特集 2021年4月6日

網戸越しに景色を撮ると自分ちの庭みたいに見える

うちの自慢の庭です

家の中から外を見るとき、私たちは網戸越しに景色を眺めている。ということは……網戸を通せば、どんな場所でも家の中から見ているような錯覚が起きるのではないか。

網戸という、格子状に張り巡らされたポリプロピレンのフィルタを通して、いろんな風景をながめてみることにした。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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網戸越しの私の世界

日本の家には、たいてい網戸が付いている。なので窓の外を見るときは、いつだって網戸越しだ。その先にどんなに美しい庭があろうとも、網戸というフィルタを一枚通したものを見ているのだ。

普段は当たり前すぎて気にならないけれど、この「網戸」こそが、見慣れた風景を形づくっているものではないだろうか。

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われわれが見ているものは、外の風景ではなく網戸だ

逆に考えてみよう。網戸を通せば、どんな景色でも家の中から見たように錯覚する――すなわち、世界中が自分ちの庭みたいに感じられるんじゃないだろうか?

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想像してごらん、網戸越しに見る外の景色を(Imagine……)
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うちの庭には満開の桜だってあるし、
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優雅に鯉が泳ぐ大きな池だってある

ただ漫然と写真を眺めるだけだと、ただのぼんやりした風景にしかみえないかもしれない。でも想像力を膨らませるのだ。これは網戸越しの風景であって、自分ちの庭なんだと……!

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窓の外を覗くシチュエーションを強く頭に思い浮かべる
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するとほら、だんだんと
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網戸越しに庭を眺めているように思えてきたでしょう
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ここで種明かしをすると
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大方の予想通り、こういうことです

網戸越しに景色を見ると、たしかに自分ちの庭みたいに思える瞬間があった。何事も思い込みが肝心である。

使ったのは、どこにでも持ち歩けるハンディサイズの自作網戸。あんな場所も、こんな場所も、どこもかしこも自分ちの庭に変えてしまう魔法の道具「ポータブル網戸」である。

これを持っていろんな場所を散歩してみたところ、これぞ庭! って景色に出会うことができた。くれぐれも冷静にならず、網戸越しに外を眺めるイメージを持ったまま次にお進みいただきたい。何事も思い込みが肝心なのである(二回目)。

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向いている景色を探す

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デカい金魚すくいみたいだけど網戸である

ある晴れた春の日、網戸を片手に街をさまよう。ちょうど桜が満開だった。

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これはいい庭になるわい、と思ったものの、桜が網戸に近すぎると不自然さがあった
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桜は遠くに眺めるくらいがちょうどいい

網戸を通せば何でもかんでも庭になるわけではなく、ある程度「現実の庭っぽい」シチュエーションで撮影しないとダメなようだ。

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たとえば網戸の向こうに地下鉄がある風景とか(黒いのは窓枠だと思ってもらえれば)。こんな家はイヤすぎる
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これなんかも、まったく家の中から見ているように思えなかった。アングルによる問題が大きい
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お前はいったいどこに住んでいるんだ

網戸を持って撮影していると、おじさんに声をかけられた。

「そのフィルタ使ったらキレイにボケたりするの?」
「いやこれは網戸で、網戸越しに撮ることで家の中から見ている景色を再現するものですね……」
「あー、そうでっか」

そう言っておじさんは去って行った。妙に申し訳ない気持ちが込み上げてきつつも、撮影は続く。

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網戸の角度も重要

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この網戸越し写真は、
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こういう構え方で撮っている

ただこれだとあまり現実感が出ていない。網戸はカメラのフィルタみたいに、ただレンズの前に置くだけじゃあダメなのだ。

改善した写真がこれである。

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網戸が斜めになったのが分かるだろうか
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つまりこういう構え方だ

現実の網戸は、つねに地面に対して垂直に立っている。いろんな角度で外を見るとき、動くのは網戸ではなく、見る側の視点なのである。これを意識するだけで随分とそれっぽい写真になった。

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水平方向の斜めから撮るのも有効だ

あとはカメラの設定で、F値をできるだけ大きくする(ボケにくくする)のがいい。あまりボケすぎると網戸の格子がボケて見えなくなるので、ただのぼんやりとした写真になってしまう。

これらの点をおさえることで、庭っぽい風景にグッと近づくことができた。何ごとも試行錯誤してみるものである。一生に一度しか使わないようなノウハウの蓄積が人生を豊かにするのだ、きっと。

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ポータブル網戸をつくる

さて、唐突に登場したポータブル網戸の作り方について少し説明しておきたい。

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まずは3Dプリンタで枠を作り
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そこに網戸の網を乗せまして
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接着して余分な部分を切れば完成。ただこれだけである。説明するまでもなかったか
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四角い枠があることで「風景を切り取ってる」感があるのがいい

ちなみに網はホームセンターで買ったのだが、売っているのが2m単位なのだ。網戸として使うので当たり前である。必要なのは20cmくらいだったので、かなりの部分の網を余らせてしまった。今後なにかに使える日が来るだろうか。

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より「庭」感のある風景を目指す

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夢でも見ているかのような、キラキラかつ、ぼんやりとした風景

網に直射日光を当てることで、光の反射が起こってキラキラと光る。これがたいへん幻想的であった。写真でわざとゴーストを発生させるのに近いかも。

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午睡を誘う暖かな日差し。庭っぽさもさることながら、写真表現としてわりとアリな気がしてきた
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やわらかな風が吹き込む窓辺に寝そべり、落ちる桜を眺めながらうたた寝をする。最高のシチュエーションである

自分ちの庭みたいに見える場所を探していたのに、いつの間にか「自分ちの庭がこれだったら最高」という場所を探す旅に変わっていた。肌で感じる暖かさと、網戸を通すことでソフトフィルタがかかったみたいな写真のまどろみ感が相まって、とろけるような気分になってきた。

ポータブル網戸、見た目のバカバカしさに反して、一種の麻薬的魅力を持つフィルタなのかもしれない。

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軒先に野良猫がやってくる状況というのも愛おしい
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タワマンの風景を求めて

雰囲気を変えて、タワマンの上層階からの風景を再現してみたい。

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高層から見下ろす都市の眺め

風景が都会的でも、網戸越しになると一気に庶民的な印象に変わる。そもそもタワマンに網戸があるのか私はよく知らない。虫がいないので必要ない(よってこんなシチュエーションは存在しない)気もするが、細かいことは考えないでおこう……。

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西日の洗礼を受ける。高層に住むとこんな感じなんだろうかと想像する
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とはいえ、庭(自然)がある風景に比べるとコレジャナイ感が強い。人工物に囲まれた風景と網戸はあまり相性がよくないことが分かった
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カッコいいのは確かなんだけど

網戸を通して世界を見ることで、あらゆる場所が自分ちの庭になることが分かった。どこでも庭、anywhere庭である。そして網戸は、庭の景色を形づくっているものの一つだと再認識できた。これは間違いない。


ポータブル金網

類似のネタとして、金網を使っても面白いかもしれない。

今回と同様にポータブル金網を手に持ち、金網越しに景色を撮影する。するとどうでしょう、被写体が厳重に保管されているように見えるって寸法だ。

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金網から覗く景色は魅力的である
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