特集 2018年11月14日

ミャンマーではラーメンライスが朝ごはん

ミャンマーの朝食は麺料理が中心。

これでもすでに驚きだけど、なんと現地ではそこに「ご飯を足して食べる」という。なんだそれ、完全にあの、「ラーメンライス」じゃないか。日本のB級どころかC級グルメな食べ方が食習慣になっていると。食べてみたかったのでその夢を叶えに行った。

1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

前の記事:ミャンマーの民族衣装は最強の部屋着だった

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朝食界のミャンマー代表・モヒンガー


朝食べられる麺料理、その定番中の定番が「モヒンガー」だ。というより、麺料理のカテゴリーを越えて朝食界のミャンマー代表と言ってもいい(らしい)。

 

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価格はだいたい400チャット、なんと30円弱!300円じゃなくて!

ナマズがほろほろに崩れてなくなるまで煮込んで濾したスープ、そこに米粉麺が入ればモヒンガーがいっちょあがり(やたらと簡単に言えば)。さらに追加のトッピングで、豆のかき揚げ、ひょうたんの天ぷら、あひるのゆで卵、などを入れ、全部乗せでも70円に満たないという、ミャンマーにおいても庶民の味方であるモヒンガー。

 

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ウマイ!

ライターの西村さんが突然出てきたのは、ほかの原稿と混ざってしまったからではない。単にいっしょに行ったからです(そして私がモヒンガーを食べる写真を撮り損ねた)。

で、そう、モヒンガーはウマイ。

淡水魚の風味は強いが、泥臭さはなく旨味の輪郭をシッカリと感じる。ドロリとしてザラリとしたおもみのあるスープは、軽く細い麺との相性も抜群。ひょうたんの天ぷらはカリカリの衣とジュワッとした具の食感は、すごく好物だけどめったに会えない、あの大根餅に近い。まさか、はじめて食べるひょうたんが揚げ物であろうとは。

ちなみにこのモヒンガー、地域によって特色が違い、最大都市のヤンゴンはドロドロ、一方で南部モン地方はアッサリという。そこではお互いの味を「あんなのはモヒンガーじゃない」なんて言い合う論争もあるんだとか。

 

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南部モン地方のモヒンガー(提供:板坂真季

それではここからが本題です!ラーメンライス!

日本のラーメンライスは「麺を食べたあとに米を入れる」けど、なんと、このモヒンガーは「最初から米を入れる」のです。「いや~今日はもっとたくさん食べたいな~」と思ったお客が、ご飯も追加で頼んでボリュームアップ!麺米混在という点ではまるで「そばめし」のような食べ方をスープ麺でやる、といえるのかもしれません。

ただ、これはもっぱら働き盛りの男性に多い食べ方で、女性には見られない。それでもお店でけっこう見かけるので日本のラーメンライスに比べて一般的、らしい。

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在住者の友人(上の「提供」にある板坂さん)が実演してくれた。

おぉ、思った以上にねこまんま。

どうでもいいが、我が家では幼い頃に兄がときどき「マゼルキーや!」と言って味噌汁とご飯を混ぜて食べていた。「マゼル」は分かるが「キー」はまるで分からない。今度その意味聞いてみよう。ほんと、どうでもいい話だったが。

で、この食べ方、日本のラーメン屋なら店主の矜持次第ではぶん殴られそうな話である。麺を食べたあとでもそれはそれで怒られそう(ラーメンライスはインスタント麺でやるイメージだし)。でも、こっちではふつうの食べ方。単純に食べづらくないの?というと、モヒンガーの麺は柔らかく、スプーンで切るように食べるため問題はないのだそうだ。

食べたい、俺も。

 

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いただきます!

 

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はい、ウマ~イ!

なるほどウマイ、これはウマイ!味は説明した通りだけど、米にも合う。そもそも米粉麺が入っているのだからそりゃ合うわって話だけども。しかし、板坂さんによると、「ミャンマーにはまだまだ麺料理があるが、この食べ方はモヒンガーだけ」だというらしい。

え、なんで?麺料理があるならあるだけやったらいいじゃないか。単においしくないのか、そうではない理由がほかにあるのか。ならばよかろう、私が試そう。グルメ革命はいつだって外界から来た者が起こすのだ。知らんけど。 

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「手づかみで食べる人もいる」と聞いて挑戦し、当然熱がる西村さん。
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てぇへんだ、ミャンマーの麺料理ぜんぶめっちゃウマイ!


