特集 2022年11月4日

南インドの特別料理「サッディヤ」食べ歩き

たくさんのオカズが並ぶ南インドのごちそう、サッディヤを食べ歩いてみました。

南インドのケーララ州ではお祝いの席などで「SADYA(サッディヤ)」と呼ばれる、バナナリーフに盛った特別なごちそうを食べるそうだ。

特に8月末~9月頭に行われる「ONAM(オーナム)」という大祭で提供される「オーナムサッディヤ」が有名らしい。

可能であればインドまで行きたかったが、とりあえず日本でも食べられる店があるようなので、3店舗を食べ歩いてみた。自分が何を食べているのかあまり理解できなかったけど、これがすごくよかった。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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練馬の南インド料理店、ケララバワン

最初にやってきたのは、練馬にある南インド料理の老舗であるケララバワン。少し前にランチで訪れたらおいしかったので、しっかり腰を据えてサッディアを食べようと再訪した次第である。

最初に訪れたときの様子がこちら。

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練馬に来る用事があったので、前から気になっていたケララバワンを訪れた。
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店主はケーララ州出身。南インド料理店ならではの珍しいメニューから、日本人に馴染みのあるナンやタンドリーチキンと食べるカレーセットまで揃っている。
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マドラスってなんだっけと思いながら頼んだマドラスランチ。調べたらケーララ州の隣のタミル・ナード州の州都名(現在はチェンナイ)だった。初めて食べるトマトライスがおいしい。うーん、マドラス。

ケララバワンのサッディヤはどんなものかと張り切って8月後半に予約して訪れたのだが、おいしく食べ終えてからしばらくして、私が食べたのは「オーナムサッディヤ」ではなく、「ケララバワン開店18周年記念サッディヤ」だったことを、店主の奥さんである漫画家の流水りんこさんのツイートで悟った。ぎゃふん。


私の理解が不十分で「サッディヤ=オーナムサッディヤ」だと思っていたが、サッディアは特別な料理とか祭りという意味合いなので、オーナムではないサッディアも存在するのだ。

大丈夫、ノープロブレム。「オーナムサッディヤ食べ歩き」から「サッディヤ食べ歩き」にタイトルを変えつつ、インドにかぶれた態度で細かいことは気にしないぜと書き続ける。

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18周年おめでとうございます。
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お祝いなのでタージマハールという名のビールをいただいた。

おかずのバリエーションがすごい

テーブルの上にバナナの葉っぱが広げられると、店員さんがカラフルなペースト状の料理を次々と運び、絵の具のパレットのようにペトペトと乗せていく。ものすごい色彩だ。

さらにライス、バナナ、パパダムといった炭水化物、そしてカトリと呼ばれる丸い容器に盛られたカレーっぽいオカズがドサドサとやってくる。これらすべてが肉や魚を使っていないベジ料理なのである。

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運ばれてきたカラフルなオカズ達。
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緑色のバナナリーフが鮮やかに彩られていく。

昨年、趣味で南インド料理教室みたいなところに通っていたので、少しは出てくる料理の得体がわかるものの、もちろん習っていない料理も多く、なにがなにやらなものも多い。

いわゆるカレーではないインド料理だらけ。気分はおせちを前にした外国人で、これらが甘いのか辛いのかすら想像できない。

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サンバールとチョーレは一回おかわりができるそうです。チョーレってどれ?

料理名の一覧はあるものの、どれがどれかわからない。料理名がわかったところで知らないから意味がない。そこで店員さんに材料などを教えてもらいつつ、五感を総動員して味わっていく。一度食べたくらいで覚えられるような情報量ではないが、できるかぎり理解をしたい。

野菜とスパイスの組み合わせに豆とヨーグルトとココナッツが加わることで、ぐわっと奥行と広がりが生まれている。すべての料理の味が違うため、一口ごとに驚きがあるのだ。ただそのおいしさをうまく言語化できないもどかしさ。私が持つ日本語にない味なのかも。

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どれがなんだったのかを確認してみた。多少間違っていいるかも。

