特集 2019年5月20日

健康のために一駅歩く、ただし地方で。

「健康のために一駅手前で降りて歩きましょう」

首都、東京のメディアからは時折そんな言説が流れてくる。

しかし、この一駅というのは大都市圏の基準だ。地方では「そんな無茶な!」と思ってしまう。だが、あえて地方で一駅手前で降りて歩いてみた。

1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

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地方の駅の間隔=都会で急行が止まる駅の間隔

在京メディアは定期的に健康のために一駅手前で降りることをお勧めしてくるが、都心だと1キロ前後くらいの一駅は、地方都市だと5キロくらいはザラで、長くなると10キロやもっと遠い場所もある。

地方在住の僕は、健康のために一駅手前で降りると聞いて「世の中の人は結構ストイックなんだな」と何の疑いもなく信じていた。

他にもそんな人がいないか、「デイリーポータルZをはげます会」やサイト関係者にもエピソードを募ったところ、

高校生の時に回ってきたNON-NOに「ダイエットには1駅歩こう♪」って書いてあるの見て「す…すごい…横浜〜戸塚間、山だし電車でも10分だから、それ毎日やったら痩せるよね…」と過酷なアイアンマンレース的なことを友達と想像していました。

表参道と外苑前の間的なこと言ってたんだな…と大学生で気づきました。

ようこさん

高校時代、女性誌に載ってた「1駅歩いてダイエット☆」みたいなのを、群馬在住なのに真に受けて実践したところ、駅から駅まで1時間くらいかかりました。

さらに、最寄り駅から家までも結構な距離があったため、トータル2時間近くかかったと記憶しています。

くたびれて、道の途中にあるシャトレーゼででっかいシュークリーム買ってしまったせいか、全く痩せもしませんでした。

上京して、1駅区間の狭さに衝撃を受け、「あのダイエットは群馬仕様ではなかったんだ!」と、ハッとなった次第です。

ネッシーあやこさん(東武伊勢崎線の、新伊勢崎駅から剛志駅(無人駅)の間です。

という声が集まり、都会と地方との一駅の違いによる戸惑いや勘違いが集まった。

都会で急行が止まる駅の間隔が田舎のだいたいの駅の間隔くらいじゃなかろうか。

三石駅(岡山県)~上郡駅(兵庫県)の一駅を歩く

考えてみると僕も含め地方に住んでいると車移動が多くなりがちで、大都市圏の人と比べて運動不足になりやすい。

一駅の間隔は少し離れているが健康のために一駅手前で降りて歩いてみることにした。

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今回歩くのはこの三石(みついし)駅から上郡(かみごおり)駅間。

北海道などに行けばもっとエグい一駅がありそうだが、近場で一駅手前で降りようと思う。

この三石~上郡間は電車に乗っていても12分くらいは掛かる。事実、山陽本線で最も一駅の距離が長く、多くの青春18きっぷ旅行者がここで寝落ちする。

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黄金週間の真っ只中だったにもかかわらず電車内の人はまばらだった。
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車窓には田園風景が広がる。

地方都市では岡山駅などの中心駅こそ栄えているが3~4駅ほど行けば急速に田園風景になる。この角度が急だ。 

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岡山駅から40分くらいで三石駅に到着。

三石駅は岡山県の東の端の駅で、あと一駅行けば兵庫県となる。一駅手前で降りて歩くと県境を越えることになる。

三石駅で降りたのは僕一人だった。たぶんこの記事を読んでいる人の99.9パーセントが一生降りない駅だと思う。

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駅は当然の様に無人駅だ。駅の時計はちょうど9時を指している。

狙った訳じゃないが、何時間かかったか計算がしやすい。

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三石駅を後にする。ほかのお客さんの姿はない。
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スマートフォンのナビだと所要時間は2時間18分の予定。

ちゃんと歩いて上郡駅までたどり着けるか不安でいっぱいだ。

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三石駅の階段を降りると正面は民家。

なんとなく予想していたが、駅前と言えコンビニみたいな贅沢な施設は望むべくもない。

後日調べてみると一番近いコンビニは三石駅から6キロ先だ。

距離的には東京駅の最寄りのコンビニが新宿にある、あるいは梅田駅の最寄りのコンビニが新今宮にある感じ。

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駅の正面の坂道を上る。
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駅から徒歩5分で道がこうなる。

先が思いやられる。

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広い道に出た。

獣道を歩かないといけないのかと心配してたがちゃんと舗装されている道になってよかった。

何かあっても助けてくれる人がいない

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この様な広い道をずーっと上っていく。線路は恐らく右側の民家の奥だ。

ご覧の通り全く人に会わない。車も通っていない。

つまり急に体調が悪くなっても助けを求める事が難しいという事である。

地方で一駅歩くのはそんなリスクもはらんでいる。

余談だが、刑事ドラマなどでよくアリバイを確認するくだりがある。ドラマの都合上ほとんどの場合でアリバイがあるが、地方に住んでいる人のアリバイだと結構難しい気がする。

