名古屋の誇りは喫茶店
T君は「名古屋には何もないから。東京大阪福岡でイベントがあっても名古屋ではイベントがない。名古屋飛ばしがあるから。」と自虐的だった。しかし喫茶店にだけはこだわりがあり、お勧めの喫茶店がたくさんあった。
訪れた喫茶店には名古屋人の生活空間があり、食のこだわりがあった。
自虐的な名古屋の人たちでも、推しの喫茶店はどこ?と聞けば、それぞれがお勧めの喫茶店を教えてくれるんじゃないか。
僕は名古屋をよく知らない。
東京では神戸・大阪・京都など関西への旅行の広告はあるけど名古屋はそういう印象がないし、書店のガイドブックコーナーでも名古屋本をあまり見ない。僕が名古屋に行くときはいつも栄か大須くらいしか行かなかった。
それはよくないと思い、名古屋人の話を聞きながら歩いたら、ネットでも紹介されていないマイナーな旅行ルートが完成した。僕の名古屋のイメージができあがった。ぶらり歩きの中で、喫茶店が常にキーポイントだった。
平日午前の名古屋駅。名古屋在住で名古屋勤めの友人T君に、どこか名古屋駅から歩いて行ける渋いところはないかとメッセージを送った。今回の名古屋歩きでは、T君からのメッセージが頼りである。
届いたメッセージは「『四間道』から『円頓寺商店街』が渋くていいよ」ということだった。歩いて15分はかかるところで、行ってみると実際、味があるとこだった。
カフェや食堂にパトランプがついていて、これでもかと回ってる。これが名古屋らしさなんだそうだ。
友人がいうには、パトランプが回ってないと落ち着かないし、町に活気がないんだという。一時期外出自粛が叫ばれたころは、パトランプはついてなくて、死んだ街にいるかのように寂しかったとのこと。パトランプがまわっててよかった。
円頓寺商店街からさらに西の方にいくと、ノリタケの森というのがあるので行くべきだ、とT君から指令が来る。
ノリタケの森は、陶磁器メーカー「ノリタケ」が運営する複合施設だ。雰囲気はとてもよかった。オシャレな食器が山盛りであり、名古屋出張や旅行に行ったらここで食器を買ってお土産にすれば、ポイントは高くなるに違いない。
札幌に行った時にサッポロビール工場を観光したことを思い出した。でもノリタケの森は知らなかった。なんで札幌はイメージがあるのに、名古屋のノリタケの森は知らなかったのか。そんな疑問のメッセージを名古屋の友人に送った。
「名古屋だから(マイナー)」と返ってきた。
ノリタケの森から少し歩くと大人の風俗店が出てきた。ギャップがすごいとメッセージを送った。
やはり「名古屋だから(全てが混ざる)」と返ってきた。
「名古屋だから」は仕事中にも爆速で入力可能な、名古屋を説明するマジックワードだ。仕事の邪魔をしてごめんよ、T君。
ところで名古屋といえば赤い名鉄電車だ。名鉄名古屋駅は、日本でもこれ以上ないほど客も電車も駅員も忙しそうな駅で、見ていて楽しい。
ノリタケの森は、名鉄名古屋から一駅目の「栄生(さこう)」という駅の近くにある。ノリタケの森から栄生駅まで歩いた。
駅に入ろうとするとそこに「シルビアコーヒー」という喫茶店があり、「電車が見えます!」と書いてあった。名鉄が見放題!その魅惑にふらふらっと吸い込まれた。
確かに店内からは目の前を名鉄が走っているのが見える。名鉄ばかりかJR東海道線や新幹線がひっきりなしに走る上に、たまに貨物列車まで走るのでたまらない。絶景な上に見ていて飽きなかった。
電車が見られるという言葉につられての入店だったが、ここは名古屋名物、喫茶店。コメダ珈琲店で見たような、ボリューミーで分厚いトーストがメニューにあった。さすがだ。
気づいたら12時を過ぎ、お腹が空いた。ビジュアルにつられてカルボトーストを選ぶ。それは名前のとおり、4枚切りのような厚いパンをカルボナーラに浸したもので、これひとつでお腹がいっぱいになった。おそるべし。
シルビアコーヒーでは、コーヒー飲み仲間のおばちゃん4人が話していた。なぜかひとりのおばちゃんが延々話していた。
あまりに声が大きいのできこえてしまったところでは、知り合いで離婚した人がいる、我慢して生きるものだ、介護が大変などという内容で、方言を知らない僕としては毒舌気味に聞こえた。
本当はおばちゃんたちにお勧めの近所の場所を聞こうとしたけれど、とても聞けるような状況ではなかった。
僕は名古屋の友人T君に「なんかおばちゃんがムッとしながら大声で延々と話してるんだけど」とメッセージを送った。
T君からはまたも「名古屋だから」というメッセージが返ってきた。
店員さんに「名鉄乗ってどこか近所に行きたいんですが」と聞いたところ「ニシビは面白い」と答えてくれた。
ニシビとは「西枇杷島駅」のあたりで、西枇杷島駅ば当サイトの記事「西枇杷島駅のホームに人がいないのには訳があった」でも紹介したような、謎駅らしい。西枇杷島駅は電車が30分に1本しか止まらないので、準急が止まる「二ツ杁(ふたついり)」という駅から行きなさい、と店員さんが優しく教えてくれた。
ついでに「「二ツ杁」の「杁」の字はあまりみない字かもしれないけど「いりなか」の「いり」と同じですよ」という知識を教えてもらった。まずはいりなかを知らなければいけないと思った。(いりなかという駅があり、由来としては「杁中」なのだそうだ)
