特集 2019年1月22日

熱いと冷たいを同時に食べるつけ麺はなんでうまいのか、専門家に聞く

すごく腑に落ちる答えが聞けました。

熱々の良さ、冷え冷えの良さは分かるが、その2つを一緒に食べちゃうつけ麺の良さってなんだかピンとこない。結局口の中で常温になってるではないか。

だけどそれがおいしい。不思議である。なんでおいしいのか、味の専門家に聞きに行った。

1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

前の記事:回転寿司のプリン食べくらべ ~おいしいのはかっぱ寿司、プルプル運ばれてくるのははま寿司~


熱々と冷え冷えを一緒に食べて、なぜおいしいのか

つけ麺が好きでよく食べるのだけど、なんだか釈然としないなと思いながら食べていた。熱いスープと冷たい麺を一緒に食べて、なぜそれがおいしいのだろうか。

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つけ麺。写真映えする。

だっておかしいじゃないですか。正反対のものを一緒に体験したら、それぞれの良さが相殺されてしまう。熱々のものと冷え冷えのもの、それぞれの良さはよくわかるが、それを一緒に食べたって「なんかぬるいもの」ができあがるだけなのだ。

オーケストラのコンサートにハードロックが乱入してきたらお客さんは面食らってしまうし、夜景がきれいなレストランで「あなたに興味はない。でも付き合ってください。」とか告白されても不気味なだけだろう。

良いものだから同時に食ってやろうという考え方はなんだか乱暴な気がする。でもそれがすごくおいしいのだ。告白の例えで言うならOKしてしまっているのだ。不気味だ。

他の食べ物だとどうか

冷たいものと熱いものを同時に食べる食べ物、考えてみるとけっこうありそうだ。

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刺身定食などはよく議論になっている気がする。好き嫌いが分かれる食べ物だ。

どれも、なんかおいしいしおもしろいなーと思いながら食べていた。結局口の中で常温になっているのだ。なんでおいしいのか釈然としない。

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そういう食べ方をしないものでやってみよう。カレーのご飯を冷やした。​​​​​

冷めてしまったご飯ではない。おいしく食べるために敢えて冷やしたご飯だ。だから炊きたてを冷やしている。すごくもったいない感じがしたが、茹でたての麺を冷水で締める作業と同じだ。そもそも茹でたての麺を水でジャバジャバやる、あの作業をもったいないと思わない僕たちがおかしかったんじゃないか。なんでせっかく茹でた麺をジャバジャバするんだ。

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写真では分かりづらいが、ご飯が冷たくてルーが熱々になっている。
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うまいな…

なんの文句もない。おいしい。普通のカレーより、これを食べたい気分の時ってあるなと思った。普通のカレーよりスイスイ食べれる。お米の喉ごしを楽しむ感じ。カレーの辛さが爽やかになったような気もした。食べた時のメモには「どっちも熱いと食べるの大変だろうなー」と書いてあった。すっかり冷やしご飯サイドの人間になっている。

ただ、冷やしたご飯は塊になって硬くなってしまう。それが少し嫌だったので、次やるとしたら味のないチャーハンを作ってご飯をパラパラにしてから、それを冷やせばどうかと思った。そうすればお店でお金を払って食べてもいいとさえ思った。

専門家に聞こう

カレーでやってみてもなんだか分かんないけどおいしい、というポジティブなモヤモヤがつのった。このモヤモヤはどうしたら晴れるのか、インターネットで調べてみると「味覚事業」という食品の味の分析やコンサルティングをやっている会社があった。熱々と冷え冷えを一緒に食べてなぜそれがおいしいのか、聞いてきました。

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AISSY株式会社の鈴木隆一社長。「味博士」としてテレビや雑誌でも活躍されている。

口の中で味のバランスが変わる!

ーー熱いものと冷たいものを同時に食べて、どうしてもおいしいと感じてしまうんです。どういうメカニズムがあるんでしょうか。

鈴木:まず前提として、味覚には5つの種類があります。甘味、旨味、苦味、酸味、塩味。

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こういうチャート図で表現できるみたいだ。

鈴木:辛味は触覚なので基本味には含まれていないんですけど、基本味の中の甘味、旨味、苦味の3つには温度依存性が広く知られています。

ーー温度依存性?