地方ののどかな場所に住んでいると外を歩いても基本的に人には会わない。

刑事ドラマを見て「ふつうそんなにアリバイある?」と思っていたがあれは都会基準だった。

なお、家族の証言は犯人をかばって嘘をついている可能性があるのでアリバイにはならないらしい。

線路沿いが通れない

地方で一駅歩くのは駅と駅の間隔以上の難しさがある。

それは線路沿いが通れないことだ。

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線路は山を貫く最短ルートをとるが、道は逸れていく。

道路が線路から外れていく。

はげます会のコメントでも”地方で一駅歩く”場合は線路沿いが歩けないというコメントをたくさん頂いた。

電車ではわずか3分の距離なのにまっすぐ道がなく,途中丘と谷を2つくらい超える必要があります.とどめは最短距離で行こうとすると崖みないなところを獣道で登らないといけないという...ざっくり1時間くらいかかります.

小ライス,大盛りで.さん(総武線 津田沼 - 幕張本郷間)

高校時代に通学に使っていた路線で、一駅間の直線距離は3km程ですが、川を渡るのに橋が近くに無く、迂回して12km程になる駅があります。
中学の時にその近くの神宮まで自転車で行かされましたが1時間以上かかりました。車でも20分以上かかります。

すぅさん (JR鹿島線 香取駅 - 十二橋駅)

駅の間隔自体は10km程度とそんなに遠くはないのですが、線路と並行する道路がないため迂回するには40km以上ある上に、冬場は駅までの道路が除雪されず徒歩で行くこと自体も行くことが不可能となります。

チャーリー浜岡GPさん(仙山線 奥新川 - 面白山高原)

電車通学をしていた高校時代にうっかり駅を降り過ごしてしまい、田舎なので戻る電車の本数も少なく、電車なら4分程度だし歩けるかなとタカを括って歩いて帰ることにしました。
線路沿いの道があると思っていたのにそんなものはなく、当時GoogleMapなどは使っていなかったため勘を頼りに歩き始めたものの、散々迷って半泣きになりながら3時間くらいかけて帰った気がします。今GoogleMap見たら徒歩の所要時間は1時間10分でした。

71さん(長崎本線 佐賀 - 伊賀屋間)

地方で一駅歩くと、山や谷が阻み駅の間隔以上に歩かなければならい。

ときどき歩行者には不親切

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線路とは別れを告げ、幹線道路沿いを歩く。

ちゃんとした歩道という感じではないが、歩くスペースが確保されている。

しばらく歩いていると、

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「自転車歩行者専用路」と書かれた看板が現れた。

自転車と歩行者は左の道へ曲がれという事だろうか。矢印が指し示す道へ進む。

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アキレス腱が伸びきる様な激しい傾斜。

ちょっと不安になってくる。自転車歩行者専用道ってこんなに登山だろうか。

先ほどの看板は「自転車歩行者専用道」とあった。つまり自動車は通ってはいけない。

しかし、元の道が「自動車専用道」ではない以上、歩行者もまっすぐ進むことができるのではないだろうか。

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思い直して幹線道路沿いを進み直す。

こちらの方が道が平坦だし歩きやすい。

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歩道はどんどん狭くなっていく。

なんだか嫌な予感がする。

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トンネルでついに歩道はなくなった。

歩けそうなスペースがあるように見えるが、大型のトラックがトンネルの壁ギリギリ一杯になってすごいスピードでトンネルに吸い込まれていく。

トンネルを歩いて通るのは迷惑だし、なにより危険だ。やはりさっきの登山が正解だったようだ。いそいそと戻る。

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先ほどの分岐まで戻り登山を再開する。

とんだ無駄足を踏んでしまった。

徒歩での移動では道を間違えると引き返すのも時間がかかるが、表示が分かりにくかったりする。

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アスファルトに土が被っている。

内燃機関を持つ自動車のほうが平坦な道を通って、歩行者が険しい道を歩くというのは不公平な気もするがそもそも地方で歩く人が少なく、待遇が悪くなることもしばしばだ。

船坂峠を越え兵庫県へ

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苔むした道を上ると頂上が見えてきた。

この辺は船坂峠といって、かつては追い剥ぎがでていたらしい。なんだか追い剥ぎがいても不思議ではないくらい鬱蒼としているが、その分涼しく、吹き抜ける風が体の表面から熱を奪っていく。

