お店に入ってみて二度目の確信を得た。このお店は美味い。
注文はチャーハン一択だが、いちおうメニューを見せてもらったら驚いた。
チャーハンはもちろんのこと、ものすごい種類のラーメン各種からはじまり、八宝菜、かに玉、エビチリ、麻婆豆腐などなど。
中華料理のメニューを言い合うクイズに持参したら二回くらい優勝できそうだ。見たところ従業員さんはさっきのご夫婦だけなので、この数のメニューを二人で作っているんだろうか。千手観音なのかもしれない(奈良だけに)。
チャーハンを注文すると5秒後にはもう中華鍋の振られる音が聞こえてきた。
カウンターと厨房が近いので、おとうさんの調理がライブで見られるのもいい。
厨房はおとうさんの両手が届く範囲内に整然と食材、調味料、調理器具が配置されていて、千と千尋の神隠しに出てくる温泉のお湯の調合をひとりでやっている手がたくさんある人(名前わすれたなら例えに出すな)を彷彿とさせる。
リズミカルな鍋さばきのあとで、カン!カン!と最期に二度、調子よく鍋が鳴ったなと思ったら、ほどなくしておかあさんの手からチャーハンが運ばれてきた。
わかめのスープに加え、チャーハンにサラダとキムチが添えられている。おかげで色どりがよくて、チャーハン単品なのだけれど定食みたいに見える。
これが予想どおり、安心の美味しさだった。
しっかりとコクがあって濃いチャーハンに、サラダのやさしさが泣かせる。途中でキムチをつまむとチャーハンがさらに食べたくなる。
おとうさんはチャーハンを作り終えて中華鍋を置くと風のように立ち去ってしまったので(この去り方がカッコよかったんだけど速すぎて撮れなかった)、食べながらおかあさんに話を聞いたところ、ここ「大廣」はついこのあいだ50周年を迎えたのだとか。
チャーハンにサラダやキムチが付くのは、まわりに大学があって学生さんがよく来てくれるので、できるだけバランスよくおなか一杯になってほしいという思いからとのこと。
「こっちは忘れてたような学生さんがね、50周年おめでとうございます、ってお花持って来てくれたりしてね。いつまでやれるかわからないですけど、うれしいもんですよ。」
こういうお店が近くにあるかどうかで、学生のその後の人生は大きく変わると思う。
店内に気になるものがある
ところで、これまでチャーハンの話しかしてこなかったのだが、お店に入った時から気になっていたものがあるのだ。
店内に写真がたくさん飾られているのだけれど、中に一枚、店主のおとうさんと思しき男性が大判カメラを構えているものがあるのだ。
これジッツオに乗せたタチハラだろう。だとしたらただものではないぞ。
※ジッツオはフランスの三脚メーカー。安定感抜群だけどなにしろ重い。タチハラは日本製の大判カメラ。北海道の桜の木を使って手作りされています。
おかあさんに「この写真、さっきのおとうさんですよね」と聞くと、そうよ~と言いながら嬉しそうな笑みを作って市場の奥からおとうさんを呼んできてくれた。
結論から言うと、このおとうさん、やはりただものではなかったのだ。