特集 2021年8月13日

ダイエーと西友のバトル「赤羽戦争」の跡地を訪ねて

壇ノ浦に関ヶ原、そして赤羽。

日本史上、有名な戦争の舞台です。
源平合戦、最後の地である壇ノ浦に、天下分け目の関ヶ原。

では、赤羽は?

西のダイエー、東の西友。天下分け目の一大スーパー商戦が、赤羽を舞台に起こったのです。

今日は、そんな日本を代表する戦場・赤羽の古戦場跡を観光していきましょう。
 

1997年生まれ。大学院で教育学を勉強しつつ、チェーン店やテーマパーク、街の噂について書いてます。教育関係の記事についても書きたいと思っているが今まで書いてきた記事との接点が見つからなくて途方に暮れている。

前の記事:10年前の池袋を歩く 第5回 中華街の変遷とロサ会館

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赤羽は戦場だった

清野とおるさんのマンガ『東京都北区赤羽』ですっかり全国区になった東京都北区赤羽。

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住みたい街ランキングの上位にもなりました

駅前にはたくさんのスーパーや商店街が広がっていて、住みよい環境が広がっています。ひしめく商店の中、西友とダイエーが、わずか数百mほどの距離で向かい合っています。

ここでかつて、戦争があったのです。

その名も“赤羽戦争”。

激戦の跡を訪ねよう

時は1969年。
西で勢力拡大を続けていたスーパー・ダイエーが、関東各地に進出。世に言う「首都圏レインボー作戦」のはじまりです。その作戦の地の一つとして、赤羽が選ばれたのです。

(首都圏レインボー作戦地図)

しかし、赤羽には東のスーパー大御所・西友の売上優良店が存在。西の刺客が敵の本丸に勝負を仕掛けてました。

価格戦争、いや、西と東のスーパーマーケット市場をかけた天下分け目の一大商戦の始まりです。

ダイエー赤羽店の開店初日。

西友はキャベツの無料配布という荒技に打って出ます。しかしダイエーへの人の流れはものすごい。この日ばかりは、地元警察も60人という警備体制でこの全面戦争にそなえます。

向こうが1円下げれば、こちらは2円下げる。死に物狂いの価格戦争は、最終的に西友が安売り路線を撤回することで一応はダイエーの勝利になったといいます。しかし、それが両者に与えた影響は大きなものでした。

かつて、ここは、戦場でした。

今回は、そんな戦場の跡地を訪ねてみましょう。

赤羽戦争の経過

古戦場をめぐる前に、それぞれの位置関係が少し複雑ですので、地図で位置を確認しておきたいと思います。

赤羽戦争前、赤羽には西友が一軒ありました。現在の西友から数十m先、かつての一号店です。

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さて、そこに西からダイエーがやってきます。1969年のこと。

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ダイエーの攻勢に脅威を感じた西友は、なんと自ら、ダイエーと目と鼻の先に西友赤羽店の2号店を作るのです。

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一対一の一騎打ち。戦争状態になったのにも頷けます。

かつての西友一号店はその後、異なる商業施設に変わり、現在は非常に近い位置に西友とダイエーがあるのです。

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西友赤羽店から臨むダイエー赤羽店。その近さがわかります。ここを安さを追い求めてたくさんの人が行きかったのでしょうか

旗に残る戦争の痕跡

1969年に起こった赤羽戦争ですが、その激戦の痕跡は、戦後50年ほどが過ぎた現在の赤羽でも分かります。

最初にやってきたのは西友赤羽店。戦争の本丸の一つです。
大通りから店内へ入るには、細い道を通らなければなりません。

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入り口までの細い通路

かつて、西友赤羽店には、ダイエー赤羽店からのスパイが多数潜り込んでいたと言います。こんな記録も残っています

まず敵を知ることから、と隠しマイクを持って、毎日毎日、西友ストアの商品価格を徹底的に調べました。おかげで比較できるものは一品残らず西友より安くしました
(当時のダイエー赤羽店店長・青井一美さんの証言『ダイエーグループ35年の記録』より)

スパイに見かねた西友が、簡単に中に入れないようにしたのでしょうか(写真の壁の横には、現在の西友の本部があります)。

この細い道を進むと、一つ目の見所があります。 

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「ダイエー・イトーヨーカドー・富士ガーデンビーンズ 価格真っ向勝負!他店チラシと同額保証」