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坂を上り切ると石碑が立っていた。

正面には「縣界」と彫られ、岡山県と兵庫県の境界を示している。

左側には「岡山縣和氣郡三石町」とある。 

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反対の面には兵庫縣赤穂郡船坂村と彫られている。

県の字が旧字になっていることからも古いものだ。

徒歩か自転車でしか来ることはできないので、なんだか歩いてきたご褒美のような気がした。

三石駅からここまでおよそ1時間。まだまだ元気だ。

一駅歩くと意外と発見があって楽しい

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樹々が生い茂る山道が終わると、少し開けた場所が始まる。

自然に取り込まれつつある自動車を見つける。

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そして久しぶりに線路とも再会した。

普通に生活していると当たり前で気にも留めないが、一駅歩いている途中では線路を見つけるだけで嬉しくなってくる。

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橋が架かり、山の麓にはまっすぐ線路が伸びる。

歩いていないと気付かないような、何かのアニメの聖地の様に雰囲気が良い場所を見つける。

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樹々の新緑が美しい。

歩くと一つ一つの景色をゆっくりと楽しむことができる。

地方の色んな場所の一駅を歩くっていうのも良いかもしれない。

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民家が並び、畑にネギ。

素朴な風景にも人々の営みが感じられる。

歩道が整備されていない場所がある

地方で一駅歩くと、都会と比べちゃんと歩道が整備されていない場所が結構ある。

はげます会のコメントでもそもそも歩くのが危険だという意見もあった。

私の住むエリアでは1駅5km以上あるのがスタンダードで、Google MAPでは徒歩1時間以上かかるよ、と計算されます。が、クルマ社会の田舎ですから、歩道が整備されていない箇所などもあり、歩くのには危険が伴いそうです
nszkさん(常磐線 日立駅〜常陸多賀駅)

出発から2時間ほどして、僕にもそれがやってきた。

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歩いている道がどんどん幹線道路のほうへ近づいていく。

そっちに行かないでという願いも虚しく、幹線道路を歩く羽目に。

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交通量の多い幹線道路を歩く。

この幹線道路は大型のトラックなんかもバンバンに通る。

上の写真ではまだ歩くスペースがあるがこの後どんどん歩くスペースが狭くなり、肩をかすめる様に車が通って行く。

生きた心地がしないし写真を撮る余裕もないほどだ。

その後、脇道に逸れてなるべく交通量の少ない道を歩くことに。

綺麗な道路が意外と精神を削る

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綺麗な道路が始まる。

歩き始めてから2時間半。昼頃になり太陽がほぼ真上に来ると、街路樹が植えられ綺麗に整備された道が始まる。

ここまで主に通ってきた道は、生活に密着した曲がりくねった道路だったのに対し、ここからはほとんど真っ直ぐな道路だ。

歩道もちゃんと整備されているし見晴らしも良くとても歩きやすい。ありがたいなと思っていた。

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2車線の車道と路樹のある歩道が延々と続く。

この綺麗な道路は歩きやすいのだが…歩けども歩けども景色にあまり変化がない。

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いつまで続くのだろう。

正直ここまで歩いてきた道は結構景色が楽しめていた。急な上り坂だろうとそこまで苦にもならなかった。

しかしこの綺麗に整備された道は景色に変化がなく、意外につらい。気が紛れるものが無いし、進んでいる実感がないのだ。

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急激に足も痛くなってくる。

元から痛かったのかも知れないが、痛みがより気になってくる。

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やっと左に逸れる道が現れる。

他の人が見れば単なるY字路かもしれないが、景色に変化があると思うと、ホッとした気持ちと達成感が込み上げた。

地方で一駅手前で降りると、ずーっと同じような景色が続くことがある。

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果てしなく続く真っ直ぐな道も街路樹の道よりよほどいい。

ゴールの予感を感じずにはいられない住宅街

歩き始めてからおよそ3時間、明らかにここまでとは雰囲気が変わり住宅が密集してきた。

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住宅街に入ってきた。

駅が、近い。

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何度目かの川を渡る。

その角を曲がれば駅があるんじゃないかと期待し、期待が裏切られるを繰り返す。

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やはり期待は裏切られる。

しかし駅への期待感は足は自然と前へ前へと進める。

人間が頑張るためには希望が必要だ。

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大きな建物も見えてきた。いよいよだ。
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踏切が見えた。

すでに足がかなり痛いが最後の力を振り絞る。

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建物のシルエットはまごうことなき駅だ。

今まで訪れたどんな駅より神々しい。

駅の入口までのわずかな距離すら長く感じる。

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やっと上郡駅に到着した。

ついに一駅手前で降りて健康のために一駅間を歩ききった。

歩いた距離はスマートフォンの記録によると12キロ。新宿駅からデイリーポータル編集部がある二子玉川駅くらいに相当する。

撮影しながらだったのと道を間違えたりもしたのでちょっとペースは遅いが、かかった時間は約3時間半だった。

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駅の中はこんな感じ。

しかしよく考えると電車って素晴らしい。あれだけの距離をたったの12分で行ってしまうのだから。明治時代に初めて鉄道に乗った人もこんな風に感動したに違いない。

通勤の時に一駅手前で降りて歩くのはさすがに厳しいんじゃないかと思うが、休みの日にゆっくりと散策しながら歩くのは気持ちいい。ぜひぜひ安全に気を配りながら挑戦してみてほしい。


歩き終えて食べたおにぎりが最高過ぎた

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歩き終えて食べたコンビニおにぎりが本っっっ当に美味しかった。米粒一粒一粒が体にしみわたる。

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