特集 2021年1月29日

琵琶湖を散歩させたい

こら、そんなところに放水しちゃいけないったら。

私がこのごろ得た気づきに「琵琶湖の形はよく見ると犬っぽい」というのがある。

形が犬に似ているのなら、犬の代わりに琵琶湖を散歩させてもいいのではないだろうか?私の見立てでは、10m離れて目を細めてみたら区別がつかない程度には大差ないはずだ。

ちょうど寒さで外に出るのが億劫になりがちだった昨今、琵琶湖犬を連れて街に繰り出そう。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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琵琶湖が犬に見える

滋賀や京都で子供時代を過ごす人は、義務教育で「近畿の水瓶」の異名をもつ琵琶湖についてみっちり学習させられるのだが、他の地域の人にはあまりなじみがないかもしれない。

まずは琵琶湖の形を見てほしい。

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これが琵琶湖。日本で一番大きな湖だ(国土地理院の地図より)

これを少し傾けてやる。

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どう?
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詳しく説明するとこう。

琵琶湖大橋より南がしっぽ、湖北と呼ばれるエリアが頭、そして絶妙な位置に竹生島(ちくぶしま)という無人島があって、これが目である。

初めて気づいたときは感動した。これは、脚がないことに目をつぶればほぼ犬だ。しかも、これまで見つかった隠れ犬としては最大級じゃないか。

琵琶湖の形を作る

散歩をするためには、とにもかくにも散歩させられる大きさの琵琶湖を作らなければならない。材料には、柔らかくて切りやすいポリエチレンの板を選んだ。軽いから引っ張って歩くのも楽ちんだ。

平面的な琵琶湖のシルエットさえ模倣できればいいので、工作としては簡単な部類である。

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プリントアウトして切り抜いた琵琶湖をポリエチレンの板に貼り付けて
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湖岸の細かい湾曲はわからないだろうから省略して、切り抜きやすいように直線で写しとった。そのままだと大きめのリスくらいのサイズだったので二回りほど拡大。
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頭の部分を極端に簡略化すると犬に見えない。面倒だなという気持ちをぐっとこらえて細かく切り抜く。
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毛があるものはかわいい。それに、無毛種の犬猫は今みたいな真冬はとても過ごし辛そうだ。なので琵琶湖にもフェルトを巻いてやる。
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フェルトにボンドを塗って先ほど切り抜いた琵琶湖に貼り付け、
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フェルトの端を裏側に折り込んでいい感じに処理したら、琵琶湖の形のいっちょ上がりだ。

左右反転させたものをもう1枚作った。これを貼り合わせれば、右から見ても左から見てもきれいに琵琶湖のシルエットが浮かび上がるという寸法だ。

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琵琶湖の形を描いた図として、最も適当なもの選べ。(センター試験・地理Bより 配点:5点)
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犬であり人面魚である

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ためしに本棚に置いてみた。なんだか収まりがよくて、このままここにしばらく置いておきたいと思った。自宅にプールのある人はたまにいるが、部屋に琵琶湖を置いている人は滅多にいないだろう。

ただの図形から勝手にイマジネーションを広げてしまう人間の本能を逆手にとったのがだまし絵だ。老婆に見えたり若い女性に見えたりする作品が有名だが、琵琶湖を本棚に置いて眺めたりしているうちにだんだんこれが琵琶湖や犬以外のものに見え始めた。

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たとえば、ここが魔女の横顔に見える。
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すると、全体では人面魚に見える。

さっきまで犬だったのに、人面魚にしか見えなくなってきた。魚なら、手足がないのも不自然に見えない。なおさらよくない。

……言葉だけだと、うまく伝わっているか不安なので絵を描いてみた。

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絵にするとこんな感じだ。

しっくりくる。一瞬だが「これはこれでありかな?」とも思った。しかし私が散歩に連れ出したいのは醜いモンスターじゃないんだな。かわいらしい犬、犬なんだ。なんとかモンスターを追い払って認識を犬の方にもどさないと......。

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犬の顔を......。

犬の顔の絵を描いた。

少し鼻が大きすぎる気がしたけれど、おかげでさっきまで人面魚に振り切れていた針が、だんだん犬の方により戻されてきた。

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鼻が大きすぎて豚とまちがえられるといけないから、鳴き声を出してるところの絵も置いておきますね。

足をつけて散歩に行こう

ふたたび犬に見えるようになったところで、二つを貼り合わせて外へ。仕上げに脚を取り付けて立たせたら、琵琶湖犬の完成だ。ワンワン!

