味付けが濃い
審査会ではこの26本を一気見した。いろんな味の洪水で胸焼けしそうなコンテストだったが、それでいて初期衝動で作られた作品ならではのフレッシュさもあり、ブレンド出汁とメントールを混ぜたようなエキセントリックな後味だった。
来年以降の開催は未定だが、ぜひやってほしい!という方はTwitter等で反響いただけるとありがたいです。
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ルーブ・ゴールドバーグ・マシンというのは、いろんなものが連鎖してどんどん動いていく、からくり装置のこと。Eテレのピタゴラ装置が有名だが、あれって作ってみるとめちゃくちゃ大変なのだ…。
なのであえて誰でも作れるレベルの低い作品を募集し、その手作り感とあっけなさを愛でよう、というコンセプトで始まったのが「レベルの低いルーブ・ゴールドバーグ・マシンコンテスト」。本記事はそのレポートである。
すべてが「味」であった……。
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ルーブ・ゴールドバーグ・マシンというのは、たとえばこういうもの。
ひとつのしかけが、次のしかけを動かして、それがまた次のしかけを動かす。そういう連鎖反応がどんどん続いていくのがおもしろい。
見れば見るほど「スゲー」って圧倒されてしまうこの映像だが、ひるがえって、「レベルの低いルーブ・ゴールドバーグ・マシン」はどういったものなのだろうか。
実例として、いきなり本コンテストの受賞作からご覧いただきたい。
クマを倒すと、空き缶がゴミ箱の中に入ります。
横倒しにされても健気に動き続けるクマ。そしてじわじわと動いて空き缶を押していくのを見ていると、「がんばれ!がんばれ!」と応援せずにはいられなくなってくる。そして最終的には缶が落ちて大団円。
なんと味のある30秒だろうか。ここに「スゲー」はなく、ただ、味だけがある。
本コンテスト鑑賞の心得は、この味覚を研ぎ澄ますことだ。
空気ポンプで風船に空気を送ると、ボールがゴールに入ります。
ゲスト審査員の藤原麻里菜さんが選んだ「味画質賞」。
バスケットボールのおもちゃでひとつずつボールを飛ばしてもなかなかゴールしないが、大量に降らせるとゴールできる(=質より量)というコンセプトなのだが、よく見ると
まさに「できてなさも味」である。横に置かれたハムスターは何のためにいるのか、そして映像だけでなく画質も妙に古めかしく味があるなど、見どころの多い作品だった。
一般的なルーブ・ゴールドバーグ・マシンは、一度きっかけを与えたら全自動で、人間が介入しないでゴールまで連鎖が続いていく。しかしレベルが低いルーブ・ゴールドバーグ・マシンは必ずしもそうではない。
扇風機のスイッチを押すと、足上げダイエットで腹回りがやせます。
足に結んだ扇風機を横倒しにし、スイッチを押す。
首振りする扇風機。そこで足を止めていると壊れそうなので、首振りに合わせて足を動かす→ダイエットになる、という寸法だ。
もはや連鎖反応なのかどうかもよくわからないが、とにかく扇風機が横倒しになっている絵が珍しかったので受賞となった。ふりかえると授賞理由までなんか雑である。
本コンテストのグランプリである「最味賞」に選ばれたのは、この作品。
リモコンを押すと、球がカゴに入ります。
こんなにスカッと気持ちのいいルーブ・ゴールドバーグ・マシンがあっただろうか!むしろサティスファイング動画の方に近い。ループにして生活のBGMに24時間流し続けたい映像である。ボールの径がカゴにピッタリなのも最高なのだ。
このように、装置がすごいとか凝ってるとかではなく、「なんかいい」「味がある」が評価されるコンテストだった。
この後は、そんなコンテストの優秀作26本を一挙にご紹介したい。
短編から大作まで多くの応募をいただいたが、まずは短編でスカッと面白いものをご紹介しよう。
双眼鏡をふりまわすと、胸にワッペンがつきます。
双眼鏡をふりまわすとワッペンがつく服#レベルの低いルーブ・ゴールドバーグ・マシンコンテスト pic.twitter.com/NZnYBlLGYD
— ナミノリ/naminori (@namitaiyade) August 20, 2021
一見どうなっているのかわからない。手品みたいなマシン。種明かしはこの動画で。
ポッケからワッペン出る瞬間かわいすぎ pic.twitter.com/o51MCS9gCw
