特集 2022年10月10日

「大縄跳びに入れない人」ダイエットを実践した

あれは20代の頃だった。私が当時やっていた筋トレグッズ(ゴムのブレードをブンブン振り回すやつ)を、遊びに来た友人が見つけた。

「こうやって使うんだよ」

私は腰を落としていつも通りブンブン始めたのだが…。恥ずかしい。それまでまったく感じていなかった羞恥心が私を襲った。
 

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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それまでまったく感じていなかった羞恥心が私を襲った瞬間

ある共通点に気づいちゃった!

この出来事を思い出した時、私はとんでもないことに気づいたのだ。過去に流行ったダイエット、トレーニング、美容法(以下、運動とまとめる)、その多くが「恥ずかしい」ということに。ぶら下がり健康法にスタイリー、金魚運動に口に咥える美容器具。他にも幾らでも思いつくが、どれも他人に見られたら絶対恥ずかしい。

このような共通点が生まれるのは何故か?以下のような仮説を立ててみる。

①物理的理由
普段動かさない筋肉を鍛えるということは、必然的に恥ずかしい格好や姿勢になってしまう

②精神的理由
「良薬は口に苦し」効果で(こんなに恥ずかしい思いをしてるんだから、きっと効果があるはず!)という感情が芽生える

①はちゃんとやれば実際に効果がある、ということを保証すると思う。問題は②。通販番組を見ていて(な〜に馬鹿なことやってんだ!)と思ったグッズに少し惹かれてしまう、という経験が皆さんにもある筈だ。いつの間にか気になっている、というのは流行を生み出す原動力になりうる。

それでは逆説も成り立つのでは?

待てよ。「流行した運動の多くは恥ずかしい」のだとすると、その逆も成り立つのではないか?つまり、

「恥ずかしい運動は流行する」

あ、これやばい。それって流行を意図的に作り出す方法論を見つけたということだ。しかも先ほどの「①物理的理由」を考えてみれば、恐らく本当にダイエットにも効果があるはず。
この理論、仮に「ソム理論(Shame On Me=SOM )」としよう。これを利用すれば、こんな私でもトレンドセッターになれる…。

いざ実践

幸い私は今、本当にダイエットする必要がある。自分自身を使ってソム理論の有効性を実証する絶好の機会だ。しかし、私一人では結果に対する信憑性は低い。そこで今回はDPZ編集長の林さん、ライターのトルーさんと月餅さんにも協力を仰いだ。

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集まったのは全面、鏡張りのスタジオ。己の恥ずかしさと存分に向き合える環境だ

今回は4人で以下のことを実践する。

①「ソム理論」の説明と体感
②「恥ずかしい」と感じるのはどんな時か?を話し合う
③それを運動に落とし込んでみる
④10日間、毎日その運動を続けてみた後、体重の推移や感想を報告

それぞれの恥ずかしさ

早速ソム理論の概要を説明し、私が持ち込んだトレーニンググッズを体験してもらう。

ゴム紐バインバイン伸ばすだけで、人に見られてると恥ずかしい
ソム理論に気づくきっかけとなったゴムブレードは現物がなかったので、塩ビ管で代用
「林Tシャツ」を着てきたばっかりに、林である自分と過剰に向き合う羽目に。恥ずかしさ倍増!

ふふ、恥ずかしがってる。やっぱり専用器具が作られるくらいの運動は、どれもどこか恥ずかしい。さあ、お次は見せてもらおうか。日常の中で恥ずかしいと感じる瞬間を。

トルーさんからは「トイレのセンサー式ライトが勝手に消灯してしまい、体を動かしながら電気をつけようとする時」という提案。 

なるほど、無防備な状況でこれは恥ずかしい

月餅さんからは「小枝が好きな犬のために枝を持って散歩したのに、犬が飽きた瞬間、ただの枝を持っている人になってしまう」が披露された。 

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大人は普通、枝は持たないもんな
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月餅さんには美容グッズの恥ずかしさも教えてもらった。美顔マスクの衝撃!

林さんからは「住んでるマンションの構造上、外に出てからしばらく手を広げていないと雨が降ってるかどうか分からない時」。

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ノリノリでマンションから出てきた人に見られる恐れが

 そのほかにも「できてないムーンウォーク」や「はしゃぎすぎてる人達」が提案された。

ムーンウォーク、考え過ぎて動きが止まるくらいできない。恥ずかしい
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これは後から自分で恥ずかしくなるやつ。1分間はしゃぎ続けたら、死にそうなくらい疲れていた

しかし、どれも日々の運動に落とし込むのが難しい…と悩んでいたら、トルーさんが会心の一撃を繰り出した! 

