特集 2018年12月11日

CMでは牛丼が弾んでいるぞ

牛丼のCMでよく見たら牛丼が弾んでいた。よく考えたら異常すぎない!?

テレビで牛丼屋のCMが流れていた。今までの自分なら見逃していたろうが、その日の私はちがった。9時間寝た集中力を発揮して気づいたのだ。

牛丼が弾んでいるぞ。なんだこれは。

そうだ。牛丼やハンバーガーのCMでは演出でよく弾ませている。あれはなんなんだ。一体どういうことなのか。世の中の謎に気がついた。

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:府中刑務所見学ツアーの名がプリズンアドベンチャーというノリの軽さ

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

急いでる方のために先に動画でのまとめを置いておきますね。ネタバレしたくない方はテキストから

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牛丼がはずんでいる!?

牛丼のCMはすき家のものだった。クレヨンしんちゃんが出てきたあとに牛丼がバイーン!とバウンドしていたのだ。ふむふむそうかそうか牛丼が……え、牛丼が弾む!?

あれ? 考えてみたら変じゃないかこれ? ものすごく変だぞ! と手がふるえはじめた。

すき家のYouTube公式チャンネルから他のCMでもバウンドしていた

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「そんなの当たり前じゃないの?」

映像をご覧になった方「なにがおもしろいの? そんなの当たり前じゃないの?」と思われるかもしれない。でも今一度考えてみてほしい。牛丼が弾むなんてこと実際にあるだろうか?

「その牛丼よく弾むね」
「吉野家は早いし、松屋は安いし、すき家は弾むし、どれがいいかは悩ましいよね」
「もしもし? 今日遅くなる。なんだかむしゃくしゃしたから牛丼弾ませて帰るよ」

そんなこと一度も思ったことがないし口に出したこともない。ないものを形にしているのである。そして1億2千万人がそんな"ないもの"を目にして、おお、牛丼食べたいのう、と言ってるのだ。

ちょっとまって、弾んでんだよ、それ! と終電が近い新宿駅の大きな人の流れに逆らって自分の詩集を売る人のように、私はただ一人この変さを訴えたい。

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牛丼とハンバーガー、照明用のライトも置いてやってみた
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iPhoneのスロー設定でそこそこいけた

とりあえず自分でもやってみよう。CMを見返していて気づいたのはスローであるということ。ゆっくりバウンドしているのだ。まずはテストだ。iPhoneの10倍スローでやってみよう。牛丼を買ってきた。ハンバーガーも買ってきた。

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ドーンと置いてみた
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おや? iPhoneの10倍スローは優秀だ。意外と雰囲気が出てるぞ
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次、ハンバーガーはどうなんだろうか?
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上から落としてみたが、あ、これはだめだ
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CMみたいにパンと肉がちょっとだけ時間差あって落ちてくるのはムリ。めちゃくちゃシビアな撮影だな
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なお今回の撮影はすべて食べられる範囲でやっております
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テストが終わって

牛丼のバウンドはただ上から具を落とすだけで雰囲気は出た。

しかしよりバウンドさせるには上から落とすのではなく、具の乗った丼自体を持ち上げて落とすとよさそうだ。これは丼とカメラを一体化できればクリアできるだろう。

カメラもiPhoneではなく一眼に変えた。さあ、いくぞ、牛丼を弾ませるぞ。このわけのわからない意気込みを撮影班はみんな前夜に抱えるのだろう。

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カメラと皿や丼を固定させる装置。のちに面倒になり結局牛丼にしか使っていない
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これで丼ごと上に持ち上げて落とすのだ

弾んでるぞ! 牛丼が弾んでいる!

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見て! 弾んでいるわ!

できた。牛丼が今、弾んだ。こんなに牛丼を勢いよく落とすことなんてあるのだろうか。忙しい牛丼屋でも「もっとそっと盛れ」と怒られるだろう。ここにあるものは世の中にないものだ。

それでもこれはちょっといい感じだ。立体的だし躍動感があって生き生きとしている。何よりCMみたいだ。うまそうだと言ってもいいのだが、なんで牛丼が生き生きすることでうまそうになるのかわからないので断定しにくい。

とにかく今、牛丼に生命が宿っている。そして「なんかいいぞ」という気にはなっている。不思議だ。

ハンバーガーがむずかしい

そして問題はハンバーガーだ。CMでは何層かになったものを少しずつの時間差で落としてバインバイン弾ませるのだが、手でやるとなるとめちゃくちゃむずかしい。

Facebookで誰か撮影方法知ってますか?と聞いてみたらデイリーのライタープロフィール写真を撮ってくれたカメラマンの江藤海彦さんがこういうものがあると教えてくれた。まさにこれだ。

ハンバーガー弾ませるCMの舞台裏。こんなややこしい器具を自作してるのか!