— ナミノリ/naminori (@namitaiyade) August 20, 2021
双眼鏡に透明の板がついていて、回すとそれがひっぱられるというわけ。わかっていても不思議な装置だった。
寝ると、毛布がかかります。
再生しはじめた瞬間にオチが予想できるが、きっちりその通りになってくれる予定調和が愛おしい作品。ぐっすり寝てほしい。
えんぴつを手放すと、紙に修正液がかかります。
シンプルでよくできた装置なのだが、修正液がかかるシーンで一変、「バシャーン!」って雑にぶちまけられる。いい雑でてます。
猫のぬいぐるみを床に置くと、猫のぬいぐるみが現れます。
シンプルでかわいい!そして時勢を反映していておしゃれでもある。
作者の koyasako さんは instagramで毎日こういう装置を作り続けている逸材。毎日、味を摂取したい方はぜひフォローしてみてください。
カメが動き出すと、世界が明るくなります。
カメがスイッチを踏むと、ライトがつく。装置自体はシンプルながら、 カメがなかなか歩いてくれないのがもどかしくもあり、かわいらしくもあり、そして味である。
手に消毒液を吹きかけると、キラキラのスパンコールが手にまぶされる。
最終的にスパンコールが落ちてきて手がキラキラになるのが「おしゃカワガーリーしょうどく」のクライマックスだが、その前に…
謎にハンマーと寿司が落ちてくるエリアがある。この寿司、役割は不明ながら、手作りの造形がまたいいんだよな……。
ここからはさらにもうちょっと凝ったやつ。連鎖が続く、まさにルーブ・ゴールドバーグ・マシンという感じの作品を紹介しよう。
音を鳴らすと、リモコンが降ってきます。
パンって手を叩くだけでリモコンが落ちてくるのはかなりスマートなのだが、いっぽうで猫が笑い転げながら最終的にテーブルから落ちていくのがいい余韻を残してくれる。
鉛筆削りのハンドルをまわすと、猫がひなたぼっこをします。
これは高度。まず鉛筆削りを回すと電球がひっぱられ、やかんのフタがしまる。
そこからは2つの流れに分岐して、片方では電球がライトのスイッチを押して電気をつける。
もう一方でやかんのふたはショウガをひっぱって落とし、スナネコが出てくる。
スローで見てみるとこんな感じ。
一見雑然とした机の上だが、それだけに何が作用して何が起きるのか予測不可能なところがあり、ワクワクさせてくれる作品だった。
DVDを倒すと、目薬が片付きます。
こちらも一瞬なのでスローでご覧いただきたい。
注目は後半、トカゲが魚と目薬にアタックするところ。こういうレールに沿わない動きは難度が高いのに、するっとこなしていてすばらしい!
スマホの目覚ましアラームを止めると、歯ブラシが歯磨き粉をキャッチします。
2回鳴る目覚まし時計に、それぞれ仕掛けを作った意欲作。
前半、凝った装置で歯ブラシが準備されるところをスローで見てみよう。
アラームを止めると球が転がりピールが落ちて、それに引っ張られた歯ブラシがハミガキチューブの下にセットされる。球が転がっている間にペットボトルからのしずくでハミガキが湿らされているのも技巧的。並列処理なのだ。
針のついたミニカーが水風船を割ると、犬が前に進みます。
設計図によると、最後は包丁がレールを滑っていって、犬をつないでいる紙テープを切る…というのがクライマックスのはずだ。しかし実際は包丁がくる前にテープがはがれて犬が動き出している。逃がすというより、単に脱走されてるぞ、おい。
ティッシュを扇風機の風に乗せると、顔にティッシュが貼り付きます。
レールに沿わない動作は難度が高いとさっき書いたが、空中ならなおさらである。審査会では「(この映像に写っているのは)装置というよりも運」と評されたが、それにともなって映像もドキュメンタリータッチだ。
ドアを開けると、サプライズでお祝いされます。
装置としてはシンプルだがハッピーで良い。
自分でクラッカーにびっくりして「ウワッ」って声が出てしまっているところや、そのあと音楽が鳴っている間の手持ちぶさたな感じなど、映像としての味わいも抜群である。
レベルの低いルーブ・ゴールドバーグ・マシンには人間が介入することがあると先ほど書いた。
しかし実際は、「介入することがある」レベルではなくて、しょっちゅう出てくる。
ハンマーの持ち手を上に上げると、ペットボトルが潰れます。
ペットボトルを潰す装置 from 嶋田 珠恵 on Vimeo.
