特集 2023年12月7日

マレーシアの「世界最大級」の盆踊り大会へ行ってきた

マレーシアでは毎年、各地で盆踊り大会が開催され、何万人もが集まるという。

なぜ異国の地で、盆踊りがそんなに盛り上がっているのか?自分の目で確かめるべく、ジョホールバルで開催された盆踊り大会へ行ってみた。

かなり大きい観葉植物が部屋に2つあり、どちらも枯れている。「旅のラジオ」を毎週更新中。著書に『1歳の君とバナナへ』(小学館)、『0メートルの旅』(ダイヤモンド社)、『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』(河出書房新社)。

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論争を呼ぶマレーシアの盆踊り大会

マレーシアで、盆踊りがヤバいらしい。

2019年にマレーシア南端の都市、ジョホールバルで行われた盆踊り大会には、2日間で10万人が参加したという。10万人って。もはやフェスである。この規模は、世界でも最大級らしい。ジョホールバル以外にも、首都クアラルンプールやペナンなど、マレーシア各地で開催されているという。

あまりに盛り上がりすぎて、2022年にはマレーシア政府の閣僚が、盆踊り大会に苦言を呈した。マレーシアの国教はイスラム教だが、盆踊りには「他宗教の要素が入っている」ために、参加を控えるように呼びかけたのだ。

だがこれに対し、盆踊り大会を開催する州の州王(マレーシアには州ごとに君主がいる)が、「盆踊り大会は宗教儀式ではなく、単なるイベントだ」と真っ向から反論した。こうしてマレーシア国内で大きな論争を呼んだという。結果、逆に話題を呼ぶことになって、さらに多くの人が集まったらしい。政治・宗教論争にまで発展する盆踊りって、ヤバい。

日本から遠く離れた地で、ここまで話題になっている盆踊り大会を、一度この目で見てみたい。そう思っていたら、偶然にも機会が訪れた。

知り合いの盆踊り団体が、ジョホールバルで行われる盆踊り大会に招聘されたというのだ。同行するしかない。話を聞いたその日に、僕は飛行機のチケットを手配した。近所の無印良品で甚兵衛を買って、YouTubeで代表的な盆踊りの音頭を予習した。

そして2023年7月、盆踊り大会に参加するために、マレーシアへと飛び立ったのだ。盆踊り団体の人たちとは、現地集合ということになった。

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海外旅行が復活し、大混雑の成田空港
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3年半ぶりの海外は、滑らかすぎた

海外に行くのは、実に3年半ぶりだ。せっかくなので一度シンガポールに降りてから、陸路でマレーシアに入国することにした。ジョホールバルはシンガポールのすぐ対岸にある街なので、日帰りでも訪れることができるのだ。

久々の海外旅行で、一体どんなトラブルが待ち受けているのか......そんな期待は、しかし早々に裏切られることとなった。

3年半ぶりの海外旅行で感じたことは、とにかく「滑らか」だということだ。

羽田空港からの出国はもちろん、シンガポールへの入国も自動ゲートだから、入国審査で緊張することはない。
現地に到着しても、ahamoはプラン追加なしにそのまま海外で使えるから、空港でSIMカードを探し回る必要もない。
空港を出ると、スマホで手配したタクシーがすでに迎えに来ており、無言のままマレーシアに陸路入国。車内でAirbnbを使って宿をとったが、翻訳機能が数年前より格段にアップしており、普通に日本語でやりとりしていたら、すんなりセルフチェックインできた。

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やたらと広い一人部屋

そうやって、いとも簡単に、気づいたらホテルのベッドに寝転がっていたのだった。時間がかかったのは、国境付近が帰宅ラッシュで混雑していたことくらい。誰とも会話すらしていない。

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ジョホールバルからシンガポールは日帰りできるので、たくさんの人々が国境を越えて働きに来ている

全てがあまりに「滑らか」で、物理的には移動したのに心は移動していないような、不思議な感覚に陥った。コロナ禍での非対面・非接触の技術革新は、旅の形を結構変えてしまったのかもしれない。

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屋台でもクレカのタッチ決済が使えて驚いた

大自然の盆踊り会場へ向かう

そして翌日。郊外の盆踊り会場に向かうべく、タクシーに乗り込んだ。道端で配車アプリ「Grab」を使ったら、2分で迎えに来たシームレスさにまたびっくりしながらも、僕はある問いについて考えていた。

それは、「マレーシアの盆踊り大会に、なぜ人が集まるのか?」という疑問だった。

事前にネットで調べると、「マレーシアには親日家が多いから」と解説されていた。でも、それだけだろうか。マレーシアならではの、もっと別の理由があるのではないか — 例えば、マレーシアはイスラム教が国教ではあるが、仏教徒もそれなりの割合がいる。彼らを中心に盛り上がっているのではないか。
あるいは、以前行った大都会クアラルンプールでは、多くのナイトクラブを目にした。「クラブ文化が発達しているけど、踊りのイベントが少ないから、盆踊りに人が集まるのではないか」とか。仮説としては面白いかも?

