壁画にひかれて!
メキシコに行く楽しみに一つに壁画があったのだけれど、オロスコの壁画を見た時に、予定していた楽しみのハードルを軽く超えてきた。なんだこれは! という初めてマクドナルドのハンバーガーを食べた時のような衝撃。あのマックを初めて食べた時に衝撃ってすごいよね。ハンバーガーをでかくすればいいのではないだろうか。あ、それがビッグマックか。美味しいよね、ビッグマック!
壁画というものがある。壁に絵が描いてあるものだ。古くは洞窟の壁に描かれ、ヨーロッパなどでは教会に描かれた宗教的な壁画が有名だろう。日本にもたとえば、渋谷駅に岡本太郎の壁画が鎮座している。
壁画といえば「メキシコ」だ。メキシコ革命の中で「メキシコ壁画運動」というものが起きる。そのため世界的に有名な壁画がその辺にたくさんあるのだ。ぜひ見に行ってみようと思う。
渋谷駅を歩く。井の頭線から山手線へと乗り換える通路に、岡本太郎の「明日への神話」という壁画が設置されている。太陽の塔と対をなす、岡本太郎の傑作だ。色使いは暗いのだけれど、派手とも言える。
私は大きいことはいいことだ、という考えを持っている。大きなつづらと、小さなつづらなら間違いなく大きなつづらを選んじゃうタイプなのだ。舌切り雀の欲張り婆さんタイプなのだ。でも、思う、大き方がいいじゃんね、と。
壁画がまさにそうなのだ。大きいから好きなのだ。だったら、本場で見たいと思いメキシコに行った。「明日への神話」もメキシコで作られたものだ。また壁画の三大巨匠の一人「シケイロウ」と岡本太郎は親交がある。壁画が好きならば、行かねばならないのだ、メキシコへ。
メキシコは壁画の国だ。街を歩いているとよく壁画を目にする。大きいので嫌でも目に入る。大きいとは目立つことなのだ。壁画好きにはたまらない。また日本とは違うので、描かれる絵もエキゾチックと言える。
では、なぜメキシコには壁画が多いのか。それはメキシコ壁画運動というものがあったからだ。簡単に行ってしまえば、壁画を描く運動だ。そのまんまだけど。その運動の背景は後述するとして、それらの運動により、壁画の三大巨匠が生まれた。
壁画の三大巨匠はフローダカロの夫「ディエゴ・リベラ」、岡本太郎と親交があった「ダビッド・アルファロ・シケイロス」、そして、「ホセ・クレメンテ・オロスコ」である。共にメキシコ革命の原因となるディアス政権時代に生まれている。
壁画は学校や図書館などの壁に描かれていることが多い。最初に描かれた壁画も高校だった。壁画運動の狙いは、教育的なこと。壁画は多くの人が犠牲になったメキシコ革命や歴史についてのものが多い。識字率が低かった当時、それらを伝えるには絵が向いていたのだ。
キャンパスに書けばいいじゃない、と思うけれど、小さいと誰かが個人的に保管しちゃうかもしれない。そこで壁画。大きいからしまうことができないし、なんせ壁だ。誰でも見ることができる。そういう狙いもある。
また壁画に必要な材料や技法も研究された。発色をよくするには、耐久性をあげるには、など。その結果、メキシコの建設事業や塗装工事に応用され、工業の発展にもつながった。壁画はいいことだらけなのだ。
つまり何が言いたいかというと、大きいということだ。大きいだけで迫力があるので、私のような美術にあんまり興味がない人でも、「なんかすごいぞ!」というわかりやすい感動があるのだ。大きさは正義と覚えて欲しい。
正直なことを言えば、見たいと思っていた壁画は、フローダカロの夫である「ディエゴ・リベラ」のものと、過激な労働組合活動などで投獄され国外追放された「ダビッド・アルファロ・シケイロス」のものだった。でも、実際に私の心を奪ったのは違った。
ホセ・クレメンテ・オロスコは、農業を志していたけれど、いろいろあって画家となる。20歳の時に火薬を爆発させてしまい、左手を失っている。ただでさえ書くのが大変な壁画を片手で描いていたのだ。
上記は「立ち上がる僧侶イダルゴ」というハリスコ市庁舎にある壁画だ。これに私は心を奪われた。なんだろ、すごいのだ。迫力が。他の二人が暗い中にも明るい色を使うのに、オロコスコは暗いまま。そこに迫力というか情念がある。
彼が最初に描いた壁画はメキシコで受け入れられず、アメリカに拠点を移したりもしたのだけれど、メキシコに戻ってきてくれてよかった。ちなみに「立ち上がる僧侶イダルゴ」は赤が鮮やかでないのが私の心をつかんだ。
次に「オスピシオカバーニャス」に向かった。1980年まで病院機能を持つ孤児院だった宮殿のような建物だ。ここにもオロスコの壁画がある。「スペインのメキシコ侵略」と総称される50以上の壁画あるのだ。描く時、めちゃくちゃ首痛かっただろうな、と思う。
鮮やかさゼロ。プリン体ゼロでも美味しいビールがあるように、鮮やかさゼロでも、心に響く壁画があるのだ。ジョギングの後と同じような爽やかさを感じる。こんなに暗い色使いなのに爽やかさを感じるのだ。
あんまりにもオロスコの壁画に感動したので、彼がアトリエとしていた家にまで行った。特に展示があったりするわけではないけれど、ここで描いていたのかと、聖地巡礼のような感動があった。アトリエはめちゃくちゃオシャレで、あんな壁画よく描けたな、とは思った。
私は屋外広告が好きなのだけれど、その理由は「大きい」から。人の身長なんて170センチくらいなのに、屋外広告になると3メートルとかになる(デザインにもよるけれど)。巨人である。壁画にはそれがあるのだ。
サンイルデフォンソ学院の階段に描かれた「コルテスとマリンチェ」。この二人の間に生まれた子供が混血メスティーソ第1世代となる。そういうことを壁画で学ぶ。絵を見ながら話すのだ。それが壁画運動の狙い。迫力でその話は耳に入らない気がするけど。
他の壁画家とタッチが違うので、見るとこれはオロスコさんだな、とすぐにわかる。私の心のオロスコさんが囁くのだ。立ち止まれと。そして、立ち止まってしまう。だって、すごくいいから。今までオロスコを知らなかったのだけれど、名古屋市美術にも作品があるらしいので見に行きたいと切に思う。
メキシコに行く楽しみに一つに壁画があったのだけれど、オロスコの壁画を見た時に、予定していた楽しみのハードルを軽く超えてきた。なんだこれは! という初めてマクドナルドのハンバーガーを食べた時のような衝撃。あのマックを初めて食べた時に衝撃ってすごいよね。ハンバーガーをでかくすればいいのではないだろうか。あ、それがビッグマックか。美味しいよね、ビッグマック!
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