装置?もはや人がハンマーを落としてペットボトルをつぶしているだけではないのか、という気もする。装置とは何か。ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの核心に迫る作品だった。
公園の蛇口を捻ると、歯がテカテカになります。
もはや人が歯を洗ってるだけではないのか。装置とは何(以下同文)
サーキュレーターのスイッチを押すと、兄弟が仲良くなります。
前半かなり完成度の高いマシンが出てきてオッと思うが、途中でプーさんを倒すのに手をつかってしまっている……のはこの際、ささいなことだ。
この作品がほんとうに特異なのは、ゴールが「オレンジジュースが注がれる」ではない点。そのあと兄弟でそれを分け合って仲良くなるところまでがゴールだという。
装置とは何か。10人いれば10とおりの解釈がある。それがルーブ・ゴールドバーグ・マシンの魅力である。(違うかもしれない)
鼻がムズムズすると、ティッシュが降ってきます。
あらかじめ設定してあるAlexaを使うんじゃなくて、設定するところから始めるんだ!?という驚きがある。あとエアコンにティッシュが詰まってるようすは見たことがない絵で面白い。
パスタをザルに入れると、朝採り野菜パスタが完成します。
ちょっと説明が必要だろう。途中でビニール袋に水を入れているシーン、あれは「ゴーヤに水をやろうとしたらうっかり袋にも入ってしまった」である。演技を隠す気がなさすぎて演技に見えない。
あと完成したパスタもまったく見たことのない料理で驚く。
パソコンを開くと、パソコンを閉じます。
最初は手紙をビリっと破り捨ててしまったのに、なぜ最後はおとなしくパソコンを閉じているのかというと、メッセージの出るファンの風で頭が冷やされているからだ。読解力を要求される映像である。
尊い気持ちが高まり箱の裏から出ている紐をひっぱると、人間の愛が伝わります。
「か」「わ」「い」「い」のメッセージとともに箱から種が出るはずなのだが、出なかったので手で出してしまっている。
ようやく文鳥が食べてくれたときにあわてて「か」を上げてメッセージを完成させている瞬間が、この動画のいちばん味の深いところです。
レベルが低いだけあってそれほどの長編は来ないだろうと考えていたのだが、予想外の大作も届いた。いろんな理由があって「大作になってしまった」趣もある2本を、さいごに紹介する。
観葉植物を育てると、樋口一葉が生き返ります。
凄いペースでいろいろなことが起きすぎていて0.5倍速で見たいくらいの動画だが、要は「何一つうまくいかなかった装置を無理やり動かすまでのドキュメンタリー」である。気持ちに余裕のある日に慈愛と赦しの気持ちで見るのが正しい鑑賞法。
電子ピアノを買うと、メダカが餌を食べます。
最後は人力が行き過ぎてヒューマンドラマになってしまった大作。最初からピアノの上にいるメダカ、あれにエサをやることがゴール。そう意識しながら見ると、ジリジリした心理戦が見えてくる。
ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの拡大解釈のいちばん極北のところで、さいごに紹介するにふさわしい作品だ。
審査会ではこの26本を一気見した。いろんな味の洪水で胸焼けしそうなコンテストだったが、それでいて初期衝動で作られた作品ならではのフレッシュさもあり、ブレンド出汁とメントールを混ぜたようなエキセントリックな後味だった。
来年以降の開催は未定だが、ぜひやってほしい!という方はTwitter等で反響いただけるとありがたいです。
※コンテストの最新情報はヘボコンのDiscordまたはFacebookグループにご参加いただくと確実に届きます!
先日開催した、ヘボコンの7年間の歴史を振り返る「ヘボコントークショー」。アーカイブを見られるのは残り1週間です!リンク先から視聴期限をご確認のうえ、お求めください…!https://t.co/hLpz5cXwr2 pic.twitter.com/4Me0DFZN2Q
— デイリーポータルZ (@dailyportalz) October 4, 2021
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