新大久保の2つの潮流、韓流とハラルショップ
今日もあちこちでダイナマイトがかかって新大久保はもはやダイナマイトシティと言ってもいいだろう。近年はアジア全般の店が増えて、最近では中国系の新店が目立つ。
数年前から韓流とは別の軸として南アジアの食材店、ハラルショップの流れがある。筆者の数少ない訪問国がインド(デイリーポータルの企画でデリー、あとは同じくポーランドに行ったのみ)なのでこの現地まんまの食材店には心浮き立つものがあり、よく足を運んでいた。
新大久保にはイスラム横丁をはじめそんな食材店、ハラルショップがいくつかあるがそのうちの一店が中で食べられるようにしたそうだ。メインストリートから一本入った場所にあるサルシーナハラルフーズがそれ。
狭い場所で濃い文化を味わえる
中には狭い小部屋があり2つの小さなテーブルが角に寄せられていた。引き戸一枚隔てた厨房にオーダーを通し、出てきたバングラデシュ料理は食べ慣れないものだった。なんだこれは…!
今、新大久保ではこういうことが起こる。先日も昼ご飯を食べようとして入った中国系新店でメニューが分からず厚揚げの炒めものだけ食べることになってしまった。外国でしか起こらないような体験とはこのようなものを言うのではないだろうか。
新宿から歩ける距離で1000円払って小さな外国旅行をできた喜びに感動をした。後日お店の人に話を聞いてみた。
新大久保のハラルショップの店長さんに話を聞く
「モーリックは家族の名前。バキビラ。みんなバッキーって読んでるよ。バングラの商売もある。ダッカ。」
と語るバッキーさんはこのお店の他にいくつかの店や会社を経営する社長さん。
「日本はもう35、6年なるかな。今57歳、(日本に来たのは22歳?)くらいね。(なんで日本に?)学生。(お店を始めたのは?)4年後。貿易関係と旅行関係、それで法律変わって、儲け、ない。
それでレストラン作った。明治通りは新宿の、それは平成5年から。平成5年に作ったヒマラヤ。早稲田大学理工学部の目の前。」
バッキーさんは35年日本に住んでるので日本語でお話いただいたんですが、日本にいながらの異国体験がこの記事の訴えたいところなのでできるだけお話されたそのままの文で書いてます。
バングラデシュ人は日本にあまりいない
「ここのレストランは1ヶ月前。日本のお客さん始まったのは最近ね。前は外国人のお客さん。バングラ人じゃなくてもパキスタン、色んな国ね。
(ここに作ったのは外国の店が多いから?)そう。バングラ人は日本であんまりいないですけど、ネパール人が多いね。インド人も少ないよ、一番多いは中国人、二番目はブラジル、韓国人、4番めはネパールの人。
(バングラ人の街ってありますか?)日本にない。みんなバラバラ。中華街や韓国街みたいなそういうふうにはなってない。」
とバッキーさんは言うが東京都北区東十条にバングラデシュ人が多く住んでいるという記事を最近読んだので、もしかしたらバングラ街っぽくなってるかもしれない。
新大久保のここ20年
──新大久保に外国料理のお店はいつくらいからあるんですか?
「もう15年(前)かな、その前は外国の店でも変な店ね、女の子が多いよ。そういう商売は20年前が一番多かった。最近はよくなってふつうの遊び。新大久保の近くでスパイスの店始まって、パキスタン、ネパール、そういうお店がいっぱいできた」
──先にスパイスの食材店があって、外国料理も増えたんですね
「そうそう。インド、ネパール、パキスタン、ヴィエトナムある、スリランカの店あるけどスパイス(店)はない、インドネシアのスパイス(店)ある。ここはバングラデシュの(スパイスの)店というわけではない。お客さんバングラ人だけ考えてたら儲けないから。
バングラデシュの人、全日本で1万5000人くらいかな。多くて2万人くらいしかない。ネパール人はもう10万以上。あと中国人は40万人以上になった。」
多いのかどうかも検討がつかないが、ほとんどが東京にいるのだろう。
──この辺だとどの国の店の料理が多いですか?
「韓国のが多い。あとはネパールの。でもそんないっぱいない。ネパールとヴィエトナム。インドもある。私だいたいどこのも食べて味をテストしている。私タイ料理大好きだからタイ料理いつも食べてる」
バングラデシュの店長は日本でタイ料理をいつも食べている。別に当り前のことではあるが、新大久保で文化が入り混じってるのだなと思う。
──ここみたいな料理店ってあるんですか?
「ここはバングラの、店の料理じゃなく、本物。家で食べるようなもの。店(の料理)はまたちょっとちがう。家庭料理(の店も)探せばどっかにある、でもこのエリアではない」
バングラデシュ料理のボッタってなに?
──メニューにあるボッタっていうのはなんですか?
