特集 2021年2月17日

深海の水圧に任せずとも、カップラーメンの容器を小さくすることくらいできる

水族館の深海コーナーにはたびたび「深海では水圧が高くなるのでカップラーメンの容器がこんなに小さくなる」という展示がある。しかし、カップラーメンの容器を小さくすることくらい俺にだってできると思う。やってみようと思う。

1993年群馬生まれ、神奈川在住。会社員です。辛いものが好きですが、おなかが弱いので食べた後大抵ぐったりします。好きな調味料は花椒。

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小さくなるのは発泡スチロールの容器だけ

そもそもなぜカップラーメンの容器は深海で小さくなるのだろうか。インターネットの海で調べてみたところ、どうやら発泡スチロールの容器であることが重要な要素であるらしい。

そして環境への配慮なのかは分からないが、発泡スチロールの容器は年々減っており、今では駄菓子のブタメンくらいであるらしいことも分かった。

らしい、と書いているのはインターネット上ではブタメンが現在も発泡スチロール製かどうかの確証が得られなかったためである。実際に確かめてみるまで分からない。シュレディンガーのブタメンだ。

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分からないまま買ってしまった。紙製とかだったらどうしよう。
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明記はされていないが、この表面のぶつぶつ感は発泡スチロールだろう。よかった

無事小さくなる素質のある容器を手に入れたところで、早速小さくしていきたいと思う。

しかしブタメンを食べるのは10年以上ぶりだ。ベビースターなどでお馴染みのおやつカンパニーから出ているちっちゃいちっちゃいカップラーメンである「ブタメン」、みなさまにおかれてはご存知であっただろうか。

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熱湯を注いだあと、こうやってフォークでフタを閉じるのがいいのだ。完全に余談です

手で押すと小さくならないし、硬くて痛い

小さくしていきたいところだが、問題はその方法である。深海で小さくなるのは水圧のためということだったので、圧力をかけていけば小さくなるのだろう。

まずは愚直に手で圧力をかけてみたい。何事もスモールスタートが大事なのだ。

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よいしょ
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こうか
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こうなのか

硬い。とにかく硬い。なんとなく発泡スチロールにはもろいイメージがあるのでクシャっといってしまうのではないかと思っていたのだが、とんでもない。押している手の方が痛くなる硬さだ。

いくら押してもびくともしない。これが企業努力か......!

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押しすぎて手にくっついた。物理でいくタイプのマジシャンだ
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撮影を手伝ってもらった友人にも押してもらった。押しながら「結構小さくなってきたよ」と言っていたが、うそだと思う。

深海のブタメンがミニチュアのように小さくなる理由として、水圧によって全方向から均等に力がかかるためというものがある。一応こちらも様々な方向から力をかけてみたので、圧縮前と比べてみよう。

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左が元のブタメン、右が手で圧をかけたブタメンである

全く小さくなっていない。しいて言うなら右のブタメンの方がフチまわりがひしゃげている。しかしそれは単純に手でつぶしてしまったためだ。

やっぱりだめか。硬かったもんな。

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あまりに押しすぎて亀裂が発生していた。ブタメン的にドクターストップだ
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水圧で押してみる

そもそも深海では水圧で小さくなるというのだから、こちらも水圧で押してみるのが筋だろう。水の中に入れたブタメンを水ごと押せば、ブタメンにまんべんなく水圧が伝わり
小さくなるはずだ。

論理展開としては100点だと思う。何千年も進化を続けてきた人類としては何点だろうか。

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水の中に入れて押せばいいのだろう。簡単なことだ
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よいしょ

怖い。何が怖いって水がパンパンに入ったビニール袋を思いきり押しているので、いつ破裂するか気が気でないのだ。とても力が入れづらい。

しかし写真をよく見てほしい。ブタメンの側面がねじ曲がっているのがお分かりだろうか。

これはひょっとして横にひしゃげているのではないだろうか。水中の光の屈折という可能性もあるが、実際に水圧でひしゃげている可能性もあるのではないか。

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横に圧がかかっているのではないか?
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今度は縦か?縦にもひしゃげているのではないか?