すごい特殊な器具を作っている

この人達はハンバーガーを弾ませるためにすっごい特殊な器具を作っている! 全体を何層かに分け、それも一本の糸でその層を分けてる。この糸が切れることで一気に全部で落ちることができる。しかも、ただ落とすだけでなくいったん上空に上げたところで落とすのだ。

異常なややこしさだ。こんな謎の行為を、ここまでの労力でかなえている。はたして人間は一体どこに向かっているのか。サピエンス全史に今すぐにでも書き加えてもらいたい1ページだ。

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自分でもどうすればできるか考えてやってみました。ひもをつけたプラバンで層を分けて、一気に引く!
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しかしこのプラバンがたわみはじめ…また、ヒモを引いたところでするっと具が下に落ちてくれるのかはあやしい(だから一本の糸で留めてたのか)

 

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そして撮影開始、せーのでドン!
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崩壊! 崩落! 装置自体が壊れた。そりゃすっごく特殊な器具を使うはずだ
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しょうがないのでビニール手袋をして多少すきまをあけて手で落とした
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何度かやってやっと載った。以降、この手を使う方法でやっていくことになる
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あんみつの具を上から落としてみた。こんなふうにあんみつを盛ったことはないのだが……しかしなるほど、これは甘いものでも有効だ。楽しそうだ
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すっごく地味なものでも有効なのだろうか? そう思って高野豆腐を弾ませてみた。でもやっぱり「…CMみたい!」という思いはわいた。そんなCMないはずなのに! 私達は純粋な「シズル感」というものと今向き合ってるのではないか
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鏡餅のみかんがどーんと弾んでたらどうなるだろうか? 「そっと置け!」という気持ちもあるが、やっぱり躍動するものはおいしそうというか買いたくなるというか…
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寿司が上から落ちてくるなんていうことがあるだろうか?
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それでもズーン!という(寿司! 寿司だぞ!)感はある。CMとしての説得力がなぜかある。これがシズル感の招待だろうか。
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意味のわからないものでも成立するのだろうか? たとえば高野豆腐を含む煮物を丼の上に落としてみた。煮物丼だ。あまりおいしくはなさそうだ。だがそれでも楽しいのである
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ずんずん載っていく様は中華丼や麻婆丼のCMのようだ。躍動感があって、そのまま静止画で見るよりはおいしそうだった。しかしこんな地味な内容なのに…
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まずそうな丼でもいいのなら食べられない丼だとどうだろうか
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メガネをずーん。と落としてみた。これは全く食べられない。それでもやっぱりおいしそうというか、なんらかの説得力が出てくるのだ。「メガネ丼、新発売!」と文字が載ったとしたら「おう、そうか」と言いたくなるような
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メガネはごはんの上ではなく、顔に落とす、かけてみたらどうなのだろう。そう思ってやってみたらこれもなんらかの説得力が出た。不思議だ。ただかけただけなのに。
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ふつうにかけてもスローとズーンという効果音でなんらかの説得力が出た。これは一体なんなのだ。答えは出ないがその不思議な効果だけが見えた。

以上、すべて動画でご確認ください!


これは人類というシステムのバグだ

「シズル感」という言葉は広告業界で広まっている概念で、肉がジュージュー焼ける音(シズル)のような「購買意欲を高める感覚」のことだ。

おそらくだれかがハンバーガーを弾ませたのだろう。こっちのほうがおいしく見えるよね、と。そして日本にも伝わってきて、あれ? 牛丼も弾ませたほうがおいしそうに見えないか? となったのだろう。だって高野豆腐までおいしそうに見えたのだから。

いや、「おいしそう」とまでは言えない。煮物丼やメガネ丼というありもしないものでよく見えたのだから。これは「おいしそう」ではなく「なんかよさそう」「商品としてよさそう」「買いたくなる」ということだろう。

弾ませること、躍動させ生き生きとさせること、牛丼に生命を宿すことがどうして購買意欲を高めるのかはわからない(動いてるものだけ捕食するカマキリのようなことだろうか)。

ただ、我々は弾む牛丼を買いたくなっているおかしな事実だけがある。人類というシステムのバグ。それが弾む牛丼だ。

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牛丼の具は水気を少なくして細かく切るなどの工夫もあるにはあった
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