タイパンツの代替品のつもりで買ったロンジー
下品な話で恐縮ですが、家ではだいたいパンイチです(Tシャツは着る)。でも、イスに長時間座っていると太ももの裏は実に蒸れるし、やっぱりズボンは必要だな、でも暑いな、と最近小さな悩みを抱えてました。あぁ、それなら。(拠点の)タイにはいい感じに生地がペラペラのタイパンツがある。あれはいいんじゃないか。
部屋着にもなるし、ペラペラゆえに旅行の荷物も軽くなって一挙両得。しかし意外と近所では見つからず、ミャンマーへの出発日が近づき諦めかけていたとき、周囲から「ミャンマーならロンジーがあるよ」と言われた。
いやいや、だってあれ、スカートだぞ。楽…かもしれないけど、部屋着にする気はさすがに起こらん。とはいったものの、時間もなければ選択肢もなかったので、結局のところ現地で買うことにした。だが、これがまさしく大正解!今では比べるまでもなく、ロンジーこそが最強の部屋着ではないかと思っている。
ロンジーは現役バリバリの民族衣装
その魅力を語る前に、まずはミャンマー人にとってのロンジーの立ち位置について説明しておきたい。
民族衣装というと日本では着物でしょう。だが戦前まで遡ればともかくも、大半の人にとってハレの日以外にはそうは着ない。だが、これがミャンマーでは、日常的にトコトン着倒す現役バリバリの民族衣装なのです。
着ていない人といえば、二十歳前後の若い男性くらい。後者はジャケットを着込んでパキッとしたツーブロックヘアスタイルで決めていたりなど、「ロンジーなんて着てられっかよ!これからはジャケットにズボンだぜ!」という、世界規模では周回遅れのパンク精神を勝手に想像して微笑ましく感じてしまう。しかし、パゴダ(仏塔)では別。
ミャンマーは輪廻転生を説く上座部仏教を信仰する仏教国、日常のあらゆる基準に仏教が持ち込まれる。
「親切」と語られがちの国民性は、「良い来世を迎えたい」と願っての功徳が肝にある。同時に、辛いことがあっても「前世で悪いことをした」と考えるらしい。魂は転生すると考えるのでお墓もない。もちろん、国民全員が仏教徒という訳ではないのですべてとは言わないものの、それが一般的であると聞く。
そんなミャンマー人にとって信仰上重要な場所が、パゴダ。現地にいる時期はお祭り期間ということもあって女性はよそ行きの服を着ている人も多かったが、ここでの正装も実はあのロンジー。逆に言えば、正装を普段着として着ているということで、信仰と日常生活に境目がないことの裏付けとも言えるでしょう。
市場にショッピングセンター、ロンジーはどこにでもある。値段もピンキリで、買ったものでは安物が3000チャット(約210円)で贈答用が26000チャット(約1850円)という離れぶり。在住者の友人は贈答用を見て「これは結婚式も行けるわ」と言ったが、どこでその判断をするのかミャンマー素人にはまるで謎。
語らせてほしい、最強の部屋着・ロンジーのその魅力!
そんな訳で買ってみたロンジー。
一説によると結び目は男性器をあらわしているとか。なるべく大きく、そして中央に向いてないとダメ。さしあたってこれは右曲がりでかつ小さいということで、ミャンマー人男性的には褒められるところがない。ふたつ前の写真はその点でとてもいい感じだと思うので、ロンジーを着るときの参考にしてほしい。
で、これがすごく楽なんです!考えてみればスカート自体が人生初。それではここから、ロンジーの魅力についてひとつひとつお伝えしたいと思います。証明したい、ロンジーが最強の部屋着だということを!
なお、ロンジーモデルが自分しかいないのでここからやたらと私の生足が出てきますが、社会的ニーズがゼロということは承知の上です。
■魅力1:前方の通気性が高くて歩きやすい
余った布が前方に来るように折り畳まれるので、男性の大事な部分が常に最高の通気性。蒸れない。ハーフパンツは肌が露出する分だけ涼しいけど、日光が当たりすぎると暑い。ロンジーは空気の層で日光から守ってくれる(ポカポカして気持ちいいくらい)上に、歩くときも足の動きを抑えずに、可動域を殺さない!
