食べながらも、法枠工の崖
この手の焼き菓子は冷凍保存がきく。というわけで、いま我が家の冷凍庫には大量の法枠工で舗装した崖が入っている。
撮影を終えて食べたが、食べながらも延々あの崖の壁の様相を失わずにキープしていたのが健気だった。
美味しいな。けれど崖なのだ。こういうトリッキーなことが日常に起こるったときに、生きててよかったー。と思うんです。
ワッフルを食べていて、私は実家近くの山間を走る道路を思い出していた。
左側は谷で、川が流れている。そして、右側は崖だ。かなり垂直に近い崖は……! そう「法枠工」をほどこされている! あれ、すごくワッフルっぽくないか。
「法枠工」とは枠を崖に作って崖崩れを防ぐ工事のこと。高速道路の車窓によく見かける。
考えてみれば恐ろしいほどにワッフルそっくりだ。ワッフルで作るしかない。
※2010年3月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
まずはその、例の崖をごらんいただこう。
T・斎藤さんの記事「脳みそがぐにゃぐにゃになりそうな画像」から、これだ。
完全に一致である。
似すぎだ。これはどうしたことか。
どうしたことか、というか、崖の工事法もワッフルも、必要でそのような形にしたら偶然似てしまったんだろう。
崖とスイーツというものすごく遠いところにいる2人がドッペルゲンガーしたもんだ。
ここまで似ているだけに、あの崖のことを「ワッフル」と呼ぶ方も世の中に少なくないようだ。
名前はわかんないけど、どう呼ぼう? と思ったときとっさに「ワッフル!」と思いつくぐらいの相似性なのだ。
私がこのそっくりさに「あっ」と気づいたのは先日、友人宅でワッフル焼き機で目の前で焼いてくれたワッフルを食べたときのこと。
ちょっと焼きに失敗したもののヨレ具合が絶妙にあの崖だったのだ。
そうだ、自分で焼けば、質感も色も(!)思い通りにあの崖を再現できる。
ワッフルは普通こんがり焼けたキツネ色だが、自分でならグレーのより法枠工風のワッフルが焼けるはずだ。
そしたら、意外とすんなりできたのよ、あの崖 。
私は粉もんが、食べるのは大好きなのだが作るのは苦手だ。
おっかなびっくりだったが、ワッフルメーカーとミックス粉でいとも簡単にワッフルが目の前に現れたのだった。
ふわーんと広がるいい匂い、そして立ち上がる湯気。ああ、ワッフルが焼けた、焼けたなあとしみじみ思う。思う一方で、もうひとつの目はしっかりとあの崖を見ていた。
似ているのう。崖色にせずに普通に焼いても、法枠工の崖じゃなあ。
小手調べがうまくいったので、いよいよコンクリート色の生地で焼いていきたい。
どうすれコンクリート色になるだろう。食紅では表現できまいと考え、たどりついたのは練りごまだった。
黒ごまパワーでうまい具合に生地タネがコンクリート色になった。
ただ、問題は焼いたときだ。今だけは、ワッフルをこんがりきつね色にするのはご法度だ。生の状態のコンクリート色を残すようにと心がけて焼いていく。
焼き加減を気にしすぎて何度かパカパカとワッフルメーカーを開け閉めしてしまったために焼きあがったのは「ふゃ」というような、どうにも間抜けなワッフルになってしまった。
でもちょっと待て。そこがまた、年数を経た法枠工崖のようにも見えやしないか。
うちの実家の山にあるのは、間違いなくこんな感じだ。
うおお、感じ出てる出てる!
その後もじゃんじゃん黒ごまペースト入りの記事でワッフルを増産した。安藤さんちのワッフルメーカーが実は有名なブランド品だったらしくすこぶる使いやすく、どんどん焼ける。
10枚ほど焼いた。あの壁が10枚。人はこんなとき、どうするだろう。
そうだ、ジオラマを作ろう。こう考えるのは自然な流れだと思う。
趣味のジオラマというと、本物はかなりの月日をかけてじっくりと楽しみながら作るものというイメージがある。
それに比べるとこれがジオラマですというのはおこがましいが、できた。
なぜだろうかわいらしい。
見た目はかなり法枠工の崖になっていると思うのだが、お菓子特有のふわふわした質感がそれをうっかり「かわいらしく」表現してしまった。
実際、私は胸がきゅんとして「きゃっ」といった。台所にひとり。
その後もさらに焼き続けたのだが(生地のタネを作りすぎたのだ)、徐々に鉄板が慣れてきて、さらに私自身もスキルアップしたこともあってか、全面むらなくキツネ色の美しい焼き色が付くように焼きあがることが多くなってしまった。
コンクリート色を生かしたいのでキツネ色はNGだと思っていたが、これはこれで、むしろコンクリートっぽいのだ。
先ほどのよれよれのジオラマはぬいぐるみのようなかわいらしさになったが、これだったらより本物のようになるかもしれない。
えいっと、前ページ最初に乗せた写真の法枠工の壁部分をワッフルに置き換えてみた。
うおー!
適当な合成にもかかわらず、なんだか、まったくもって法枠工の崖すぎて、もはやお菓子だと思う余地がまったくなくなってしまったと思う。どうでしょうか!
最初は興奮したが、なんだかちょとしっくり来すぎてだんだんしーんとした空気が胸に湧いてくるくらいだ。
お笑いのモノマネも、ちょっとデフォルメされてた方が面白い。ここまで完璧に似ると、「ああ、崖だなあ。あの、法枠工の」という、静かな気持ちになった。
このお菓子は初心者向けだと書いたが、まさにそのとおりだ。
よれよれに焼いても、きちっと焼いても、焼き色がついてもつかなくても、どう焼いても法枠工風に焼ける。これはもしかして一大スクープなんじゃないか。
ワッフルメーカーをお持ちの方はぜひ黒ごまペーストを入れて今すぐ焼いてみてください。食べるともれなく崖が思い浮かびます。
この手の焼き菓子は冷凍保存がきく。というわけで、いま我が家の冷凍庫には大量の法枠工で舗装した崖が入っている。
撮影を終えて食べたが、食べながらも延々あの崖の壁の様相を失わずにキープしていたのが健気だった。
美味しいな。けれど崖なのだ。こういうトリッキーなことが日常に起こるったときに、生きててよかったー。と思うんです。
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