お金を落とそう
目標だったはね丸のグッズは買えた。いろんな絵柄のはね丸グッズを買った。けれどひとつだけ店で売られていたチク号のタオルは買いそびれた。時代の変化で消えていくグッズも買うべきだった。特に消えつつある旧キャラグッズは、最初の購入目的ではないにしろ、時代が作ったものとして今後は買っていこうと思う。
福岡に「羽犬塚」という駅がある。羽の生えた犬の塚なので、羽犬塚だ。羽の生えた犬がいたらしい。
昨今のゆるキャラブームの中、ならば羽犬塚には羽の生えたわんこのイラストがあり、あわよくばグッズが売られてるのではないか。そう思って調べてみるとどうやらやっぱりあるらしい。
はねわんこグッズが欲しくなった僕は福岡に向かった。
鹿児島本線に博多駅から久留米に向かって45分程度乗ると、羽犬塚駅に到着する。
新幹線の筑後船小屋の隣駅であり、その名のとおり筑後市にある。羽犬伝説は筑後市にあるのだ。
駅から早くも多数見つかるはねわんこキャラを紹介しつつ、伝説を引用していこう。
広報ちくごによれば……。
『羽犬は旅人を襲ったり家畜を食い殺したりして住民から恐れられていた。
天正15年(1587年)4月、天下統一をめざす豊臣秀吉は薩摩の島津氏討伐のため九州に遠征、この時、羽犬によって行く手を阻まれた。
大軍を繰り出しやっとの思いでそれを退治した秀吉は、羽犬の賢さと強さに感心し、この犬のために塚をつくり丁寧に葬った』
と、昔この地に羽の生えたどう猛な犬がいたという話が伝えられている。なるほど、はねわんこと表現してしまったが、羽犬はかなりの猛犬だったようだ。
別の説もある。同じく広報ちくごによると、
『九州遠征に羽が生えたように跳び回る犬を秀吉が連れて来た。その犬は、この地で病気にかかり死んでしまった。
大変かわいがっていた秀吉は悲しみに暮れ、それを見かねた家来たちは、その犬のために塚をつくり葬った。』
というものだ。こちらは戦国時代にして萌えキャラ系の犬なのだ。なるほど、かわいいはねわんこ説もあった。
ともかく駅の待合室から早くもはね丸の洗礼を受ける。観光案内所に向かうとより一層はね丸推しが強まった。
いいんだ!羽の生えた犬グッズが欲しかったから。
駅から観光案内所まではちょっと距離があるが、その道中でもはねわんこのイラストを見かけた。だが、これがどうも、はね丸のようにかわいい路線ではなく、りりしい路線なのだ。
はねわんこの名前は「チク号」。
駅の周りの商店や年季の入ったスタンプを見ると、りりしいチク号(ちっごくん)が見られる。
はね丸が2010年にできた一方、チク号は1995年にできたそうだ。駅前で昔の「チク号」をよく見るということは、15年の間に町の賑わう場所が変わったのだろうか。
アラサーだという地元の方にも話を聞くことができた。
「私が物心ついた頃からチク号はいました。小学生になるくらいにチク号が市のごみ袋に描かれてたんですよ」
駅前商店街からそれ以外の場所に人の動きが移っていった結果、チク号のイラストが昔の商店街にだけ取り残されたのかもしれない。
さらにこれもキャラのありかたなのか。はね丸が好きな二匹のわんこがあらわれたのだ。
二匹は清純派女子の「パネコ」と小悪魔系女子の「ポネコ」で、はね丸が誕生した翌年2011年に誕生したという。二匹はそもそも犬かどうかも怪しいらしい。
筑後市には、日本で唯一、「恋命(コイノミコト)」を御祭神とする「恋木神社(こいのきじんじゃ)」がある。恋が成就する恋木神社を推すべく、はね丸を狙うキャラクターが新たに誕生したのだ。時代だなあ。
いまのところグッズははね丸メインだったけど、チク号がフェードアウトしたように、時代次第でパネコとポネコが主役を取りにいくかもしれないなと思った。
ところで10年くらい前に筑後市の新幹線駅「筑後船小屋」についてデイリーポータルで書いたことがある。
「駅前に広域公園しかなかった。ホテルや土産物屋はもとより、コンビニすらなかった」と書いた。
ところが今回、はねわんこグッズ探しをするなかで、面白いスポットを教えてもらい行ったので報告したい。
長田鉱泉場は、温泉ではなく炭酸水がでるのだ。
つまり水道をひねって手ですくって飲むと、ウィルキンソンタンサンみたいなのである。驚いた。
長田鉱泉場はそんなに有名な観光地ではないのか、誰も観光客はいなかった。
近くの店では、コガコーラが売られていた。テレビを見ている店番のおばあちゃんに声をかけると、子供の頃に行った駄菓子屋のような人情味ある感じで売ってくれた。
店先ではただセミの鳴き声とおばあちゃんが見るテレビの音だけが聞こえる。その中でコガコーラを飲む。
懐かしい夏休みがそこにあった。
目標だったはね丸のグッズは買えた。いろんな絵柄のはね丸グッズを買った。けれどひとつだけ店で売られていたチク号のタオルは買いそびれた。時代の変化で消えていくグッズも買うべきだった。特に消えつつある旧キャラグッズは、最初の購入目的ではないにしろ、時代が作ったものとして今後は買っていこうと思う。
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