■魅力2:緊急時や段差を上がるときは岡っ引きスタイルで
丈の長さを調整できるロンジーだけど、あまりに短いと(ミャンマー人的に)不格好で、さすがに膝上まで詰めてしまうとロンジーというよりもはや純然たるスカートになる。
完全に主観だけども、ロンジーはそうでもないのにスコットランドの兵士が着る民族衣装にスカート感を感じるのはやはり長さがポイントだと思うのです。
しかし、前方にスペースがあるとはいえ、走ったり階段を上がるときには邪魔になる訳で、だけどそんなときでも大丈夫! グイッと掴んで持ち上げて岡っ引きや飛脚のスタイルに。
動きの多いバスの車掌(徴収係)も膝上くらいまで上げているそうな。
■魅力3:座っている状態で事実上のパンイチになれる
立派な下履きとはいえ、結び目を解いたら輪っかになったただの布。はらりと意図せず解けたら大変だけど、座っている状態なら解いた方が逆に楽。
ミャンマー旅行では夜行バスに乗ったのだけど、乗車中は完全に結び目を解いて、ただ腰に布を乗せているだけという事実上のパンイチ状態になっていました。
■魅力4:両足で立ったまま履ける
基本的には輪っかなので、ロンジーを頭から被るように着ることができる。でもこれって緩めのスカート全般に言えることなんですね。女装というアプローチではなく、男としてこの感覚を味わえるのはなんだか新鮮だった。
■魅力5:ポケットはないけどつくれる
ただの布なのでポケットがないかと思いきや、現地ではガンガンに腰の部分に財布やらスマホやらいろんなものを挟む。それが妙に男らしくてかっこいい。なんなら挟むことでかえって締まりを強くするので、ロンジーにとっても財布にとってもありがたい相乗効果だ。さすがに自分は、紛失が怖くてできなかったけど。
■魅力6:さわさわ感が心地よい
肌と布のこすれる感じが意外といい。現代服だと肌と布がほぼ接触しつづけているからあまり意識はしてこなかったけど、そこにある程度の間隔があると、まるで半裸状態でベッドに寝転んだときの心地よい肌触りがある。洗いたてのシーツ、とまでは言わなくとも、さわさわ感は薄手のバスケットタオルを被るような気持ちよさ。
■魅力7:ミャンマー人男性がやたらと世話を焼いてくれる
それは部屋着関係ないだろ!と言われるともっともなんですが、でも最後に言わせて。あなたが男性でミャンマー観光をするなら、安物でもロンジーは履いておいた方がきっと楽しい!なぜならみんな、積極的に着付けをレクチャーしてくれるから。人が集まるところで履き方に苦労していたら、人だかりができる勢いだろう。
空港の手荷物検査でも、職員が金属探知機でピッピーとしたあとで、わざわざ「出てるぞ」とロンジーの飛び出した結び目を正してくれた。ミャンマー人男性はみんな「ロンジーポリス」だ。
確かに、道端で柔道着を着るのに困っている外国人がいれば助けたくなるという気持ちは分かる(元柔道部)。いや、さすがに怪しすぎるな。助けないかもしれない。悩む。
一説によるとロンジーの結び目は男性器をあらわしているとも言われるそうで、なるべくみんな大きく見せようとするそうです。となると空港職員に正された私の結び目は、さしずめ「ハミチン」を直してくれたようなものだったのかもしれない。
ちなみに女性はずり落ち防止のために紐が付いているので、助けてもらう必要はなさそうです。これに関しては、「ロンジーずり落ちあるある」という体験を共有している男性だけの特権だ。
お気づきの人も多いと思うけど、今まで挙げた特徴がすべて共通する民族衣装を、我々日本人はすでに持っている。それは、着流し、あるいは袴。
スカートだと聞くだけでは躊躇するけど、実際にロンジー姿の男性を見て妙に決まってるなぁと感じていたのは、それらにシルエットが似ているからだとあとになって気づいた。
ユニクロさん、ロンジーをプロデュースしてくれ。
これからもロンジーを部屋着として着るだろう。でも、外で着るにはやっぱりまだ躊躇してしまう。スカートだと思われても困るし、ミャンマー人からビルマ語で話しかけられても困る。なんの義理もないけれど、ここはひとつ、ユニクロさんあたりにでもロンジーをいい感じに売り出してもらって、1ジャンルとして確立してほしいな。
ちなみに、筒状の布なので、自作することもできます。家にメジャーがないので目算になるけど、2m✕1.3mくらいの布の端を縫い合わせて、細長い筒状にすればOK。お気に入りの布を見つけて、着よう!ロンジー!