鈴木:体温に近いほど感じ方としては強く出るようになるんです。そこから冷たくなったり熱くなったりすると徐々に弱くなっていくんですね。例えばアイスクリームとか、口の中でぬるくなると甘く感じるじゃないですか。

で、つけ麺で何が起こってるかというと、冷たいものと熱いものを一緒に食べると口の中で急激にぬるくなりますよね。そうするとそのタイミングで甘味と旨味に関しては味がぐっと強くなる。(苦味も強くなるが、苦いつけ麺ってあんまりないので割愛)

ただ塩味とか酸味はそのままなので、チャート図の形が変わるわけです。つけ麺が好きな方はそういう味の変化を楽しんでるのかなと思います。

スナック菓子とかも表面の味と中の味が違うものってあるじゃないですか。

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こんなイメージだろうか。
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もしよければおいしそうなつけ麺の写真をみながら想像してみてください。

なんかおもしろいなーと感じていた要因はここかもしれない。口に入れた直後から飲み込むまでの時間にかけて、味のバランスが変化していたのだ。

最初の例えに出てきたアイスは、単体でこういうことが起こっているのだという。口に入れた直後からだんだん甘味が増してきているのだ。このおもしろさを体験したくて今までアイスを食べていたのだ。確かに心当たりがある。

ーー例えば、つけ麺の冷たい麺、一本一本の中に、また熱いスープが入ってたら、2回、味のバランスが変わるわけですか?

鈴木:できるのであればそうなりますね。実際お菓子とかでも3層構造になっているもの、ありますよね。どんどん味が変わるよ、みたいな。

無茶を言ってみたら受け止めてくださった。そうか。そういうつけ麺が開発できれば革命が起こせるのだ。

人は新しい味を探している

ーー味が変化するのは分かりましたが、なぜそれをおいしいと感じるのでしょうか?

鈴木:人間には新奇探求という性質があります。新しいものを探求したい、発見したい、という気持ち。好奇心みたいなものです。それと逆の性質で損害回避というものもあって、こちらはできる限り損害を被りたくないっていう気持ち。

このバランスは人によって違うんですけど、食についてもまさにそうなんです。程度の差はあれ新奇探求性が誰しもあるんですよ。みんな新しい味っていうものを無意識に求めてるんですね。

で、人によってはそこにつけ麺がフィットしたんだと思います。フィットする時には新しいだけじゃダメで、もちろんおいしくなきゃいけないんですけど。新しさとおいしさがセットになると、新しさの発見の分すごくおいしいというか、フィーリングとしてすごく良いものに感じるんです。

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すごく良いもの。

鈴木:あと、新しさにも程度があって、あんまり新しすぎると警戒本能が出ちゃうんです。「なんだこれ」って。だからちょっと新しい味とか、今まで食べてきた素材だけど調理法を変えてみる、組み合わせを変えてみる、っていう程度の新しさがいいですね。

ーーじゃあ、ラーメンにちょっと飽きてきたような人がつけ麺を新しいと感じた?

鈴木:飽きたとまでは言わなくてもいいんですけど。ラーメン自体はもう珍しくないじゃないですか。それの麺とスープを分けて冷たい状態とあったかい状態を作って食べる、っていうぐらいの変化なら警戒まではしないと思いますね。

そう、僕たちにつけ麺をおいしいと感じさせていたのは新奇探求性なのだ。ラーメンっぽいものを食べたいけど、なんか新しい感じのやつ食べたいなーと思っていた人につけ麺がガシャコンとフィットしたのだ。つけ麺を初めて食べた時のことを忘れてしまったが、そういうポジティブな驚きがあったのだと思う。

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初めてのつけ麺、覚えていますか?

ーー新しい味っていうのは、どうやって広まっていくんでしょうか?

鈴木:海外でおいしいと思われてるものを日本人もおいしく感じてきたり、日本人がおいしいと思ってるものを海外の人も受け入れるとか、そういうことはあると思いまいすね。味覚のグローバル化ですね。

ーーそう考えると、つけ麺の、温度差で味の変化を楽しむってかなり先端を行ってる感じがしますね。

鈴木:うーん、そうですね。先端っちゃ先端ですよね。でもフレンチでもこう、冷凍したものにあったかいものかけて食べるとか、ありますよね。

ーー高級な料理って、そういうことしてるイメージあります。

鈴木:味が変わるものですよね。そういうところって非日常を売っているので、日常にないものを考えた結果なんでしょうね。

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高級なフレンチでやっていることをつけ麺でも味わえていると思うと、とてもお得ですね。

 

