さすがにカロリーを取り過ぎただろうか。でも大丈夫。食べた分だけ動けばいいんだ。他の食事で帳尻を合わせればいいんだ。そうさ、俺ならすぐに痩せられる。
返せない借金を次々としてしまう人生の疑似体験のような食事となったが、もちろん後悔はしていない。
モッツァレラチーズのように丸めた生地をしばらく寝かしたところで(その間にパロッタと一緒に食べる料理を習った)、鹿島さんはすごく嬉しそうに「打ち粉ならぬ打ち油!」と言いながら、ボウルに油をタプンタプンと注いだ。
うどんやそばを打つ場合、生地に打ち粉と呼ばれる粉をふることで、生地同士がくっつかないようにするのだが、パロッタではその役割が油なのだ。
油に次ぐ油の波状攻撃に、若干腰が引けてきた。これは作り方を知らない方がよかったやつかもしれない。
「油が飛びます。家でやるときは……怒られるかもしれないよね」
そうですよね。
パロッタにあるフカフカの層は、油でコーティングされた薄い生地が重なり合うことで生まれ、お互いがくっつかない量の油を使うからこそエアリーな食感を生むということがよくわかった。
この薄く伸ばして丸める作業をやらしてもらったところ、油を多く使うほど作業がしやすく、大量の油を消費することに対する躊躇が無くなっていって怖い。私の中のネジが一つ外れた瞬間だ。
丸く成型した生地をまた寝かせて、油と小麦粉がしっかりと馴染んだところで掌で押しつぶし、たっぷりと油を引いた鉄板で焼きあげる。
押しつぶしても生地の層がくっつかない理由は、もはや書くまでもないだろう。
鹿島さんは鉄板で焼きながら「追い油!」といいつつ、さらに油を上から掛けていた。この人の前世はグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」に出てくる、太らせたがる魔女なのかもしれない。
ちなみに鹿島さんが所属するマサラワーラーのイベントは、食べ物が延々と出てくる「食べさせられ放題」形式である。
焼き立てアツアツのパロッタをホットケーキのように積み上げると、土俵入りをする力士のように、左右から手でバフンバフンと勢いよく潰し、さらに縦横の向きを変えて掴み上げたら、上から下にバシンバシンと押しつぶした。
これによって生地と生地の間にある油部分を力技で広げて、フカフカの状態に仕上げているのだ。もちろんその手は熱い。
この工程を知っているから衝撃的な展開に耐えられたけれど、何も知らなかったら絶対に声を出してしまっただろう。
世界は広いですね。
こうして出来上がった大量のパロッタを、生地を寝かしている時間に習ったサールナやチャトニ、事前にご用意いただいたチキンやマトンのカレーと一緒に、胃袋の限界いっぱいまでいただいた。
作り方を知ってしまったことで背徳感は高まったが、カロリーの塊が液状のカロリーを吸うことによってだけ得られる心の栄養素がある。うまい。
ごちそうさまでした!
さすがにカロリーを取り過ぎただろうか。でも大丈夫。食べた分だけ動けばいいんだ。他の食事で帳尻を合わせればいいんだ。そうさ、俺ならすぐに痩せられる。
返せない借金を次々としてしまう人生の疑似体験のような食事となったが、もちろん後悔はしていない。
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