深海のように綺麗にとはいかなかったが、ブタメンの容器を小さくすることができた。「カップラーメンの容器を小さくする」ということ自体は達成できたので、これでいいのだと自分に強く言い聞かせたい。
ブタメンがどうやっても小さくならなかった時のためにこういったものも用意していたのだが、出番がなくて本当によかった。
水族館の深海コーナーにはたびたび「深海では水圧が高くなるのでカップラーメンの容器がこんなに小さくなる」という展示がある。しかし、カップラーメンの容器を小さくすることくらい俺にだってできると思う。やってみようと思う。
そもそもなぜカップラーメンの容器は深海で小さくなるのだろうか。インターネットの海で調べてみたところ、どうやら発泡スチロールの容器であることが重要な要素であるらしい。
そして環境への配慮なのかは分からないが、発泡スチロールの容器は年々減っており、今では駄菓子のブタメンくらいであるらしいことも分かった。
らしい、と書いているのはインターネット上ではブタメンが現在も発泡スチロール製かどうかの確証が得られなかったためである。実際に確かめてみるまで分からない。シュレディンガーのブタメンだ。
無事小さくなる素質のある容器を手に入れたところで、早速小さくしていきたいと思う。
しかしブタメンを食べるのは10年以上ぶりだ。ベビースターなどでお馴染みのおやつカンパニーから出ているちっちゃいちっちゃいカップラーメンである「ブタメン」、みなさまにおかれてはご存知であっただろうか。
小さくしていきたいところだが、問題はその方法である。深海で小さくなるのは水圧のためということだったので、圧力をかけていけば小さくなるのだろう。
まずは愚直に手で圧力をかけてみたい。何事もスモールスタートが大事なのだ。
硬い。とにかく硬い。なんとなく発泡スチロールにはもろいイメージがあるのでクシャっといってしまうのではないかと思っていたのだが、とんでもない。押している手の方が痛くなる硬さだ。
いくら押してもびくともしない。これが企業努力か......!
深海のブタメンがミニチュアのように小さくなる理由として、水圧によって全方向から均等に力がかかるためというものがある。一応こちらも様々な方向から力をかけてみたので、圧縮前と比べてみよう。
全く小さくなっていない。しいて言うなら右のブタメンの方がフチまわりがひしゃげている。しかしそれは単純に手でつぶしてしまったためだ。
やっぱりだめか。硬かったもんな。
そもそも深海では水圧で小さくなるというのだから、こちらも水圧で押してみるのが筋だろう。水の中に入れたブタメンを水ごと押せば、ブタメンにまんべんなく水圧が伝わり
小さくなるはずだ。
論理展開としては100点だと思う。何千年も進化を続けてきた人類としては何点だろうか。
怖い。何が怖いって水がパンパンに入ったビニール袋を思いきり押しているので、いつ破裂するか気が気でないのだ。とても力が入れづらい。
しかし写真をよく見てほしい。ブタメンの側面がねじ曲がっているのがお分かりだろうか。
これはひょっとして横にひしゃげているのではないだろうか。水中の光の屈折という可能性もあるが、実際に水圧でひしゃげている可能性もあるのではないか。
気泡が出たぞ、と友人が言う。彼は大学時代に化学を専攻していたのだが、曰く発泡スチロールは収縮させると隙間に入っていた空気が漏れ出てくるらしい。
確認すると確かに気泡が見えた。これは小さくなっているに違いない。
見た目としても物証としても小さくなっていることが伺える。取り出して比較してみよう。
ビニール袋から取り出した瞬間、原寸大の、ただびしょびしょになったブタメンが顔を出した。気泡とはなんだったのだろう。
直接の圧力も、水圧もだめ。これでは人類の叡智の名折れである。
もう圧力でなくてもいい。とにかく小さくなればいい。そう思って再びインターネットの大海に潜ってみたところ発泡スチロールは熱を加えると収縮するらしいことが分かった。それだ。とにかく小さくすることさえできればよいのだから。
化学専攻の友人曰く、オーブンならば全体にまんべんなく熱が加わるため都合がいいとのことだった。本当だろうか。先の気泡の件を忘れてないぞ。
食べ物以外をオーブンで熱したことがないので、とりあえずおそるおそる30秒ほど熱してみる。
ブタメンの内側が熱する前よりザラザラになっている。このザラザラは深海の展示でみた容器と同じザラザラだ。これはひょっとしてひょっとするのではないか。
ついに収縮の兆しを見せたので、さらに熱してみる。
手で押した時や、水圧で押した時とは明らかに異なる変化が現れた。上からひしゃげているのだろうか、それとも全体的に小さくなったのだろうか。ともかく取り出して見てみよう。
やった、ついにやったぞ。内側に巻き込むような形で小さくなっているじゃないか。
どうだ深海、人類もまだまだ捨てたものじゃないだろう。
上部だけでなく、きちんと全体的にも小さくなっているようだ。人類の叡智は熱にあったのだ。
熱する秒数を変えて色々と試してみよう。
熱しすぎてしまった。どうやら小さくなるための温度の臨界点のようなものがあるらしく、臨界点をすぎると一気に小さくなるのだ。
目を離すとすぐ上の写真のように小さくなってしまう。かといって少ない秒数で小刻みに熱しても臨界点に達しないらしく、いくら回数を重ねても小さくならない。
いい具合で加熱を止める調節が難しいのだ。ブタメン収縮は職人芸だ。
また、普通に熱していると上部から崩れ落ちるように小さくなっていく事が分かったので、途中でひっくり返して熱してみるなどした。これなら全体的にちょうどよく小さくなるんじゃないか。
この後も何度か実験を繰り返し、最終的には次のような形となった。
どうだ見たことか。深海に任せずとも、人類は自らの力でブタメンの容器を小さくすることができるのだ。
最後に本物の深海の展示と比べてみたい。
思っていたよりも形が違った。深海の方が明らかに綺麗だ。
やっぱり深海はすごいな。
深海のように綺麗にとはいかなかったが、ブタメンの容器を小さくすることができた。「カップラーメンの容器を小さくする」ということ自体は達成できたので、これでいいのだと自分に強く言い聞かせたい。
ブタメンがどうやっても小さくならなかった時のためにこういったものも用意していたのだが、出番がなくて本当によかった。
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