吉祥寺駅から徒歩5分という好立地にある「ブックマンション」。2018年に惜しまれつつ閉店した老舗洋食レストラン「シャポー・ルージュ」の跡地にできた「ブックマンション」は、東急百貨店の裏手・ZARAの目の前に位置していて道もわかりやすい。
この日は棚を借りている棚主たちが集まる日にお店にお邪魔してきた。棚主は月に1回程度店頭に立つこともできるのだけど、こうして棚主同士が一堂に集まる機会はなかなかないのだそう。それぞれ本棚を借りる者同士、本棚の話題を中心に会話が盛り上がっていた。ひとつの本棚の大きさは一辺の長さが30センチほど。小さな本屋をいくつか見ていくことにしよう。
Cloud-Books
まず気になったのがこちらの本棚。雲とか、空に関する本だけで構成されている棚で店名もCloud-Books! めちゃくちゃ空とか雲を愛する人なのかな……?
徳永さんが持っているのは、棚の中でも特に手に取ってほしいという徳永さんのお父様が書かれた本「原子雲のかなた」だ。徳永さんはCloud-boxというデザイン会社をブックマンションから歩ける範囲でやっていて、お店を知った時に「会社の近くでこんな面白そうなことをしているなんて!」と棚を借りた。
徳永さんがイラストレーターをやっていた頃、よく雲の絵を描いていたのだそう。「雲って人の想像力によって見える形も違うし雲と一言にいっても雨雲を想像する人もいるし、鱗雲を想像する人もいたりと人それぞれ持っているイメージは違う。“想像力の箱”という意味を込めてCloud-boxという社名にしました。雲をテーマにしたのには、こういう会社やってるよという入り口にしたかったのもあります。」
雲や空系の本は青系の色味が多く、青系でそろえられた徳永さんの棚はとても目立った。雲で統一された棚には物語があった。
ライネケ堂
次に気になったのがこちらの本棚。銅版画のあたたかみのあるキツネの絵本が中心となるラインアップ。棚の装飾もかわいくて凝っていて世界観がある! そう、ただ本を置いてあるだけじゃなくて、こうして工夫している棚も多いので見ていて楽しい。
棚主のコンノさんは「キツネがすごく好きで、キツネの絵ばかり描いている」方。ライネケ堂は自身が美大の卒業制作で行った「実際にキツネの本屋があったら」という空間展示の流れを汲んでいる本棚だ。デザインの仕事をする合間で趣味の版画を続けていて、本棚においてある絵本もすべて自分で作ったもの。
お店のクラウドファンディングには初めから参加したが棚の装飾は初めから凝っていたわけではなかったという。
「お店が出来て訪れた時に他の方の棚を見て、お店の看板やショップカードもそれぞれ凝っているので『こんなに色々やっていいんだー!』と思いながら面白くしたいなと思って作っています。」それぞれの棚が切磋琢磨して、進化するところもこのお店の楽しみ方のひとつなのだ。
ヘベレケブックス
次の棚は「ヘベレケブックス」。新刊のきれいな本が並んでいるが、これは編集者・ライターの棚主が自分で書いた本や、編集などで関わった本を置いてあるのだ。話を聞いてみると棚を借りている方の中にはこちらの棚主のような編集者や、出版社の人など本にかかわる仕事をしている方が結構いる。
Twitterでブックマンション開店のクラウドファンディングをやると知ってすぐに支援をし、棚の番号は堂々の「03」!
新保さんは本棚を借りてからについてこう語ってくれた。「単純に売れると嬉しいのですが、自分の携わった本を手に取って買ってもらえる。見てもらうだけでもありがたいですね。こうしていろんな人と会う機会があったり、本の補充などの機会で他の本棚を見たりとか、普段生活するうえで楽しみがひとつ増えたみたいな感じです。」
永澤文庫
次の棚は永澤文庫。アートや古事記、ギリシャ神話や古文書解読辞典などなんとなく共通点を感じるラインアップ。
棚主の永澤さんにとって、どんな時も自由を与えてくれたのが「本」という存在だった。永澤さんが10代から30代にかけて縦横無尽に読み渡った「自分自身を構成する要素」の本をそろえたという永澤文庫。その時々によって本のラインアップは変わるが(本は売れていくから)、補充するときも、「それもまた自分」と思いながら選んでいるのだそう。
人の本棚を見るのが好きなんだけどなかなか人の家でジロジロ見るのは気が引けるしなかなかそういう機会もない。でもここでなら思う存分人の本棚を見て棚主の人生に思いを馳せることができる。それって楽しいぞ!
麦文庫
さて、次は手書きの文字がかわいい麦文庫。「なんとなく『女子のキャリア』を考えたりする本棚」というコメントも添えてある。
こちらの棚主、高田麦さんは普段はコピーライターをしている。物作りや書くこと、映画を見ることなどが好きでかつては芸術系の本も置いていたけど今は「なんとなく女性のキャリアを考えたりする本棚」に。棚のテーマはかちっとは決めずに、その時の気分でも変わっていくのだとか。
「他の方の棚もテーマ性あるのも面白いのですが、そうじゃない全然違う発想のものに出会えるのも面白いです。新刊とかベストセラーじゃない、昔の見たこともない本に出会えたりするのもシェアする本棚の魅力だと思います。」
高田さんは、この地にかつてあった洋食店「シャポー・ルージュ」が好きで通っていたが、「シャポー・ルージュ」は惜しまれながら閉店になってしまった。本屋も好きだった高田さんはその後跡地にこの店ができると知り、自分の好きなものだらけな場所だったから支援を決めたという。棚を借りる理由も本当に人それぞれだ。
読跡文庫
最後にすごく気になる本棚の棚主に話を聞けた。その名も「読跡文庫」。棚の説明には「本にあえて読んだ跡を残しそれを次の人に回していくことで、いつもとちがった読書体験をしてみようという試みです。(中略)立ち読みの方も書き込んでいただいて大丈夫です」とある。たまに古本屋で買った本に元の持ち主が線を引いた跡があったりすることがあるが、ここの棚はそんな「読み跡をメインに本を楽しむ」というもの。そんな読書の楽しみ方があったのか!
棚主は普段はデザイナーをやっている方。棚を借りたものの、読むときに線を引いてしまうために売れる本がないと思った棚主が、知り合いとメモを書いた本を交換していた経験から発案したのが「読跡文庫」だ。
この棚の特徴は、「買わなくても本に書き込みをして他のお客さんたちと交流することができる」ということ。実際にサンプルとして置かれている本を手に取ってみた。
本を開いたら異なる字体で「この人のイレズミスゴいな!」「どっかで聞いたことある!」などのコメントが踊っていた。感覚としては、動画を見ているとコメントが流れる「ニコニコ動画」に近いかも。読書ってひとりでするものだけど誰かと共有しているみたいだ。
吉祥寺で、新しい読書体験にも出会うことができた。
本棚は人生の縮図みたいだ
お客さんとして行ったときは本との出会いはもちろんだが、「この棚を作ったのはどんな人か」を想像することを楽しみにしていた。今回、答え合わせができたみたいで楽しかった。棚を借りた理由もそれぞれだし、読書の楽しみ方も人それぞれで面白い。次行ったときはまたどんな風に変化しているのか、楽しみが増えた。
ちなみにこちらの本棚の追加募集だが、空きがでた時に不定期でTwitterのアカウントから告知を行っている。
取材協力:「ブックマンション」(Book Mansion)
住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-13-1 吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)地下1階
営業時間 12時00分~19時00分
定休日 月曜日・火曜日
※記載の情報は2019年12月23日現在の情報です