そんなことを考えていたら、タクシーから見える景色は、緑一面の大自然になっていた。「マレーバク注意」の看板まである。マレーバクが、鹿にみたいに飛び出してくるのだろうか。
そして不思議なのが、雄大な自然の中に、たまにタワーマンションのような大きな建物が現れることだ。

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自然の中のタワマン

そういえば、ここは政府が「イスカンダル計画」という10兆円にも及ぶ大開発投資を行なっているエリアの一部だという。「シンガポールみたいな経済圏を3つ作る」という壮大な計画はまだ一応進行中のようだが、現地報道では「頓挫した」とも指摘されている。現にタワーマンションからは、人の気配がしない。バブル崩壊後の日本のリゾート地を彷彿とさせるような、絶妙な侘び寂びがあった。

今回の盆踊り会場も、そんな高層建築物のひとつ — 巨大なショッピングモールで開催されるらしい。ショッピングモールで盆踊り大会!?と驚いたが、日本でもイオンモールで盆踊りが開催されたりなど、それ自体は珍しいことではないという。

タクシーはものすごいスピードで、山道に突入していく。木々の緑に紛れて、たまに建物の白が吹っ飛んでいく。ただし人影は見かけない。
Grabで手配したタクシーは、不審な動きがないか自動で本部に追跡されており、録音データまで記録されている。セキュリティ面では最低限の安心はあるが、しかしこんな場所で本当に盆踊り大会があるのか、別の不安が膨らんで仕方ない。

「here.」

タクシーに乗車して以来、運転手が最初にして最後の一言を放った。車を降りた僕の目に飛び込んできたのは......

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でかすぎるポスターだ。

「Bon Odori」と書いてある。たしかにここが盆踊り会場のようである。

タクシーを降りると、すぐにソースの焼ける匂いが漂ってきた。よかった、人がいる。

匂いのもとを辿っていくと、視界に飛び込んできたのは、たくさんの屋台。

そして屋台の周りには、

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めちゃくちゃ人がいる。超人気。

大自然から一変して、前に進めないほどの大混雑である。

タンクトップのおじさんもいれば、ヒジャブ(イスラム教徒が頭を覆う布)と浴衣を合わせたイスラム教徒の女性がいたり、『BLEACH』のキャラ「ウルキオラ」のコスプレをした青年がいたり。多種多様な格好をした人々が、ひしめきあっている。ヒジャブと浴衣の取り合わせは、よく映えて実に鮮やかであった。

屋台では、焼きそばやたこ焼きを中心に、射的コーナーや金魚すくいなんかもある。ぱっと見は、日本のお祭りそのものだ。

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金魚やスーパーボールや亀など、色々すくっていた

だがいざ売り場に並んでみると、随所に日本の屋台とは異なる、マレーシアにローカライズされた点が見つかる。

たとえばたこ焼きに入っているのはタコではなく、カニだった。「たこ焼き」という日本語表記の横に、可愛いカニのイラストが描かれていた。
その味も違っていて、やたらと甘いソースがかかっている。反面、焼きそばにはやたらと辛いソースがかかっている。「マレーシアにはめちゃくちゃ甘い食べ物か、めちゃくちゃ辛い食べ物しかない」というどこかで聞いた噂話は、この会場に限っては本当らしい。辛党と甘党の二党流の僕にとっては、天国である。

ほかにも、タピオカミルクティーに揚げ焼売を添えた迫力の飲み物があったり、

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トンカツ(めちゃくちゃ甘い)とでかい揚げポテトの串(めちゃくちゃ辛い)がセットで売られていたりと、

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カロリーの補給にも事欠かない。蕎麦にアイスを載せたスイーツもあった。まるでモンブランのような顔をして、蕎麦がおしゃれに渦巻いていた。
こんなふうにただ日本の屋台を出すだけではなく、現地向けのアレンジが色々とされているようであった。

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大人気の屋台を覗いてみたら、みんなで餅つきをやっていた

そして日本の屋台との大きな違いは、お酒が売っていないことだ。マレーシアはイスラム教の国だから当然なのだが、かと言って会場で飲んではいけない、ということでもないらしい。

入居店舗をほとんど見かけず、「テナント企業募集!」の幕が風に揺れる侘び寂びのあるこのショッピングモールで、唯一セブンイレブンは元気に営業しており、ビールがたくさん売られていた。ビールを求める非イスラム教徒(ほとんど現地日本人)の列に並んで、僕もタイガービールのロング缶を購入した。

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