

熱々の良さ、冷え冷えの良さは分かるが、その2つを一緒に食べちゃうつけ麺の良さってなんだかピンとこない。結局口の中で常温になってるではないか。
だけどそれがおいしい。不思議である。なんでおいしいのか、味の専門家に聞きに行った。
前の記事:回転寿司のプリン食べくらべ ~おいしいのはかっぱ寿司、プルプル運ばれてくるのははま寿司~
熱々と冷え冷えを一緒に食べて、なぜおいしいのか
つけ麺が好きでよく食べるのだけど、なんだか釈然としないなと思いながら食べていた。熱いスープと冷たい麺を一緒に食べて、なぜそれがおいしいのだろうか。

だっておかしいじゃないですか。正反対のものを一緒に体験したら、それぞれの良さが相殺されてしまう。熱々のものと冷え冷えのもの、それぞれの良さはよくわかるが、それを一緒に食べたって「なんかぬるいもの」ができあがるだけなのだ。
オーケストラのコンサートにハードロックが乱入してきたらお客さんは面食らってしまうし、夜景がきれいなレストランで「あなたに興味はない。でも付き合ってください。」とか告白されても不気味なだけだろう。
良いものだから同時に食ってやろうという考え方はなんだか乱暴な気がする。でもそれがすごくおいしいのだ。告白の例えで言うならOKしてしまっているのだ。不気味だ。
他の食べ物だとどうか
冷たいものと熱いものを同時に食べる食べ物、考えてみるとけっこうありそうだ。

どれも、なんかおいしいしおもしろいなーと思いながら食べていた。結局口の中で常温になっているのだ。なんでおいしいのか釈然としない。

冷めてしまったご飯ではない。おいしく食べるために敢えて冷やしたご飯だ。だから炊きたてを冷やしている。すごくもったいない感じがしたが、茹でたての麺を冷水で締める作業と同じだ。そもそも茹でたての麺を水でジャバジャバやる、あの作業をもったいないと思わない僕たちがおかしかったんじゃないか。なんでせっかく茹でた麺をジャバジャバするんだ。


なんの文句もない。おいしい。普通のカレーより、これを食べたい気分の時ってあるなと思った。普通のカレーよりスイスイ食べれる。お米の喉ごしを楽しむ感じ。カレーの辛さが爽やかになったような気もした。食べた時のメモには「どっちも熱いと食べるの大変だろうなー」と書いてあった。すっかり冷やしご飯サイドの人間になっている。
ただ、冷やしたご飯は塊になって硬くなってしまう。それが少し嫌だったので、次やるとしたら味のないチャーハンを作ってご飯をパラパラにしてから、それを冷やせばどうかと思った。そうすればお店でお金を払って食べてもいいとさえ思った。
専門家に聞こう
カレーでやってみてもなんだか分かんないけどおいしい、というポジティブなモヤモヤがつのった。このモヤモヤはどうしたら晴れるのか、インターネットで調べてみると「味覚事業」という食品の味の分析やコンサルティングをやっている会社があった。熱々と冷え冷えを一緒に食べてなぜそれがおいしいのか、聞いてきました。

口の中で味のバランスが変わる!
ーー熱いものと冷たいものを同時に食べて、どうしてもおいしいと感じてしまうんです。どういうメカニズムがあるんでしょうか。
鈴木:まず前提として、味覚には5つの種類があります。甘味、旨味、苦味、酸味、塩味。

鈴木:辛味は触覚なので基本味には含まれていないんですけど、基本味の中の甘味、旨味、苦味の3つには温度依存性が広く知られています。
ーー温度依存性?
鈴木:体温に近いほど感じ方としては強く出るようになるんです。そこから冷たくなったり熱くなったりすると徐々に弱くなっていくんですね。例えばアイスクリームとか、口の中でぬるくなると甘く感じるじゃないですか。
で、つけ麺で何が起こってるかというと、冷たいものと熱いものを一緒に食べると口の中で急激にぬるくなりますよね。そうするとそのタイミングで甘味と旨味に関しては味がぐっと強くなる。(苦味も強くなるが、苦いつけ麺ってあんまりないので割愛)
ただ塩味とか酸味はそのままなので、チャート図の形が変わるわけです。つけ麺が好きな方はそういう味の変化を楽しんでるのかなと思います。
スナック菓子とかも表面の味と中の味が違うものってあるじゃないですか。