二ツ杁駅からちょっと歩いたところに、「美濃路」という渋い建物が並ぶ、昔の街道を思わせる道があった。昭和にタイムスリップした感じで実に渋い。
一部の古い建物は改装されて、ちょっとした観光案内所や駄菓子屋に変えられている。また見たことないほど年季のある現役の銭湯もある。僕がいった昼間は開いてなかったが16時から開くとのこと。
渋すぎる銭湯の近くにあった、80円で何が出るかわからない自販機でジュースを購入してみた。2回購入したら2回ともサンガリアのジュースが出てきた。
僕は名古屋の友人T君に「えらい渋い所に来た」と写真を添えて伝えた。T君は「なにここ、知らない!」と驚いた。マイナーなところらしい。そのつぎに「名古屋は古い家が多いんだよー」というメッセージが届いた。名古屋も清州も渋い家が多いらしい。
昭和の駄菓子屋をモチーフにした店に入る。
ここは名古屋市ではなく隣の清須市で、織田信長のゆかりの地だからだろう、「清州城信長ポークカレー」というのが売られていた。愛知発祥のCoCo壱番屋と、名古屋味噌「つけてみそかけてみそ」、「鬼ころし」の愛知3種合体コラボだ。
今でいうトレーディングカードのようなものも展示されていた。昭和の駄菓子屋にはたまに当時の有名人グッズがあるので侮れない。今では入手が非常に難しい。レア度はリアルSSSだ。顔に哀愁があって実に味わい深かった。
――ヴィクトル・コンスタンチーノヴィチ・スタルヒン(1916年5月1日 - 1957年1月12日)は、昭和期前半の日本プロ野球選手(投手)。ロシア帝国生まれ、北海道育ちの無国籍。日本プロ野球界初の外国生まれの選手である。沢村栄治、野口二郎、藤本英雄と並ぶプロ野球黎明期の大投手。
…とのこと。なるほどすごい選手だスタルヒンさん。もう他界して半世紀以上経つ人のカードというのは見たことがない。レジェンドなカードを見られた。来た甲斐があった。
気づいたら二ツ杁駅の隣駅「新川橋駅」まで歩いていた。
お腹が空いたので周りを見渡すと、やはり喫茶店のような外観の「プチレストラン・ベル」があった。ふらっと入ってみると、これがまた昔懐かしい暖かな内装でたまらない。
ふらっと入ったこの店の売りは、名古屋名物あんかけスパゲティ。
なんでも名古屋名物「あんかけパスタ」発祥が「そ~れ」という店で、その店の当時の味や食感を忠実に再現しているのだという。だからあんかけパスタにはこだわりがあるのだ。
あんかけ信長スパというのを食べて気を注入する。喫茶店というかプチレストランというか、「名古屋エリアのこの手の店は、店ごとにこだわりがある」とは友人T君の弁で、なるほど面白いわけだ。
「散歩して見つけた喫茶店で必ず一品ずつ何かを頼む」という企画をやったら、面白く美味しくもある反面、100mと進めないのではないだろうか。
少し歩くと枇杷島駅という駅があるので、そこに向かう。JRで名古屋から一駅目なのだそうだ。ここにはJR以外に「城北線」という路線があるので、乗ってみることに。
名古屋の友人T君に告げると、「城北線、なにそれ?」と聞かれた。住民でも知らないのか。「いやー、車社会なんで城北線は職場でも話に出たことないですねえ」という。名古屋駅から1駅目でそんな幻の路線が走っているのか。
とりあえず次の駅まで切符を買う。枇杷島駅に行ったら1両編成のちっちゃい電車、いや未電化のディーゼルカーが待っていた。小さな親子連れがいたので、城北線に乗るか見るかするのだろうと思い、観察してみた。しかし親子は城北線に背を向け、新幹線を見ていた。がんばれ城北線。
のんびり出発し、ごとごとと高架をあがっていく。1両編成の路線にしてはえらいしっかりしたつくりの線路を走っている中、T君が急いで調べてくれて、2つ目の「小田井」という駅で降りるように指示される。
小田井駅の高架の建築美は絶景ですごかった。思わず写真を撮りまくった。
しかしT君が見せたかったのは高架ではない。そもそもT君は城北線を知らなかったのだ。
小田井駅から歩いて行ける喫茶店のチェーン「珈琲屋らんぷ」がお勧めなのでぜひ行ってほしいという。また喫茶店か。喫茶店のために移動するものなのか。でもその考えは自分にはなかっただけに、斬新で面白く思えてきた。
なんでもT君が薦める珈琲屋らんぷは、名古屋の繁華街ではなく、ちょっと中心から離れたところにあるという。ワッフルが名物なので食べて欲しいという。別腹か。
・・・行ってみると、確かに珈琲屋らんぷは上品な雰囲気で、なかなか他の地方にないような喫茶店だった。
周りの席ではおばちゃんが延々としゃべっていた。名古屋の喫茶店は広東の飲茶の店のような、コーヒーをしばいて、スイーツを食べる、そんんな生活の場所のように思えた。
T君は「名古屋には何もないから。東京大阪福岡でイベントがあっても名古屋ではイベントがない。名古屋飛ばしがあるから。」と自虐的だった。しかし喫茶店にだけはこだわりがあり、お勧めの喫茶店がたくさんあった。
訪れた喫茶店には名古屋人の生活空間があり、食のこだわりがあった。
自虐的な名古屋の人たちでも、推しの喫茶店はどこ?と聞けば、それぞれがお勧めの喫茶店を教えてくれるんじゃないか。
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