特集 2020年8月24日

中国の小1の作文サンプル集を見てたまげた

小学1、2年生でこの厚さ。中国人は勉強がハードというが、なるほどの厚み。

夏休みといえば日記。日記といえば作文。作文は慣れないとアイディアがなかなか出ない。

 中国でもその悩みは同じなのか、小学生の作文サンプル集が書店の子供の本コーナーで売られている。

子どもの作文のテーマは中国と日本で違うのだろうか。買って読んでみたら、けっこう日本にはない感じの文章が詰まっていた。

せっかく入手したのだから、日本の現役小学校の先生(お仕事柄匿名)に協力してもらい、オンラインで添削をしてもらうことにした。

変なモノ好きで、比較文化にこだわる2人組(1号&2号)旅行ライターユニット。中国の面白可笑しいものばかりを集めて本にした「 中国の変-現代中国路上考現学 」(バジリコ刊)が発売中。

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QRコードが本の中にあって、スキャンすると書き方動画が流れる
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1年生からハードルが高そう

――よろしくお願いいたします。これ400ページ近くあるんですよ。めちゃ分厚いです(笑)

先生「すごいですねえ、中国の子供たちは1年生から漢字だらけで。ピンイン(発音記号)もあるんですね」

――ですです。だから読めるんでしょう。この本、最初に一段落で終わる短い文があって、次に半ぺージ、数えたら200文字くらいの文があって、そのあとに1ページ以上の長編作文があります。すごいですよ!

先生「子供たち大変ですわあ」

――日本の1年生の作文の要求はどんなもんですか?

先生「読める文字を書く、言いたい中身と書いた単語を一致させるというのが目標です。

「みたこと」「きいたこと」「はなしたこと」「かいだこと」「あじわったこと」「さわったこと」「おもったこと」を書けるようにします。」

――そんな目標があったのですね。知らなかった。

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文章の中になんだか味わい深いレトロな絵もある。今の日本ではなかなか見られないタッチで、むしろいい。
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『餃子』

――では本の短い例文を読んで訳してみます。題は『餃子』です。

『餃子』

『餃子の皮をもち、箸で餡をつまむ。
餃子の皮において両手でもんで、餃子のできあがり』…どうでしょう?添削お願いします。

先生「短い作文ということなら、したことが書けているので合格!もし長い作文を書くなら、前段階を書きましょう。お母さんと会話とか、取り掛かる理由があった筈でしょ。そして具ができるまでの出来事がない。…と書きますねえ」

――たしかに「きいたこと」がないですね。なるほどなるほど。

先生「箸を突っ込んだ時の感触、手に皮を乗せた時の感触、具を乗せた時の重さの変化、皮をくっつける時の感触などなど、、、もっと表現できる筈です。」

――五感で感じたこともかくと。なるほど・・・・

「あと、これでは、焼き餃子か蒸し餃子か水餃子かが分かりません。食べるまでが料理なので、そこまで記述しないと中途半端な感じがします。」

――餃子は水餃子か焼き餃子か、もやっとするポイントがあるとNGなのですね。ひぃ

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日本は焼き餃子、中国は水餃子。
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『冬の音符』

――別のページを見てみます(パラパラとめくる)。タイトルは『冬の音符』だそうです。

『冬の音符』

『冬は、春のように鳥が鳴き花が咲くような景色もなければ、夏のような日差しも緑もなく、秋のような紅葉も収穫もないけれど、独特な音符を出す。

午前中の冬の音符は美しい、細くて軽くて柔らかな雪の花が風に揺られて落ちてくる。精霊のよう。

昼になったら銀世界に。歩くとがじがじ鳴って一休さんを思い出す。

夜は静かになって街には人がいなくなる。辺りには人はおらず、串だけが熱気をだして、また雪だるまだけが喜んでる。

これが冬。たくさんの音符が作り出す。これが冬の賛歌だ』

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雪の中国の街。一休さんは見かけない。一休さんオリジナルグッズが欲しい。

――これ1年生ですか!?レベル高い。それでいて突然の一休さん。中国で一休さんは昔流行っていて、「すきすきすきっすき」というテーマ曲は広く知られています。

先生「他の季節と冬を比べる出だし、いいですねえ。「わたしと小鳥とすずと」みたいで詩的です。枕草子だと冬はつとめて(早朝)ですが、こちらの柔らかな雪の描写もとてもきれいです。夜の表現がまた大人びてますね。脱帽。