長らく犬には大型、中型、小型という3つの区別が存在してきたが、この日新たなジャンルが加わった。

サイズは小型犬で形は琵琶湖。なので、湖型犬と名付けようと思う。

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湖型犬1号だ。
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足の先にはいらなくなった電車のおもちゃからもいできた車輪を付けた。これでスムーズに動けるだろう。
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歩かせる。

さっそく散歩だ。

犬の散歩というと、はしゃいだ犬が飼い主をぐいぐい引っ張っていくイメージがあるけれど、動力をもたない湖型犬が自分から動くことは決してない。

こちらがリードして引っ張ってやらないといけないのだ。

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実際は引きずらないと動かない。かなりのわがまま犬だ。
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本物の犬だったらこういうところに寄るんだろうな、とか考えながら撮った写真。
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抱えて歩く。フライデーされた芸能人っぽい構図。

有名人フライデーされるときのありがちな構図に「マスクをして小型犬を抱えスマホを見ながら歩いている」というのがある。

そういうのを見るたびに「自分の脚で歩かせればいいのに」と疑問だったけれど、今日わかった。小さな犬の歩調に合わせるよりも、抱えて運んでしまったほうが楽なのだ。

しかし琵琶湖を抱えて歩いていると思うと、なんだか自分まで大きくなったようで無駄に気分がデカくなる。

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パン屋の店先につながれる湖型犬。

途中でパン屋に立ち寄った。

普通の犬と同じで湖型犬も店内に入れないだろうと思って外に待たせておいたのだが、買い物を終えて出てきたら風にあおられて倒れてしまっていた。本物の犬なら一大事だ。

小さめの犬を飼っている人はだいたいみんないつも犬のことを心配しているが、その気持ちが少しわかった。

しかし踏まれて割れたりしてなくてよかった。そんなことになったら悲しいし、企画としてもそこで終わりだった。

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川辺で走らせる

そんなこんなで京都市内を流れる賀茂川の川辺までやってきた。犬の散歩といえば、やっぱり川辺だろう。

賀茂川は琵琶湖から流れてくるわけではないけれど、そこは同じ水ということで湖型犬も興奮しているようだった。

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買ったパンを食べる。犬はそれを見る。それはそうと、そろそろ読者も犬にしか見えなくなってきたころじゃありませんか?
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通りすがりのハトが「え、なに?」みたいな目で見てくる。

パンくず目当てに飛来したハトが、近づいても大丈夫かどうか計りかねて遠巻きに見ていた。このあたりの鳥はとても図々しくて、普段なら人の足もとに落ちている食べ物を平気で拾いに来るのだけれど、さすがにどう接していいかわからないようだ。

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河原に下りてみる。
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走り回りたがっている気がしたのでリードを外してやることにした。人を襲うことも逃げることもしないから、なんの気兼ねもいらない。
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はしゃいで走り回る!楽しそう!
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走っていってもちゃんと戻ってくる。なついているのだ。
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もし犬を飼うことになったらやってみたいと思っていた、棒を投げて拾わせるやつもやった。

何かを散歩させるのは楽しい

最後のコマ撮りが終わるころには日が傾いてきたので、そのまま帰宅した。

琵琶湖を散歩させるのは、思ったよりも楽しかった。初めてのことでいろいろ気づきがあったのと、壊さないように気を使ったせいもあるかもしれないけれど、最後には不思議な愛着のようなものまで生まれたようだ。こういうのも情が移ったというのだろうか。

どんどん散歩に行って、なにかを見つけよう。相方は必ずしも生き物でなくてよいのだ。


河原の風は強い

街中を歩いているときはそれほどでもなかったのに、河原に出た途端ひんぱんに転倒するようになった。河原の風は町よりも強いようだった。一人だと気づかないようなことに気づけるのも、なにかと一緒に散歩する魅力ですね。

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風が吹くとすぐにコケるのでコマ撮りはかなり大変でした。
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