特集 2023年11月16日

架空の国家「イザランド」をつくった人

文化圏に従って国をつくっている

OGFの世界は、すでに細かく分割されており、その中のどの領域を編集するかは参加するときに申請することになる。

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編集の申請ができるエリアは緑色、ベージュはすでに誰かが編集を行っているエリア

開いているエリアの他に、アーカイブとして残してあるエリアなどがあり、また参加者が飽きたかなにかの理由で編集を何ヶ月もしないエリアは「戻る予定がありますか」といった問い合わせが着たのち、返答がなければデータは消去されてまた新しいユーザーのための更地に戻ることになる。

ダヴィデ:青いエリアは、申請しなくても編集できるエリアですが、条件があって、文化圏が決まっているんです。

西村:文化圏?

ダヴィデ:そのエリアで使われる言葉が決まっていて、その言語で編集しないといけないんです。日本語のところもあります。これの狙いは、日本語のできる人にも参加してほしいからなんです。正しい日本語の地名の感覚は日本語ができるひとでないと。

西村:なるほど「日本にありそうな地名」はやはり日本語の感覚がないとなかなか難しいですよね……。

ダヴィデ:このOGFのプロジェクトで、日本語のできる参加者はたぶん外国人として私ともう一人。いろいろ頑張っていはいるんですが、なかなか残らないです。いちばんのネックは(OGFの)プラットフォームの基本が英語なのが原因ですね。

西村:基本的なやり取りが英語だと。たしかにハードル高いですね……。

ダヴィデ:東の方に小さい練習用の島があるんですけれど、そこに最近日本の方がきていい感じに町を作ってくれたんです。でも、ここ数ヶ月行方不明です。

古賀:あらら。

西村:あ、これですね。宇粗野町、ああ、なるほどウソの町ですね。でも、町割りはやっぱりちゃんと日本っぽいですね。

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駅前タクシー乗り場や、農地の区画、国道とバイパスの位置など、日本人だったら「あるねー」と思える形になっている
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南宇粗野のさらに南には空港のある町が

西村:あー、埋め立てで空港を作ったから、旧空港の滑走路が公園みたいになっていると……これはまあ日本に限らずだと思いますけど、こういう細かい「地図あるある」を入れられるのは面白いなあ。

古賀:あー、ありがちー。

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コロナ禍で進んだ言語の設定 

ダヴィデさんの作っている国は「イザランド」だが、このイザランドの国の設定は、オリジナルの言語の設定から始めているという。そこからかよ! という話だが、いったいどういうことなのか。

ダヴィデ:イザランドの言葉は、一見日本語に見えますが、使っている漢字に、それぞれオリジナルの訓読みを与えました。設定では、イザランドの南にある百帝国(バイ帝国)という国で発明された漢字が伝わり、漢字の音読みとイザランドに元々あった言葉とまざって、新しい読み方が生まれたという設定になっています。

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百帝国とイザランドの位置関係

西村:イザランドのひらがな・カタカナにあたる文字は?

ダヴィデ:本当はオリジナルの文字を作りたかったんですけど、ネット上で使う場合は文字コードが無いので、すでにある文字を使わせてもらっています。

西村:あー、文字コードか……それはどうしようもできないですね……。

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イザキ語の表音文字表
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簡単なイザキ語のリスト「サー(はい)」「ナー(いいえ)」「アンジワラ!(こんにちは)」「ソッキバ(さようなら)」「テパンアッラー(おはよう)」……どうやら「良」という漢字は「テパン」という読み方らしい
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イザキ文字と漢字の交ぜ書きの例。「これは猫です」は「トナシンナヨ」(?)

