はじめに
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ライターに地元のうまいものを紹介してもらうコーナーが終了しまして、今回から新コーナーです。昔からずっとある店を紹介してもらいます。3回目はトルーさんからです。
トルー
「おーみやのケーキ」近江屋洋菓子店、神田
東京の神田にある実家の近所に、近江屋さんがある。調べると1884年創業と出た。明治17年。まさにずっとある店である(大きなガラス窓のお店。開店前の写真ですみません)。
そしてその近江屋に、ずっとあるからこその個人的な思い入れがある。
子どもの頃から、お祝いの時には母が近江屋でケーキを買ってきてくれた。「おーみやのケーキだよー」「わーい」という微笑ましいやりとりがあった。
そんな幼少期を過ごして中学生ぐらいになると、ある疑問が生まれる。「大宮にそんなに良いケーキ屋さんがあるのか?」これである。つまり「おーみや」とだけ聞いて長年育ち、「近江屋」より先に「大宮」という地名を知ると、母が大事そうに発する「おーみや」とは「大宮」のことだと理解するようになる。
だからこの頃の僕は「おーみやのケーキだよー」と言われて「おお、わざわざ」と答えていた。大きく外れたリアクションでもないので、誰も何も気が付かなかった。この時「なんでいつも大宮まで行くの?」と一度でも聞いていればこんなことにはならなかったのだろう。なぜだか聞かなかった。違和感の正体を言葉にするのが苦手だったのだ。
しかし近江屋が「ずっとある」というところにも原因の一端がある。みんな当たり前に「おーみや」「おーみや」と言い、詳しい説明をしないのだ。何せ創業130年の老舗である。そこにいる大人にとって「おーみや」とはあの「おーみや」であり、今さら業態や所在地の話をするような存在じゃなかったのだろう。「雨」や「火」と同じ存在だったのだ。僕だけが「大宮…?」と思いながらなんとなく話を合わせていた。
ケーキはいつもとってもおいしかった。毎回、本当は無い大宮のケーキ屋さんに向けて感謝と尊敬の念を飛ばしていた(写真は、近江屋のさくらんぼのタルト)。
結局すっかり大人になってから、近くにあるなんだか素敵なケーキ屋さんの名前が「近江屋」だと知り、さらにしばらくしてから、それが母たちが言っていた「おーみや」と同じ店だと分かり、長年の誤解が解けた。
その瞬間のことは詳しく覚えていない。道を歩いていたら不意に全てが繋がり、胸の隅にあったわだかまりが解けた。しかし機会がなくてこのことは誰にも話していない。このコラムが初めてである。
この間のお祭りで、子どもたちの引いた山車が近江屋の近くで止まり、アイスクリームを振舞ってもらった。初めて近江屋に直接感謝ができた。
終わって解説です
「おーみやのケーキ」を大宮にあるケーキ屋さんだと思っていたトルーさん。遠くに買いにっていたのではなく、めちゃくちゃ近くの近江屋さんだったことがわかって良かったですね。
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