なんかおもしろいなーと感じていた要因はここかもしれない。口に入れた直後から飲み込むまでの時間にかけて、味のバランスが変化していたのだ。
最初の例えに出てきたアイスは、単体でこういうことが起こっているのだという。口に入れた直後からだんだん甘味が増してきているのだ。このおもしろさを体験したくて今までアイスを食べていたのだ。確かに心当たりがある。
ーー例えば、つけ麺の冷たい麺、一本一本の中に、また熱いスープが入ってたら、2回、味のバランスが変わるわけですか?
鈴木:できるのであればそうなりますね。実際お菓子とかでも3層構造になっているもの、ありますよね。どんどん味が変わるよ、みたいな。
無茶を言ってみたら受け止めてくださった。そうか。そういうつけ麺が開発できれば革命が起こせるのだ。
人は新しい味を探している
ーー味が変化するのは分かりましたが、なぜそれをおいしいと感じるのでしょうか?
鈴木:人間には新奇探求という性質があります。新しいものを探求したい、発見したい、という気持ち。好奇心みたいなものです。それと逆の性質で損害回避というものもあって、こちらはできる限り損害を被りたくないっていう気持ち。
このバランスは人によって違うんですけど、食についてもまさにそうなんです。程度の差はあれ新奇探求性が誰しもあるんですよ。みんな新しい味っていうものを無意識に求めてるんですね。
で、人によってはそこにつけ麺がフィットしたんだと思います。フィットする時には新しいだけじゃダメで、もちろんおいしくなきゃいけないんですけど。新しさとおいしさがセットになると、新しさの発見の分すごくおいしいというか、フィーリングとしてすごく良いものに感じるんです。

鈴木:あと、新しさにも程度があって、あんまり新しすぎると警戒本能が出ちゃうんです。「なんだこれ」って。だからちょっと新しい味とか、今まで食べてきた素材だけど調理法を変えてみる、組み合わせを変えてみる、っていう程度の新しさがいいですね。
ーーじゃあ、ラーメンにちょっと飽きてきたような人がつけ麺を新しいと感じた?
鈴木:飽きたとまでは言わなくてもいいんですけど。ラーメン自体はもう珍しくないじゃないですか。それの麺とスープを分けて冷たい状態とあったかい状態を作って食べる、っていうぐらいの変化なら警戒まではしないと思いますね。
そう、僕たちにつけ麺をおいしいと感じさせていたのは新奇探求性なのだ。ラーメンっぽいものを食べたいけど、なんか新しい感じのやつ食べたいなーと思っていた人につけ麺がガシャコンとフィットしたのだ。つけ麺を初めて食べた時のことを忘れてしまったが、そういうポジティブな驚きがあったのだと思う。

ーー新しい味っていうのは、どうやって広まっていくんでしょうか?
鈴木:海外でおいしいと思われてるものを日本人もおいしく感じてきたり、日本人がおいしいと思ってるものを海外の人も受け入れるとか、そういうことはあると思いまいすね。味覚のグローバル化ですね。
ーーそう考えると、つけ麺の、温度差で味の変化を楽しむってかなり先端を行ってる感じがしますね。
鈴木:うーん、そうですね。先端っちゃ先端ですよね。でもフレンチでもこう、冷凍したものにあったかいものかけて食べるとか、ありますよね。
ーー高級な料理って、そういうことしてるイメージあります。
鈴木:味が変わるものですよね。そういうところって非日常を売っているので、日常にないものを考えた結果なんでしょうね。

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