自転車に乗ると説得力が失われるのではないか? この仮説を調べるべく、デイリーポータルZ編集部の安藤さんに協力してもらった。
まず安藤さんには立ち止まった状態で力説してもらった。最近子供と一緒に正義について考えたというのでその話をしてもらう。
もちろんこれは想像どおりの説得力というかまあ普通の人である。
つづいて自転車に乗って周りをぐるぐる回ってもらった。
動画で見るとその説得力のなさがわかるかもしれない
たしかに説得力がない
このひとは何を言ってるのだろうか。正義とは何かということを一生懸命語ってくれるのであるがまったく響かない。響かないというか何を言ってるのか頭に入ってこない。
「正論がぐるぐる周りを回っている」そんな感覚はあるのだ。しかしなんだか知らないが話の内容が一切入ってこないし、がんばって聞いても信じられない。
これは一体どういうことなのだろうか?
正論がぐるぐる回っているのがダメなんだろうか? それなら歩いて回ってもらうとどうなんだろう?
歩くとそこそこ説得力がある
歩いてぐるぐる回られる。正論がサラウンドで聞こえてくる違和感はもちろんあるが、自転車よりも内容は入ってくるし説得力もあった。
とすると、これは自転車だからダメなんだろうか。歩きと自転車との違いはなんだろうか? 器具を使ってないことももちろんあるが、ここでは上下動について注目した。
歩行は微妙に上下動しているが、自転車は静止状態に近い。上半身に関してはほぼ静止しているのだ。
ならこの「動かなさ」が説得力をそぎおとすのだろうか。静止している(立ち止まっている)人は説得力があったので、正確に言うと「止まってるのに動いてること」だろうか。
動かないけど動いているのが悪いのか?
ここで台車に乗ってもらったままで環境問題について力説してもらった。上下動なしで静止した人が動いているのである。
マイクロプラスチックと海の環境問題について力説
台車に乗った人も説得力がない
やはり説得力がない。しかしこれは変わり者というか「台車に乗せられてるような人」に見えるからというのもあるだろう。台車のもつ雰囲気に流されてるというか。
となるなら台車は台車であるからだめだし、自転車は自転車だからだめなんだろうか。なんというか乗り物が持つ意味というか。
意味がだめ?
たとえば自転車に乗ってる人に野球帽をかぶせてみるとどうだろう。
別の意味があると説得力を欠く
どんどんコスプレ(別の役割や意味を強くしていく)を強めていくとやはり説得力を欠いていった。まあそうだろう。政治家が別の職業の帽子をかぶって演説などなかなかしないだろうし、なんとなくわかる。
やはり自転車にはなにか自転車の自転車性というか意味みたいなものがあってそれが説得力を欠くのだろうか。
でもたとえばこんな状況はどうだろう。自転車に乗った人と並走してみる。
自転車が悪いわけではない?
こういう状況はよくある。学校帰りに自転車の人と一緒に歩いて喋っていたりする。環境問題について話してくれたが説得力が失われるわけでもなかった。
もしかしたら物理的な運動だろうか。自転車×回転運動が悪かったのかもしれない。直線運動ではどうだろう。自転車で往復してもらった。
環境問題について力説しながら自転車で往復。ここで気づいたことがある
直線運動は説得力が回転よりもあった
直線で往復してもらうと回転よりも説得力があった。政治家がぐるぐる回らないはずだ。しかしこれはなぜだろうか。ここで力説する側だった安藤が気づいた。
「これ向かってくるときが説得力あるんじゃない?」と。これはもしや…!!
説得力のドップラー効果がある!?
聴者を通り過ぎた瞬間に説得力がなくなる。近づく物体が、通り過ぎて、遠ざかるようになると説得力がなくなるのだ。
そう、ドップラー効果である。近づいてくる救急車の音は高くなって、通り過ぎていく瞬間に救急車の音が低く聴こえるあれである。
(ピーポー↑↑
救急車→ 人を通り過ぎると →救急車(ピーポー↓↓
これは大発見かもしれない。説得力に音の高さと同じようなドップラー効果があるなんて。もしかしたら理科の教科書に「自転車演説効果」として載るかもしれない。
もう少し調べてみよう。ドップラー効果は速度に相関する。速ければ速いほど効果が高まるのだ。とするなら移動の速度で説得力が変わるはずである。
速さによる効果の違いを調べたいのでつづいては走ってもらおう。
こわいおっちゃんが来る動画
これはドップラー効果なのか!?
こっちに向かって環境問題を力説する人が走ってきたとき、けっこうな緊張感があった。
元気で正しい人がこっちに向かってくる…と思った瞬間、無事に通り過ぎてくれた。ほっとする気持ちはあった。同時に、これはドップラー効果と関係ないかもしれないなと思った。
もしかしたら「こっちに向かって走りながら喋りかけて来るのは怖い」という話なのかもしれない。
より遅いものも見ておこう。力説してる人を台車で遅く運んだ。
これが一番説得力がなかった
遠くなっていくとより安全性は増し、説得力はなくなっていく。 となるとこれはドップラー効果ではないだろう。
力説してる人を置いて聴いてる人が通り過ぎるようにしてみた。ドップラー効果であるならばこれでも起こるはずだ。しかし駅前で演説をしている候補者の前を通り過ぎるあの感じを想像してもらえればいいだろう。
視界から消えたときに興味を失うのだ。これはドップラー効果ではないだろう。対人距離だとかパーソナルスペースの問題ではないか。
自転車で周りを回られたらそりゃ異様だ
自転車の人が説得力ないといっても、選挙の候補者が自転車に乗って街を行くじゃないか、という意見もあるかもしれない。
しかしあれはよく見ると何も演説をしていない。挨拶をしているのである。自転車に乗った候補者が演説しはじめると私はやっぱり説得力がなくなりそうな気がする。
コメディを考えるワークショップというものをふだん開催していてそこで「結局、平行移動がバカっぽいと思うんですよ」という意見が出てきた。自転車演説はそれに近いのかもしれない。
説得力に相関するのは社会におけるはみ出し具合ではないだろうか。
へんなことをしてると説得力がない。実験を繰り返してつかめたのはそれくらいのことである。あとマイクロプラスチックから海を守らないといけないこと。
ライターからのお知らせ
公演の季節です。俳優×明日のアーのコントのお芝居Argumentsを5月に行います。
九州のとんこつスープで東京のしょうゆだれを割ったらうまいラーメンできるんじゃないの!? と、横浜家系ラーメンができたそうです。
俳優さんの上手な芝居と明日のアーのベスト盤的なバカな脚本で過剰ななにかを作ります。
明日のアー俳優公演 Arguments『すでに/見た/ことがない』
作・演出:大北栄人
出演:高木珠里、笠木泉、中島愛子、山中志歩、川舩晃平、近藤強
日時:2020年5月6日(水・祝)〜10日(日)
@3331ArtsChiyoda B104
[公演情報、チケット購入]
https://asunoah.tumblr.com/
※タイトルに/が入ってますがそこ換気します。そして前回の記事の退席王のススメに乗っかって退席をしてはいけません。