以下、メモ。

①ナーランガ:レモンの酸っぱい漬物。
②ポリヤンジー:タマリンドとショウガの甘酸っぱい黒糖入りペースト。
③ビーツ・パチャリ:マスタードシードが効いたビーツのヨーグルトペースト。複雑な土の味がしてうまい。
④ウェンラッキャ・パチャリ:オクラのココナッツヨーグルトペースト。
⑤カーラン:青バナナとヨーグルトのちょっと辛いペースト。
⑥オーレン:トウガンとインゲン豆のヨーグルト煮は優しい味。
⑦イェリシェリ:カボチャと豆の煮物。冬至カボチャに似ている。
⑧ウッペリ:ニンジンと緑豆のココナッツ炒め。
⑨サンバール:野菜と豆の煮物でちょっと辛い。南インドの定番料理。
⑩アヴィヤル:サヤインゲン、ニンジン、イモなどを細切りにしたヨーグルトココナッツ炒め。
⑪マサラ・カリー:ひよこ豆のカレーで、これだけがいわゆるカレー味。
⑪パパダム:豆粉の揚げ煎餅でライスやオカズと混ぜるとうまい。
⑫チョーレ:ケーララ州で人気のマッタライスという赤米。籾の状態で蒸したパーボイルドライスは独特の香りと歯ごたえ。
⑬カッタ・パヤサム:牛乳で甘く煮たデザート。カレーだと思って食べたら甘くて驚いた。
⑭チェンカダリ・パラム:バナナのことらしい。茶色いバナナっていいですよね。

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デザート以外は基本的にライスと混ぜながら食べる。おかず同士が混ざりあうと、またこれがうまいんですよ。
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酸味があっておいしいバナナだった。さすがにお腹が苦しい。
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日本人が経営する西荻窪のとら屋食堂

続いては日本人夫婦が経営するミールス(南インドの定食)専門店、西荻窪のとら屋食堂。今度こそオーナムサッディヤである。

食事のスタート時間が決まっている予約制で、一品ずつ説明しながらサーブをしてくれるし、聞けばなんでも答えてくれるのでありがたい。

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わかりにくいですけど南インド料理の店です。
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普段のミールス(定食)がこちら。
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オーナムサッディヤは30品もあるらしい。

サッディヤのように一品ずつ並べられるタイプのコース料理は、写真を撮るために全部並ぶのを待っている時間が楽しくも切ない。写真を撮る必要がない同行者は、出てきた順にさっさと食べていて腹が減る。

これでもかと所狭しと盛られた料理の数々は、ほとんどがおかわり可能。おかわりをする頃には味を忘れているので、無限に新鮮な味を楽しめた。

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すごいことになっている。メニューの一部はローカライズされているようだ。

一見すると絵画のようで、それでいて立体的に盛られたとら屋食堂のオーナムサッディヤは、どれもこれもおいしかった。味も料理名も一度に覚えられないけど、思考停止の一歩寸前くらいまで情報を詰め込む未知の食事ならではの楽しさが詰まっている。もはやライスに描かれた味の曼陀羅だ。

メニューの解説は私がここで書かなくても、店側が用意したものがこちらにあるので、気になる方は確認してください。

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ライスに掛けるオカズの種類数がすごい。一口ごとに全部違う味を感じる。
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デザートはマンゴーパヤサム。オーナムサッディヤにパヤサムはつきものらしい。
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ピンクのお水、パッティンガムがでてきてうれしい。詳しくはこちら
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スパイシーだけど優しい味の個性的なオカズが掛かったライスを食べまくる喜び。
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通常のオーナムサッディヤには入らないが、とら屋食堂の人気メニューなので用意されている揚げたてのワダ(豆粉のドーナツ)がうまいんですよ。
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食べきれないので持ち帰った。
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浅草で食べられる南インド家庭料理店、サウスパーク

最後にやってきたのは浅草のサウスパーク。今回初めて訪れたのだが、ケーララ州出身の女性たちが作る家庭料理をいただける店らしい。

本国の味を求めて通っているインド人が多いようで、オーナムサッディヤを食べに来ているお客さんも、半分以上は在日インド人(と思われる方)のようだ。

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浅草のサウスパーク。
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オーナムサッディヤは一日だけの限定メニュー。

この店でも当然のようにバナナの葉っぱがテーブルに敷かれて、次々にオカズが置かれていく。

お弁当のように一気に揃う食事スタイルもいいけれど、このように目の前で組み立てられていくコースもまた楽しい。

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バナナリーフ一枚では置ききれないらしく、二枚も敷かれる頼もしさ。
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サッディヤも三度目なのでオカズの傾向がなんとなくわかってきた。

サウスパークのオーナムは全部のオカズが食べ放題で、こまめに「おかわり持ってきましょうか?」と聞いてくれる。聞かれても料理名がわからないのでマゴマゴしていたら、オカズをいろいろ運んできてくれて、どれを食べますかと聞いてくれた。良い店だ。

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説明を受け止めきれなかったので正しいかちょっと自信がないよ。
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後半に4つのカップが追加された。

