特集 2022年6月21日

小さな地下街の飯

ゾクゾクする階段。

駅の地下でも商業施設の地下でもない、オフィスビルやマンションの地下に小さな飲食店街がある。

初めての人間には入りづらい雰囲気がすごくあるのだが、気になるので3箇所見つけて行ってきた。

1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

前の記事:土曜のお便り 〜ハンマーヘッドトーナメント


イメージしている地下街と違う

広めの路地を歩いていたら気になる看板があった。

ここ。
『味の地下街』
すごい細い階段。

『地下街』と聞いて僕が思い浮かべるのは東京駅の八重洲地下街である。

 とにかく広くてなんでもある。ホームページを見たら約180店鋪があり駐車場の台数も774台もあった。

デイリーポータルZでも何度も訪れている。

明るくて広い。写真はこちらの記事(現実世界ダンジョンは地下何階まで行けるのか?)より

他には大阪だとホワイティうめだ、名古屋では駅を中心にエスカ、ファッションワン、ゲートウォークなどなんと9つの地下街が隣接しているらしい。

とにかく土地土地で地下街というと、活気溢れる迷宮のようなイメージがあると思う。

そんな中、この階段である。

飲食店の看板だ。きっと僕でも行けるのだろう。この階段をおりてお金を払って食事をする選択肢がある。しかも僕が気が付いていなかっただけでずっと前から選択肢はあったのだと思うと本当にゾクゾクする。

階段の下はどんな空間で、どんな飲食店があってどんな味がするんだろうか。

そう言えばこういう小さい地下街、他にも思い当たるところがある。

思い出したり探したりして、3箇所、行ってきました。

秋葉原『味の地下街』

味の地下街は細長いオフィスビルの地下にある。

駅の地下でも商業施設の地下でもない。オフィスビルの地下にも街はあるのだ。

階段をおりるとこういうところだった。

お昼時の開店間もなく行ったので、お店の方々が行ったり来たりしていて従業員通路みたいな雰囲気があった。

「探してるお店があるんだよなー」みたいな顔で端まで歩いてまた戻ってきた。

ラーメン屋さんが一軒、居酒屋が二軒(うち一軒は夜から)、夜営業のバーが一軒あった。

ラーメン屋さんに入ってみる。
店内をのぞくと気さくな女将さんが声をかけてくれた。なんだかすごくホッとした。

店内はYUIのチェリーじゃない曲が流れていた。食券を渡してカウンターで水を飲んでいると、ワイシャツの腕をまくった方がパラパラとお店に入ってくる。

このビルや付近の会社でデスクワークをしていて、そのまま来たという雰囲気。食券を渡して席に着く動作が不自然なほど滑らか。

仕事の電話がかかって来てスッと外に出て話す方などもいて、この地下街がどういう場所なのかが僕の中で明瞭になった。

『付近のサラリーマンが通う、半分社員食堂みたいな飲食店』だ!

女将さんとのやりとりにも「いつものね」みたいなニュアンスがあった。

いつもの人たちで穏やかに淡々と流れる時間。そこに飛び込んでしまった僕の居心地はどうかというと、全然悪くない。

「お、知らない顔だ。ここうまいっすよね。たまにいるんすよ、足伸ばしてここ来る人。」という皆さんの暖かい心の声が聞こえた。

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実際、ラーメンとてもおいしかった。

さっぱりしつつもしっかり出汁の風味がしておいしい。

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一緒に頼んだミニわらじカツ丼もおいしい。

それぞれおいしいんだけど、さっぱりのラーメンと、ガツンとしたカツ丼の組み合わせがすごく良かった。

帰り、反対の出口から階段を上がると大通りに面した場所に出た。

知らない場所に行っておいしいものを食べて馴染みのある地上へ戻って来た。普段の倍の満足感があった。そういえばBGMはずっとYUIのチェリーじゃない曲だった。

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内神田『鎌倉河岸ビル 飲食店』

その翌日は『地下 飲食店』で検索して見つけた内神田の地下街に行った(『地下街』で検索すると小さな地下街は見つからない)。

このビル。やはりオフィスビルだ。
この階段をおりる。
おお…

秋葉原の時と似た静けさ。

中華料理屋が一軒、居酒屋が二軒。三店全て営業している。

開店間もないお店もあった。
青森居酒屋。

入り口の近くにいる方と目が合って「やってます?」「やってるよ!」というやりとりをした流れでここに入った。お店のご主人だったのだ。

中華屋さんの前にもご主人がいて、テイクアウトを頼んだ男性と雑談をしていた。ご主人方は客を呼び込むために表に出てるんじゃなくて、何となく暇だから外に出てぼんやりしているという感じだった。

