読んだよ 2024年7月3日

タイプライター、漢字廃止論、日本語入力の苦闘の数々「日本語大博物館: 悪魔の文字と闘った人々」

デイリーポータルZのライター、関係者が愛読している本を語ります。

今回はライターの唐沢さん。レコメンドは「日本語大博物館: 悪魔の文字と闘った人々」(ジャストシステム)

聞き手は安藤、佐伯、石川です。

では唐沢さん、お願いします。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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なんでローマ字打たなあかんねん

唐沢:パソコンのキーボードで文字を打つ時って、まずローマ字を入力して、それをひらがなにして、さらに漢字に直すじゃないですか。ある日、「なんでローマ字打たなあかんねん」ってめっちゃ腹立ったんですよ。

安藤:はいはい(笑)

唐沢:小さいころにタイピングゲームでかな入力を練習したんです。そしたら親から、「ローマ字入力しか使わへんで」って言われて、あとでローマ字入力を覚え直して。
みんなやってるから覚えましたけど、よくよく考えたら「最初っからかな入力して、漢字に変換するほうが早くない?」と思って。

石川:たしかに。

唐沢:それに腹が立って、日本語の入力ってどんな歴史なのか調べたんです。そのとき読んだのがこの本。

近代の日本語入力で、私がネックだなと思うのがタイプライター。アルファベット表記が中心の国がまずタイプライターを作ったんですけど、近代に入った時に、タイプライターで欧文を打つ様子を中国人や日本人が見て、「文章打つのはやすぎない!?」ってなったらしいんです。「え、一瞬で書類できてるけど…」って。近代人は効率化で国際競争に勝っていかないといけないと思っていたので、めちゃくちゃ危機感を覚えたそうです。

安藤:なるほど

唐沢:この本は、近現代において「どうやって日本語を早くたくさん打つか、かつ可読性も確保するか」っていうので、日本人がめちゃくちゃ頑張る過程をトピックに分けて紹介しています。

頑張りの一つの方向性として、「日本語を記す道具の開発を頑張る」というのがあります。例えば活字。ペンで書くんじゃなくて一文字一文字スタンプみたいにして大量印刷を効率化しようっていう。

で、それとは別に「日本語を変えちゃえばいいやん」っていう人もいるわけです。例えば、「漢字廃止論」っていうのがすごい盛り上がるんですよ。 「かな文字だけならタイプライターがすぐ作れる、漢字なんか使ってるから日本は遅れてるんじゃい!」みたいな。

石川:あーなるほどねー

唐沢:経済界からそういう動きがあったみたいです。

 

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漢字ばっかり読んでるから視力が悪いんだ論者

唐沢:ワープロ時代に漢字変換を開発した人の話とかもあって、ものすごいアツいんですよね。
日本語って同音異義も多いし文節が厄介やぞ、変換を効率化するには、意味に注目した方がいいのかな?みたいなのをめちゃくちゃ研究して。

安藤:そうか。ソフトウェア的なところと、ハードウェア的なところと、言語自体の文化的なところ、3つあるんだ。

唐沢:皆さんだったらどこから攻めます?

安藤:ソフトウェアでなんとかできれば1番楽って思っちゃいますけどね。

石川:日本語変えるのって、全国民に働きかけなきゃいけないじゃないですか。道具を変えるのは自分だけがんばって新しいもの作ればいけるから、そっちに行くかも。

安藤:韓国が漢字辞めてハングルにしたのは、文化から攻めたっていうことですよね。それはそれで確かに英断だし。

唐沢:日本語はハングルより文字数が多いし、ひらがな・カタカナがあるぶん中国語より文字が多いぞってことで、「悪魔の文字」ってあだ名されてたこともあるらしいです。

石川:あー、だからそのサブタイトルなんだ。

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「悪魔の文字と戦った人々」。ふだん何気なく使っているのが悪魔の文字だったとは

安藤:覚える文字が多いですもんね、日本語って。

唐沢:「文字を覚えてる時間が長くて科学の勉強が後手に回るから、日本は劣ってるんだ」論者とかもいて。

石川:おもしろ!

唐沢:あと、「漢字ばっかり読んでるから視力が悪いんだ」論者。

石川:ははは

唐沢:漢字やめろっていう人の中にも、流派があるんです。ひらがなだけ派、カタカナだけ派、ローマ字だけ派の中にはヘボン式派と日本式派がいて。

安藤:はいはいはいはいはいはい

唐沢:いっぽうで、活字やローマ字を近代化の使命とは異なるかたちで使った人たちのエピソードも載ってます。

例えば、江戸川乱歩。彼は活字が好きすぎて、中学時代に自分で活字を買って同人誌を印刷してたり。

あと石川啄木は日記をローマ字で書いているのですが、なぜかっていうと、めちゃくちゃ放蕩してても、ローマ字で書けば、奥さんが読んでもわかんないから(笑)。

石川:暗号として。

唐沢:こういう面白い例が大量に紹介されてて、この話をしだしたら友達とめちゃめちゃ長電話してしまって(笑)

佐伯:いい友達ですね

石川:ははは

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いつもに増してテンションの高い唐沢さん
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もしかしたら今やってんのも効率悪いんじゃないか

安藤:今はフリック入力に予測変換とかあるから、もう完成系なんですかね。

唐沢:フリック入力いいやん、ってすごい思うんですけど、いまでもガラケーのように、ボタンを連打して「あ→い→う」って変えていく人もいるじゃないですか。

安藤:はいはいはいはいはい

唐沢:やっぱ入力って身体性がすごい関わってると思って。
練習して、慣れたものから乗り換えるっていうコストが、年齢が高くなればなるほど重いように感じるっていう。

安藤:練習ですもんね。

唐沢:だから、日本語の道具や表記の伝統を守ろうとする人の中には、「日本語が美しいから守ろう」って人だけでなく、「変えるのがだるい」って人もいて、立場がいろいろある。そんな話も書いてあります。

あと、今は変換が1番効率がいいって思って使ってますけど、これ読んでると、「もしかしたら今やってんのも効率悪いんじゃないか」って思えてくる。

石川:確かに(笑)

唐沢:現代には、音声入力や脳波を使った入力とかいろいろありますね。この本は工学系の人が読んでも面白い思います。

絶版のようなので古書です。リンク先に文庫版もあります

日本語大博物館: 悪魔の文字と闘った人々

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