特集 2021年8月26日

迷宮住宅街を攻略したい

路地が複雑に入り組んだ、迷宮のような住宅街で道に迷った記録です

最近、故あって神奈川県央部にある様々な住宅街を訪れる機会が多くなった。

基本的にスマホの地図を見ながら行くので迷うことはないのだが、唯一、完全に道を見失い、なかなか抜け出せずに苦労した住宅街が存在する。

横浜市泉区の中田南を中心とする地区である。路地が複雑に入り組んでおり、まるで迷宮のような住宅街なのである。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の17箇所全巡り

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うっかり迷い込み、出られなくなった住宅街

泉区は横浜市の西端部に位置しており、一般的に横浜と聞いてイメージするような沿岸部とは趣きが大きく異なる、田畑や新興住宅街が多い地域である。

私が道に迷ったのは、戸塚と長後を東西に結ぶ「長後街道」(県道22号)と、瀬谷と鎌倉を南北に結ぶ「かまくらみち」(県道402号)に挟まれた地区であり、泉区の中では比較的早くに形成された規模の大きな住宅街だと思う。

あまりにローカルすぎて恐縮だが、この範囲である

結構な面積に家々が密集しているものの、地区内には大きな通りがない上、路地が複雑に入り組んでおり非常に分かりづらい。私はその難解さに敬意をこめて「中田ダンジョン」と勝手に呼んでいる。

私がこの地区を初めて訪れたのは日がどっぷり落ちた夜、たまたまこの辺りに用事があってカブ(原付バイク)で立ち寄ったのだが、なかなか抜け出すことができずに難儀した。

その当時の様子を、今改めて振り返ってみたいと思う。

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地区の北側を通る長後街道は広々とした車道であり、道路の下には地下鉄が通る

迷った道筋を歩いてたどる

というワケで、迷った当時の軌跡を追うべく、その道筋を再びたどってみよう。なお、この再現にあたっては、周囲の様子をより詳細に把握すべく、夜ではなく昼に、なおかつ徒歩で巡ることにした。

スタート地点は中田ダンジョンの北東端に位置する、横浜市営地下鉄ブルーラインの「踊場(おどりば)駅」だ。

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踊場駅から南へと続く路地。道幅は狭いが交通量は多い、地域の動脈である
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その​​​​途中で右(西)へと入る。ここからが複雑な路地のエリアだ
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カクカクと折れる路地を何度か曲がり――​​​​​​
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住宅街の中の、なんだか開けた場所に出た
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この谷間に広がる空き地の辺りが、当初この住宅街を訪れた目的地であった

この辺りで用事を済ませ、さぁ、帰ろうという場面になった。私の家は長後街道を西に進んだところなので、現在地から北西の方向へと抜けたいところである。

とりあえず谷間の空き地から西へ伸びる路地を進むことにした

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この路地、真っ直ぐ西に向かうのかと思いきや……

スマホの地図を確認しながら進んでいくと、この路地は徐々に湾曲して南向きに変わっていくではないか。私は進路を修正すべく、右手に曲がってさらに細い路地へと入った。 

道が南に曲がり始めたので、慌てて西方向の路地に入った

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とりあえず、西へ、西へと進んだつもりだったのだが――
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すぐに行き止まりにぶち当たった
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谷筋を通る水路があり、路地が分断されているのである

水路によって行く手を阻まれた形だ

この谷筋には先ほどの空き地の辺りを水源とする水路が2本通っている。これらの水路の存在が自由な行き来を阻み、路地の構造をより複雑なものとしているのである。

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しょうがないので引き返し、南へ迂回して西への路地を探す

ほどなくして水路沿いの路地に出た私は、このまま水路をたどっていけば広い川に合流するのではないだろうかと考えた。

広い川が流れているような開けた土地であれば、より広い車道が通っているはずだ。幹線道路に出ることもできるだろう。

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という淡い期待を胸に、水路に沿って進んだのだが――
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水路沿いの路地はあえなく終焉を迎えた
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水路に蓋をした暗渠の歩道はあるが、当時はカブだったので通れない

路地は左(南)方向に通じているのでそちらへ向かう

とりあえず南への路地を進みつつ西へと続く路地を探そう。そう思って再びカブを走らせたのだが、その直後に再び打ちひしがれた。

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南への路地は、少し進んだところで袋小路になっていたのだ​​​​
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西へ……西へ行きたいのに、行けない!