「ボッタは説明難しい。たとえばナスを焼いてブレンダーみたいなの使ってスパイス入れるだけ。それボッタ。野菜も(ボッタに)できる、いろんなものできる。いろんな種類あるからね」
ボッタというのはマッシュ状につぶした家庭料理だそうだ。バングラの料理はそもそも手で食べるそうだが、それ以前に潰してある。歯の役目よ…
──バングラデシュ料理って他とどう違うんですか?
「インドバングラ、同じ国だから昔ね、だからあんまり変わってない。味だけ変わる、名前だいたい同じ、スパイスもおんなじ使ってる。料理の形で変わっちゃうから」
「(味も)インドの中でいろいろ変わる。デリーの味、カルカッタの味ちがう。(バッキーさんの明治通りのお店)ヒマラヤはデリーの味。20年前、デリーのコック入れた。インド人(のコックさんは)あんまり少ない、日本は」
──同じインド料理でもやっぱりコックさんによって味って全然変わるんですか?
「変わる。本物のコックさんはあんまりいない。5%しかいない。たとえば有名なお店。伊勢丹の地下に入ってたところとか。そういうものは本物のインドの味。私の店ヒマラヤは本物のインドの味。レシピ自分で持ってるから。本物のコックは一回教えればわかるから。ふつうのコックになると難しい。
この店は最初作るときに全部レシピ入れた。大体それで作る。私料理全部できる。私のレシピでみんなできる」
バッキーさんはそもそも料理ができるそうで、ここのバングラ家庭料理もバッキーさんがレシピを作ったそうだ。
バングラデシュ料理とは
──ここではナンとごはんが選べるんですね
「ナンはボッタとあんまり合わない。だからナンたべるときたとえばパヤ(ヤギの足のカレーだそう)、マトン、ビーフ、いろんなカレーある。それでナンがおいしい。ボッタになるとごはんが合う。
バングラデシュではナンあんまり食べない。ごはん食べる。インドはパン食べる、インドは大きいところだからいろんなところ、デリーはパン食べる。
日本ほ毎日ご飯食べるでしょ、ごはんと魚、おんなじバングラ、ご飯と魚。(バングラの)メインの食べ物なんですか?といったらそれはごはんと魚。川の魚、海の魚もある、あと池。池はすごく多い。商売(養殖の魚)。日本にもある。群馬県と茨城県、池の会社、鯉となまず、それ私達買うから。海外からだと冷凍だからね。生きてるのだと味はちょっとちがう。この店は生きてるのもあるし冷凍のもある。」
バングラデシュは魚をよく食べるそうだ。しかもほとんど淡水魚だそう。地図を見るとでかい川が通っている。ガンジス川だ。Wikipediaには「バングラデシュの殆どの耕作地域は雨季に河川の溢水により水に沈む」とある。なんてダイナミックな。洪水の国だそうだ。
「エビはあるですけど、イカはあんまりない。イカはバングラあんまり食べない」
──日本のお正月料理みたいだなと思ったんです。食べたことあります?
「ある。おいしい。料理似てる? フライ物、似てる、フライ物はスパイス入れる、入れない(の違いくらい)。鶏のあれ、唐揚げ。あれは私の店にもある。味がちょっと違う。大体作るシステムが同じ。私居酒屋でもバイトしたね、大学生のとき、ドイツ料理で。鶏から作るのすごいうまい。」
──あとすごい辛いですけど
「ほんとは『甘い欲しいですか? 辛い欲しいですか?』聞いたほうがいい。でもそれやると時間かかる。ここは大体辛いで作ってる。辛いでしょ。バングラは辛くできない人もいる。でも大体辛い食べる。パーセント率が多い。」
──料理を日本向けにしたりはしてます?
「ここはしない。(もう一店の)ヒマラヤは変える。辛さを変える。あとスパイスも少し。いいスパイスをペケット(小袋)の中に入れて後でとる。私達は食べちゃうから。体にいいから」
──バングラデシュ料理って結局どういうものと言えるんですか?
「ビリヤニある、チャーハンみたい。魚もいろんなある、いろんな麺もある、肉もいろんな麺がある、でも一回で話しをするとカレーの国。カレーしかない。カレー当たりまえ」
──カレーっていってもスパイス料理ってことですよね?
「そう、スパイス料理。日本の刺し身みたいな、なまもの食べないからバングラは。『怖い!』みたいな感じになっちゃう、顔が。私達も生は最初難しい」
──インド料理とはどう違うんですか?
「バングラとインドは似てる。バングラは油使うの少ない。インドが油多い。スパイス多い。(インドの)デリーの味はふつうのバングラの人できない。食べない。すっごい濃い味」
──スリランカとか他の国の料理も食べます?
