カードを挿入するタイプのスイッチ
最近のホテルだと、ルームカードを挿入するタイプのスイッチも多く見られる。調べてみたところ、あれも普通に手に入るようだ。でもカード式だと、タブレット式よりは魅力が薄く感じてしまう。
欲をいえば、もっと分厚い(四角柱のような)キーホルダーが使えたら最高である。そういう埋込タブレットスイッチも世の中にはあるのだろうか。これからはスイッチ観察がライフワークのひとつになりそうだ。
「部屋に入ったら、このキーホルダーを差込口に入れて下さい」
ホテルでチェックインするときによく聞く台詞である。部屋の入口付近の壁に差込口があって、キーホルダーを挿さないと電気やエアコンがつかない仕組みになっている、アレのことだ。
あのスイッチ――埋込タブレットスイッチというらしいのだが、ホテル以外では一度も見たことがない。なのでホテル専用品というイメージが頭にあって、自分には縁のないものだとずっと思い込んでいた。でも……家にあったら意外と楽しいのではないだろうか。
調べてみると普通に購入できることが分かったので、自宅に設置してみることにした。
※あのスイッチの設置には電気工事士の資格が必要です。危険ですので無資格の方は真似しないで下さい。
客室の鍵を開けたあと、ドア近くにある差込口にキーホルダーを挿入する。すると部屋の照明がONになり、ユニットバスの換気扇が回り始める。主にビジネスホテルで見かけるガスでいう元栓みたいなスイッチ、それが埋込タブレットスイッチである。
アレがあることで、室内にいるときは鍵を定位置で管理できるし、ドア横にあるので部屋を出るとき目に留まりやすい。そして外出時には電源を遮断して電気の無駄遣いを防ぐことができる。
「アイデアとは複数の問題を一気に解決するものである」とは、任天堂の宮本茂さんの言葉である。これはまさに埋込タブレットスイッチのことを言っているに違いないのだ。使うたびに、よく考えられたスイッチだなぁと、その良さを噛みしめている。
そんなスイッチが……
買ってしまった。ホテルのためにあるようなスイッチなので、自宅に設置すればホテル気分を味わえるのではないか。そんな考えのもと深く考えずに注文した。
ホテルでしか見たことがないものが、いま自宅にある。なんだろうこの胸のワクワクは。六千円弱で買える「非日常感」、それが埋込タブレットスイッチなのである。
埋込タブレットスイッチの構造はシンプルだ。付属のタブレットを穴に差し込むことで、奥にあるスイッチが押されて通電する仕組みである。なので専用タブレットを使わなくとも、厚さ5mmの板状のものなら何でもOK。この特性を利用して、ホテルではキーホルダーがタブレットとして利用されている。
さて実際に取り付けてみようかと思うが……最初にひとつお断りを。ホテルでは部屋全体の電気機器の根元にあるスイッチとして使われているけれど、自宅であれを再現するのは難しい。つながっている機器が多いため、そのままではスイッチの定格をオーバーする可能性が高く危険である(実現するにはリレーという装置などが別途必要)。
また工事が大がかりになって壁に穴を開けたりしないといけないこともあり、今回はお手軽に気分を味わう目的で「部屋の照明用スイッチ」として使っていきたい。
もうひとつ、ここから先の作業は電気工事士の資格が必要である。弱電と呼ばれる電子工作とは違い、強電の100V系はむやみに触ると非常に危険なので、無資格の方はくれぐれも真似しないようお願いしたい(筆者は第二種電気工事士、第三種電気主任技術者です)。
作業自体は簡単なので数分で終了。そして化粧カバーを取り付けた瞬間、お~という歓声が上がった(私の心のなかで)。あのスイッチが、いま、目の前にある……!