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やってみよう

すごく腑に落ちた。温度差があると口の中で味が変わる。それが普段の食べ物にあまりない現象なので珍しさも相まっておいしく感じるのだ。

ならば他の食べ物でも同じことが感じられるはずだ。いくつかやってみた。

ご飯を冷やしたカレー

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そのうちの一つが、冒頭の、ご飯を冷やしたカレーでした。おいしかった。

麺を冷やしたスパゲッティ

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スパゲティの麺だけ冷やしたものも作ってみていた。安定のおもしろ味だった。

味が変わった、とまでは思わなかったが、やっぱりなんかおもしろいなーという感想はあった。あまりの味の安定感に、食べながら「これ、もう世の中にありそうだな」と思って「つけパスタ」で検索したらたくさんヒットした。

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茹でたてを水で冷やす罪悪感がすごくあった。みんなこの気持ちと戦いながらつけパスタを作っている。

醤油を温めた寿司

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己の新奇探求性を奮い立たせて、お寿司の醤油を熱くして食べる、というのもやってみた。

これはおいしくなかった。熱い醤油とはいえ、冷たい寿司の体積が大きすぎて温度の違いがよくわからないし、なんか醤油が苦くなった感じがした。新奇探求性の敗北である。

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醤油を電子レンジで温めるときは、300Wで10秒ほどがいい。ちょっと気を抜くとこのようにシュワシュワした茶色いものだけになる。

最後に、つけ麺の食べ方がけっこう先端だという話があったが、その分野の最先端と思われる楽しみ方があったのでやってみた。

お湯と氷

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編集部の石川さんは沸かしたてのお湯に氷を入れてすぐ飲むのだそうだ。

最初はお湯を冷ますための氷だったのだが、エスカレートしてきて、温度差ができるだけ大きい状態で飲んでいるという。お湯に味はないので、甘味や旨味が強くなるという今回の話とは全然関係がない。ピュアに温度差だけを楽しみたい情動がそうさせているのだ。味を眼中に置かない感じがすごく未来っぽい。最先端だ。

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やってみたのだが、ハフハフするばかりで良さが分からなかった。怖かった。

氷とお湯が同時に口に入って、通常の2倍ハフハフした。

人に語ろう

他の食べ物に応用もできた。失敗もあったが、あとは食べ物の選び方や、冷やすもの、温めるものの選び方だろう。ここまでの知識と体験を得られると人に話したくなる。先日のウェブメディアびっくりセールに来ていたデイリーポータルZのライターの皆さんに、つけ麺がなぜおいしのかを語った。

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つけ麺屋で。
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「甘味と旨味が強くなるんですよ!」とかそういう話をしてる。

言葉に熱がこもるのが分かる。あとなんか言いたいことがたくさんあって話が長くなってしまう。これから出てくる食べ物がなんでおいしいのか一生懸命解説しているのだ。状況としては滑稽な感じがするが、「こうだからおいしいらしいですよ」「こういうおいしさもあるかも」と話し合ってから食べるつけ麺はおいしかった。

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つけ麺。
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そしてある者は汁なし坦々麺を、食べ、
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またある者は卵かけご飯を食べていた。

みんなでおいしいおいしいと言いながら食べた。最後の方で誰かが「つけ麺はおいしいからおいしいんですよ」とすごく頭の悪いことを言ったが、ぼんやりした頭で「まあそうですよねー」と答えていた。一生懸命麺をすすって、酸素が頭にいかなくなっていたのかもしれない。


製麺の側面からも聞いてみた

デイリーポータルZで製麺に関する記事をたくさん書いている玉置さんとお話しする機会があったので、玉置さんにもなんでつけ麺はおいしいんですか?と聞いてみた。
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玉置さん。

3つのポイントに整理して説明してくれた。

  • ラーメンと違って麺を冷水で締める工程があるのでそこで余計なデンプンが落ちて麺の舌触りが良くなる

  • 味が濃い方が一般的にはおいしいと感じやすい

  • 冷たい麺と熱いスープの組み合わせが好きな人がいる

この3点だ。簡潔で分かりやすい。熱盛り(麺を熱い状態で提供してもらう食べ方)でも、つけ麺であれば麺は一度締めてから温め直すお店が多いそうだ。すごい手間だけど、それだけ大事な工程なのだろう。

あと冷たいと熱いの組み合わせに言及してくれて、やはり!と思った。

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記事中のつけ麺の写真は、ライターの江ノ島さんにご提供いただきました。ありがとうございました!

取材協力

AISSY株式会社(https://aissy.co.jp/

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