この展示会でわりと目に付いたのが、しゃがんで新機種の説明をきくおじさんたち。
洗濯乾燥機のドア窓を覗き込みながら話を聞こうとすると、高さ的にしゃがむのがちょうど良かったりするみたいなのだ。
他の業界展示会ではしゃがんでるおじさんを見る機会はそんなにないので、なかなかに面白かった。
“よく知らない業界の展示会”というのが好きだ。
今まで興味を持たなかったジャンルにおける最新知識がスルスルと入ってくるので、ただ見て歩くだけでも「なんか物知りになったなー」と思えて楽しい。
なので、展示会・見本市の開催スケジュールサイトみたいなのをちょいちょい見ているんだけど、そこで気になるのを見つけた。「国際コインランドリーEXPO 2022」である。
おおお、なんだそれ気になるな。
要するには、コインランドリーに設置してある洗濯乾燥機とかそういったものの最新機種などを展示する業界イベント……だと思うんだけど、そもそも僕はコインランドリー業界に深く興味を持ったことがないので、どういうものが紹介されているのか、見当が付かない。
そしてこの見当の付かなさこそが、知らない業界展示会を見る醍醐味とも言えよう。
なにより、「国際コインランドリーEXPO 2022」という名前がいい。
まず「国際」でドバーッと目の前に広がった世界地図が、「コインランドリー」で一気にギュッ…と10坪ぐらいの狭い店舗に凝集して、「EXPO」で再び大きく風呂敷を広げる感じ。この視界の乱高下が楽しいではないか。
会期初日の開場30分後ぐらいに到着したんだけど、受付は結構な行列である。
他の業界展示会と同様「国際コインランドリーEXPO」も、ここ2年ほどはコロナで開催スケジュールが大きく狂っていたようだ。一昨年は見送り、昨年は大阪会場ということで、首都圏では3年ぶりの開催。
久しぶりの展示会ということもあってか、部外者がひと目見ただけでも「みんなかなりワクワクしてんなー」という雰囲気は感じられた。
ちなみに実はこのイベント、2016年にライター馬場さんも記事にしていた。
その当時は東京ビッグサイトでクリーニング業界との合同開催だったのが、今やコインランドリー業界だけのワンマン開催となっている。
会場規模はその頃よりやや小さくなっちゃったけど、ともあれ最新のコインランドリー事情を見て回ってこよう。
まず、今回のイベントで初めて知った最大の知見をお伝えしておこう。
国産のコインランドリー用洗濯乾燥機を作っているのは主に3社。「AQUA」「TOSEI」「山本製作所」が3大メーカーと呼ばれている。
なので、コインランドリーに入ったらまずそれとなくメーカーロゴを確認して「そっか、ここはAQUAなんだ」とか呟くと、なんとなく達人っぽく見えるはず。
で、その3社の中でも圧倒的最大シェア(国産機シェア70%)を誇るのが、元は三洋電機の冷蔵庫・洗濯機ブランドから始まったAQUAだ。
さすがリーディングメーカーだけあって、会場内のブースも広々として余裕が感じられる。
業界を知らない人間が見ても、一発で「あー、ここが最大手だな」と分かる雰囲気だ。
で、このAQUAブースで全面プッシュの最新機が、Superiorシリーズ。
従来の派手なカラーリングから、グッと高級感をアップしたシルバーグレー系のパネルになっている。オシャレだ。
最近はコインランドリー店舗のオシャレ化が著しいため、こういうのが求められているのだそう。
そして最近のコインランドリーではもはや必須となりつつあるらしい、現金以外での支払いシステム。
集中精算機(複数の洗濯乾燥機の支払いを1台の精算機で管理する)を使うことで、電子マネーでの支払いだとか、専用アプリを使って選択終了時間を通知してくれたりといった気の利いたことをこなしてくれるらしい。
実は我が家の洗濯機の乾燥機能が弱いので、乾燥だけはコインランドリーを多用してるんだけど……近所の店舗がかなり古いところなので、こういうのは初めて見たのである。
えー、いまのやつ便利じゃーん。
あと、最新のトレンドとして挙げられるのが、敷き布団乾燥機。
掛け布団や毛布は従来のドラム式の乾燥機で対応できるんだけど、敷き布団はブン回しちゃうと中の綿が偏ってしまう場合があって、巨大な洗濯ネットを使うなどの手間があったのだ。
というのを踏まえて最近登場したのが、この鞍型タイプ…というか、三角木馬?