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「大縄跳びに入れない人」 

これは良い。誰でも恥ずかしさを想像しやすいし、運動化もしやすそうだ。早速全員でやってみる。 

目の前に大縄を想像し、タイミングが掴めない様子を前後のステップで表現する

よし、これで行こう!この運動を1日5分、10日間続けて、またここに集合だ。世界初のソム理論実践者となった我々は、固く握手を交わしてこの日は解散した。 

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それぞれの10日間

始めてみてすぐに分かった。これ絶対辛いやつ。

適当に決めた5分というのが異常に長い。初日は終わった瞬間に倒れ込んでしまった

いきなりやめたくなる。でも、駄目だ。振り返ってみればいつだって、大縄跳びに入れないような人生だった。

イベントスタッフの日雇いバイトに行ったら、存在を忘れられて8時間ただ立っていた時のことを思い出す。それでも生きてきたんだから、この私の人生そのもののような運動もやめるわけにはいかない。だから毎日、前後にワン・ツー。 

横の部屋では家族がまったく興味を示すこともなくテレビを見ている

大学の時、英会話の教師にパーティーに誘われて、待ち合わせ場所に行ったら誰もいなかった。そのまま2時間待ち続けてから諦めて家に帰った日も思い出す。 

帰宅が遅くなった日は、家族に迷惑をかけないよう夜の上野動物園前で

でも、ワン・ツー。今回は仲間がいる。

ある者はかまってもらえると思った犬を振りほどきながら。

ある者は子供を寝かしつける前に。 

ある者は風呂上がりに思い出して、深夜3時にうんざりしながら。 

今日もどこかでみんながワン・ツー。この恥ずかしさと辛さを乗り越えた時、私達はきっと“何か”を手にする…。

結果発表

そして10日後。我々は再びスタジオに集合した。 

言葉がなくても分かる。皆、充実感に溢れた良い顔してる

最後は一緒に5分間の大縄跳び運動で大団円を迎えた。 

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初日より断然動きが良くなっている!

休む間もなく計量タイム。

緊張感漂う瞬間だ

果たして、ソム理論の成果やいかに。

最初は体重が減らず、なんなら増えたので心配しました。でも大縄跳び運動のおかげで有酸素運動の癖がついたんです。気づいたら普段よりジムにいる時間が長くなってました。1000kcal消費してた日もあったんですよ!一週間目に1.5kg減ってたりもしましたね。

ジムに行ってもランニングマシーンとかって恥ずかしくてできなかったんですけど、大縄跳び運動がそれより恥ずかしいからできるようになってました。初日に足が攣ったくらい、とにかくふくらはぎが鍛えられました。

ジムもそうだし、お米を少なくしようって意識が出たり、肌荒れがなくなったり。大縄跳び運動が色んなものの起爆剤になった!って感じです。 

子供を寝かしつける前、21時から22時くらいにやってました。僕もふくらはぎが痛くなりましたね。大縄と後ろに並んでいる人を想像し、縄に入れないという動きを首で表現してました。あと2分30秒で脚を左右入れ替えてみたり、色々と工夫してました。

トルーさんの首の入り方は凛として美しい

体重は初日から減り続けて、最大で0.7kg減った時も。元々運動習慣がなくて、記事を書くために歩き回るくらいでした。でもうんざりしたってのはなくて、習慣っぽくなりました。もう終わったんですけど、帰ったらやってみるかもしれませんね(笑)。 

いや〜、5分は長かった!Twitterやってる時の10分なんてあっという間なのに。初日に喘息の発作が出て、「もはやここまでか」って思いましたけどなんとか続けました。

最初の三日間、面白いほど体重減りました。「やべ、こんなので結果出ちゃう」と焦ったくらい。まあ、すぐに壁にぶつかったんですが。最終結果は0.9kg増か〜。昨日まで0.4kg減ってたんだけどな〜。

なんか、「俺しかやってないトレーニング」って良いですね。これでやめちゃうのはちょっと勿体無い。本格的なのは抵抗あったんですけど、こういう馬鹿な運動なら続けられるかも。

正直、初日に他の3人に申し訳ない、って気持ちが…。だって、本当にきついんだもん。家族は馬鹿にしてましたけど、それにより逆に「絶対続ける!」ってなりました。

結果的には体重増えちゃった!普段しない運動をしてるから、「食べても良いか」ってなっちゃって。中学生みたいな食生活になってました。でも、それで0.1kg増で済んだのってむしろ成果が出てる、とも言えますよ。

しかし重要なのは体重の増減ではない

概ね体重は減ったのだが「それってジムの効果では?」という疑問もあったりして、効果の有無は不明に思える。しかし、実は問題はそこではない。

ソム理論は「流行を意図的に作り出す」という要素も重要なのだ。注目して欲しいのは、4人に共通して「運動の習慣化や依存」が生まれ始めてること。これこそ流行を生み出すための大きな鍵ではないか!その意味では成功と言っても過言ではないのかもしれないし、そうではないかもしれない。この世に絶対はない。

とにかく、ソム理論はまだ産声を上げたばかり。何かを断定するにはまだ早い。これを読んだ人が理論を取り入れた運動を考案し実践しても良いし、今後流行するダイエット法やトレーニングにソム成分が入ってないか観察してもらうのも良い。

とにかく皆でこの理論を育てていきましょうや。そう、思うんです。

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大体、理論がどうとかもう問題じゃない。何かをやり遂げた人間はそれだけで美しい

奇跡は起きる

忙しい中ソム理論を実践してくれた3人に感謝と御礼を伝え、我々は再びそれぞれの帰るべき場所に戻った。

しかし、その帰り道。私は信じられない奇跡に遭遇する。
 

夜の道端、街路灯に照らされてなんと体重計が落ちていたのである

「免許皆伝だよ」

天からそんな声が聞こえた気がした。やっぱり我々は“何か”を手にしたんだ。

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