特集 2019年12月10日

飲み会に代わるなにかを見つけ出す

おれたちは一体何をやってるんだ、と突然我に返った。なんでこんなアルコール発酵したものを飲んでずっと居続けるんだ。

服がタバコくさい。翌朝の嫌気がすごい。お金を払って何をしてるのだろう。忘年会シーズン到来の今こそ飲み会に対して疑いをかけたい。何か代わりのものを探したい。

方法はこうだ。飲み会を要素に分解して置き換えていく。例えばお酒で気分を上げているのならそれは褒めて気分を上げることで代わりにならないか?

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:「おれが本物を食べさせてやりますよ」美味しんぼみたいなことを実際にやるとこうなる

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

飲み会の要素としてまず人だ

まず飲み会には人が必要だ。今回参加するのは筆者と二人のバンドマン、左右というバンドの花池洋輝とトリプルファイヤーの吉田靖直だ。

彼らとは『ともだち探そう』という動画シリーズをデイリーポータルZのプープーテレビでやっていて、その上映会をする予定なので打ち合わせを兼ねて飲み会をしようと集まった。

ここで飲み会といってもその代わりであることが告げられる。

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トリプルファイヤー吉田(右)と左右の花池(左)が来た
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まずは要素分解だ

今でいう合コンの代わりに合同ハイキングというものが昔はあったそうだ。酒を飲む代わりに山に登るのだ。合同ハイキングのように飲み会を他のものに置き換えていく。

まず飲み会で私達は何をしているのかを考えた。ただ酒を飲んでいるのではない。酒を飲み、飯を食い、喋る。この3つである。

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飲み会とはなんなのか考えた
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飲み会の要素とはお酒と食べ物とおしゃべりなのではないか。
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酒とは「むりやり」気分を高めるもの

まずは酒の置き換えである。飲み会での酒の効果とはなにか。それはフラフラ~とする酩酊や楽しくなってくる気分の高揚といった薬としてのアルコールの力ではないだろうか。

だけどもし酩酊が重要であれば我々は飲み会ではなくてバットに頭をつけてぐるぐる回ってる会でいいわけだ。やはりこれは体ではなく気分の方に効いてる何かだろう。検索してみる。

「少量の飲酒は活発になったり不安感を減らしたり陶酔感をもたらすといった効果があるため、コミュニケーションの潤滑剤のような使われ方をされます」アルコールの作用 e-ヘルスネット

厚労省のサイトでもやはり「コミュニケーションの潤滑剤」と書かれている。ここで大事なのはそれが薬(アルコール)によるものであり、むりやりでも気分が上がるというものだろう。

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酒を飲む会だから酒とはなにかを考えよう。ここでは「うむをいわさず気分を高めるためのもの」とした。そこの代替として「褒め」である
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酒の代わりに褒め

かんたんに用意ができて、薬みたいにうむを言わさず気分が高揚するものとはなんだろうか。色々あるだろうが今日はここに「ほめ」を用意した。

褒めで気分が上がらない人はいないだろう。楽しくなって口数も多くなりコミュニケーションの潤滑剤としての効果もあるはずだ。

そこでデイリーポータルZや自分のFacebookなど知り合いを頼り、三人のことを褒める一行テキストを募った。いわば寄せ書きのようなものである。

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酒を飲むかわりに自分たちのことを褒めてもらうテキストを眺める。これは「花池洋輝という名前がそもそもかっこいい」というもの。「ぼくもそう思ってるので」と本人もまんざらではなかった
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まずは酒の部分だけ置き換えてみる。褒めのテキストを眺めながらおしゃべりをする。
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酒の代わりに褒め、悪くないのでは? 

褒めのテキストはすぐ読み終わらないように文字を大きくした。そしてゆっくりゆっくり三人で味わうように眺め始めた。

「花池洋輝という名前がすでにかっこいい」「大北さんは向上心がすごい」「お酒を飲む吉田くんは幸せそうだ」

「おれ一人だけ褒めが弱いっすね(笑)」と吉田くんは笑っているがそれでも楽しそうだ。照れ照れに照れた顔はもはやピッカピカと言ってもいいくらいである。

口数も増えて気分も高揚し……酒の代わりとして褒め、これはいけるのではないか。さあ、酒はいけそうだ。対はなんだ、何を置き換えてやろうか。

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たしかに笑ってることが多くなったし、口数も増えた気がする。意外といけてるのではないか、いや、むしろ酒よりは気分が高揚している気もする
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続いての飲み会要素「食べ物」は身体的な快楽とその共有である
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ごはんの代わりにマッサージ

