特集 2020年3月25日

家族を集めてたらたどりついた雑居ビル5Fのばあちゃん家

ばあちゃん家でもてなしを受けました!

散歩先で見つけた飲食店を集めて大きな家族を築きたいと思い立ってから約10年、ついに見つけた「ばあちゃん」の家はスナックひしめく雑居ビルの5Fにあった。カウンターの向こうで私を迎えてくれたのは83歳のまさにばあちゃんだった。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

前の記事:足場は、すごく試されている。〜仮設足場マニアックス〜

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これは家族になるんじゃないか

10年ほど前、散歩していたら居酒屋「さんなんぼう」に出くわした。
 

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「末っ子セット」を頼みたくなる。

少し後、友人と旅行で熊本あたりを走っている時に目前をよぎり、とっさにシャッターを切ったのが次南坊。

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すでに閉店していた。やはり次男坊とかけているのだろうなと都合よく解釈。

「これは家族になるんじゃないか」

さんなんぼう、じなんぼうと立て続けに現れるとはなんたる僥倖。きっと家族を揃えるべしという神の啓示に違いない、ビッグダディ顔負けの大家族を築こう、書を捨てよ町へ出よう。あ、インターネットで検索するのは無粋なのでたまたま見つけたものに限るのね、というマイルールのもと、この世界で離れ離れになった家族を集める尊い試みが始まった。アウトドア般若心教ならぬアウトドア家族である。

しばらくして無事長男を発見。

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街道沿いのしっかり者だ。
 

鳥取では頑固で立派なおやじが仁王立ちしていた。

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山を従えパトランプを掲げる、こんなおやじになりたい。
 
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おやじ専用駐車場、夜はテレビもおやじのナイター専用となるに違いない。

迫力と包容力に満ちている母も現れた。
 

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なんか脳内にゴスペルが響く。
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びっぐままのいるナイス街

わずか2年ほどで父母に息子3人が参集したがここからその勢いはぴたりと止まり、結局5人家族どまりかというムードのまま月日は流れた。

新宿の母ならぬ船堀の祖母

時はめぐって2020年、私に訪れた春の兆しは梅の花ではなく、東京は船堀駅の近辺をぶらぶらしていたら目が合ったひとつの看板だった。

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ばあちゃん家!

突然の祖母との遭遇、さらにこの店は今まで出会ってきたファミリー達とちょっと違った様相を呈している。

「ちょっとくれば」

なんだろう、首根っこつかまれて連行されるのでなく、別に嫌ならいいいけどもしあれだったら来たらいいんじゃないのというほのかな提案性。

この感じはまさに、静岡の伊豆でセミの幼虫やコガネグモを家に持ち込んでもにこにこしながら温泉まんじゅうを食べさせてくれた私のおばあちゃんのスタンスではないか。

こんな私でも行っていい場所なのかもしれない。

しかし、だ...

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「ばあちゃん家」つったって......

「なんか側面にラグジュアリーな女性描いてあるんですが.......」

ばあちゃん家はこの側面に女性が描いてあるビルの5階にあるっぽい。

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他の看板は明らかにトーンが異なる。それにしても国際スナック石頭が気になる。
 


 

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側面に女性が描いてあるビルの入り口

なかなか侵入するのに勇気がいる雰囲気、というかそもそもこのビル今の時間帯は全体的に寝てんじゃないのという気がしてならなかったが「ちょっとくれば」にちょっと行ってみたいマインドを抑えきれず、エレベーターに乗り込んだ。

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ウェルカムじゅうたんはあるがやはり営業時間外だった...
いったん広告です

ばあちゃんは広義の親戚

「ばあちゃん家くれば」へのアンサー欲は高まるばかり。後日、日が暮れて、あの側面に女性が描かれたビルが活気付くであろうという時間に再訪してみた。

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あたり前だが昼に来た時よりだいぶ活性化しているではないか。
 
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そして「くれば」は光り輝いてウエルカム感を発信している!

煌々と輝く看板を見て、これは間違いなくくればと言われているだろうと5階まで上がり、おそるおそる扉を開けるとすぐ目の前にこじんまりとしたコの字カウンターがあり、すでに席の大半は先客で賑わっていた。
 

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和モダンな格子柄の壁紙の店内は外観と同じくばあちゃんばあちゃんしている感は
あまりない。

注文を切り盛りしている女性と目が合い席に案内されると、こちらから何一つ聞いてないのにいきなり「ばあちゃんです!」というコールとともに本当におばあちゃんを紹介された。

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ばあちゃん家ではないか!

「今日は雨で寒いのに来てくれてありがとうございます」

雑居ビルの一角が一気に母方の実家のようになった。

立地や店の佇まいはともかく、ばあちゃん家をばあちゃん家たらしめるのはやはりばあちゃんの存在なのだ。

この店のばあちゃんこと柳沼さん(お名前も聞いて素敵な名前だったんだけどご本人がすごく照れていたので書かないでおきます)はなんと御年83歳である。

しかも私とはうれしい符合があった。
「私の旧姓は伊藤なんですよ、じゃああれだね、親戚だね」と広義の親戚認定をゲットした。

しかしなんでまたこの場所に「ばあちゃん家」なのか。

そもそも息子の嘉仁さんがこのビルでパブを営んでおり、13年前にテナントに空きができた際、柳沼さんにお店をやってみないかと持ちかけたことがきっかけで「ばあちゃん家ちょっとくれば」は始まった。店名は嘉仁さんの命名である。

「料理屋は前に郡山でドライブインをやって以来で、ずっと夫とやってきたんだけど最近は体を悪くしちゃったんで娘や孫に手伝ってもらいながらやってます」

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常連のお客さん達とパチリ。後列左端が息子の嘉仁さん。私の前の女性が孫のまこさん。

 

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同じビルで嘉仁さんが営むパブ「ココニール」も見せてもらった。無国籍ジャングルといった感じですごかった。店名はきっと「ここにいる」からつけたという。とことん自由だな。

一番の売りはばあちゃんのお手製料理、食べる人に寄り添うような優しい味わいがまさにおばあちゃんの味。

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お客さんからの頂き物、福島県郡山産の大根を干して、熱湯で戻した後に煮るという、お通しからしてこの手間のかかり具合。
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こちらも定番のたまご焼き。ふわっとした食感とあまじょっぱさがたまらない、
たまらないので写真がブレる(言い訳)
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個人的にヒットだったのが豚キムチ。玉子が入ってまろやかにピリ辛い。
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孫のまこさんが作る体に優しい創作料理も人気メニューだ。

週に4日は通い、「ばあちゃんに育ててもらってます」という人や、ここを離れ遠くに引っ越したが所用で来たついでにお土産を持ってくる人、常連さんが入れ替わり立ち代わりやってきてはばあちゃんの手料理に舌鼓を打ち、世間話に花を咲かせる。

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このビルの中ではしごすると言って出て行ったお客さんもいた。そんな文化があるのか!

みなさんフレンドリーに私が来店した理由を聞いてくれるので「いや、家族みたいなお店を集めてましてね...」とその都度説明しながらホッピーを飲む。

「次は次女とか見つかるといいよねえ」と言われた。次女、いいですね。
 

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同じビルの「ヴィトン」にも快哉を叫んだが、残念ながらすでに閉店していた。ヴィトンも集めているのです(まだ3件)

日本のどこか、もしくはガンダーラにあるというおじいちゃん、長女、次女、三女......これからもこんないい感じの出会いも期待しながら、家族を大きくしてゆきたい

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これもいわば家族
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