特集 2023年4月19日

大阪の人たちがずっと気になっているけど入れない水上の店「かき広」に行ってきた

「かき広」店主・吉見三千夫さんにお話を聞く

これで少し店長の手があくとのことで、一緒に軽く乾杯してもらいつつ、お話を聞かせていただくことに。

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店長の吉見三千夫さん。気さくな方です

――「かき広」の創業はいつなんでしょうか?

初代が大正9年からやってる。だから102年かな。

――昔はこの辺にこういう船がたくさんあったとか。

うん。ちょっと待って。今、地図持ってくる。(戻ってきて)これが古い地図なんだけど。

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戦前の大阪の地図。赤い丸はかつてかき船があったところだという。

――こんなにかき船があったんですね。

そうそう。昭和16年には24か所もこういう船があって、それが昭和20年になると13か所。で、今はうちだけ。で、これがうちの昔の写真。同じ場所。

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昭和17年頃の「かき広」を撮影した写真。右端に淀屋橋駅の入り口が見える。
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「ここが店ね」と吉見さん。

――本当だ。地下鉄の入り口がありますね。今と同じ場所なんですね。

まあ戦時中はちょこっとあっち行ったりこっち行ったりしてたみたい。その頃は今より橋の下の隙間があいとったんですよ。地盤沈下がないから。

――へえ!今は昔より橋が低くなってるんですね。

うん。昔は1.5mから2mぐらい高かったみたいよ。この川もだいぶ綺麗になった。昔はね……。

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地盤沈下でかなり橋が低くなったんだとか。

――だいぶ水質がよくなったんですね。

俺、ここの川に落ちたことあるよ。橋をちょっと修理しようとしてドーンと落ちちゃった。

――えー!大丈夫でしたか。

水は結構綺麗だった。まあ美味しくはなかったけどね(笑)

――飲んでしまったんですね(笑)この川には魚もいますか?

ボラはしょっちゅう。なんか、ナンヨウハギみたいなカラフルなの見たこともあったよ。今は結構水が綺麗よ。

――「かき広」で牡蠣のコースが食べられるのはいつまでですか?シーズンは。

今は12月から3月いっぱいまでだね。

――それ以外のシーズンはこっちの個室の方はあまり開けていないんですか?

あんまり予約ないけど「こんなん食べたい」っていうのがあればね。旬だったらハモとか鮎とかね。今日は予算が安いから、ちょっとしたものだけだったけどね(笑)

――いつか豪勢にやりたいです。ちなみに店長は何代目ですか?

俺が三代目。奥さんのお父さんがもともとここをやっていて、でも親父(義理の父)は娘しかいなかったから、継ぎ手がいなかったんや。だから30代から俺、やれやれって言われてた。

――その前は店長はどんなお仕事をされていたんですか?

土木関係。

――そうなんですね。畑の違う仕事をしていたわけですね。いつ頃からこちらで?

ここやり出して12、3年かな。でもまるっきりセンスが無かったらせえへんよ。魚釣っとったから自分で捌いてたし。料理もしてたからね。親父も、「うちは料亭じゃねえから、お前でもできる」って言うから「あっそう?」って(笑)

――先代とは一緒に働いていた時もあったんですか?

うん。一年ぐらいね。頑固な人だったー。初代は広島の人で、初代の息子が2代目。で、3代目が俺。赤の他人(笑)

――この船自体は古いものなんですか?

古いものですよ。

――でも中は結構綺麗で新しいですね。

それはもう、台風の時にべろーんってめくれて壁もべろーんってなったし。関空の大変だった時(2018年)の台風でね。畳もダメになって替えたし、ガラスも補強したけどちょっと割れたし。

――ちなみに店長は何年生まれですか?

昭和27年です。だから71歳だ。

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体が動く限りはこの商売を続けると語る吉見さん。

――お若いですね!お休みの時はどうしていますか?

毎日休みみたいなもんや(笑)予約があれば忙しい時もあるけど、ない日はそうでもないから。お昼はぼーっとして。あっち(カウンター席)はただの飲みどころやから、だいたい17時から22時ぐらいまで開けてね。日曜と祭日は定休日で。

――こっちの船には今いくつ部屋があるんですか?

5部屋あるけど、使ってるのは4部屋。

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日本酒も追加して楽しい夜だ。

――さっき釣りの話がありましたけど、釣りは今もしてらっしゃるんですか?

いや、もうこの歳になったら一人では行けないね。子どもの頃からこんなちっこいハゼ、びんびん釣ってたよ。普通の釣り針ちゃうで。針金をこんなして曲げてさ、エサつけて、小学校の時なんか100匹、200匹と釣って。家帰ったらお風呂を焚かなあかんやん。五右衛門風呂やからさ、その時に、針金に釣ったハゼをいっぱい刺して、風呂焚きながら一緒に焼いて食うわけ。めっちゃ香ばしいよ。何もつけなくても美味しいよ。

――美味しそう!店長はどちらのお生まれですか?

九州。宮崎。

――そうなんですね。大阪へはいつ頃いらっしゃったんですか?

18歳になってから。昭和45年。仕事しに、でも東京には行きたくねえなと思って、兄貴も大阪にいたからね。大阪来た時がちょうど万博。並ぶの嫌いだったからガーナ館とかしか見なかったけど。昭和45年はね、会社入るのに面接もないし、試験もなかったよ。

――人手が求められていた時代なんですね。そしてその会社でずっと勤めていらしたんですね。

うん。その後で独立したけどね。まあ、人生、遊びだからね。

――かっこいい!

まあスレスレの時もあったけどね。生きとったらいいからね。

――それで今は大阪で川のそばで仕事しているというのもちょっと不思議ですね。

うーん、でも日本は狭いって!どこでも一緒やって。どこ行くのでも、3日もかかるわけじゃねえじゃん。人生、楽しくやらねえと!

――ははは。本当ですね。今日はごちそうさまでした。またゆっくり飲みに来たいです!

うん。あっち(カウンター席)は安いし、また来たらいいよ。

――ありがとうございます!

と、この後も店長の好きな音楽の話や歴史の話など色々聞きつつしばし飲み続けたのであった。

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先代の頃、志村けんも店に来たことがあるそう

最後はみんなで片づけを手伝ってお開きとなった。個室席のある船からカウンター席の方へと戻っていく階段をのぼると、さっきまでがちょっと幻のように思える。

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現実へと戻っていく階段。
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吉見さんありがとうございました!

そして、店を出て淀屋橋の上からもう一度「かき広」のネオンを見上げる。ここにあんな空間があって、ここで店長がお仕事をし続けていたのだなと、改めて思い返しながら眺めた。

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また来ます!

初めて「かき広」のカウンター席に入ってお酒を飲んだ時、Twitterにそれを書いたら「ここ気になってた!」とリプライをくれた方がちらほらいて「やっぱりみんな気になっていたんだな!」と思った。この記事で「なるほどこんな風な店なのね」と、ぼんやりとでも雰囲気が伝わったら幸いである。

書いた通り、ここは店長の吉見さんがお一人で切り盛りされていて、ふらっと入れるのは手が空いている時に限る。そこら辺を踏まえていただきつつ、たまにお店の中をのぞいてみていただけたらと思う。

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