特集 2020年1月30日

古代メソポタミアの料理を食べた感想は「毎日食べたい」だった

昔の人々は日々どんな料理を食べていたのだろうということを考えてみたことはないだろうか。それが紀元前ともなると調味料や食材にも制約が出るし、どんなものを食べていたのか想像ができない。そもそも料理はしていたのだろうか……?

そんな、まったく想像できなかった紀元前3000~400年頃の古代メソポタミアの料理を再現したものを食べることができたのでお伝えしよう。

1986年生。大人げない大人を目指し、日夜くだらないことを考えています。ちぷたそ名義でも活動しています。(動画インタビュー

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古代メソポタミア料理を食べることができたのは、銀座にあるダイニングバー「日々輝」でやっている期間限定のイベントのなかでだ。「日々輝」と音食紀行を主宰する歴史料理研究家の遠藤雅司さんとのコラボで、2020年3月までギルガメシュやエンキドゥの時代に食べられていた料理の再現をしている。

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歴史料理研究家という肩書を持つ遠藤雅司さん(奥)。遠藤さんはこのイベントではレシピの提供をしている。当時のレシピというのはそれこそ粘土版に楔形文字で書かれたようなものだったとか。イベントではそれを遠藤さんの方で再構築し、現代に再現した3品の古代メソポタミアの料理を食べることができる(コースは予約制で2300円)。

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粘土板に書いた楔型文字のイメージ

粘土板に書いてある文字というのはこんな感じだ。上の写真は「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-展」という展示の体験コーナーで私が粘土に書いた楔型文字だ(なんと書こうとしたかは忘れた)。よくこういうものが解読されて、現代まで残ったもんだなあ。

遠藤さんは世界中の様々な時代の料理と音楽を現代に届けるプロジェクト「音食紀行」を主催し、古い文献を読みあさり、失われた過去の料理のレシピを現代に再現している方だ。今回は特別に遠藤さんに料理の解説をしていただけることになった。

 

■1品目「古代小麦とラム肉のシチュー」

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まずは1品目。店長によって料理が目の前に置かれる。これが古代メソポタミアの料理……!

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これが古代メソポタミアで食べられていた「古代小麦とラム肉のシチュー」だ。いいにおいが鼻孔をくすぐる。これはスパイスの香り……? 塩を使っていなくて、後から「追い塩」をして食べるメニューだそうだが一体。

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おいしい……!

お……おいしいぞ。塩を使ってないけどクミンやコリアンダーといったスパイスがふんだんに使われているからか、物足りなさを全く感じないことに驚いた。塩なしでも調理法でここまで美味しく頂けるのか。

 

遠藤:紀元前4世紀の文書に野菜くずを使ったメソポタミアのだしの記述がありまして、そのだしを使ったシチューです。このままでも十分おいしいものではあるんですけど、クミンとコリアンダーだけだと味を締めるってことができないんです。いわゆるカレーのような、トロッとした滋養の味はあるんですけど、味を引き締めてクリアな味にするには塩の力が大きい。塩を入れると味がまた変わるので試してみてください。

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途中で塩を入れて味変を楽しみます

――塩入れた後のもおいしいですね~。塩を入れる前はだしやスパイスなどの複雑な味を感じましたが、塩を入れた後はちょっとすっきりしますね。正直どちらも好きです。これが古代の粘土板から発掘されたレシピ……!

 

遠藤:レシピには材料は書かれているけど、工程について何分焼くとかそういうのは書かれてないんですよね。古代のレシピなんですけど、「お前は」って書いてあるんです。「お前は大鍋を用意し、現代で6リッター相当の水を用意し、その中に野菜を加えて煮て、(動物を)屠って投げ入れる」みたいな感じで書いてあるんですよ。

 

――投げ入れる! なんか全体的に言葉が荒いですね!?

 

遠藤:これ、なんでかっていうと「神様目線」なんですよね。楔形文字を書いた人が神様の代理で書いているんです。だからニュアンス的には「人間よ、お前はこうしなさい」みたいな感じなんです。

 

古代のレシピは神様目線ということを知った。古代小麦とラム肉のシチューはメソポタミア風野菜だしの優しい味わいが身に染みる優しい味わいの料理で、風邪の時に食べたら即治りそう。毎日食べたい。

 

■ビールカクテル ニンカシ風ビール

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店長! ニンカシ風ビールをお願いします!