繰り返しになって恐縮だが、この再現では昼間の撮影であるものの、迷い込んだ当時は夜であった。カブの心もとないライトに照らされた景色だけを頼りに、この複雑な住宅街を奔走していたのだ。

度々の行き止まり、袋小路に、私はかなり焦っていた。スマホの地図を見てもなお、どの路地を進めばどこに出られるのか、まったく分からなくなっていたのだ。もはや完全なる迷子である。

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このまるで迷宮のような住宅街を、どう進めば良いのだ!
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文字通り闇雲に、西あるいは北へ通じていそうな路地を手当たり次第に進む!
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神社の鳥居が面しているということは、昔からある路地に違いない!

神社は昔ながらの集落の中心的な場所に位置するものだ。 すなわちこの路地は集落の幹線的な道筋であり、行き止まりになる確率は低いはずだ。これをたどっていけば良いだろう。

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夜の時には気付かなかった、味のある動物の壁画を横目に進む
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ん、なんかこの路地の先、右に曲がってないか?

先ほどの神社の辺りから、私は北に向かっているものだと認識していた。この右へ曲がるように見える路地を進んでしまうと、東へ向かってしまうのではないだろうか。行きたい方向とは逆である。

なので、私はこの十字路を左に曲がってしまった。自分としては進路を西へと修正したつもりであったが――。

左の路地は南方向へ続くものであった

今しがた私が進んできた路地は、確かに最初は北方向であった。しかしながら、それは真っ直ぐではなく途中で微妙に蛇行しており、この十字路の地点では北西に向かっていたのである。すなわち右に曲がるように見えた直進こそが、北へと向かう道だったのだ。

完全に判断ミスであった。地図をしっかり確認せず自分のあいまいな方向感覚を頼りに道を選んだ、大いなる私の判断ミスであった。

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左の路地を進んだ先には、雑木林が待ち構えていた

分かるだろうか。周囲の様子がほとんど見えぬ夜、弱々しいカブのライトだけを頼りに見知らぬ住宅街を右往左往した挙句、正面に鬱蒼と茂る木々が現れた時の絶望感を。

えっ、なんだここは。ずっと住宅街を走っていたハズなのに、なんで森に出るんだ。住宅街を突っ切って山にたどり着いたのか? 私はどこに来てしまったんだ――軽いパニック状態である。

実際は住宅街の一角にある、ささやかな雑木林であった

斜面なので宅地として利用されていないだけの、ちょっとした雑木林である。……が、視界の効かない夜に見た時は、広大な森のように思えたのだ。その時は、本当に山に行き着いたと思ったほどだ。

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その"山”を迂回すると、当然ながらすぐに普通の住宅街に戻った
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そして道なりに進むと――なんかめっちゃ開けた場所に出たんですケド?!

当時は暗くてよく分からなかったが、かなり不思議なところである

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超広大な空き地が円形に広がっているのだ

衛星写真を見ると、住宅街のなかにキレイな円形が確認できる

この不思議な場所は、かつて日本軍の無線通信所が置かれていた「深谷通信所跡」である。戦後には米軍の施設となり、2014年に全域が日本に返還された。

敷地が円形に広がっているのは電波干渉を防ぐためとのことで、中心部には現在も施設の建物が残っている(が、一般人は立入禁止だ)。周囲の土地は野球グラウンドなどとして活用されている。

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通信所で使われていた変電設備だろうか、ツタに覆われて廃墟然としている

なにはともあれ、広々とした深谷通信所跡に差し掛かったことで、自分の位置を把握することができた。ここまで来れば、見知った道路まであと少しである。

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深谷通信所跡の外周をたどり、県道402号のかまくらみちに出た
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中田ダンジョンを脱出することができたのだ!