 ごはんを食べることとはなんだろうか。より安全に酔うためでもあるだろうが一番大きいのは「おいしいね」を共有することではないだろうか。

ここで重要なのは「おいしい」が身体の欲求に応えるものであることだ。これが「AKBかわいい!」だったり「熊本城の石垣渋い!」だと同意が得られるとは限らない。やはり「この肉、うまいよ!」である。共感を得るためには文化よりも身体に訴えかけないといけない。

先ほどの褒めは心の気持ちよさだったが今度は身体的な快楽である。そこでマッサージ器具を持ってきた。「気持ちいいね」を分かち合うのだ。

フィンランドでは社交の場としてサウナを使うそうだ。ふだんはシャイな国民性だがサウナでは社交的になるのだという。これはマッサージも期待できるかもしれない。

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さまざまなマッサージ器具を持ち込んだ。花池はこのとき「あ、気持ちよさそう」と思って「おいしそう」との近さを感じたらしい。よし、いいぞ
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試しに使ってみる。みなそれなりに気持ちがいい

飲み会ではなく褒めマッサージ会

前日はパソコンにずっと向かっていたので肩の張りもすごい。適当なところを押してもすべてが気持ちよい。「ああ気持ちがいい…」「いいですね…」とこの場が温泉みたいな感じになっている。肴の準備は整ったのでまた酒(ほめ)だ。

「大北さんはみんなをまとめあげる力があっていい」という文言を見て照れくさくなって余計なことをしゃべる。照れくさ気持ちがよい。聞き慣れないことばだ。体も心も悪い気はしないのだが、2つの気持ちよさがつながってない感じもある。

「つまみで空腹が満たされる感じは、肩のコリが解消される感じで置き換えられそう」と花池は言う。

「脳と身体を同時に気持ちよくされる感覚はありますね」と吉田もうなずく。

同時にどちらも気持ちがいいのだが、肉のうまみに赤ワインが合う、みたいなつながった感じがない気もする。

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これは大学生が友達の家でダラダラしているのではない。酒を飲んで飯を食って喋っているところである。ほぼ飲み会となるだろうか

だんだんわからなくなってきたぞ…!!

はたしてこれは飲み会として成立しているのだろうか。例えば合同ハイキングのように男女のグループが仲良くなったりできるものなのだろうか。

各々マッサージをしながら自分の褒められた文章を読む……ああ、わからない! もうなにがなんだかわかりません! だけどもとにかく肩が気持ちいいし褒められつづけて自己肯定感もはんぱない。何がなんだかわからないなりに気持ちがいいんです!

もう、いったんうやむやにしておいてここから一気に飛躍しよう。飲み会の最後の要素として「おしゃべり」を代えてみる。言語をとっぱらってしまうのだ。

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今度はおしゃべりさえも代えてしまおう。コミュニケーションを演奏でとる

コミュニケーションは音楽でとる

おしゃべりとはなんだといえば発話音声によるコミュニケーションである。だがこれは文字でやるチャットでもいいし、言語を使わずにジェスチャークイズでもいいし、なんなら綱引きでも置き換わるかもしれない。

今回はミュージシャンが二人いるので言葉の代わりに楽器演奏をしてみることにした。演奏にはコミュニケーションの面もあるしと二人も納得してくれた。

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今回はリコーダーにした。『メリーさんの羊』なら左手だけで演奏できて右手で褒めを読むことができた。

楽器はみんなができるものとしてリコーダーを買ってきた。左手で『メリーさんの羊』を押さえて、右手に持ったスマホで褒められたテキストを追っていくのだ。そして体はマッサージをされる。

自分を褒めた文章を読み、肩のこりをほぐし、せーのでメリーさんの羊を吹く。

できた、これがおれたちの飲み会2.0だ!

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そしてこれが私達の飲み会2.0だ!

ポピー! ポピー! ポピー!

なんなんだこれは! こんなにポピポピしたものが飲み会なんだろうか。飲み会に遅れてやってきたあなたはそう思うかもしれない。

私達もメリーさんの羊のメの字の部分を吹いたときに「…あっ」と思った。「…あっ、やばいな」と。「…あっ、これはちがうかもしれないな」と。

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まさかこんなにピーピーしたものが未来の飲み会だなんて!!