ミャンマーの朝食は「ラペッイエサイン」と呼ばれる大衆喫茶店でよく食べられる。

 

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店舗のひとつ、現地で「Classic」という洋風の店名は珍しいらしい。

 

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大箱な感じが個人的に大好き。落ち着く。

滞在中、この「ラペッイエサイン」という発音が一度も覚えられず、「あのライペイサンは…」「昨日のライペイサンに…」と繰り返し間違えては板坂さんから教えを乞うことになった。雷平さん、どこのだれだか知らないが引力が強すぎる。ありがとうを意味する「チェズーバ」は、「『地図は』をなまらせて言う」と教えられてようやく覚えられた。

ミャンマーではそもそも、国民の9割が信仰する上座部仏教の教えから、「食事は振る舞われるもの」という考えが強く外食産業が盛んじゃない。でも単身者など、ないと困る人もいる。だからか競争は控えめで、朝食が食べられるお店はこのラペッイエサイン(大衆喫茶店)の形式が定番となっており、かつメニューは大概どこも似たものがあるらしい。

 

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ベトナムと同じ、いやそれ以上に店員が多い。
まるで分身の術だ、服装や髪型まで同じだから。

 

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彼女たちの視線の先には仏教チャンネルが流れていました。

そして、ラペッイエサイン、というよりミャンマーの朝食のすごいところ。

 

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メニューのコラージュ写真です。

上の写真、お分かりだろうか。一店舗のメニューに、肉まん・シュウマイ・油条などの中華料理、サモサ・カレー・チャパティ・チャイなどのインド料理、パウンドケーキなどのイギリス料理、ロティ(クレープ)などのタイ料理、そしてミャンマー料理…。つまり、5カ国の料理が定番メニューとして混在している。

ミャンマーはその地理・文化的な環境から「食文化の交差点」でありつづけたため、このような光景が見られるそうだ。と、板坂さんがまるっと教えてくれた。受け売りです、というかミャンマー知識ほとんどそうだけど。では、そんなラペッイエサインの多くで食べられるミャンマーの麺料理を紹介します(モヒンガーは省略)。味については後ほど。

 

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シャンカオスエ、65円くらい。

 

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トーフヌエ、65円くらい。

 

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コーイエカオスエ、100円くらい。

 

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オンノウカオスエ、80円くらい。

 

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絶景かな~!

もうね!見た目でゼッタイウマイと思わない?いや俺食べたから知ってるけど。ウマイんですよねこいつら…。ちなみにお察しでしょうが、「カオスエ」がこっちの「麺」です。

 

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朝から麺料理をいくつも食べる

シャンカオスエとトーフヌエはミャンマーではビルマ族に次いで多いシャン族発祥の麺料理(といっても、ビルマ人3000万人弱に対して200万人くらいとかなり差はある)。このシャンの語源はシャム、つまりタイの旧名で、タイを主に構成するタイ族(厳密には小タイ族)とルーツは同じとも言われている。

こうした数世紀十数世紀に渡る民族のダイナミックな分布が分かってくると、いかに現在ある国境の歴史が人類史に対してめちゃくちゃ浅いものかということを感じます。

御託が長引いた。

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ぶっこもう!かっこもう!ミャンマーのラーメンライス


と、いう訳で、これらの麺料理にご飯をぶち込んだらどうなるの?ウマイの?それとも?試してみたい。

 
それぞれの残り汁たち。トーフヌエは油そば的存在なので麺もちょい残し。

でもその前に少し気になることがある。先述のようにこれ、日本のラーメン屋でやったら怒られるまではなくとも店主がいやがることは間違いない。心配だ、と思って板坂さんに聞いてみたら、「モヒンガーもご飯を入れるし、それ以外に入れているのは『変な外国人』と思われるだろうけどいやがられることはない」とのことでした。

 

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変な外国人と思われる?いまさらだよ!

■シャンカオスエのラーメンライスの感想
透き通ったアッサリとした鶏ガラスープに、ピリ辛のタレがのってある。ゴマも散らされており、日本人のほとんどが嫌う要素が見つからない。麺は米粉麺。 

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そんなシャンカオスエにライスを…どっぼん!