古代メソポタミアに製造されたビールの醸造を応用したビールカクテルがあるということでそちらも頂いた。ニンカシ風ビール(700円)といい、ビールを白ワインで割ってハチミツを加えた「甘いビール」なんだそうだ。

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遠藤:当時はビールに藁のストローをさして飲んでたんですよ。というのも、醸造する過程で表面にカスとかが溜まっているからなんですよね。

 

――ストローで上のカスを避けて飲んでたんですね。これ……アルコールをアルコールで割ってるからどんなもんかと思ったらすごく飲みやすい……!! なにこれ怖い! こういう感じのものをギルガメシュとかも飲んでいたかもしれないんですね。

 

遠藤:そうですね。ビールは王様から庶民まで誰でも飲んでいました。ビールは文明、ビールは文化と言う感じで。これニンカシ風ビールなんですけど、ニンカシというのは古代メソポタミアのお酒の女神さまの名前です。ビールの女神さまもいました。

 

――これを楽しみに日々の労働をしてたんでしょうね~面白いなあ。

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途中で店長がミント乗せてくれました。さわやか~。メソポタミア料理はミント使いがち(学び)。

これ、お店に置いてあったらビールカクテルとして普通に美味しいドリンクでした。

■2品目 レンズ豆と麦のリゾット

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鶏肉と赤ワインビネガーが麦に染み込んでパンチのある味わいが楽しめるリゾット風の料理だ。さきほどのビールにもシチューにも、そしてこのリゾットにもミントが入っている。

 

遠藤:こちらリゾットなんですけど、古代メソポタミアの現存するレシピが野菜の煮込みか肉の煮込みと、汁物ばかりになってしまうので、水分を飛ばしてリゾット風にアレンジしました。基本的に古代メソポタミア料理には胡椒が入っていなくて、こちらにも胡椒は入っていませんが、こちらのレシピには塩の記述があります。

 

――うまっ。これも野菜のだしの味ですかね。なにかと日本人の味覚に合いそうな料理が多いですね。

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おいしくてぶれた。これは古代住める

 

遠藤:原文には塩とミントを鶏肉にすり込んで作るって書いてありました。基本的に野菜のだしを入れています。

――どこかに住んだりする際味覚って重要じゃないですか。そういう意味では古代住めます。体に良さそうだからむしろ古代に住んだほうがいいかもしれない。

 

■3品目 バターミルクケーキ

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バターミルクケーキ(写真は2人前)

ピスタチオとデーツを使いバターとミルクで練り上げたメソポタミアスイーツ「バターミルクケーキ」。その別名は「カロリー爆弾」。好みで小ネギ入りの謎のハチミツソースをかけていただく。見た目はパンケーキのよう。甘いのか? しょっぱいのか? ネギの入った謎ソースも気になるが……。

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同行してくれた橋田さん、西垣さんもバターケーキに興味津々。

 

実際に口にしてみるとおいしい……。バターが多いせいか表面がパリッとしている。すごく、「罪の味」って感じだ。すごくおいしいのだが、食べた後にバターの油っぽさみたいのを口の中に感じる。

 

遠藤:これは薄力粉とバターと牛乳を等分に入れてます。しかも材料にはミルクでバターを練った「ミルクバター」とバター単体が書いてあります。本当にカロリーの塊ですね……。ぜひハチミツとネギとニンニクのソースもかけてみてください。

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かけてみた。これまたうま~い!

――ビールに合いますね。チーズピザにハチミツかけて食べるやつ(クワトロ フォルマッジオ)みたいな感じで、甘いとしょっぱいが同時に味わえておいしいです!

 

遠藤:これ大本のレシピにはケーキとは書いてないんですけど、ハチミツを使って甘みを出しているのでスイーツと捉えることもできます。1種のパンみたいな感じですね。焼き菓子はパンから派生していますので。

 

古代メソポタミアの料理はどれも美味しかった。これを毎日食べていた古代メソポタミアの民うらやましいとすら思ったが、肉やバターケーキなどを食べられるこちらのレシピは王様やその家族が食べていたレシピなのだそうだ。となると、ただの市民では絶対に食べられないやつだ……。

最後に、気になっていた音食紀行遠藤さんの「歴史料理研究家」という肩書についてもインタビューさせていただいた。

「歴史料理研究家」という肩書について

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歴史料理研究家の遠藤雅司さん

今回のテーマは古代メソポタミアだが、別に遠藤さんの専門が古代メソポタミアというわけではない。時代だけでいうと、1600年代のヨーロッパが1番好きなのだそうだ。

 

――遠藤さんは歴史料理研究家として活動されていますが、どのような経緯でそうなったんですか?