ダヴィデ:五万語ぐらいの漢語のリストを手に入れたんで、それを置換ツールで変換して、漢語それぞれにイザキ語の音読みを設定しました。

西村:どわーっ、すごいな……。

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漢字ひとつずつにイザキ語の訓読みを設定しているスプレッドシート、これがすげえのよ……

ダヴィデ:最初、地名はもう頭の中に音声的な構造はあったんです、音節の作り方、子音母音とか、日本語に近いんですけど……。それにどんな漢字をあてていくのか、まず地名によく使う漢字を決めて、それでもいい漢字がない場合は、今はもう使ってない漢字を借用してきて音をあてたりしました。

西村:これ、めちゃくちゃ時間かかりませんか……。

ダヴィデ:時間かかりました。私はコロナのときに仕事がすごく暇になりました。あのとき、一日中ずーっとこれをやっていました。

西村:あー、なるほど。良かったのか悪かったのか。怪我の功名ですね。

漢字文化圏のすぐ上にドイツ語文化圏の国がある問題 

文化圏ごとに割り当てられた国をみんなで作っていくにしたがって、ちょっとした不都合のようなものも出てきた。

ダヴィデ:イザランドの北側は、ドイツ(風の文化と言葉)圏なんですよ。これは最初からあるからしかたないんですけど。

西村:言葉が全く違う文化圏がものすごく近くにありますね。

ダヴィデ:だから、今これをちょっとどういう理由付けをしようかとみんなで考えて、ここに高い山脈があることにしたんです。一番高い山で5199メートルあります。

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山脈があるから元々行き来が非常にすくなかった……という設定になっている

西村:なるほど、でもそれはそれでなんかワクワクしますね……。ヒマラヤ山脈で分断されていたインドと中国だって、海を隔てた朝鮮半島や日本には漢字は伝わりましたけど、地続きでもヒマラヤ山脈を隔てたインド側には漢字の文化はまったく伝わらなかったわけですからね。

古賀:でも、イザランドのwikiを拝見しましたけど、すごく面白くて、日本とかアジアの文化と、北欧、欧米のそういう文化を、なんか東アジアをぐっと抜いて、急にそこが接近したような感じはしました。

ダヴィデ:私は、北欧の国も大好きで、日本7割で、社会面の仕組みなどは、フィンランドとか北欧の感じを取り入れていますね。

「1950年代に全世界を巻き込んだ大きな戦争があったその後の世界」という設定 

イザランドを含むOGFの世界は、カチッと決まっているわけではないものの、世界共通の歴史や文化というものが一応あり、参加者はそれになるべく従って地図の編集などを行うことになる。

この世界では、キリスト教やイスラム教に似た宗教が存在し、50年代(この世界の1950年代)には、世界を巻き込んだ大きな戦争があり、その後の世界という設定になっているらしい。

この世界共通で決まっているものは宗教や言語だけではなく、企業なども、国を超えて使われているという。 

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イザランド発の企業、山河設計(上から二番目)

作った企業は、こうやってまとめて、他の国の人もその設定を使うことができる。

ダヴィデ:イザランド発祥の企業は、建築や設計などを行う山河設計(サモサリデザイン)……とか、あります。ほかの国の企業だとレゴラ、高級自動車のメーカーです。 

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エンブレムがかっこいいレゴラ

西村:なるほど、このエンブレムをつけた車が、この世界では走り回ってるわけですね。

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イザレール(イザランドの鉄道会社)とチャカフェ(スタバみたいなチェーン店)など

ダヴィデ:あとは、イザランドの鉄道会社「イザレール」、カフェのチェーン店「チャカフェ」……。

古賀:スターバックスみたいなやつだ。

西村:これ、ロゴはAIみたいなので作ったりしている?

ダヴィデ:そういうのも有るかもしれないですけど、私はロゴ作るのが好きだから、私のは自分で作ってますね。

古賀:好きなことがいっぱいつまってるな……。え、これ薬局?

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薬のチェーン店「オダサモタケリ」

ダヴィデ:これは「オダサモタケリ」ドラッグストアチェーン店ですね。マツモトキヨシみたいな感じの。

西村:なるほど、オリジナル文字で創業者の名前が店名になっている……ということか……オダサモタケリ、マツモトキヨシ。親近感わくわー。

ダヴィデ:実際の企業を使うわけにはいかないので、こうやってオリジナルで作っていますね。

西村:このレギュレーションに従っていれば、自分が編集した地図にこういう企業を使っていい、というわけですね。

ダヴィデ:そうですね、工場とか会社とか店舗とかで使っていいです。

路線図がすごい 

イザランドに限らずだが、地図を作るということは、交通機関の設定もすべて行うことになる。

もちろんイザランドにも交通機関は存在し、例えば鉄道、特に首都圏には、ものすごい量の地下鉄路線が設定されている。

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首都付近の地下鉄と鉄道の路線網

OGFのマップを、路線図を表示できるモードにすると、設定されていれば、各都市のバス路線、鉄道、トラム、ライトレール、地下鉄、モノレール、ロープウェイ、フェリー、ケーブルカーなどを任意に表示できる。