気泡が出たぞ、と友人が言う。彼は大学時代に化学を専攻していたのだが、曰く発泡スチロールは収縮させると隙間に入っていた空気が漏れ出てくるらしい。

確認すると確かに気泡が見えた。これは小さくなっているに違いない。

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「ブ」の上あたりに小さな気泡が見えるだろうか。圧縮の確かな証拠である。

見た目としても物証としても小さくなっていることが伺える。取り出して比較してみよう。

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全く変わっていなかった

ビニール袋から取り出した瞬間、原寸大の、ただびしょびしょになったブタメンが顔を出した。気泡とはなんだったのだろう。

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念の為近づけてみた。右が水圧で押した方です。

熱の力を借りよう

直接の圧力も、水圧もだめ。これでは人類の叡智の名折れである。

もう圧力でなくてもいい。とにかく小さくなればいい。そう思って再びインターネットの大海に潜ってみたところ発泡スチロールは熱を加えると収縮するらしいことが分かった。それだ。とにかく小さくすることさえできればよいのだから。

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何卒よろしくお願いします。

化学専攻の友人曰く、オーブンならば全体にまんべんなく熱が加わるため都合がいいとのことだった。本当だろうか。先の気泡の件を忘れてないぞ。

食べ物以外をオーブンで熱したことがないので、とりあえずおそるおそる30秒ほど熱してみる。

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加熱後。あまり見た目は変わっていない?
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これは!?

ブタメンの内側が熱する前よりザラザラになっている。このザラザラは深海の展示でみた容器と同じザラザラだ。これはひょっとしてひょっとするのではないか。

ついに収縮の兆しを見せたので、さらに熱してみる。

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あ!
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形が変わったぞ!

手で押した時や、水圧で押した時とは明らかに異なる変化が現れた。上からひしゃげているのだろうか、それとも全体的に小さくなったのだろうか。ともかく取り出して見てみよう。

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こんな感じになりました
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横から見てみるとさらに変化が分かりやすい

やった、ついにやったぞ。内側に巻き込むような形で小さくなっているじゃないか。

どうだ深海、人類もまだまだ捨てたものじゃないだろう。

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並べてみた。上部が消失するような形で小さくなっている
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上から見ると直径自体も小さくなっていることが分かる

上部だけでなく、きちんと全体的にも小さくなっているようだ。人類の叡智は熱にあったのだ。

熱する秒数を変えて色々と試してみよう。

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あれよあれよと小さくなっていく
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やりすぎちゃった

熱しすぎてしまった。どうやら小さくなるための温度の臨界点のようなものがあるらしく、臨界点をすぎると一気に小さくなるのだ。

目を離すとすぐ上の写真のように小さくなってしまう。かといって少ない秒数で小刻みに熱しても臨界点に達しないらしく、いくら回数を重ねても小さくならない。

いい具合で加熱を止める調節が難しいのだ。ブタメン収縮は職人芸だ。

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ずいぶんシュッとしたね

また、普通に熱していると上部から崩れ落ちるように小さくなっていく事が分かったので、途中でひっくり返して熱してみるなどした。これなら全体的にちょうどよく小さくなるんじゃないか。

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ならなかった。むしろ肥大化すらしているようにみえる
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途中でひっくり返して熱したブタメンの底面。それはどういう状態なんだ

この後も何度か実験を繰り返し、最終的には次のような形となった。

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深海の展示ができました

どうだ見たことか。深海に任せずとも、人類は自らの力でブタメンの容器を小さくすることができるのだ。

最後に本物の深海の展示と比べてみたい。

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深海の展示
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家の展示

思っていたよりも形が違った。深海の方が明らかに綺麗だ。
やっぱり深海はすごいな。


深海のように綺麗にとはいかなかったが、ブタメンの容器を小さくすることができた。「カップラーメンの容器を小さくする」ということ自体は達成できたので、これでいいのだと自分に強く言い聞かせたい。

ブタメンがどうやっても小さくならなかった時のためにこういったものも用意していたのだが、出番がなくて本当によかった。

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錯視で左の方が小さく見えるやつです
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