缶詰を直火にかけるイメージ
キャンプって、缶詰をそのまま火にかけてるイメージがあったのだが、ほとんどの缶詰に直火にかけるな、という注意書きがあった。このイメージはどこから来たんだろう。
契約をしたばかりの何もない新居、ここに住んだらキャンプみたいになっちゃうなーと思う。本当にキャンプのようになるのか、1泊してみました。
今の家が狭くなり引っ越すことになった。無事にいいところが見つかり、契約して新居の鍵をもらったが、諸事情あり引越しはそこから一週間後となった。
自由に出入りできるけどほぼ何もない家、という状況が生まれたのである。
「今住もうとしたらキャンプみたいになっちゃうね」と妻と話した。
…キャンプみたいになっちゃうのか。キャンプか。キャンプって楽しそうだよな。
そう思ったので何もない新居に一泊してキャンプのようになるか、やってみることにした。
家の状況と持っていった道具はこんな感じである。
家
持っていったもの
電気、ガス、水道が使えるのは大きい。トイレが使えるし、その気になれば料理もできる。新居キャンプの中でも初心者向きと言える。ここで昼過ぎから次の日の朝まで過ごしてみよう。軽い足取りで現地へ向かった。
外がよく見える窓の近くがいいなと思って座ってみたが、これはいかんなと思った。カーテンがないのだ。そして家には何もなく、僕はそこで寝泊まりしようとしている。外から見た人に、泥棒がくつろいでいるのかなとか思われてしまったら色々な人に迷惑をかけるだろう。
何もない家でくつろぐ泥棒なんているんだろうか。分からない。いたら怖いということだけは確かだ。
ここなら外から見えない。それでいて外からの光は感じられる場所なので、太陽が沈む様子を体感できる。いい場所が見つかって良かった。
拠点が決まったら、周辺の散策をしよう。家を隈なく見てもよかったのだが、どうしても「あの荷物はこの棚に入るだろうか」とか「ここはどうやって掃除するんだろう」とか考えてしまうとキャンプの非日常感が薄れるので、外を散歩することにした。
これから住むとはいえまだよく知らない土地なので、散歩が楽しい。建物に囲まれてはいるがこの時間はキャンプっぽかった。
雰囲気のある立ち食いそば屋さんがあったので入って食べてみる。よく聞くラジオが流れていて嬉しくなった。知らない土地の立ち食いそば屋さんと感性が合った。
頼んだ天玉そばを食べていたら隣のお客さんがアジ天と春菊天のそばを頼んでいた。「そんなうまそうなものがあるのかよ」と思って店内を見回したらちゃんと札に書いてあった。
帰りにスーパーに寄って、夜に食べるものを買って帰る。
散策から帰ってからは、キャンプ地でもできる仕事をしたりキャンプのマンガを読んだりしてのんびり過ごした。
僕はデイリーポータルZでマンガのコーナーをやらせてもらっているのだが、ちょうどその締め切りが迫っていたのでネタの案を考えた。
そんな風に言うとさも順調に案が出ていそうな感じがするが、この3つのワードを並べただけでこの日は終わった。
あとはスマートフォンでキャンプのマンガを読んでいた。いくつか読んだが、どのマンガもキャンプの間口の広さ、楽しさ、自然をリスペクトする心を伝えていた。読みながら今の自分は「キャンプ」に該当するか考えてみたが、ギリギリ該当しないような感じがした。マンガ読んで「キャンプに行きたいなー」と思ったので。
しかし、マンガに強く共感する部分が一ヶ所あった。キャンプ初心者の主人公が静かなキャンプ地で聞こえる鳥の声や川のせせらぎを感じて、静かなだけじゃなくてこんなに豊かな音に囲まれているのだと感動するシーンがあるのだが、僕も外から聞こえる人の声、車の音をいつもより強く感じていた。家で物音がしないので、外の音が際立つのだ。
すごく早いが、外が真っ暗になる前に取りかかろうと思う。
キャンプのイメージが「缶詰」だったのだ。おしゃれなキャンプ料理と迷ったが、新居のキッチンで無茶をしたくない気持ちが勝った。
写真を見ると隠れて飲み食いしてるやつにしか見えないが、これはすごくよかった。こそこそ食べる飯は絶対にうまい。
キャンプのマンガで、キャンプさせてもらう場所へのリスペクトを忘れるな、と経験者が言っているシーンがあるのだが、一方新居にいる僕にも並々ならぬ場所へのリスペクトがある。
これから僕たち家族がここに住むのだ。その初めての電気、初めてのグリル、初めての飲食を僕一人のために使わせてもらっている。絶対に雑な気持ちで振舞って汚したりしてなるものかという気持ちがある。そうするとこそこそ食べるような感じになるのだ。そしてこそこそ食べる飯は絶対にうまい。
堪能した。自然の中で食べる良さこそなかったが、いつもと違う場所でいつもとは違うものを食べる、という意味ではすごくキャンプだった。「うんうん」とか「あー」という独り言が出た。ソロキャンプをしている人も独り言が出たりするんだろうか。
1時間ほどご飯を楽しんだあと、子どものお風呂と就寝に付き合うために一旦帰る。何もない場所でしこたまぼんやりしたあとの日常は現実味がなくてクラクラした。
そしてまた森(何もない新居)へ戻り、焚き火を楽しんだ。
これはこれでいいのだが、自分でデザインした明かりを見てみたい。今あるものでできないだろうか。
こういう風に使えないかなと思ってグラスを持ってきていたのだ。すごくきれい。
段々暗くなる家に一人、というのが心細かったが、この柔らかくも力強い明かりで癒された。いつもと違う環境に自分一人、そこに心を許せる小さな明かりが一つ、という状況はソロキャンプと近いのではないだろうか。
今更ながら何もない家に一人、という状況が怖くなってきて(防犯ではなくて心霊方面の怖さ)、よく聞くラジオを付けっ放しにして寝る。ラジオに集中して嫌なことを考えないようにしていたらそのうちに寝た。
床が硬くて夜中何度か起きたが、寝れた、という感触もあった。
4時には起きてしまっていたが、なんとなく時間をやり過ごして5時から動き始める。
歯を磨いてキャンプ地(キッチン周辺)を片付けて家に戻る。子どもを保育園に送る用事があるので、子どもが起きる前に家に着いておきたいのだ。
朝5時に知らない場所で暖かいコーンスープを飲んでいたら「キャンプっぽいな…!」という感じがした。僕の中のキャンプの敷居が下がってきている。
家に帰ると妻が仕事の支度をしており、子どもはまだ寝ていた。僕も子どもの横で少し寝た。新居の床が硬かったので取り返すように布団で寝た。
7時前に起きて外を見るとビルの影から太陽がのぼってきた。日の出は6時すぎのはずだったが、ビルのせいで太陽の姿が見えるまでに時間差があったのだ。
日がのぼって来るのを見て、これでキャンプを一通り楽しめたな、という気がした。
原稿を書いている今、物をどさどさ運んでおり「何もない新居」からは程遠い姿になったので、この一日が夢だったような気持ちである。
そして未来の僕からキャンプ中の僕に何か言うとしたら「そんなことをしていないで早く荷造りをしろ」と言いたい。そしたら当時の僕は「いいだろ別に」と言うかもしれない。
まとめ
【何もない新居で一泊】キャンプっぽかったところ
キャンプっぽくなかったところ
キャンプって、缶詰をそのまま火にかけてるイメージがあったのだが、ほとんどの缶詰に直火にかけるな、という注意書きがあった。このイメージはどこから来たんだろう。
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