2025年1月5日の辰巳 2025年1月18日

辰年から巳年へ、「辰巳」は盛り上がっているのか

団地を語らずして辰巳は語れない

辰巳はそのほとんどが公園と団地で構成されている。住民の皆さんが静かにメモリアルイヤーを噛みしめているのだとしたら、それは生活が凝縮されている団地にこそ表れているかもしれない。だから団地もしっかり見ておこう。

辰巳の団地は都営住宅で、昭和42~44年にかけて建設された。2013年から一部建て替えもはじまっているが、まだまだ昭和の香りが残る古き良き団地である。

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団地の真ん中に立っている給水塔がランドマークとして存在感を発揮している。
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給水塔があるだけで一気にSF感が出る。
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古いのに新しい。給水塔にしか出せない味がある。
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足元から撮ったら巳っぽいか?と思ったがどちらかというとエノキ茸だな。

さっきからジャンクションやら給水塔やらでかい構造物に目を奪われがちである。いかんいかん、今日の目当ては辰と巳だ。

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とはいえ団地内は人通りも少なく、駅の周辺よりもさらに落ち着いた空気が流れている。12年ぶりのメモリアルイヤーだ!とはしゃぐ感じは一切ない。「そんな辰巳初心者がやるようなことはとっくに経験済みじゃ」とたしなめるような辰巳玄人の気配を感じる。

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これも車か?と挑発をかけてくるようなショッピングカート
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心で見るタイプの掲示板
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バス停のトリオ芸人みたいな寄せ集めの椅子
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老人ホーム入居者の皆さんの作品。葱に挟まれたサンタ。
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花と同じ色のリズムを刻むカゴ。「ねころっけ」が気になりすぎる。

団地っぽいものがたくさん見れて満足だが、辰と巳の要素は団地にはない。でもここまで来たら辰巳団地のノスタルジックをもっと知ってほしくなってきてしまったので、もう少しお付き合いいただきたい。この空気がいつまで残っているか分からないし。

というわけで、辰巳団地のハイライト。それがたつみ商店街である。

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看板に誘われて団地の間に入り込むと、
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めちゃくちゃノスタルジックな空間が広がっている。
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令和7年とは思えない空気が漂っている。

実は私も団地(練馬の光が丘団地)育ちで、こういう団地の一階にお店が並んでいる風景が幼少期の情景として心に刻まれている。でも光が丘では私が子どもの頃には既にこういう商店のお店は閉じつつあり、まさに「古き良き思い出」と化していた。

しかしここ、辰巳団地では今も営業しているお店も多く、当時の空気がそのまま保たれている。辰と巳を探しにきたわけだが、思いがけない収穫があった。

ちょうどお昼時でおなかも空いていたため、こちらの中華料理屋でTHE町中華をいただくことにした。

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高瀬さんが夜中に撮影していた中華料理屋
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特製角煮あんかけチャーハンとラーメンのセットを注文

チャーハンの角煮やラーメンのチャーシューは八角の味が効いた本格的な味わいで美味しかった。知らない街で偶然見かけた町中華を食す時ほど自分の中の井之頭五郎が元気になる時はない。

せっかくなのでお店の人に「辰年から巳年に変わりましたけど、辰巳がいつもよりも盛り上がってたりしますか?」と聞いてみた。ただ中国の方だったからか、「地元の人間じゃないから分からないよ」と返されてしまった。んー残念。でも辰巳で働く人と触れ合って、勝手に辰巳との距離が縮まったような気がして嬉しかった。

この地元の人に聞いてみるパターンでメモリアルイヤーの盛り上がりをもう少しだけでも垣間見ることができないだろうか。

ただ、5日もまだまだ正月休みの真っ只中。たつみ商店街も営業していないお店が多い。その中でも気になったのは「明治パーラー」というお店だ。昭和な雰囲気のたつみ商店街の中でもひと際に昭和成分が色濃く残っていそうな店名である。

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そんなわけで、日にちを変えて夜に来てみた。ちゃんとグーグルマップで調べて営業していることは確認済みである。

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確認してきたのにあまりにも営業感がなくて一瞬戸惑ったがちゃんと開いていた。
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すさまじい「家」感。ほぼ知り合いしかこない店だな。

