ポータブル金網
類似のネタとして、金網を使っても面白いかもしれない。
今回と同様にポータブル金網を手に持ち、金網越しに景色を撮影する。するとどうでしょう、被写体が厳重に保管されているように見えるって寸法だ。
家の中から外を見るとき、私たちは網戸越しに景色を眺めている。ということは……網戸を通せば、どんな場所でも家の中から見ているような錯覚が起きるのではないか。
網戸という、格子状に張り巡らされたポリプロピレンのフィルタを通して、いろんな風景をながめてみることにした。
日本の家には、たいてい網戸が付いている。なので窓の外を見るときは、いつだって網戸越しだ。その先にどんなに美しい庭があろうとも、網戸というフィルタを一枚通したものを見ているのだ。
普段は当たり前すぎて気にならないけれど、この「網戸」こそが、見慣れた風景を形づくっているものではないだろうか。
逆に考えてみよう。網戸を通せば、どんな景色でも家の中から見たように錯覚する――すなわち、世界中が自分ちの庭みたいに感じられるんじゃないだろうか?
ただ漫然と写真を眺めるだけだと、ただのぼんやりした風景にしかみえないかもしれない。でも想像力を膨らませるのだ。これは網戸越しの風景であって、自分ちの庭なんだと……!
網戸越しに景色を見ると、たしかに自分ちの庭みたいに思える瞬間があった。何事も思い込みが肝心である。
使ったのは、どこにでも持ち歩けるハンディサイズの自作網戸。あんな場所も、こんな場所も、どこもかしこも自分ちの庭に変えてしまう魔法の道具「ポータブル網戸」である。
これを持っていろんな場所を散歩してみたところ、これぞ庭! って景色に出会うことができた。くれぐれも冷静にならず、網戸越しに外を眺めるイメージを持ったまま次にお進みいただきたい。何事も思い込みが肝心なのである(二回目)。
ある晴れた春の日、網戸を片手に街をさまよう。ちょうど桜が満開だった。
網戸を通せば何でもかんでも庭になるわけではなく、ある程度「現実の庭っぽい」シチュエーションで撮影しないとダメなようだ。
網戸を持って撮影していると、おじさんに声をかけられた。
「そのフィルタ使ったらキレイにボケたりするの?」
「いやこれは網戸で、網戸越しに撮ることで家の中から見ている景色を再現するものですね……」
「あー、そうでっか」
そう言っておじさんは去って行った。妙に申し訳ない気持ちが込み上げてきつつも、撮影は続く。
ただこれだとあまり現実感が出ていない。網戸はカメラのフィルタみたいに、ただレンズの前に置くだけじゃあダメなのだ。
改善した写真がこれである。
現実の網戸は、つねに地面に対して垂直に立っている。いろんな角度で外を見るとき、動くのは網戸ではなく、見る側の視点なのである。これを意識するだけで随分とそれっぽい写真になった。
あとはカメラの設定で、F値をできるだけ大きくする(ボケにくくする)のがいい。あまりボケすぎると網戸の格子がボケて見えなくなるので、ただのぼんやりとした写真になってしまう。
これらの点をおさえることで、庭っぽい風景にグッと近づくことができた。何ごとも試行錯誤してみるものである。一生に一度しか使わないようなノウハウの蓄積が人生を豊かにするのだ、きっと。
さて、唐突に登場したポータブル網戸の作り方について少し説明しておきたい。
ちなみに網はホームセンターで買ったのだが、売っているのが2m単位なのだ。網戸として使うので当たり前である。必要なのは20cmくらいだったので、かなりの部分の網を余らせてしまった。今後なにかに使える日が来るだろうか。
網に直射日光を当てることで、光の反射が起こってキラキラと光る。これがたいへん幻想的であった。写真でわざとゴーストを発生させるのに近いかも。
自分ちの庭みたいに見える場所を探していたのに、いつの間にか「自分ちの庭がこれだったら最高」という場所を探す旅に変わっていた。肌で感じる暖かさと、網戸を通すことでソフトフィルタがかかったみたいな写真のまどろみ感が相まって、とろけるような気分になってきた。
ポータブル網戸、見た目のバカバカしさに反して、一種の麻薬的魅力を持つフィルタなのかもしれない。
雰囲気を変えて、タワマンの上層階からの風景を再現してみたい。
風景が都会的でも、網戸越しになると一気に庶民的な印象に変わる。そもそもタワマンに網戸があるのか私はよく知らない。虫がいないので必要ない(よってこんなシチュエーションは存在しない)気もするが、細かいことは考えないでおこう……。
網戸を通して世界を見ることで、あらゆる場所が自分ちの庭になることが分かった。どこでも庭、anywhere庭である。そして網戸は、庭の景色を形づくっているものの一つだと再認識できた。これは間違いない。
類似のネタとして、金網を使っても面白いかもしれない。
今回と同様にポータブル金網を手に持ち、金網越しに景色を撮影する。するとどうでしょう、被写体が厳重に保管されているように見えるって寸法だ。
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