 

遠藤:2011年にインドに行こうと思って3週間ぐらいのオフをとりました。でも2011年といえば東日本大震災がありました。催行人数が集まらなくてインドに行けなくなってしまったんです。でも休みは取ってしまっていたので日本で落ち込んでいました。その時にたまたま「スペイン人が作る簡単パエリア」みたいな感じのブログを読み、30分後にはスーパーで食材を揃え調理をしていました。

 

――行動力がすごいですね。

 

遠藤:その時何もやる気がなかったのですがなんか作っちゃいましたね。そしてできたパエリアがとても美味しかった。「自分でも作れるんだ!」となり、今度はフランスのガレット、その次はネパールのラムカレーと、毎週1カ国の料理を作ることにハマり、1年続けました。

 

――インドに行けない代わりに食で世界旅行することにハマったんですね。

 

遠藤: 50カ国やった頃ちょっと飽きたので過去にさかのぼってみようかなと思いました。僕は大学では音楽学を専攻していたり、昔の音楽を演奏してまして、卒論のテーマは「1600年のイングランドの作曲家ジョン・ダウランドの音楽と人生」だったんですけど、その経験があったおかげで昔の料理のレシピがどのようにすれば手に入るか“勘”があったのです。

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スペインから始まった遠藤さんの食の旅は紀元前まで遡る

遠藤:それでレオナルド・ダ・ヴィンチが食べた料理とか、中世ヨーロッパの宴とかを友人の友人などを集めて料理会をやっていました。

友人の範囲で開催していた料理会を一般にも開放してみようかと2013年5月に「音食紀行」という名前でイベントをやりました。それで今に至って7年目ですね。

 

――趣味から入って突き詰めた結果、現代をやり尽くして過去へ……。ちなみに、昔の料理レシピってどうやって手に入れてるんでしょうか。

 

遠藤:図書館や専門書などで。やはり図書館だと昔の絶版書とかもありますし、その本を読んだ後に載っている参考文献をチェックして……と芋づる式にチェックしていきました。料理書でまとまっているものであればいいんですけど、レシピは載ってないけど当時の食文化や食生活について書いてある本とかもあるので、そういうものもチェックします。

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遠藤さんは現在、ゲームのコミカライズの料理監修やレシピ提供などもされている

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前述の「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-展」で展示されたバターケーキ

私たちが食べたものはパンケーキサイズだったが、こちらはホールサイズで作られたものだ。

趣味が高じてイベントを主催して本を出版してコミケやコミティアでも同人誌を頒布している遠藤さん。しかも会社員も続けていらっしゃるのだとか。

何故そこまで精力的に活動できるのかと聞くと、「必死にやっているのでよくわかっていないんですよね。毎日『やべえやべえ』って言いながら生活しています。イベント参加も執筆も、なにかに動かされてやっている感じです」という回答が返ってきた。

そんな毎日多忙で「やべえやべえ」言いながら活動を続ける遠藤さんはまだまだいろんな時代の料理本を執筆する予定があるそう。今後どんな時代の料理が食べられるか楽しみだ。

 

 


紀元前の料理はおいしかった

 

古代メソポタミア飯、毎日食べたいおいしさだった。今日は定食の気分みたいな感じで古代メソポタミア飯をチョイスできたらいいのにと思う。なので最寄り駅に食べられる店がほしい。

取材協力していただいた遠藤さんの新著「宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓: 時空を超えて味わうオペラ飯」が2019年11月に出ました。偉人たちの食べていた料理を知ると、本当に自分と同じ人間なんだみたいな親近感が沸くから不思議だ。

 

取材協力:銀座ダイニングバー 日々輝 (Hibiki)

住所:東京都中央区銀座8-2-8 高坂ビル 1F

古代メソポタミア料理は2020年3月末まで火曜日と土曜日に提供しています(要予約)。

電話番号:03-3571-8910

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