「食べる食べる。スリランカはココナッツ、甘い。そんな好きじゃない。インドネシア甘い。タイは辛いですけど。甘いもある。スリランカはココナッツが多い。なんでも入れるから。
たとえばインドのグズラ(Gujarat?)のエリアの食べ物はなんでも卵入れる。私も一回店で出した。キーマのグズラは全部卵。卵しか料理出ない(※ちなみにGujaratが卵料理ばかりという情報は検索で出ない)、だからインドの中、いろんなところいろんな味。スパイスおんなじですけど味が変わる。中国みたい。言葉もちがう。」
インド料理っていっても中国みたいに全然ちがうのか。中国もまるっと一緒くたに「中華料理」としてたのが、最近変わった中国系の新店が増えてきて考えを改めたところだった。考え改まるなー。
バングラデシュはもともとインド
「もともと私達の国はインドの国だからね、200年間はイギリスの植民地だった。その後で独立なったは75年前。インドから独立なってパキスタンと東パキスタン二つの国一緒になった。それで50年前は東パキスタンが50年前独立してバングラになっちゃった。
だからもともと新しい国。でももともとインド。だからカルチャー、文化、インドかわんない。言葉だけちがう。カルカッタはベンガル語。言葉もちがう。インド人でもヒンディー語できない人いっぱいいる。いろんな言葉ある。」
パキスタンとバングラデシュ(東パキスタン)はインドの両端にある。どちらもイスラムの国だから独立したそうだが、そりゃ遠いわ、となったのだろうか。
バングラデシュのことを知ってほしくて
──お店、狭いのがおもしろいなと思ったんです
「テーブル2つしかない。それはもう、これ趣味だから作っただから、商売じゃなくて。趣味だから。お客さんいっぱい(の状態に)もっていけてない、大丈夫です。
だからバングラの文化、食べ物、大好きになって、それで日本人バングラ遊びにきてください。私達日本の文化いろんな勉強してね、文化難しいですけど、だから日本人もバングラ来て文化知ってほしい。バングラ人大好き、日本の文化は。
でもバングラはもともと貧乏な国、勉強ない国。今は日本人いっぱい入ってるんですけどね。日本とバングラすごい仲いいだからね。すごい仲いい国。」
──日本文化というのは車とか?
「バングラ人は、外国のどこでも(だと思いますが)、メイドインジャパンなんでも好き。有名。高いですけど。今はあんまりない。メイドインチャイナになっちゃった。でももともと外国人はメイドインジャパン大好き。バングラもっと好き。バングラ自分の車ない、だから日本の車、全部、リコンディション(修理車)使う。日本の車が古いでも、十分、使える。長い使うことできる。」
取材協力
サルシーナハラルフーズ
東京都新宿区百人町2-1-50シャトー大久保103
新大久保に文化が流れこんでいる
20代では食べることに興味がなくて、30代に入ってから肉や魚やおいしいものを食べたいという気持ちがわいて、40代にさしかかるころにはそれよりも食べたことのないものに興味が出てきた。もしかしたら人生の後半で「飽き」がきているのかもしれない。海外旅行も一回日本に飽きてからの方がおもしろいのだろう。
新大久保に外国から文化が流れ込んで、若者はダイナマイトシティとして、中高年はサブカルチャーとしてスパイス料理を楽しんでいる。
バングラデシュ料理の店長も新大久保でタイ料理をいつも食べているそうだ。移民が増えるとごはんが美味しくなるという話を聞いたことがあるが、文化が混ざって何か新しいものが生まれているのかもしれない。インドも中国もいろんな文化があるのだなとここで知った。
私達は今、じわじわとグローバルである。ふんふんおもしろがることくらいしかできないが、せめて楽しむのはいいのではないだろうか。
ライターからのお知らせ アーやります
毎年一回くだらないお芝居をやってまして、今年は濱津隆之さんが出ます。前までは知性がウリだったんですが、今回のテーマは「集団のノリ」なので知性だだ下がりになりました。
50席くらいしかない小さいとこなので、同じ場にいる人がアホなこと言い出すおもしろさを体験できます。今は完売してますが27日から増席した分が出ますので。
明日のアー本公演vol.7『そして聖なる飲み会へ』
【作・演出・出演】大北栄人
【出演】藤原浩一、八木光太郎、7A、よシまるシン、桑原美穂(左右)、花池洋輝(左右)、郷田明希、中島愛子(張ち切れパンダ)、栗田ばね、トチアキタイヨウ、張江浩司(来来来チーム・ハリエンタル)【ゲスト出演】濱津隆之
【日程】2021年12/10(金) 18:00、12/11(土) 13:00 17:00、12/12(日) 11:00 15:00 全5回公演
【会場】Kamata Souko(カマタソウコ) 住所:東京都大田区萩中3-22-7
【チケット料金(税込):自由席】
[前売]一般:3,500円、学生(枚数限定):3,000円
※現在チケットは全公演完売していますが、11月27日10:00〜再販売します。
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