店に入ると大学生くらいの店主の息子さんらしき方がオーダーを取り、ナポリタンをオーダーしたら、おそらくその息子さんが自ら作ってくれた。フロアも厨房も一人でこなす、辰巳の二刀流である。

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なかなか濃い目のナポリタン。小学生の頃、友達の家に遊びに行ってついでに夕飯もご馳走になっていくときに出てくる味だ。

ノスタルジックに浸りつつ、町中華の時と同じ質問をしてみた。帰ってきた答えは「んー、特にないっすね…」であった。

しかし、これがリアルだろう。別に特別なことをしなくても辰巳の皆さんは当たり前に辰と巳を受け入れているし、高瀬さんも目撃したように辰と巳を大切にしているのだ。

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かつての辰巳は盛り上がっているのか?

と、ここで記事を終わってもいいのだがもう少し深堀りしてみたい。

実は「辰巳」という地名は、江戸時代までさかのぼると今の辰巳よりも広い範囲を指していた。というか江戸時代にはまだ今の辰巳は埋め立て前で存在しない。江戸城からみて南東に位置する深川一帯を辰巳と読んでいたのだ。

深川の八幡さまと呼ばれる富岡八幡宮の周辺は幕府非公認の遊郭、岡場所として賑わっており、そこで活躍した芸者が「辰巳芸者」と呼ばれていたことなどに辰巳の名が残っている。

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深川の岡場所を取材した『辰巳之園』という洒落本も残っている。赤枠部分に「辰巳之園」の文字が見える。(夢中散人寝言先生『辰巳之園』,刊,安永2. 国立国会図書館デジタルコレクションより引用、筆者による加工)
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有名な喜多川歌麿の「雪月花」三部作の一つ『深川の雪』に描かれているのが「意気」と「張り」を看板にした辰巳芸者(ウィキメディア・コモンズより引用)

となると、もしかしたら深川周辺の方が辰巳イヤーで盛り上がっている可能性がある。

というわけで明治パーラーでナポリタンを食べた勢いそのままに、辰巳からレンタル自転車を走らせ深川に向かうことにした。

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途中の歩道橋から。高速を支えるY字がかっこいい。

自転車を走らせること約15分、門前仲町に到着。富岡八幡宮の前を横切る永代通りとその南側を流れる大横川の間の二本の通りが花街として賑わった。戦後に芸者は消えたが、2015年に一軒の置屋が復活し、辰巳芸者の息吹を伝えているようだ。

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歓楽街として今も賑わっている。
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そして深川不動尊には深川龍神が。辰巳を感じさせてくれる。

さらにここ深川には、分かりやすく辰巳の名を残す場所がある。それが「辰巳新道」だ。

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分かりやすく看板が掲げられていてありがたい。
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たつみ商店街に負けず劣らず昭和な雰囲気を残した飲み屋街だ。
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カラオケの歌声や楽しそうな談笑が道まで漏れ聞こえてくる。
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路地の掲示板にはかつての写真が飾られていてノスタルジックを加速させてくる。

盛り上がりという意味では、これまでで一番盛り上がっている辰巳である。一軒の立ち飲み屋に入り、焼き鳥とお酒をつつきながらここでも聞いてみた。

「例年よりも盛り上がってたりしますか?」

「うん、辰巳新道はいつも活気あるけど今年は尚更な気がするよ!」

ついにこの言葉が出た。やっぱり辰巳は盛り上がっていた。私は辰巳にはなんのゆかりもないけれど、その土地ならではの内に秘めた喜びみたいなものに出会えて満足である。


タヌキの正体は?

最後に、高瀬さんも気になっていた辰巳駅のポスターに描かれたタヌキは私も気になりすぎたので東京メトロに問い合わせてみた。

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辰と巳で推してるのに急なタヌキ。お前は一体誰なんだ。

 

実は彼、東京メトロのキャラクター「メトポン」だそうだ。2005年頃からポスターなどに登場しているとのことだが、まったく印象に残っていない。東京メトロの公式サイトにも紹介ページなどは無く、このページにひっそりとプロフィールが載っている。

妻子ありで趣味は食べ歩き、特技は野球に好物はカレーとビールと見た目に反してなかなかのおっさんぷりである。好きなサイトを聞いたら「デイリーポータルZ」と答えそうなメトポンを覚えて帰ってあげてください。

2024年12月31日~2025年1月1日のようすは高瀬雄一郎さんの記事でどうぞ

 

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