世の中には、実を結ばない努力というものもある。残酷かもしれないが、今回やってみてわかったのはそういうことだ。
努力しても結果を出さなくては意味がない、という考えもあるかもしれない。大切なのは過程ではなく、あくまで結果。そういう場合も実際にあると思う。
しかし、白目の場合はそうではない。「白目ができた」という結果そのものに、意味がないからだ。
白目文化は演じる側でなければならないわけでもない。これからはおとなし くオーディエンスとして他の人の白目を楽しんでいきたいと思う。
白目ブームをもう一度
子供の頃に乗り遅れた白目ブーム。今からでもあの頃に追いつきたい。人が何かを始めるのに、遅すぎるということはないのだ。
今回はそんな、白目ができない人が壁を打ち破ろうとする様子をお届けしたい。白目そのものはどうかと思うが、何かに挑戦する人間の姿とは常に美しいものだからだ。
子供の頃にできなかったことでも、大人になればできることも多い。白目もそうではないかと思うのだ。
そう言えば大人になってから、改めて白目ってやったことなかった。もうクラスで屈辱を募らせていた小学3年の自分じゃない。今、もう一度白目をやってみよう。
全然できていない。ここで伝えておきたいのは、本人はあくまでできてるつもり、ということだ。
白目の弱点は、視界がなくなること。つまり、鏡の前で行っても、白目ができているかどうか確認することができない。だから妻に見てもらってやってみたのだが、放たれたのは「全然できてないよ」という冷たい言葉だけ。
その言葉を信じられず、デジカメで撮ってもらって確認してみる。ほんとだ、全然できてない。
自分なりに工夫しながらしばらく白目に取り組んでみるが、妻によると「全く変わってない」とのこと。どうすればいいんだ。
白目のすごさに驚いた記憶で最も鮮烈に残っているのは、法事の時に会った親戚のお兄さんに見せてもらった白目だ。あれはすごかった。面積も白さも、クラスでいつも見せられていた白目を圧倒的に凌駕していた。
今改めて白目を目指している自分にとって、親戚のお兄さんは師匠のようなものだ。教えを仰ごうではないか。
未だ心に焼き付く30年ほど前の白目を思い出しながら、教えを請うべく電話をしてみた。
「あ、あの、お兄さん、白目上手でしたよね。僕、ちっともできなくって、どうやったらいいかコツを教えて欲しいんですけれども…」
ただいま当方37歳、お兄さんは40歳。時間の流れがお兄さんの心を大人に変え、今ではすっかり白目に対してネガティブになっているのではないか。そんな不安を抱えながら問いかけてみた。
「そうそう、俺、今でも白目できるよ!コツかー。そうだなあ…」
そう明るく言って、いくつか話してくれた。お兄さんはおっさんになっても、心はあの頃のままだ。まとめるとこうだ。
・まず、「白目をやるぞ」と心で強く思うこと。
・矛盾してるが、イメージとしてはまぶたを閉じたまま目を開けるような感じ。
・身体のコントロールのひとつなので、練習することでできるようになるはず。
特に最後のアドバイスは心強い。全く白目ができない自分も、遠くに光があると信じていいんだと勇気づけられた。
信じれば夢は叶う。それが白目だって同じだ。お兄さんの言葉を信じて練習をして、再び妻に写真を撮ってもらう。
進歩なし。むごい結果だ。
思っていたより厚い白目の壁。あきらめそうになる気持ちを振り切って、さらなる先人の英知に耳を傾けることで、自分の力としたい。
連絡をとったのは当サイトのライターである櫻田さん。これまでお会いした中で、なんとなく「櫻田さん、きっと白目うまいんじゃないかな」と、私の白目センサーが感じ取っていたからだ。
わけを話して聞いてみたところ、「昔はできなかったけど、今はできますよー。なんか子供の頃って、目を思いっきり動かすのが怖かったんですよねー」とのこと。
やはりそうだ。子供の頃にできなくても、心身の成長と共に白目はできるようになるんだ。
ただ、気になることもある。白目は黒目が隠れてしまう関係上、自分で白目成立を確認することができない。そのため、「自分が白目できてるって、どうやって知ったんですか?」と聞いてみた。
「そういえば、改めて確認はしてないですね…」と櫻田さん。というわけで、受話器の向こうで白目をやってもらって、そばにいる奥様に確認してもらうことにした。
受話器越しに奥様の声が聞こえてくる。「できてないねえ」。
できてなかった。櫻田さん、白目できてなかった。できてるって思い込んでるだけだった。
しかし、そのことを責めるつもりはまるでない。逆に、自分と同じような人がいることを確認できてうれしく思ったくらいだ。そうなのだ、白目ができない当事者は、自分ではちゃんとできているつもりなのだ。
電話で相談に乗ってもらったのは、同じく当サイトのライターである大北さん。以前会ったときに、実際に白目をやって見せてもらったことがあるのだ。
面積も白さも申し分ないその白目。わけを話すと、「なんだろう…コツか……」と、そんなこと考えたこともないという風に話し始めてくれた。やはりできる人にとって白目は当たり前のことなのだろう。
・真上を見るように筋肉を使って眼球を動かす。
・まぶたは7割ほど閉じた状態から白目をスタートする感じ。
・そこからまぶたは開けないような意識で。でも、眼球を動かすことによって、ほどよい見え方の白目になる。
お兄さんの言ってたことと共通点がある。やはり白目にも普遍的な方法論がありそうだ。
通常は自分で白目を確認できないことについて聞いてみたところ、「それはやっぱり、この間小野さんに見てもらったみたいに、人に見せると『できてるできてる!』って言われるから」とのこと。
確かに白目を一人でやっていてもつまらない。演じる者と観客とがいて、始めて白目という現象は成り立つのかもしれない。白目においても大切なのは、人と人とのつながりなのだ。
もう一人、電話してみたのはやはり当サイトのライターである玉置さん。櫻田さんに対する白目センサーははずれたが、常々玉置さんには強力な白目オーラを感じていたからだ。
わけを話すと、開口一番「僕はすごいですよ、白目」と答えてくれた。やはりそうだ。
・身体のことで唯一自慢できるのが白目。面積・白さともに自信がある。
・白目をしてると、イメージ的には死後の世界のような視界が広がっている。
・寝ているところを見た人に「白目剥いて寝てたよ」と言われることがよくある。
とにかくすごい自信なのだ。セルフ白目の確認問題について聞いてみたところ、「気になって数年前に白目状態で写真を撮ってみたんですよ。そしたら完璧で」とのこと。
すごい。客観的な観察に裏付けられた白目なのだ。ここまで来ると、もうデフォルトが白目なのかもしれない。 ナチュラル・ボーン・白目。視界を得るために、仕方なくわざわざ黒目を出しているという感覚なのかもしれない。
「白目でありつつ、視界を保つこともできますよ」とも言う玉置さん。え?何?言っていることがわからない。
詳しく聞くと、ほぼ全体が白目でありながら、ほんの少しだけ黒目を覗かせることでそうすることができるらしい。実際に受話器の向こうでやってみてもらい、そばにいた奥様から「ほんとだー」とのコメントもいただいた。白目ができない者にとっては未知の世界だ。
白目のコツとしては、「目を開けたまま、視界を90度上にずらす感じです」とのこと。白目マスターの話だけあって、心に響いてくる。
大北さんからの助言と合わせて、今なら自分にもできるかもしれない。気持ちを眼球に集中させ、再び新しい気持ちで白目に臨んでみる。どうだ!