江戸時代の辞典はおもしろかった
江戸時代の国語辞典は変でおもしろかった。
触れなかったネタはまだまだある。NGな食べ合わせ、囲碁の攻略法、綺麗な字の書き方などなど。この調子であと10本くらい書けそうなので擦り切れるまで読み倒していきたい。
おじいちゃんから「おもしろいものがある」と手渡されたのが江戸時代の国語辞典だった。本当に面白い物でひっくり返った。
本を開くとイロハ順で言葉が整理されていて歴史を感じさせるが、そんなことより紙面を飾るおまけコーナーが変だったので紹介したい。
人相占いや、コマを92枚使う将棋の配置図が載っていておもしろいのだ。
突然こんな古書を披露されて驚いたが、オークションサイトを覗いてみると状態のいいものが6,000円くらいで落札されていた。金銭的な価値はそう高くないようだ。
表紙を含めた数十ページが欠損しているけれど、250年もの月日を物語っているとかではなく、単に管理が悪くてボロボロになっているだけだと思う。土産物の菓子が入っていた雑な紙袋から取り出されたのを見てしまったのだ。きっと先祖代々そんな調子で守り継いできたのだろう。
思い返せば僕も物を雑に扱うほうである。中学生のころ、友達から借りた本を風呂場で読んでクタクタにして返したらキレられた記憶がふと蘇った。自分は血筋からしてそういう人間だったのだ。安心した。
本を開いてみると見慣れない文字が並んでいた。辞典だと言われても字のくずし方が激しいので何が何だか分からない。眠たくなってくる。
自力での読解を諦めてインターネットで情報を調べると、ルールが分かって読めるようになった。この辞典の規則を以下にまとめる。
その1:いろは順で整理されている
その2:言葉の持つ意味によってジャンル分けされている
その3:紙面上部は付録の雑学コーナーであり、下に並ぶ文字群とは関係がない
その2が今日の辞典と決定的に異なる点なので解説したい。たとえば生き物の「蟹(かに)」という字を引きたいときはこうだ。
まずは「か」から始まる言葉が載っているページを探す。
「か」から始まる言葉が「草木(カズラ、カキツバタ)」「姓氏(河合、加藤)」といった具合にジャンル分けされているので、生物をあらわす気形(きけい)部門を見つける。
どうだ!気形の項目のなかに「蟹」という字を見つけることができた。
注意して見てみると、「か」からはじまる「生き物」で「水中に棲み」かつ「魚へんが付かない」という枠の中に分類されていた。執拗とも言える仕分けっぷりに思わず笑ってしまう。
しかし、とある字を引きたい時にはその実体がなにか分かっているはずなので(先の例だとカニは生物だと知っているので)、この分類法は検索のしやすさという点で優れている。慣れてしまえば現代の辞典と比べて圧倒的に早く漢字が調べられそうだ。
この辞典には付録として雑学コーナーが設けられている。上図は14世紀ごろに成立したとされる「中将棋」の初期配置。コマが多すぎて冗談みたい。
中将棋というものをはじめて知ったが、先陣を切る「仲人」は敵陣に入ると「酔象(酔っ払った象)」に成るらしい。どんな世界なのだそれは。結婚式で調子に乗った仲人が泥酔して場をかき乱す絵が頭に浮かぶが、たぶん「仲人」は現代のなこうどじゃない。
ページをめくっているとなんの相談もなくおじさんが現れた。どことなく物憂げな表情がおもしろい。
このコーナーの見出しには「人想見様古又」とあり、どうやら人相占いのページらしい。全てをおじさんにする必要はないだろうに。絵のタッチはいかにも古書といった風情である。
僕はどの相だろうかと、おじさん達と自分の顔を見比べてみるもピンとくるものがない。そもそも、ここに描かれているような顔の人を見かけたことすらない。たったの250年で日本人の顔つきはまるっきり変わってしまったのだ。
せっかくなので人相の説明書きを読んでみたいと思ったが、あいにく僕はくずし字が読めない。どうしようか迷っていた折、先日の西村さんの記事でくずし字を読み取れるアプリ『みを』の存在を知った。助かった。それを使って江戸時代の人相占いを読み解いていこう。
アプリでうまく認識できなかった部分は勘で補完すること、「古相」は文意が理解できなかったため省くことを先に断っておきます。
めちゃくちゃな罵倒だらけで呆気にとられてしまった。顔のつくりだけを取り上げて人間の一生を決めつけてしまえる昔の人のモラルはおもしろい。
子供に読ませたくない辞書ランキング堂々の1位である
こんなにおかしなものが100%真面目の産物であるとは考えられない。時代がいつであれ本を編集する人のおもしろ感度が低いはずはないから、この辞典もきっと江戸時代の人たちが面白がりながら作ったのだろうと想像している。
江戸時代の国語辞典は変でおもしろかった。
触れなかったネタはまだまだある。NGな食べ合わせ、囲碁の攻略法、綺麗な字の書き方などなど。この調子であと10本くらい書けそうなので擦り切れるまで読み倒していきたい。
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