特集 2020年12月13日

センチメートルジャーニー(デジタルリマスター版)

50センチだ!

先日、タイル好きの人と話す機会があった。

タイルの主流はいま10センチ角だが古い建物には7.5センチ角というタイルが使われていることがあるという。

そう言われるまでタイルの大きさを気にしたことがなかった。ごちゃごちゃした街や家のなかに10とか7.5なんていうきっちりした数字があるなんて意外だった。

これは面白い、そう思って進めるうちに数字の虜になりました。

2006年3月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:時空の裂け目に飲まれたい〜大垣ミニメイカーフェアへの道

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測ることで見えてくるもの

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打ち合わせスペースの後ろのガラス枠
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幅 91センチ

91センチは半間(けん)、日本の伝統的な建築の基本単位である(関東の場合)。「間口一軒の飲み屋」なんていうときの単位である。

近代的なITの会社の事務所に尺!

測ることで意外なルーツが見えてきた。僕らの体のなかに流れてるのは赤ワインじゃなくていいちこなのだ。

興奮のあまり、かすってもいないたとえを出してしまった。ではこんなのはどうだ。

JR田町駅のPタイルである。

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駅構内の床のタイルは
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40センチ四方。
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しかし駅のホームに来ると
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30センチ四方になるのだ!

僕らが気づかないところでタイルは大きくなったり小さくなったりしていたのだ。

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ただ、都営地下鉄三田線のホームはパネル40センチ、点字ブロック30センチと混在していた

混在しているのはむしろ垢抜けきれてない素朴さを感じることができる。測ることでさまざまなものが見えてくることがおわかりいただけたと思う。いただけたよな? な!

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駅前のカオスにあらわれた秩序

近所のポストを測ってみたところ、以下の数字があらわれた。

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35センチ四方の正方形の組み合わせでできていたポスト。
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萌えポイントを書き込んでみた

きれいな数字に設計した人の意思を感じる

・35センチ角の正方形の組み合わせ
・左の差し込み口は右のちょうど半分
・7の倍数を基調にしている

こしゃくな数字である。なにげなく見過ごしていたポストがこんな几帳面にできていたとは。

足の部分が53センチと、35センチの逆の数字になっているのを発見したときはうなってしまった。やるな、ポスト。

放置自転車のなかに立つポストにこのような秩序を見つけたときこそ計測の醍醐味である。

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測るほど興奮してくる

数字に意志をみつけた

JRと東急の自動改札を測ってみたところ驚くべき結果が出たのだ。

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JRの自動改札。
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こちらは東急の自動改札。通路が広い

・自動改札の高さは同じ(88センチ)
・機械のあいだにたつ壁の厚さまで同じ!(4センチ)
・だけど通路はJRのほうが6センチ狭い!!
(ここでウルトラクイズの勝ち抜けファンファーレを頭の中でならしてください)

自動改札が同じ大きさなのは同じメーカーだからかもしれない。だけどJRと差別化したいという意志が間隔を6センチ広くさせた、とも考えられる。

6センチにいろんな物語をみることができる。これがたまたまだったら超がっかりである。

広いところは90センチである。またも半間。日本古来のサイズだ。

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ゲームのマップを書いてるようだ

電車のドアも測らずにはいられないたたずまいである。測ってみると細かい仕掛けが見えてくる。 

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目に飛び込むすべての直線を測りたい
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2種類の太さのパイプが使われている
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10センチ!10センチ!10センチ! 見事な10センチコンボ

ふたつある手すりの直径が0.5センチ違うこと。窓横からシート脇の板のあいだがきれいに10センチ間隔にしてあること。

スーパーマリオブラザーズでコインが出てくるブロックを見つけたときのようだ。デザイナーが隠しておいたコインもきっちりゲット。

シート端の板に凹凸がついていているのは知っていたが、へこんでいる形の通りにでっぱっていないことに気づいた。座っている人、立っている人ともに寄っかかりやすいようだろうか。

測ることでいろんなディテールが見えてくる。木を見て森は見たくない。そんな気分だ。

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内側はこんなにへこんでいるのだが
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外側はこれしかふくらんでいない

まめちしき

横断歩道の幅を測っていたらすべてが45センチだった。白いところも黒いところも45センチ。決まっているらしい。

しましまの数で道路の幅がわかるのだ。センチ最高!

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しましまの数でおよそ4.5mということがわかります。
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日々のながさ

サイズを測りながら暮らしてみた。

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2006.3.2 15:00 急いでいたのでタクシーで移動

ここまで読んでいただいた貴兄ならセンチの醍醐味もおわかりいただいたと思うので、しばらく眺めて自分なりの注目センチを探してみてください。

2006.3.2 16:00 枠だけのフェンス発見。オンマウスで面積も分かるぜ。

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2006.3.5 13:00 日曜日は春みたいな陽気だった。パーカーだと少し汗ばんだ
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2006.3.3 20:00 JR から地下鉄に乗り換えて神保町に向かう
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2006.3.5 16:00 自動販売機で「おーいお茶」を買った。ペットボトルがひんやり冷たかった。

僕はちなみに、地下鉄通路のタイル、マンホール、電柱、自動販売機の釣り銭出口の大きさの違いにぐっときた。

ポッカの自販機だけ、釣り銭の出口が小さいのだ。

たまらない。


僕の世界地図

メジャーひとつで世界の見え方がこんなにかわるなんて発見だ。そして写真に数字を書き入れてゆくと世界を手中にしたような錯覚を憶える。わははは。なんだってわかるぜ。

いや、ついうっかりどうかと思う本音を書いてしまった。

これからもメジャー片手に僕なりの世界征服を続けてゆきたい。

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みんなは測るな。

2020年からの解説

 
14年前、35歳のときの記事。毛量が多い。
よく測ったなーと思ったが、この頃の写真フォルダを見たらレーザー距離計の写真があったのでメジャーだけではなく非接触の計測器も使っていたようだ。
 
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測定の裏側を載せないのが粋だと思っていたのだろうか

そして自動改札の幅などは多分タイルの大きさから推測している。

謎なのは最後、「みんなは測るな。」で締めていること。「みなさんも測ってみてはいかがでしょうか」的な締めを書いてから、いや違う!と思って逆にしてみたのだろう。天の邪鬼にもほどがある。

いまも測るのは好きでいつも巻き尺を持ち歩いている。iPhone12proにはスキャナがついているそうなので、もっと手軽にセンチメートルジャーニーができるかもしれない。買おうかな。(林)

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