最後のメンタル面の話だけど、そう考えると、ペン回しって教育効果も高くないか。
昭和の頃はペン回しを「浪人回し」(授業も聞かずにペン回してる→受験に失敗して浪人する)と呼んでバカにするきらいもあったけど、むしろ粘り強い精神が育つ的な話も、持って行き方によってはありそうだぞ。
というかそれ以前に、ペン回しができると普通にあちこちでウケそうだし、子どもの習い事のひとつとしてペン回し塾とか、どうだろうか。ビジネスの香りしないか。
以前に「ペン回し」の世界チャンピオンにインタビューさせてもらったことがある。
そのときの詳細は当該記事で読んでもらうとして、それはさておき、かのペン回しチャンプkayさんから「今度ペン回しの大きなコンテストやるんですけど、見に来ません?」とお誘いをもらった。
実はあれ以来ちょいちょいペン回しの動画なんかもチェックしてるので、達人のペン回しが見応えあるのは知っている。なので、それはぜひ見に行きたい。
まず、そもそもペン回しシーンに詳しくない人に説明しておきたい。
一般的に「ペン回し」と聞いて思い浮かべるのは、授業中にペンを指先でクルッと回したりするアレだろう。いや、もちろんあれもペン回しではあるんだけど、そんなのは基礎中の基礎オブ基礎の基礎みたいなもんで。
暇つぶしの手遊びから発生したペン回しだけど、いまやこんなすごいことになっているのだ。
どうすか、すごくないすか。
ちなみにこういう技の動画にかっこいい編集を加えたものをコラボレーションビデオ(CV)と呼んで、
YOTUBEなどにアップするのが定番らしい。なので、「ペン回し CV」で検索すると、息を呑むようなすげぇのがいっぱい出てくるぞ。
ひとまず、現代のペン回しってこういうレベルなんですわ……というのを踏まえて、ここから先を読み進めていただきたい。
ということで先日の土曜日(8/19)八王子たま未来メッセにて開催された、日本最大のペン回しミートアップこと「日本ペン回しパフォーマンスコンテスト with NPF」にお邪魔してきた。
ざっくりと前段階を説明すると、もともとはジャグリング用グッズを専門にする「ナランハ」というお店が、2009から2019までのあいだ、「ナランハ ペン回しフェスティバル」通称NPFというのを開催していたそう。
NPFでは、純粋にペン回しの技術を競う“テクニカル部門”(こっちが一般的に考えられているペン回しに近い)と、パフォーマンス性と見た目のインパクトを重視した“アーティスティック部門”があって、そのアーティスティック部門を進化させたのが、「日本ペン回しパフォーマンスコンテスト with NPF」である、という話だ。
冒頭ですごいペン回しの技術をご覧いただいたが、今回のイベントはまたもうちょっと方向性が違って。
手元でペンを回す技術に加えて、ものによっては全身を使ってジャグリングめいたパフォーマンスをして競い合う、ということらしい。
もはや授業中にこっそりやるレベルの話ではないな、それは。
会場のたま未来メッセには、全国(あとから知ったけど、海外勢もいた)からペンスピナーが押しかけており、しかもその年齢層が異様に幅広い。
保護者同伴の小学生スピナーが会場のあちこちでペンを回してるし、わりとお年を召した方が初心者講習に参加してたり。ただ全体的には、10代ぐらいの若い人が圧倒的ボリュームゾーンっぽい。
ちなみにイベントとしてのメインは当然ながらコンテストなんだけど、それ以外にも会場のあちこちに分かれて、はじめてのペン回し講座やフリースタイル(=連続技)ワークショップなどが開催されている。
基本的には、当たり前だけどどこに行ってもペンが回っている感じ。
たとえばワークショップで講師の方の話を聞いてるときも、参加者はだいたい手元がクルクルしてる。なんなら主催のkayさんが壇上で大事な話(コンテストのレギュレーション説明)をしてるときだって、会場でみんなペンを回している。部外者から見ると、なかなかにインパクトある光景だ。
これが学校行事だったら先生大激怒案件だけど、ペン回しイベントなんだから、ある意味これは正しい姿とも言えるんじゃないか。