三角形の台に敷き布団を被せるようにセットすることで、中綿にダメージを与えることなく効率よく乾燥させられるとのこと。
へー、いまこういう感じになってんのかー。確かにこれなら安定して布団が干せそうで、いいな。
AQUAの次に広く展開していたのが、TOSEIのブースだ。
こちらはコロナ禍の現状にマッチした機能として、最新機種はボタンやタッチパネルではなく、手をかざすだけで反応する操作パネルを搭載している。
といっても専用アプリからの操作にも対応しているので、洗濯物を放り込むときのドア開閉以外で本体に触る必要がそもそもないんだけど。
業界最新トレンドという鞍型の敷き布団乾燥機も、当然のように並んでいた。なるほど、3大メーカー中2社が出していたら、そりゃトレンドで間違いないだろう。
しかもなんとTOSEIのは乾燥だけでなく、高温スチームによる除菌消臭も可能なのだ。
おお、これがふとんWASHカンパニー……!
TOSEIでもうひとつ面白かったのが、衣類の圧縮パック機。
これはビジネスホテルなどに設置されているもので、袋詰めした衣類をギュッと真空圧縮パックすることができる。
袋だけで圧縮できる旅行用品もあるけど、こちらは真空の度合いを調整して、衣類がカチカチに固まって折り曲げられない、みたいなことを防ぐこともできる。微調整が利くのが面白い。あと、袋の口を熱溶着しちゃうので真空が保ちやすいのもメリット。
長旅になるとビジホのコインランドリーにお世話になることも多いんだけど、こういうのも一緒に置いてくれると、選択肢が増えてわりと嬉しい。
3大メーカーの最後が、シェア的には最も低い山本製作所なんだけど……個人的には、ここの洗濯乾燥機の進化っぷりにかなり驚かされた。
山本製作所は元々クリーニング工場用の洗濯機を作っていたメーカーで、コインランドリー機器メーカーとしては最後発。その追いかける立場を利用して、あれこれ新技術をブッ込んだ製品を作っているようなのだ。(実はコインランドリー専用アプリを最初に導入したのも山本製作所)。
例えば、コインランドリーで女性の下着が盗まれるという事件はかなり多く発生しているんだけど、これを防ぐため、専用アプリでペアリングした洗濯乾燥機のドアロックがかけられる。
さらにはボタンタップひとつで、透明だったドア窓を曇らせることも可能(瞬間調光ガラスってやつ)。これなら、そもそも中に下着が入ってるのかなど覗き見もできないわけだ。
あと、山本製作所は集中精算システムを使わず、洗濯乾燥機一台ずつに大きめの液晶パネルを搭載している。
単体でキャッシュレス対応したり、アプリとのペアリングができるのがポイントなんだけど、もうひとつ、すごい機能が備わっているのだ。
実はこの洗濯乾燥機は気象庁のサーバーとつながっており、時間当たりの気象データに基づいてAIが自動で洗濯料金を変更するのだという。え、なにそれ。
例えば朝よりも夜、晴れよりも雨の日のほうがコインランドリーの利用者は少ないので、雨の日の夜帯は洗濯料金をお安くする。逆に晴れの日の昼間は少し高めにする。
そういった価格調整を、洗濯乾燥機が気象データを見ながら自分で勝手にやっちゃうというのだ。
おおー、確実にコインランドリーの未来が来てるな。この機種はぜひ使ってみたいので、うちの近所のコインランドリーにこれ導入してくれんかな。
コインランドリーは、洗濯乾燥機だけでできているに非ず。
例えば最近は靴用の洗濯機を備えているコインランドリーも増えているのをご存知だろうか。
そのほとんどは一層式洗濯機の真ん中にブラシの付いたポールが生えてるタイプである。