余談だけど、電気工事士の免許があればこういった作業がすぐにできて便利である。たとえば照明のスイッチをほたるスイッチ(消灯時にランプが光るやつ)に取り替えたりして、生活の利便性を上げるのに役立っている。最近だとコンセントをUSB付きに取り替える人も多そうだ。
賃貸の場合はもちろん大家さんに断る必要があるものの、ちょっとした不便を解決できるのは思いのほか楽しい。なにより家の電気系統がどうなっているか理解できるようになるので、DIY精神の強い人にはたまらないと思う。ただやはり危険を伴うので、今回のようなスイッチの取り替え以上の工事となると、安全性の観点からもプロに頼む方が無難だろう。
世の中にはいろんなブラックボックスがある。家のコンセントのことや家電の動作原理など、知らなくても普通に生活はできる。でも好奇心を持って一歩足を踏み入れたなら、そこには必ず深遠な世界があり、先人たちの様々な知恵が生かされているのを目にすることができる。
電気は特に身近な存在なので、知れば知るほど自分の世界が広がっていく感覚があるのだ。私が電気を好きな理由である。
閑話休題。スイッチを取り付けたはいいものの、付属のタブレットではやはり何か物足りない。
ホテルでは、必ずオリジナルのキーホルダーがセットになっていた。となると、ここは自宅オリジナルのキーホルダー(よく分からない概念だが)を作るべきだろう。
「ジタク ニューサイトー」というキーホルダーを作ってみた。「ニュー」に意味はないが、老舗のビジネスホテルらしさが出たんじゃなかろうか。満足である。
よし、これを使って自宅でホテルみたいな行動をしてみよう。
このスイッチを自宅で本格運用するならば、例えばリビングの照明やエアコンなど、特定の家電と連動させる使い方が現実的だろうか。外出時に強制的にOFFしたい機器の元スイッチとして使うことで、切り忘れを完全に防止できる。あれ、それって普通に便利なんじゃないか?
実用面だけでなく、あるととても楽しい気分にもなれる。タブレットを差し込む動作と、押し込んだときのカチッというスイッチの感触が気持ちいいのだ。
玄関に行くたび、じわーっと良さが胸に染み入ってくる。ほんと、ホテルだけに設置しておくのは惜しい存在である。
ホテルっぽさからはいったん離れて、こんなスイッチがあったらいいな、というのを考えてみた。「気分を上げるスイッチ」なんてどうだろう。
なんやらよく分からん感じになってしまったが、こうやってテンションを上げるツールとして使えないだろうか。通常のスイッチを押す動作よりも、棒を差し込む動作の方が明らかに気分はアガる。ライフハックの一種として取り込むのもありである。
調べてみると他にも「埋込キースイッチ」という、鍵を差し込んでONにするタイプのスイッチも存在するようだ。より承認している感が出て楽しそうである。いずれ試してみたい。
100V用とはいえただのスイッチなので、そのまま電子工作に使うこともできる。最後はこれを使ったキーボードを作ってみた。もう何がなんやら、であるが。
これは何かというと、タブレットを差し込むことで「承認」という文字が入力できるキーボードである。どんな動作かというと……
スイッチは何にでも使える可能性を秘めている。たとえばこのスイッチを100個ほど並べれば、フルキーボードを作ることだってできるのだ。差し込むたびにガチャガチャ音が鳴るので鬱陶しいことこの上ないが、様子を想像してみると、間違ったハンドベル奏者みたいになって面白そうである。
埋込タブレットスイッチが家にあると、生活が少し楽しくなることが分かった。差し込んだときのカチッという感触も味わい深い。触っているうちに愛着がわいてしまったので、次にホテルで働くスイッチに遭遇したときは、存分にがんばりを労っていきたい。
最近のホテルだと、ルームカードを挿入するタイプのスイッチも多く見られる。調べてみたところ、あれも普通に手に入るようだ。でもカード式だと、タブレット式よりは魅力が薄く感じてしまう。
欲をいえば、もっと分厚い(四角柱のような)キーホルダーが使えたら最高である。そういう埋込タブレットスイッチも世の中にはあるのだろうか。これからはスイッチ観察がライフワークのひとつになりそうだ。
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