和菓子はいいですな!
若鮎などと言われるカステラ生地に求肥の和菓子は、岐阜や京都の銘菓とされている。私も初めて食べたのは岐阜だった。しかし、今では全国で売られているし、どこで食べても違いはあれど美味しい。それを多摩川で食べる喜び。だって、多摩川って母音が全部「a」なんだぜ。だから母なる川「多摩川」なのだ。
鮎という魚がいる。清流の女王とも言われ、子供の頃は海辺で過ごし、成長すると川を遡上する。昔から鮎は食べられており、塩焼き、甘露煮、場所によっては刺身で食べることもある。
この鮎釣りの解禁は、全国的に6月というところが多く、東京や神奈川を流れる多摩川の拝島橋からガス橋までは6月1日が解禁日となる。それに合わせて周辺の和菓子屋では鮎のお菓子が並び始める。
山梨を源流に、東京や神奈川を流れる多摩川。古くから鮎で有名な川だ。鎌倉時代の文献にも多摩川の鮎漁は登場し、江戸時代になると江戸城への鮎上納も始まる。明治になると屋形船から鵜飼による鮎漁を見物するなど、多くの人を楽しませた。
一時期は多摩川の水が汚くなり、鮎が減ったそうだけれど、今は改善され鮎が遡上するようになった。6月になると、長い竿で友釣りという方法で鮎を釣る人を見かける。川魚と言われると鮎を思い浮かべる人も少なくないのではないだろうか。
今回は本物の鮎は登場しない。鮎のお菓子を食べようと思う。「若鮎」や「稚鮎」、「登り鮎」などと言われる鮎をモチーフにした和菓子。多摩川沿いのお店でそれを買って、多摩川を見ながら食べるのだ。私はそれを風流と呼ぶ。
まずは多摩川沿いを代表する街「狛江」の鮎の和菓子を買いに行く。なぜ多摩川沿いを代表する街が狛江なのかと言うと、私が住んでいて、多摩川をよく見る場所だからだ。この辺りでも鮎を釣る人を季節になると見かける。
50年弱ほど前にできたこちらのお店に「すがた焼」という鮎の和菓子がある。練り切りで作られたリアルな鮎だ。お店ができた時からある定番の和菓子で、狛江には名物がないからと店主が作ったそうだ。
鮎の塩焼きの状態が再現されている。そして、買うとスティックシュガーが付いてくる。これをかけることで、塩焼きに欠かせない塩を再現するわけだ。もはや本物の鮎な気がしてくる。「アリーナー」って言いたくなる。
中にはこし餡が入っている。食べるのは全てが揃ってから。まずは、その造形の美しさに惚れ惚れしようではないか。狛江で何かいいお土産はないか、と聞かれたら、毎回これを勧めている。それほどに見ていて楽しい鮎の和菓子なのだ。
次は二子玉川駅で鮎のお菓子を買う。二子玉川駅は多摩川の本当に近くにあって、駅からも多摩川を見ることができる。ちなみに対岸は神奈川県となる。私は対岸側に住んでいたこともあるので、多摩川っ子なのだ。
二子玉川には高島屋があって、地下に和菓子屋が入っている。まずは「たねや」。滋賀に本部を置くお菓子の会社だ。鮎が全国にいるように、多摩川沿いで買えば、別にどこの鮎でもいいのだ。多摩川で食べる滋賀の鮎、素敵ではないか。
鮎のお菓子と言われて最初に思い浮かべるのが、このタイプではないかと思う。カステラ生地で求肥を包んだものだ。私は求肥が好きなので、この季節になると稚鮎的なお菓子を探し求める。だって美味しいから。
高島屋には「銘菓百選」というものがあって、全国のお菓子が並んでいる。そこを見ていたら、島根の風流堂の「あゆ」もあったので買った。多摩川沿いで買えば、多摩川の鮎なのだ、たとえ島根とて。