比較対象につい大人、それも有名どころを出しちゃいましたよ。低学年の作文とは思えないんですもの。しかし一休さんてのが、子どもらしいですね。」

――や、今の子どもが昔流行った一休さんを出すあたり隠しきれない大人の影を感じます(笑)

先生「あと冬の串はいいですね。」

――雪の日のコーンポタージュ缶のようでたまらないですねえ。

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中国の串焼き屋。ワイルドだ。
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『米袋に穴』

 ――これなんてどうでしょう。タイトルは『米袋に穴』です。

『米袋に穴』

下校時に米が落ちているのを見つけた。「こんなにコメが落ちてるなんて米袋に穴が開いてるに違いない」「見つけなきゃ」家から針を持ってきて米の主を探した。

おじいさんが米を漏らしていたのを見つけ、声をかけた。「ずっと米が落ちてますよ」針をもって米袋を縫った。

おじいさん「ありがとう助かったよ。空の米袋を家に持って帰るところだったよ」』

――わかる。そんなことないと思うかもしれないですけど、パソコンをかばんの中から盗まれたことがありまして。数キロ軽くなっても気づかないもんなのですよ。どうですか?

先生「かわいいですねえ、針と糸を取りに帰ったりお米拾ったり。見たこと、話したこと、聞いたこと、したことを、時系列に順序よく書いて、主語述語もはっきりして、絵を元に低学年でここまで書けたら、なかなかのものです。

作文で道徳的な評価はするもんではありませんが、おじいさんの状況や、するべきことを細かく想像して表現できる人柄の良さ・思いやりはポイント高いです。」

――評価が高い!

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「図を見て社会事件を書く」という作文だった。


ほかにも様々な文章を読んでいく。あまりに多くて紹介しきれないのだが、たとえば冬を題材にしたものでは『冬に雪が積もった。溶けたら大地にしみこみ、バッタがたくさん凍って翌年は豊作になる』と、バッタと戦う日々を想像させる作文もあれば…

 また『お父さんのシェーバーが気になって自分も顔の毛を剃ろうと試して、眉毛をそっちゃった。ひどい顔になってしまった!』というやってしまった日記もあった。

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『秘密』

――『秘密』という作文、何やら気になるので訳してみます。

『秘密』

『旧正月の一日目、おばあさんが外を見て「雀が来た、鳥が来た、今年は運がいい!」といった。鳥はとうもろこしの粉をついばんでいる。

おばあさんは家事をしながら京劇をきいて楽しそう。毎日おばあさんがこうだったらいいのに。

夜、ベッドで私はいいことを思いついた。翌日、朝早起きして厨房からとうもろこしの粉を持ち出して、ベランダから下にそれを撒いてベッドにすぐかくれた。おばあさんはまた喜んだ。喜んだので毎日とうもろこしの粉を隠れて撒いた。

ついにある日、トウモロコシの粉が激減しているのに気づいて、お父さんに相談すると、お父さんは「おばあさんは記憶力がないんだから」といった。私はそれを聞いて悲しかったが、ついに言えずじまいだった。おばあさんを悲しませたくなかったから。』

――またも小学1年生とは思えないクオリティ。そして中国人の家族思いを感じます。

先生「冒頭のおばあちゃんの描写、いいですねえ。会話と表情の再現が上手です。雀の様子の表現もナイス。

「いいこと思いついた」と早起きして粉を撒く子供、かわいいです。この日もおばあちゃまは京劇でノリノリだったんでしょうか。」

――広場にいって太極拳とか踊ってたのかも。最近のおばあちゃまはスマホも使いこなしますよ。

先生「さて、本題の雀。とうもろこしの粉を少しずつあげていれば、バレなさそうに感じるんですが、あからさまに減ってしまったんですね。よほど長い期間なのか、どかーと来訪していたのか、ギャル曽根並みに食べる雀だったのか、地味に気になるところですが、閑話休題、最後、おばあちゃんをそっとしつつ、翌日以降はどうしたのかな。続きが気になる終わり方の作文、中国にもあるんだなあ、と思いました。」

――たしかに。ハトおじさんみたいに合計数キロばらまいてたら、雀屋敷になりそうですよね(笑)


作文作法も国ごとに違った

先生に中国の作文の特徴を聞いてみた。

先生「格調高い表現を散りばめること、心情の流れが描写されてることが、日本の作文より求められてる気がします。

日本語の作文の場合、場面の様子が思い浮かぶようにとか、具体的に誰が何処で何をしてるのか、情況が伝わるように、みたいのがポイントですかねえ。」

日本と中国でいろいろ習慣が違う。作文についても日本と中国とで強みが違うようだ。

それにしても中国の小学生は大変だ。

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