ダイエー赤羽店や他店との価格勝負宣言。何気なく立ててある旗ですから、観光の方は見落とさないようにしましょう。

戦後50年ほど経過しているにもかかわらず、まだ価格競争の火は消えていないのです。冷戦状態、といったところでしょうか。

西友の赤々とした壁が、闘志を思わせます。
何が起こるかわかりませんから、慎重に歩いていきましょう。
 

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裏手にも旗はありますから、適宜、記念写真をお取り下さい

アメリカ式スーパーにも戦争の名残りが

西友の中に侵入してみましょう。

先程も書いたように、ここにダイエーからのスパイが多数侵入して、その値段を調べていたのです。整然とした店内には、ダイエーとの戦争の跡は中々見当たりません。

しかし、店内で注目して欲しいのは、店員さん。
制服を見てください。英語が書いてあるはずです。


ここは、既にアメリカのスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」との共同経営店舗になっているのです。

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商品の陳列方法がアメリカンスタイル。牛乳パックを箱ごと入れます
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かつて激戦の司令塔となった本部は
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中に「ウォルマート」と大きく表示されています。

赤羽戦争は、西友・ダイエー両陣に大きな被害をもたらしました。最終的に両陣営とも経営が悪化。西友はウォルマートと手を組み、新しいアメリカ式の店舗作りを目指すことになったのだとか(現在は、楽天なども経営に参加)。

西友が1円下げたときけば、ダイエーは2円下げる。それを聞いた西友がさらに1円下げ、という値下げ合戦は止まるところを知らず、両陣営を確実に阻んでいたのです。

西友赤羽店は、食料品以外にも自転車や衣料品なども売っており、総合スーパーとしてダイエーとの違いを出しています。全面戦争は避けているのでしょうか

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戦争の司令塔と銀座アスター

実は、赤羽戦争の跡地で最も古くから存在するのが、今や全く関係なさそうに見える「Mets ビル」。赤羽駅からすぐの交差点に面しています。

交差点の左側、「赤羽ReNY alpha」という施設が入っているのが、Metsビルです

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現在のMetsビル

ここが、かつては西友一号店だったのです。
当時の新聞は、以下のようにこのお店を紹介しています。

国電赤羽駅東口の旧オリンピア映画館に建築中であったオリンピア・ビルがこのほど完成したので、いよいよ25日から開店することになった。[…]西友ストア赤羽店は地下2階・地上5階までと9階の一部を使い、食料品・衣料品・雑貨などをそろえるが、赤羽店は同ストア20店のうち最大の規模である。[…]落成式は、24日午前9時から約1000人を招待して、オリムピア興業、西友ストア共催で行われ…
(北区新聞、1966年3月20日・27日)

1966年、華々しくこの地に開業した西友。ビルの所有者であるオリンピア興業が西友を誘致したそうです。

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落成式のようす(『経済時代』より)

しかし、開業から数年後、ダイエーが赤羽に攻めてくるという知らせを聞いた西友は焦ります。そして、急遽、ダイエーのすぐ向かい側に西友の第2号店をつくったのです。これが、先ほど私たちが訪れた現在の西友赤羽店です。

ここが戦争の司令塔だったのです。

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中の様子

現在では、TSUTAYAやゲームセンターが入居し、かつての西友の面影はないように感じます。

しかし、じっと目を凝らすと、かつての名残を見つけることができます。

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オリムピア興業株式会社。会議室を運営していました。ここで戦争の会議を練っているものと思われます
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さらに、重要なのが、9階にある中華レストラン「銀座アスター」です。

この銀座アスター、赤羽戦争の時代からこのビルに入っていることが確認されました

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昔の住宅地図に書いてあるのがわかるでしょうか(『ゼンリンの住宅地図 北区 1981年』より)

戦争に行った兵士たちの空腹を満たしていたのかもしれません。

ビルの中身が変わり、西友も移った今、銀座アスターだけは、この地の変遷を見続けてきたのだと思うと、敬服する思いが止みません。

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堂々たる威光を放つ銀座アスター
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ダイエーはいま

現在の西友から100mほど歩けば、ダイエー赤羽店にたどり着きます。この100mを、多くの消費者が殺到したのかと思うと感慨ひとしおです。

現在、赤羽ダイエーは、ダイエーと専門店街が同居した、ビル一つ分の領地を保有しています。実は、かつてこの周辺の土地が全てダイエーだったのです。

かつてのダイエーの領地

かつては、ダイエー棟と専門店街の2棟が分かれており、現在残っているのはかつてのダイエー棟です。

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古地図にもはっきりと領地が(『ゼンリンの住宅地図 北区 1981年』より)
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横が現在のダイエー、左側の土地は現在高層マンションになっていますが、かつての専門店街棟です
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同じ位置をかつての写真で。ダイエー棟と専門店街棟の間には、渡り廊下がありました(『ダイエーグループ35年の記録』より)
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かつて専門店街棟だった高層マンション

