攻殻機動隊な気分
「じゃあ、実際に他の人と対戦してみましょう!」先生がほがらかに言う。
聞いている私は、すでにほがらかではなくなっているのだが、勢いがついて、そして初心者の怖いもの知らずからか、なんでもやってやろうという気になっている。
ここでやっと「電気審判器」をお見せできます。
これが電気審判器だ。選手らの間に置き、赤と緑のランプで有効打撃を知らせる。無効な場合はその隣の白ランプも同時に点灯する。
試合前に、コードを体に通したり機械とつないだり、という動作が加わるのは、なんとも奇妙なものだ。自分も機械の体になったようなきがしてくる。聞けば、汗をかいていたりすると微弱ながら「ビリッ」と来るとのこと。中世の騎士もびっくりだろう。
それにしても「電気審判器」というのだ。聞けば昔からあったらしいので、冒頭の私の興奮、「近未来な絵」云々は間違った解釈なわけだが、「電気審判器」。象印やタイガーの白物家電みたいな名前だ。
いきなり初日で4連戦
覚えたての挨拶もうやむやに、試合開始する。最初に5ポイントとったほうが勝ちだが、フルーレの場合は「攻撃権」という概念がある。普通に突き合った場合は先に突いた方がポイントになるが、 突いてきた相手の剣をこちらが剣で払った場合、払った側に攻撃権が発生する。
攻撃権を得ていて、かつ有効な部分(メタルジャケット着用部分)を突くと、 ポイントになるのだ。
フェンシングのコートは幅が狭いので、コート内をぐるぐる逃げ回ったりはできない。まあ、疲労が来ている分、そんな体力はないので、前に進むしかない。そう覚悟を決めて、とにかく前へ前へ。攻撃権も無視して前へ前へ。
だんだん楽しくなっていた。昔の弱い私とは違う!あれから20年いろいろあった。「あしたのジョー」も読んだし、司馬遼太郎の小説も読んだし。
ポイントも入ったし。手加減してくださっているのか?そんなの無用無用といい気になっていたら、私の着ていたジャケットが古くて感度が悪いらしく、本当はもうとっくに死んでいるということだった。
なんだ。じゃ本来より試合時間長かったわけか・・・とちょっと気を落としつつも、終わった爽快感を感じながらマスクを取ろうとすると、先生のほがらかな声がマスクの中までひびいた。「仕事で来てるんだったら、もっとやろうか!あと3人!」
長い戦いは終わった。
先生に「終わって安心してビール飲んじゃだめよー」と言われた。けど飲んだ。うまかった。それくらい、大汗をかいていた。
見た目、白い装束で繊細な剣を持ち、舞うように戦うフェンシング。だがしかし、それは立派な格闘技だった。
普段から思考のぬるい、動作のとろい私。どうにかせねばと思っているのだが、このさいフェンシングやるのもいいのではないか。「やらねばやられる」、どんどん前に進む感覚、相手の隙をついて攻め込む感覚は、そのまま思考回路にも影響すると思う。
実際、その日から数日間は、出したものをすぐ片付けるなど、いい結果がでている。やはり、やるべきだ。
今回ご協力いただいたのは、
池袋コミュニティカレッジさんです。