・明らかにチゲ、チゲクッパ
・スープが減ったことでタレの味が強調されている
・辛くてゴマが多いあたり、あっさりめの担々スープ雑炊という感じ。

一言で言うと、めちゃくちゃうまい。

■トーフヌエのラーメンライスの感想
黄色いものがトーフだが豆腐じゃない、シャン族伝統食材のひよこ豆やエンドウ豆でつくられたペースト。食感はまんまゴマ豆腐という感じで、これは本当に大好きなやつ。粘り気もあり、油が混ざって崩れると見た目は完全にスクランブルエッグに。濃いめの甘辛いタレとは相性バツグン。麺は米粉麺。

 

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トーフヌエにライスを…どっぽん!

・これもまたシャンカオスエと同じでタレがうまい
・このタレを玉子でとじてご飯にのせてもゼッタイうまい
・ただしご飯の食感の存在感が全具材中最弱、かさは増すけどそれだけ。
・やったはもののもともと油そば的なものなので、ラーメンライスというより混ぜご飯。

一言で言うと、おいしいけどこれなら麺がいいかな。

■コーイエカオスエのラーメンライスの感想
アワビスープをそのまま麺に!という感じ。目隠しされて食べさせたら日本の中華料理店にいると思いそう。そのため、「これが●円で!?」と味とは違うところで感動してしまう。

 

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コーイエカオスエにライスを…どっぽん!

・完全にアワビの入ってないアワビ雑炊
・したがってウマイ

一言で言うと、これふつうにウマイアワビ雑炊(アワビ抜き)だよね。

■オンノウカオスエのラーメンライスの感想
ココナッツミルクがまろやかなカレースープ麺に、玉子麺が入り、揚げた麺がのってある、タイ在住者やタイ料理好きならご存知のカオソイに酷似。それもそのはず、こっちがルーツと言われている。ココナッツミルクは足が早いので、朝にしか食べられない麺料理らしい。

 

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オンノウカオスエにライスを…どっぽん!

・ウマイ!!お前がナンバーワンだ。
・よく考えたら、カレースープだから当然とも言える。
・タイにはココナッツミルクで蒸した米もあるし、もはや約束された美味しさか。

一言で言うと、まろやかなカレーリゾット。

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「安いからこそラーメンライス」は日本もミャンマーも同じ


ラーメンライス化でおいしかった順に並べると、このようになりました。

1.オンノウカオスエ
2.コーイエカオスエ
3.モヒンガー
4.シャンカオスエ
5.トーフヌエ

※個人の感想です

 

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ご飯投入前の見た目をもう一度(モヒンガー除く)。

基本的にはどれもおいしかったんだけど、意外にもモヒンガーは真ん中の3位に。とくに、1位はカレー、2位はアワビスープ、と、日本人には馴染みのあるご飯と相性の良い味だった点が大きかった。4位の担々スープも雑炊にしたって違和感ないし。いやほんと、2・3・4位は、同点タイみたいなもんです。

だけど冒頭でも書いたように、ミャンマーのラーメンライスはモヒンガー一択。それ以外の組み合わせがあって良さそうだけど、板坂さんいわく「やはり安いからではないか」とのこと。たとえば、マイベストのオンノウカオスエは、その足の早さから値段も高いため「ごちそう麺」の扱いで、結婚式や法事などの特別なときに出てくるほどなんだとか。

ご飯を入れるにはもったいない。ともすれば、「なぜモヒンガーにご飯を入れるのにオンノウカオスエには入れないの?」という疑問は、日本人にしてみれば「なぜインスタントラーメンにご飯を入れるのに一風堂のラーメンには入れないの?」と似ているのかもしれない。一風堂でも一蘭でも、天下一品でも、そこそこの値段のお店ならどこでもいいが。

つまり、モヒンガーとは、「ラーメンライスという食べ方が許された庶民的な料理」という位置づけなんだ。その点では、ラーメンライス=インスタント麺という日本の考え方とも根っこのところでは共通していると言えるのではないでしょうか。


インスタントモヒンガーでも✕ライスはわりといけた


モヒンガーにはインスタント麺もあったので(450チャット、およそ33円)、家でもラーメンライスをやってみた。商品自体も高い完成度で、ご飯もよく合う。正直色味はドブみたいでちょっと抵抗があったのですが、それはあくまで見た目だけ。日本にはない味でありながらもおいしいです。アジア系食材店で見かけたらお試しくだされ! 

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パッケージは典型的な全乗せモヒンガー。
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スープに対して少なくて麺が少なめ…もしやラーメンライス前提!?

 

 

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