あと、会場では物販ブースも並んでおり、ペン回しツールのショップ(複数ある!)がいろいろなものを売っている。この辺りは常に人だかりができており、試し書きならぬ試し回しが繰り返されていた。
ちなみに物販で売られているのは、ペン回し専用ペン(筆記機能のない、ペン型のバトン)や、ペン回しに向いているとされている市販のボールペン(廃番製品も多く、文房具好きとしてもわりと興味深い)、さらには改造パーツや専用ペンケースなどが中心である。
中でも気になったのが店頭で「弾丸」と呼ばれていた改造パーツ。市販のペンの両端に接合する用のオモリとして使われているとのこと。
なんとなく弾丸っぽい見た目をしているから通称が「弾丸」……なのかと思ったら、実は本当にアサルトライフルなどで使用されてる7.62mm弾(NATO弾)だった。マジか。ちなみに火薬の入った薬莢部分は付いてないので、合法&まったく安全。
7.62mm弾、ペン回しのオモリに最適だぜ!?と発見したのが誰かは分からないが、ペン回しの世界ではわりと広く知られているものらしい。
僕が活動している文房具界隈とペン回し界隈、同じペンをあれこれしているけど、まったくの異世界だなぁと驚かされるばかりだ。
さてメインイベントとなるペン回しパフォーマンスコンテストだが、こちらは事前にエントリーした20人以上の参加者が、その場のくじ引きによって順不同でいきなりステージに呼び出される方式となっている。
200人から観客がいる前でパフォーマンスするだけでも緊張感がすさまじいのに、なかなかの鬼仕様と言えよう。
そんな中でも、コンテストに出るような上手い人はどうやっても上手い……というと当たり前の話なんだけど、いやー、それにしても見応えあるわ。
手元中心でペンを回しつつ、いつの間にかマイムっぽい動きになったり、手品のようにペンを消してみたり。さらには股下からペンを投げ上げてキャッチしつつ回したり、寝転がった姿勢で回したり。
確かに「ペン回し」と言うよりは「ペン回しパフォーマンス」といったほうがしっくりくる感じだ。
実際、審査は主に三人の審査員票で決まる(観客票もある)んだけど、その審査員の中でペン回し関係者はkayさんのみ。
残りの二人はゲストパフォーマーの謳歌さん・CONROさんで、ジャグリング業界では世界レベルのすごい人なんだけど、実はペン回しにはまったくの無関係なのだ。
つまり、ペン回しの技術よりも、いかに観客にパフォーマンスを見せてウケを取れるか?という部分が勝負のカギだったっぽい。
あと興味深かったのが、ペンスピナーの人たちのメンタルの強さ。
いやもちろん先にも言った通り緊張感はすごいし、失敗してペンをポロポロと落とすこともあるんだけど……そこからの建て直しがめちゃくちゃ早い。皆さん当然のように、ポケットに予備のペンを何本も仕込んでるし。
たぶんペン回し自体の文化として「失敗してペン落とすのは当然あって、それより技にトライするほうが重要」みたいなコンセンサスがあるんじゃないだろうか。
実際、以前の記事でkayさんから「ペン回しの動画撮影では、高難度の技を成功させるまで何時間でも撮り続ける」とは聞いてたし、その感覚が根付いてるのかも。
ともあれ、ペン回しパフォーマンスコンテストは非常に楽しめた。
現時点ではやはり「ペン回し界隈のお祭り」という感じなんだけど、一般化するポテンシャルは相当に持ってるような感じ。
あとからどこかでブレイクする可能性はあるんで、ひとまず、ペン回しパフォーマンスというのが面白いぞ、というのだけでも憶えておくと良いかもだ。
最後のメンタル面の話だけど、そう考えると、ペン回しって教育効果も高くないか。
昭和の頃はペン回しを「浪人回し」(授業も聞かずにペン回してる→受験に失敗して浪人する)と呼んでバカにするきらいもあったけど、むしろ粘り強い精神が育つ的な話も、持って行き方によってはありそうだぞ。
というかそれ以前に、ペン回しができると普通にあちこちでウケそうだし、子どもの習い事のひとつとしてペン回し塾とか、どうだろうか。ビジネスの香りしないか。
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