特集 2024年9月9日

ラマダン明けに食べるハラールマトンラーメンを考える

ハラールマトンラーメンを試作する

こうしてハラール食材が揃ったところで、自宅や友人のお店でハラールマトンラーメンを何度か作り、真面目にイベント用のレシピを仕上げていく。

マトンと水の割合、煮込む時間、スープに加える野菜の種類、味付けに使う調味料、トッピング、自家製麺の加水率やかんすいの配合など、試すべき要素はいくらでもある。

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誰かに試食してもらいたくて、友人のお店で開催した製麺ワークショップで試作させてもらったりもした。
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MIX BAKRAは羊の肉と骨だけでなく、皮や筋なども含まれており、濃いダシが出そうで心強い。
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とりあえずマトンと水だけをじっくり煮てスープを作ってみた。
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塩を加えただけで十分おいしい。マトンのスープってこんなにうまいのか。でもラーメン用としてはパンチが弱いかも。
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ラーメンらしくネギや生姜を加えてみたりもした。
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小麦粉の種類、加水率、かんすいの量などを変えて自家製麺を作って、スープとの組み合わせを試す。かんすいを入れて作る中華麺よりも、塩だけで打つうどんのほうが合うようだ。でも作りたいのはラーメンなんだよね。
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オーソドックスに醤油味を試してみたが、羊のスープと醤油が合わない。
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味付けを塩だけにしたら味がグッとまとまった。これならスープの素やうま味調味料の助けは必要なさそうだ。
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塩分濃度を測りながら、麺に合うスープの味を決めていく。
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ラーメンといえば香味油。ちょっと辛みのあるマスタードシードオイルと各種スパイスを使ったエスニックな香味油を足してみようか。
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茹でたキャベツを香味油で和えてトッピングしてみる。これは箸休めによいな。
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青ネギをたっぷり乗せて、熱々の香味油をジューっと垂らす。最高だけどオペレーションが面倒かも。

ものすごく迷う。日本人がイメージするラーメンに寄せるか、ラーメンを名乗りつつイスラム諸国のマトン料理に寄せるか。私にとってのハラールマトンラーメンとはなにかを自問自答する日々だった。

別に社運を賭けた新メニューなどではなく、イベントで一度出すだけのミニラーメンなので、なんでもといえばなんでもいいいいのだが(基本的に全部おいしい)、なんだか楽しくなってしまったのだ。

そしてイベント当日を迎えた

悶々と検討した結果、一緒に食べるイフタールの料理を邪魔することのない、シンプルな味付けで羊の個性を楽しめる、誰にも馴染みのない味のハラールマトンラーメンを作ることにした。

ラーメンは伸びたり冷めたりしたら台無しなので、短時間に無理なく約20食を提供できるというオペレーションの簡単さも大切となる。

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ラーメン以外の正統派イフタール料理は、インドの西ベンガル州アサンソール出身のソニさんが担当する。事前にマトンラーメンのレシピや材料が問題ないかの確認もしてもらった。
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普通のフライパンなのに、ソニさんが焼くチャパティは見事に膨らむ。こういう技術を間近で見られるのは役得だ。
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スープの材料はマトン(MIX BAKRA)、タマネギ、セロリ、昆布だけにした。
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肉の倍量の水を加え、沸騰してからアクを取り、弱火で二時間煮込む。これより短いと肉がまだ固く、長いと煮崩れてしまう。
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麺は中華麺らしい味だとマトン塩スープに馴染まないが、かんすいを全く入れないとラーメンではなくうどんになるので、国産強力粉100に対し、塩3、かんすい0.5という配合にした。喉ごしや歯ごたえがしっかりしたうどん寄りのストレート中華麺だ。
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スープの味付けは塩だけ。肉を取り出し、塩分濃度をちょっと濃いめの1.6%にしておく。嫌な臭みは全く感じない。
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せっかく買ったのでハラールのみりんと醤油も使いたい。
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ハラール醤油は普通に醤油らしい味だが、ハラールみりんはうま味のある水飴っぽい味。材料を確認したら水飴がベースになっていた。
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醤油にみりんを加えてタレを作り、煮立たせてアルコールを飛ばそうと思ったが、そもそもアルコールは入っていない。
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タレと肉を和えて味を含ませておく。チャーシュー変わりとなる醤油味の羊肉が乗ることでラーメンっぽさが出るはず。トッピングは羊に合わせてミントとした。
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太陽が沈んだタイミングで、お待ちかねのイフタールがスタート。やはりお客さんはほとんどが日本人のようである。

 主催者によるラマダンの説明の後、ソニさんのおいしい料理と一緒に、ドキドキしながらハラールマトンラーメンを提供していく。

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これが俺のハラールマトンラーメン。肉を醤油味にしたことで塩味のスープとの濃淡が楽しめる一杯。今思えば大阪で食べたシチューうどん(こちらの記事参照)みたいだ。

いわゆるラーメンとはだいぶ違うレシピなので、イフタールの食事としての違和感はあまりなかったと思うがどうだろう。

温かい麺類という時点で、イスラム教徒には縁のない食べ物だとは思うけど。

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興味深くておいしい料理が並ぶ。ちゃんと断食してから食べるとデーツの甘さがより染みわたるのだろう。ちなみにイフタールを用意する人は、作りながら味見ができないので(まだ太陽が出ているから)、慣れていないと難しいのだとか。
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お椀に盛られたベンガルビーフカレーと焼き立てのチャパティも登場。ものすごくうまい。

長年日本に住んでいるが、まだラーメンを一度も食べたことがないというソニさんにも、マトンラーメンを試食してもらった。

熱々の麺という異文化に戸惑っている様子だったが、おいしいと言ってもらえてよかった。

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恐る恐る麺を口に運ぶソニさん。ソナ・クッキングクラスという料理教室などもやっている。
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熱い麺をすするという行為が初めてだったのかも。ありがとうございました!
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日本とインドの友好料理として作った、一時間煮込んだ手打ちの伊勢うどんを使ったファルーダも好評でした。

食事を通じて異文化を知ることができる、おいしくて勉強になるイベントだった。ラマダンという断食の存在は知っていたけれど、日没後に食べる食事の楽しさが待っていることは知らなかった。一か月間は大変そうだけど。

それにしても驚いたのがマトンラーメンの可能性だ。私がまだ20代だったら、インバウンドを視野に入れたハラールマトンラーメン屋を計画していたかもしれない。こうしてまた、なかなか披露する機会のない得意料理が増えていくのだった。

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イフタールに溶け込むマトンラーメン。

 

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