特集 2023年10月12日

「円」も「丁寧」も実は略字だった。漢字のプロに聞いた略字のあれこれ

「門」の略字について

石川:個人的には、あんまり略字って使わないです。

竹澤:年上の方が使うっていうイメージは確かにありますね。

西村:略字を使わないようにしようみたいな潮流があったんでしょうか?誰が読んでもわかる字を書きなさいというような。

竹澤:字を手書きする機会が減ったのが一番の要因でしょうね。そもそも省略する動機がないという。あと学校できっちり教えるのも。ただ「門」の略字は学生さんでも使ってる人が多いような印象です。教師が使うのを見たり、学校だと問1、問2とかを手書きする機会が多いからかもしれません。

こーだい:門の略字は古いエレベーターのボタンに書いてあることもあるから、割と見る気がしますね。

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「門」の略字は見る機会が多い気がする。

西村:たしかに!新しいやつだとたいてい矢印になっちゃってるけど。

常用漢字最多画数の「鬱」にも略字があった!

こーだい:ワープロが普及したら略字が廃れるのはわかります。「鬱」とかパソコンなら一瞬で出てくるけど、何度も手書きで書いてられないですもんね。そもそもちゃんと書けるかどうかも怪しいし。

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常用漢字最多画数を誇る「鬱」。堂々の29画。そしてなんと法務省公認の「子の名に使える文字」なのだが、やめておいた方が無難だろう。

竹澤:「鬱」は略字もありますね。

こーだい:あるんだ。

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あまり鬱っぽくない。

竹澤:こんな形です。

こーだい:ぜんぜん字面が違いますね。でもたしかに覚えやすそうではある。

石川:「鬱」と比べるとあんまり深刻そうに見えないですね。使用例はあるんでしょうか?

竹澤:明治時代くらいまでは頻繁に使われていたようです。古いものだと室町時代の文書でも見つかったり。

こーだい:そういう字って誰かが「これでいこう」って決めるものなんでしょうか?それとも仲間内でなんとなく使っていたものが定着したとか?

竹澤:いろんなパターンがあるんですけど、多いのはやっぱり仲間内で使っていたものですね。医学者の界隈だとさっきの「鬱」以外にもこんなのがありますよ。

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丸に点々々々、九に点々々々。

こーだい:えーっと、熱?

竹澤:そう、「熱」。医学者の仲間内で使われていたものですが、一般にはほぼ普及しなかったみたいです。

西村:熱って書きにくいですよね。普及してたら便利だったのに。

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カタカナ、アルファベット入りの略字について

こーだい:漢字のパーツをカタカナやアルファベットに置き換えた略字もありますよね。言べんにギで「議」だとか、木へんにキで「機」だとか。まだれ(广)にKとOで慶應、うかんむり(宀)にRで寮なんかもそう。

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学生寮の「寮」。

西村:まだれにマっていうのもありますよね。あれだと魔法の「魔」と多摩の「摩」が同じになっちゃうという。

こーだい:日本語玄人仕様の略字だ!ああいうのって、最近作られたものなんでしょうか?

竹澤:言べんにギで「議」の略字は、おそらく1920年代に生まれたと考えられます。ちょうどそのころに治安維持法が制定されて、それに反対するため左派の活動が活発になったんですけど、その当時のビラなんかを見ると使われてますね。

こーだい:戦前なんですね。戦後の学生運動の産物かと思ってたけど意外と古いんだ。

竹澤:まだれにKとOで慶應も1930年代にはあったみたいです。それよりも私が一番驚いたのがですね。

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木へんにキ。

竹澤:木へんにキで「機」の略字、これ、江戸時代にはもうあったみたいなんです。抄物書き(しょうもつがき)といって、お坊さんが経典を書いたりするときに何度も出てくる言葉に略字をあてたりしてたみたいで、その中にこの字が出てくるんです。

石川:へー、機械ができるよりも前にあった略字なんですね。

西村:カタカナが入ってる略字、おもしろいですね。他になにかあったかな......。

竹澤:最近だとジブリパークの開園のときに宮崎駿監督が色紙にこんな字を書いてましたよ。

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もうカタカナでええやん、とも思う「園」の略字。

こーだい:なんかかわいい!

西村:あ、これ同じようなの見たことあります!

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これも、省略というよりもはや遊び心。

石川:なんだこれ、おもしろい。

竹澤:手書きならではの遊び心ですね。

⏩ 「円」が略字になる前の形は?

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