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サインヅァウルメトロの路線図。制作途上のものを特別に見せてもらいました。路線自体はパリのメトロっぽいけれど、路線図はソウル地下鉄っぽくてアガる

首都のサインヅァウルの地下鉄は、サインヅァウルのwikiによると、約19路線ほどあるということになっている。

地下鉄は、サインヅァウルメトロ(作安崎地下鐵)が運営しているが、この他にも元々、国営であった鉄道会社が民営化して誕生したイザレールと呼ばれる鉄道会社が、全国に鉄道網を張り巡らせている。日本でいうとJRのような存在だろう。 

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黒い部分が鉄道網

まさに「網の目」のように張り巡らされた鉄道路線。さらに注目したいのは左下の小さな島ふたつにも鉄道路線があるところだ。

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こんな小さい島にも鉄道路線が設定されている

日本でも、かつて淡路島に鉄道路線があったが、そういった鉄道が廃止されず残っているという感じだろうか。

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イザレール路線図。首都圏付近のアップ。JRの路線図風だ

その他にも、イザランドの鉄道関係のオリジナルのサインデザインが路線図だけでなく、車両や切符といったところまである。

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海峡によって東西に分かれる首都のサインダウルをつなぐための鉄道の路線図
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高速鉄道の路線図
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高速鉄道車両のデザイン
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切符のデザイン例

鉄道関連に関する力の入り様が尋常じゃないところにおもわずニヤリとしてしまう。

鉄道関連だけでなく、台風の接近を警告する地図や、桜の開花予想地図まである。

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台風がふたつも接近している。上のイザキ語がなんとなく読めそうでよめなさがたまらない
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桜の開花予想地図

ありとあらゆるものの設定を考えて創り出している。創造神である。

コストを意識しながら設定はしている

西村:そもそもなんですけど、このオープンジオフィクションは、架空だからってなんでもいいというわけではないんですよね。

ダヴィデ:そうですね。基本的には「現実性」を重要視していますね。だから、魔法とかファンタジー要素は無いんです。だから、初心者だとインフラを無理に沢山入れたりだとか、そういったことがあるんですが、現実的というのは高速道路のようなインフラなどを作るときとかは、お金がどれぐらいかかるかとかを意識しないといけない。

古賀:コスト意識?

ダヴィデ:そうですね。例えばこの島に行くトンネルいま作っているんです。来年開通予定なんですけど。

古賀:ほんとだ2024年開通予定ってなってる。

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恩呂寧市(オロネイ)と門険市(ムアナケ)を結ぶ海底トンネル。来年開通予定となっております

ダヴィデ:ここは市長が求めていたけれど、市民たちが税金で作るのはどうかという意見があったり……。

古賀:あー、政治ですね(笑)

ダヴィデ:ここは海が浅いので現実性を考えると、トンネルが最適かと思うんです。

西村:ぱっと地図を見ただけだと、島側の方には都市があまり発達していないように見受けられるんですが、これはやはり観光的なものとか、なにかそういった、トンネルを通すだけの理由があるんでしょうね。

ダヴィデ:そうですね。


15歳から紙に書いていた地図

ダヴィデさんは、中学生ぐらいの頃から、紙にオリジナルの地図を書いていたという。
日本では、空想地図を描く人が、意外とたくさんいる、ということが最近知られてきているが、そういった人たちも、まずは紙やノートに手書きで地図を描き始めた人が多い。
僭越ではあるけれど、筆者も小学生の頃、チラシの裏にオリジナルの地図は描いていたことを思い出した。
こういった行為は、世界共通なのかとダヴィデさんに話を聞いているうちになにか、心強い気持ちになってきた。

現在は、ツールも発達し、発表する場も格段に増えた。本当に良い世の中になったと思う。

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