に配置して少しずつ文字の形にしていく。

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「メラーン」

分かってはいたが難しい。一つ動かすとスープ全体に影響が及んで他の文字も動いてしまう。上の写真は「ラ」を作っているうちに「メ」がどんどん上に動いていった。

反省を踏まえて作り直す。最初のポジションと、それが定まったらかなり慎重に文字を作っていくことが大事だ。

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できた!

できたということにさせてください。「ラ」のカーブの具合や「メ」の四方に飛び出た形は、時間が経つと円に戻ってしまう。最後の最後にちょっと箸でつついて形を作り、急いで写真を撮った。

一瞬だけ現れ、儚く消えていく作品なのだ。そう思うとより良いものに見える。氷像と同じだ。

楽しいので色々作ってみよう

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「トルー」

自分のペンネームを作った。ラーメンのスープの油で作りやすいペンネームでよかった。円の中に縦書きがあると印鑑みたいでかっこいい。

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「ごち」

「ごちそうさま」の「ごち」。ラーメン屋の店員が丼をさげようとしてこれを見たら嬉しいだろうか。きれいに書いてあったら嬉しいかもしれない。

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「スキ」

ちょっと分かりづらいけど「スキ」と書いてある。気になる人とラーメン屋さんに行って、相手が席を外した隙にこの文字を作っておくのはどうだろうか。この形になるのは一瞬なので相手が見てくれる可能性は低いが、おまじないとしては良さそうだ。

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「スプ」 「スープ」にしたかった。

スープに「スープ」と書きたかった。「プ」の半濁点がかなり難しい。そちらに気を取られていたら伸ばし棒がなくなってしまった。

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終わったら食べる

この辺で切り上げて、買っておいた麺を茹でて、好きな具を乗せて食べた。

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最高。

スープに麺を入れる瞬間、集まっていた油がまた散り散りになって麺や具に絡まっていった。宇宙でいうならビッグバンの瞬間である。

そしてラーメンを食べてスープを見ると、つつく前と同じように細かい星々が輝いていた。

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宇宙。

集まっては散っていく。宇宙とは、自分の人生とはそういうことなのかもしれない。

…。

軽い気持ちでやったことが宇宙を連想させてきたので、なんか宇宙規模の遠大なことを言ってみたかったが結局最後までうまくいかなかった。星みたいできれいでした。


生麺がおいしかった。

家でラーメンといえばカップ麺か袋麺だったのだけど、今回初めて生麺を食べた。すぐ茹だるしおいしくて「なんで今まで知らなかったんだ…!」と悔しくなるほどだった。

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麺をほぐしながら鍋に入れる時、ラーメン屋さんみたいな気持ちになれて、それもよかった。
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