いやはや、迷いに迷ったが、ようやく住宅街を抜けることができた。見知った道路に出た時は、心底ホッとしたものである。当時は夜であったとはいえここまで惑わされるとは、実に難易度の高い、まさしく迷宮住宅街であった。

北西を目指していたのに、結局は南に出てしまった

なぜこんなにも路地が複雑なのか

それにしても、この住宅街はなぜこんなにも複雑なのだろうか。その理由を考えてみると、「湾曲する路地」と「直交しない路地」にあるのではないかと思う。いずれも方向感覚を狂わせ、行きたい方向に行けなくなる要素である。

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主だった道が曲がりくねっている上、派生する路地も直交しないものばかりだ

重機で大規模に造成された現代の大通りはともかく、このような細い路地は尾根筋や谷(川)筋、あるいは等高線に沿って通されることが多い。起伏が少ないので歩きやすいからだ。

この地区は北側と東側が高くなっているため南北の谷筋と東西の谷筋が合流する複雑な地形となっており、そこに道を通すとなるとどうしても湾曲せざるを得ず、複雑な道筋になったのだろう。

ザックリな図で恐縮だが、緑色の部分が比較的高所の土地である

こうして地形と道筋を見比べてみると、道の成り立ちが何となく見えてくるのではないだろうか。路地の方向と谷筋・尾根筋・等高線が、おおむね一致している感じである。

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ちなみに東側の谷筋が合流する地点には銭湯「葛の湯」があり賑わっている

地区の東側は入り組んだ地形のせいで道筋も複雑であるが、一方で西側は南北に通る谷筋だけであり、その道筋も比較的シンプルだ。谷筋に沿って北へ進めば、特に苦労することなく長後街道に出ることができたであろう。

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地区の西側では水路や川沿いの道を北に行けば迷わず長後街道に出られる

今回の私の道迷いは、構造が複雑な東側で道を見失ってしまったため、道筋が分かりやすい西側にたどり着く前に、南側に放逐されたことが敗因である。

住宅街で道に迷ったらどうすれば良いのか?

人間とは失敗を反省して次に活かすことができる生き物である。もしまた同じような住宅街で迷子になってしまったらどうすべきか、考えてみよう。

・来た道を引き返す

もっとも確実な方法である。自分が進んできた道を逆にたどれば出ることができる。ただし、進行方向によって印象が変わる道も多いので、違う道を戻らないよう注意が必要だ。

・地図アプリのガイドに従う

文明の利器、スマホの地図アプリにあるガイド機能に従おう。ただし、このような複雑な住宅街では地図にない狭路や通行止めがあったりする。徒歩の場合は問題ないが、車両の場合は注意が必要だ。

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迷宮住宅街では徒歩でないと通れない箇所も少なくない

・昔ながらの道筋をたどる

江戸時代や明治時代から存在する道筋をたどろう。路肩にお地蔵さんや庚申塔などの古い石仏があったりすれば目印だ。

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「葛の湯」の近く、草むらにポツンとある馬頭観音の石碑

昔ながらの道筋は集落と集落を結ぶものなので迷う可能性は低くなるはずだ。再開発された地区の場合は道筋が途切れていることも多いが、そのような場所ではそもそも道に迷わない。

ただし昔の道は現在の幹線道路から外れた場所を通ることも少なくないので、とんでもない場所に出ないよう注意が必要だ。

・住民の方に道を聞く

地域の事はそこに住んでいる方々が一番熟知している。道に迷ったら恥ずかしがらず最寄りの大通りに出る手段をご教示願おう。

・地形を把握する

これが私のオススメにして今回の結論だ。谷筋や高台の位置を把握すれば、どのように道が続いているのか何となく見えてくる。

もし複雑な路地で迷ったら、地図を広範囲に開いてみて、その土地の地形を追ってみよう。

 

道と地形の関係がおもしろい

というワケで、今回は横浜市泉区の住宅街における道迷いの事例を挙げさせていただいた。当時は夜ということもあり本気で焦ったが、こうして改めて散策してみると気付くことが多いものだ。

特に道の形成には地形が大きく関わっていることが分かり、道と地形の関係にますます興味を持った次第である。地形を把握した現在、もう中田ダンジョンで道に迷うことはないだろう。

もし身近な場所で複雑な構造の住宅街を見かけたら、地形から道の成り立ちを紐解いてみると、思わぬ発見があるに違いない。

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地形を知れば道に迷わず気分晴ればれ

 

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