しっぽ手前のくびれがかわいい。切断してみると皮がしっかりとしている印象を受ける。美味しそうではないか。同じタイプの鮎の和菓子でも、やはり作るお店によって違いがある。そして、そこに好みが生まれる。
二子玉川駅から多摩川を超えて神奈川県に入った。多摩川沿いの二子新地駅からもう一つ進むと高津駅に到着する。そこにあるのが「和菓子工房三吉野」。創立40年以上のお店で、初夏限定で「若あゆ」が販売されている。
このタイプの鮎のお菓子の中では、一番大きかった。今回買ったもの以外と比べても、サイズはトップクラスになるのではないだろうか。若あゆだけど大きい。将来が楽しみな鮎だ。
皮は薄く、たっぷりとの求肥が入っている。求肥が好きな私としては嬉しい。最悪、求肥だけでもいいくらいに求肥が好きなので、求肥が多ければ多いほど、多摩川に感謝する仕組みなのだ。
最後は多摩川駅の「鮎やき」。駅名からして「多摩川」なので、多摩川の鮎のお菓子を買う際はここを外すことはできない。駅からすぐの場所にある「大黒堂」は昭和4年に創業し、初代店主が考案した「鮎やき」という鮎に出会えるのだ。
たい焼きみたいな感じだけれど、生地が違う。カステラ生地である。人形焼の生地に近い気がする。細身のフォルムは本物の鮎に近い。切ってみるとお腹の下あたりにあんこが入っており、これも本物鮎に近い。このあたりに内臓があるのだ。
訪れる時間によっては店頭で焼いている様子を見ることができ、1匹から買うことができる。人形焼は美味しいので、この鮎やきが美味しいのは約束されている。尻尾の曲がりが川を泳いでいる感じで素敵だ。
これで5匹の鮎が揃った。5匹も食べればお腹は十分に満たされる。本当は他の和菓子屋にも行ったのだけれど、撮影した時期が少し早くて、まだ鮎をやっていなかった。どのお店も基本的には6月1日の多摩川の鮎解禁に合わせて、店頭に並ぶそうだ。
鮎がこんなにも多摩川に勢揃いする景色はあまりないだろう。川を見れば本当の鮎だって泳いでいる。目視はできないけれど、泳いでいるはずだ。そんな多摩川を見ながら、買ってきた5匹の鮎を食べる。
結論を書くとどれも甘くて美味しかった。狛江の鮎は全体的に甘く、砂糖の口当たりがアクセントになる。いわゆる鮎の和菓子は、皮のフワフワと求肥のモチモチがいい。高津の鮎の求肥の多さはやっぱり幸せをもたらしてくれた。
島根の鮎は皮が少し硬く、求肥との対比でそれぞれの美味しさを引き立てている感じ。滋賀の鮎は高級感を感じた。もちろん美味しいのだけれど、高島屋で買ったというのがそれを加速させている。高島屋は高級なのだ。
多摩川の鮎は、尻尾まであんこが入っていた。生地も甘く美味しい。もう一匹、もう一匹と食べたくなる感じだ。甘いって本当に素敵なことだ。多摩川のせせらぎが美味しさに一花添えている。実際は電車の音がすごいのだけれど、それも多摩川の魅力だ。新幹線だって見えるのだ。
多摩川にありがとうと言いたい。必ずしも多摩川の鮎ではないし、そもそも東京や神奈川の鮎ですらなかったけれど、多摩川を見ながら鮎を食べることが大切なのだ。鮎を見ながら鮎を食べる。そのような贅沢を私は風流と呼びたい。
若鮎などと言われるカステラ生地に求肥の和菓子は、岐阜や京都の銘菓とされている。私も初めて食べたのは岐阜だった。しかし、今では全国で売られているし、どこで食べても違いはあれど美味しい。それを多摩川で食べる喜び。だって、多摩川って母音が全部「a」なんだぜ。だから母なる川「多摩川」なのだ。
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