席に着いて注文して、僕もぼんやりする。

老紳士が入ってきて席に向かいながら「焼き魚」と唱えた。

常連の動きだ…! 地上の人通りがあるお店ではなかなか見られない振る舞いである。お店の人も「あいよー」と平熱で答えていてかっこよかった。

やはり付近の会社から毎日昼休みに来ているのだと思う。そのあと来る方々も、昨日と同じくデスクワーク中にそのまま会社を出て来たサラリーマンが多かった。

僕は日替わり定食にしました。白身魚のフライと豚しゃぶサラダ。そば、オクラ、漬物、ご飯、みそ汁。

フライが揚げたてでおいしい。オクラの小鉢もすごく良かった。そう言えばこういうの食べたかったんだよな、と気がつく。そばが付くのもホテルのバイキングみたいで良い。

メニューを見たら火曜日の日替わり定食が『チキン南蛮とおまかせ刺身』だった。青森居酒屋のおまかせ刺身ってすごく魅力的だなと思った。今日の日替わりももちろんおいしかったけど。

食後にアイスコーヒー頼んだ。せっかくなので。

「せっかくなので」で飲み食いしたらそれはもう観光である。サービスエリアの知らない味のアイス食べる時だ。そういう気分だったのだ。飲んだら午後もがんばるぞーという気持ちになった。

神田岩本町 永谷マンション地下街

最後の小さな地下街。見たことがあった気がして一生懸命思い出した。

ここだ。
ここ…! 上はなんとマンションである。

見たことはあったのにこの地下のお店に自分が行く、という発想が無くて思い出すまでに時間がかかった。知識が無いと認識すらできない。「このお店、行ける」と知らないと、記憶に残ってくれないのだ。

『フグまつり 十一月より』とある。

今6月である。気が早い。でも分かる。『フグまつり』なら5ヶ月前からワクワクできる。

狭い階段をおりる。
この雰囲気、慣れてきた。

すれ違うのがやっとの狭い通路。静かだけど人のいる気配。

 和食屋さんが一軒、洋食屋さんが一軒、夜だけの洋食屋さんが一軒あった。

壁にこういった貼り紙のある和食屋さんに入ってみる。

入るとすぐ横の厨房でご主人が作業をされていた。

筆者「やってますか?」

ご主人「これからですよ」

筆者「あ、じゃあ外で待ってますね」

ご主人「(ニヤッとして)席へどうぞぅ」

こんなやりとりがあった。怖いけど優しい。勝手が分からなくて申し訳ない。

鮭のハラス焼き定食。

飾り気のない店内とご主人のピリッとした雰囲気のおかげか、シンプルな定食がすごくおいしく感じた。いや、良い材料に良い仕事が加わって実際においしかったのだと思う。

あと貼り紙に書くだけあってみそ汁がすごくおいしかった。ワカメと大根と人参とエノキ。ワカメがたっぷりで汁にとろみがある。ショウガのような柑橘類のようななんだかすごく良い香りがした。

そしてお客さんはやはり近くの会社から来た常連さん。みんなメニュー見ないで頼む。

おいしいみそ汁を飲んでホクホクの心持ちでお会計をした。

出口に最後の貼り紙が。「押忍!」という気持ちになった。
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地上に上がる階段。駆け上がって叫びたくなる。定食がおいしかったので。
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不思議と雰囲気が似ていた

今回行った3つの小さな地下街、全て神田エリア周辺にあり、近くのサラリーマンが昼休みに集まって黙々といつもの食事をとるという雰囲気が似ていた。

神田には『神田須田町地下鉄ストア』という1931年開業のすごく古い地下街があった(2011年営業終了)らしいし、昔から地下街の文化が盛んだったと想像できる。

いや、他のエリアにもあるのかもしれない。「この階段をおりて食べてもいい」という知識が無いために今までに認識できずにいた可能性がある。

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知ってると見えてくる階段。

入れない地下もたくさんある

小さな地下街の飯、とっつきにくいが、アットホームだし混み過ぎないし何しろおいしいので、今後見つけたら積極的に関わっていこうと思う。

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そう思って覗いて、本当に何もない地下の場合もある。
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珍しい形のアジサイを見ました。
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