以下、メモ。料理名は予約時にいただいたメールにあったもの。説明は個人の見解です。

①マッタライス「ケーララ赤米」 /Kerala Matta Rice:ケーララ州の赤米がサッディアでは定番のようだ。
② レモンアチャー/Lemon Pickle:酸っぱくて辛い漬物をアチャールとかピックルとかウールガイといいますね。言語の違いで料理の違いではないみたいです。
③インジ・プリ/Ginger Pickle:インジがショウガ、プリがタマリンド。口直しに最適。
④ オクラパッチャディ/Vendakka Pachadi:ヨーグルトのオカズは南インド料理を食べているなという気になります。
⑤パイナップルパッチャディ/Pineapple Pachadi:酢豚にパイナップル論争がどうでもよくなります。
⑥ビートルートキッチャディ/Beetroot Kichadi:ビートルートはビーツ、パッチャディとキッチャディの違いが謎。たぶん人によって違う。
⑦トーラン/Thoran:キャベツのココナッツ炒め蒸し。私の師匠はトーレンと呼び、南インドでは避けてトーレン代表的な料理と教わった。
⑧エリセリ/Errisseri:急に山形の味を思い出すカボチャとアズキ(ササゲ)の煮物。インド人が冬至カボチャを食べたらどう思うだろうか。
⑨オーラン/Olan:豆とトウガンのヨーグルトココナッツの煮物は優しい味。
⑩アヴィヤル/Aviyal:細切りにした炒め野菜のヨーグルトココナッツソース和えみたいな料理。
⑪パリップカレー/Parippu Curry:レンズ豆のカレーなのかな。ダールは店によって使う豆が違いますね。
⑫ギー/Ghee:インドのバターオイル。
⑬サンバル/Sambar:豆と野菜を煮た南インドの定番料理。ここのはドロッとしたタイプ。
⑭ラッサム/Rasam:タマリンドの酸味とコショウの辛味が効いたトマトスープ。後半に出てきたので、これで食事を締めろという意味合いがあるのかも。
⑮カーラン/Kalan:青バナナのヨーグルトソース和え。
⑯完熟バナナ/Pazham:小さいサイズがうれしいバナナ。
⑰パパッド/Pappadam:これもおかわりOKで凄いと思った。
⑱セミヤ・パヤサム/Semiya Payasam:セミヤ(バーミセリ)は短いパスタ。パヤサムはオーナムサッディヤに欠かせないデザート。
⑲パリップ・プラダハマン/Parippu Pradhaman:豆入りのヤシ砂糖の黒いデザート。デザートが2つあるとオーナムサッディヤらしいとか。
⑳サンバラム/Sambharam:ヨーグルトに生姜やパクチーを入れたドリンクで胃をさっぱりさせる。サンバルと聞き間違えがち。
㉑ケーララチャーヤ/Kerala Chaya:インド式ミルクティー、チャイがついているとうれしいですね。

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みんなが当たり前のように手で食べていたので、私も手で食べてみた。指も味を感じる気がする。
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カラフルなオカズがバナナリーフに残る様子は砂絵を描くような楽しさがあった。
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濃厚なチャイで一息。ごちそうさまでした!

こうして続けて3店を回ってみたのだが、サッディヤという大きな括りの中で、同じ料理もあれば違う料理もあり、同じ料理の中にも違いがあった。その違いをちゃんと理解できているかと言われると怪しいのだが、そこに店のアイデンティティが見えてくる。

サッディヤの理解が少しだけ進んだので、来年はもうちょっと知識と味を紐づけることができ、より深く楽しめるだろうか。なんてにわかマニアを気取りたい半面、すべてを忘れて真っ新な気持ちで何も考えずに、知らない味として無心で食べたいような気もしている。


オーナムはもともとヒンドゥー教の祭りであり、まったく縁のない世界線に上がり込んで食事をすることに、ちょっとした居心地の悪さというか、自分がここにいていいのかなという気まずさもあったが、日本人がクリスマスにプレゼントを送ったり、ハロウィンに仮装をしたり、バレンタインにチョコを食べたりすることの延長線と思って、気軽に参加しても良い気がしてきた。

もし自分が海外に住んでいて餅つき大会を開催したとして、そこに地元の方が参加してくれたらきっとうれしいだろう。異なる文化や宗教を拒絶したり排除するのではなく、あくまで尊重しつつ興味本位で首を突っ込みあう位がいいのかなと思った。知らない食文化はいつだって楽しい。

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これは友人が行った店にあったオーナムの花飾り。
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