コミュニケーションむずかしい

相変わらず肩がきもちいい。そして褒められて悪い気はしない。この状態でメリーさんの羊をやりきる。やりきったあともぷひゅ~という特徴的な音を出してみる。

だが反応してくる者はいない。ジャズミュージシャンのようにセッションが始まったりはしない。コミュニケーションがむずかしい。当然だ。楽器演奏が難しいこともあるが、なにより忙しいのだから。

「唐揚げを食べながら、酒を飲みながら、おしゃべりをするのをいっぺんにしてる感じがありますね」と花池は言う。あまりにも同時すぎるのだ。そしてこれは一体なんなのだ! という得体のしれなさはずっとつきまとう。

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なんてこった!

「褒められている文章を読んでいると自然とにやけてしまったり、笛がピーって鳴ってしまう感じは酔っ払っているのに近いような気もしました」と吉田は言う。

たしかに酔っ払いはリコーダーを吹いていそうだ。だが私達はそんな頭にネクタイをまくような感じを目指しているのではない。

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こんなことがしたかったのか私達は! 10年後この写真を見て何を思うのだろう

花池の言う敗因の一つは酒と褒めとのちがいだ。

褒めに関しては「言われた意味を解釈する時間や、恥ずかしい気持ちが邪魔したのか、酒ほどの即効性はなかった」そうだ。

「あとは3人ともリコーダーを使いこなせていればもう少し会話出来たのかも」とも。楽器演奏のコミュニケーションは習熟が必要だった。

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マッサージは他人のほうが気持ちよいことだろう、と隣の人の笛を持つ手のツボを揉んでみることにした
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ポピー! ポピー! おいおいおい、一体なんなんだこれは!!

欠点が次々と浮かび上がる

5分くらいたつと褒めテキストが最後までいった。つい飲みすぎてしまい酒が足りないという状態である。

「おかわりいきますか」と花池らが言う。急遽一般の人にもグーグルドキュメントを公開して褒めコメントを追加してもらうことにした(だが設定が変わったようでうまくいかなかった)。なんてややこしいおかわりなんだ。500円でもう一杯買える居酒屋のありがたさよ。

マッサージもツボを外れると痛くてそっちに気を取られてしまうと吉田が言う。ずっと気持ちいいというのはなかなか難しいだ。

そして笛の難しさ。輪唱をしてみようと、三人でずらして『メリーさんの羊』を吹いた。何匹も何匹も羊が出てきた。これは飲み会ではない、眠れないほうのやつじゃないか!

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そして結局飲みに行った。毎度の結論、飲み会はよくできているなと思った

結論、飲み会はよくできている

「飲み会に比べて、普段使わない筋肉や脳の部位をつかっている感じがして疲れました」と花池は言う。そうなのだ。何をやってるのかわからなくて疲れる。今自分が何をやってるのかわからないといのは軽いストレスである。

終わったあとに本家と比較しようと飲みに行った。「飲んで食べて話すというのがいかに自然な組み合わせか実感できます」と花池は言う。

そうだった。あらゆるものが自然であった。「ミャンマー風卵焼き」というメニューを頼んで塩の量が4倍くらい入っていたが驚きはなかった。

厨房にいたミャンマー風のお兄さんがリコーダー吹いて登場したりはしなかったからだ。


それぞれに良さがあると言いたいが…

今はたばこが嫌われている世の中で、お酒も嫌われはじめている。アメリカの州で大麻が解禁というニュースを見るとそのうち飲み会も大麻の会になるのかもと空想する。

だが話はそんな単純でもなさそうだ。

飲み会は飲み会であり、褒めマッサージ笛会は褒めマッサージ笛会である。それぞれの何かがあるのだろう。

これだけ言ってきたが、褒めマッサージ笛会は素晴らしい。あのカオスは唯一無二だ。なにせ体にやさしい。疲れない。気持ちがいい。そして何やってるんだろうこれはというあの感覚をみなさんに味わってみてほしい。

この忘年会シーズン、毎回とは言わないまでも一回くらいは褒めてマッサージして笛を吹いてみてはいかがだろうか。私達は毎回普通に飲みに行くが。

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映画館であのぼんくらシリーズが見られる!

『ともだち探そう映画館上映会』をします

花池吉田のともだち探そうの上映会をこの週末の土曜午前10時から渋谷の映画館でやります。
 
デイリーポータルZの動画コーナー・プープーテレビでカルト的な人気を誇り(コーナー自体がカルト的なのに!)彼らは未だにあれをまたやってくれと言われるそうなので上映会として復活しました。

チケットや詳細はこちら↓
https://t.livepocket.jp/e/tomodachi
 
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