ダイエー棟も専門店街棟も、かつては相当豪華な入り口を持っていたことが当時の写真などから偲べます。

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かつての入り口が当時の雑誌に載っています(『販売革新』より)

打倒西友の強い意志が感じられます。
赤羽戦争激戦の頃には、安い品を求めて、この入り口に客が殺到したのでしょうか。

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現在の入り口で記念写真を

現在のダイエーで気がつくのは、やけに食品が多いこと。
チーズコーナーも豊富ですし、惣菜もたくさん。

実は、これも赤羽戦争の名残りなのです。先ほども述べたように、戦後、ダイエーは西友に一応は勝利したものの、両陣営の経営は悪化。

ダイエーは食品に特化したフードスーパーマーケットへと変わり、経営権もイオンが持っています。

日本の流通の栄枯盛衰を思いながら、食品売り場を眺めます。

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専門店街の名残りが

現在のダイエーの2階、3階は専門店街として、ファッションブランドやヤマダ電機が入っています。

かつての赤羽ダイエーがダイエー棟と専門店街棟に分かれていたことはお話しましたが、現在ではこれが一つの建物で収まっているのです。

さて、3階にあるヤマダ電機には、たくさんの格安テレビが売っています。実はこの地で、テレビが格安で売られるのは初めてのことではありません。

赤羽戦争全盛の頃、ダイエーが西友に仕掛けた作戦が「格安カラーテレビ ブブ」の発売でした。

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出荷されるブブカラーテレビ(『ダイエーグループ35年の記録』より)

私はこれを「テレビの変」と名付けています。

シャープなどのメーカーと決死の価格バトルの末、格安でテレビ販売を行うことにこぎつけたダイエーは全国的に注目を浴びました。それが、最終的にダイエーの躍進を助けました。

ダイエー赤羽店のオープン初日に発行された東京新聞では、ダイエー赤羽店が「カラーテレビ現金正価12万9千円のものが6万9千円、それも数量に制限なく売りまくったというからすさまじい」とのこと。

もしかすると、ヤマダ電機の格安テレビもまた、この「テレビの変」の名残りなのではないか。ここにも、戦争の跡地を見つけることができるのです。

周辺に広がる古戦場の跡

かつての戦場跡の地図を見ながら現在の赤羽を歩くと、随分と変わっていることがわかります。しかし、その中でも変わらないのが、ダイエーの横に通っている「すずらん商店街」です。

実は、ダイエーを誘致したのは、このすずらん商店街でした。

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ダイエー・西友のすぐ横にある「すずらん通り」が赤羽戦争を起こしたのではないでしょうか

地元に活気を、ということで工場の跡地にダイエーを誘致。地価が安かったことから、ダイエーは出店を決めました。

この商店街に何か名残りはないでしょうか。

まず気づくのは、整骨院がやけに多いことです。

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西友とダイエーの間を通るスズラン商店街に、4件もの整体・整骨院が。

観光の途中、何度もドクターストレッチの人に声をかけられました。初めて訪れる方は驚いてしまうかもしれません。

これは、赤羽戦争の際に、負傷兵たちが傷を癒すために整骨院を多く頼った、その名残りではないでしょうか。

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負傷兵の駆け込み寺

そう思うと、かつての生々しい激戦の様子がまざまざと浮かび上がってくるようです。

激戦に祈りを捧げたい

さらに、スズラン商店街の中腹に、意味ありげな銅像が立っています。

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何かを祈るような銅像。周りは静謐感に包まれている。

タイトルは「情」
実は、この奥の方にダイエーがあり、ダイエーから目を背けているようにも見えます。しかし、手をよく見てください。

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この手の形、なにかに似ていないでしょうか?
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そう、ダイエーのロゴマークです。

西友を向きながら、ダイエーのロゴマークを手に浮かべる。そう、これは、きっと赤羽戦争の終結を祈る記念碑なのではないでしょうか。

私たちも、観光をする1人として、赤羽の平和を願って銅像に祈りを捧げておきましょう。

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祈っています
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さらに、西友・ダイエーの間には、赤羽のカテドラルも存在。幼稚園も併設した教会で、赤羽戦争以前からあったようです。

激戦の中心地にかつてから存在した教会は、赤羽戦争の経過をどのように見つめていたのでしょうか。


激戦の跡を訪ねて

赤羽戦争は、いつの間にか赤羽の歴史からは忘れられようとしています。

しかし、よく赤羽の街を見てみると、その名残りがそこかしこに残っています。

皆さんも、赤羽戦争の跡地をめぐるツアーにいらしてみてはいかがでしょうか。

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