これでも充分に靴はきれいになるんだけど(わりとヘビーユースしてる)、最新の靴洗濯機はドラム式なのだ。しかもなんか妙にヤンキー車めいたギラつきのあるタイプ。
元は韓国製の機械なんだけど、輸入元の会社が日本向けに中のブラシをみっちり調整して、洗浄力をかなり高めてあるらしい。一層式よりも満遍なく汚れが落とせて良いとのことだ。
あと、前を通りかかって「???」ってなったのが、sekoというメーカーのブース。
もちろん自分はコインランドリー事情をよく知らないんだけど、それにしたってあまりにも何に使うのか見当付かなすぎる機械が並んでいるのだ。
話を聞くと、これは洗濯乾燥機の裏側や内部に取り付けて、洗剤や柔軟剤を流し込むための装置なんだとか。
なるほど。こういう機械を使って洗剤を入れているということ自体をいま初めて知ったわけで、そりゃ見たことないはずだ。
もちろんその洗剤自体も、コインランドリー専用に作られたオリジナルがある。
洗剤メーカーのブースからは、まさにいつものコインランドリーっぽいあの匂いがしている。ザ・コインランドリーフレーバーだ。
他には、オーダーメイド調香してくれる洗剤メーカーもあった。
冒頭で気になっていた「コインランドリー店アワード」は、会場ホールの一番奥でパネル展示されていた。
ここで表彰されているお店こそが、つまりは今のコインランドリートレンドそのもの、ということになるのだろう。
最優秀賞に挙げられたのは「ランドリーアサヌマ」。検索したら、なんと東京の三宅島にあるコインランドリーだ。
洗濯だけでなく、子どもも集まれるイベントスペースとしても機能しているらしい。選考内容は掲示されていないけど、たぶんそういうコミュニティ機能が、今のコインランドリーに求められているっぽい。カフェ併設タイプの店舗が他にも多く表彰されてたし。
そんな中で、やたらとぽつんとした印象の店舗(…?)パネルが目に付いた。
どうも見る限りこれ、スーパーの駐車場にコインランドリーの機械だけをドンと設置したものらしい。風情としては、ほぼコイン精米所である。
名前も「ミニマルランドリー」と、完全に名は体を表した感じ。
こちらは板橋区のときわ台にある店舗だそうで、実は我が家からそんなに遠くない。
なるほど、スーパーの駐車場に乾燥機(水周りを備えるのが難しいので、洗濯機能は無し)が4台積み重なっていて、かなりシンプルかつミニマルな感じ。
スーパーに来たらまずここに洗濯物を放り込んで、買い物をしている間に乾燥が終わってる、みたいな話だろう。
もちろん車で来るのが前提なんだけど、これはかなり便利なシステムな気がするぞ。
ちなみに現在、日本全国のコインランドリー店舗は、このミニマルなのも入れて約2万4500店。
セブンイレブンが全国で約2万1000店なので、コインランドリーの方が多い計算だ。
次々と新店もオープンしているので、いずれは今日見てきた最新機種で洗濯する機会もあるだろう。
そのときは訳知り顔で「おっ、山本製作所だな。ここのオーナー、ツウだな」ぐらいは言ってみたいものである。
この展示会でわりと目に付いたのが、しゃがんで新機種の説明をきくおじさんたち。
洗濯乾燥機のドア窓を覗き込みながら話を聞こうとすると、高さ的にしゃがむのがちょうど良かったりするみたいなのだ。
他の業界展示会ではしゃがんでるおじさんを見る機会はそんなにないので、なかなかに面白かった。
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