ろうそくたるもの最後まで燃えていたいのではないか
筆者が消しゴムなら最後のひとかけまで使われたいし、ろうそくだったら最後まで燃え尽きたいと思う。しかしあの数字のろうそくたちには誕生日の歌が合唱されている数十秒の命しかないのである、かわいそうじゃないか。
彼らの寿命を全うさせたい。そして知りたい。0~9、どの数字が一番長く燃えるのかを。この疑問が本題である。
あのろうそく、ナンバーキャンドルと言うらしい
そういったわけで疑問を解決すべく数学のろうそくを手に入れた。ちなみにこのろうそく、ナンバーキャンドルというらしいのでこれ以降はそう呼ばせていただく。
これで100円なのありがたいな
0~9の数字に加えて「!」「?」とハートマークまで入っている
「!」とハートはわかるとして、「?」のろうそくはどんなタイミングで使われるというのだ。「24?歳の誕生日おめでとう!」とかだろうか。
THE・祝われない方がマシである
さておき、さっそく彼らの力を見ていこう。
ちょうど未使用のスポンジが2つあったのでこれを試合会場とする。
プスプス刺したらめでたいスポンジができた
ケーキだと蝋が垂れて食べられなくなってしまうともったいない。スポンジケーキとよく聞くけど、たぶんこれのことだ。
あと、忘れてはならないのがもしもの時用の水だ。
バケツで用意した
絶対に危ない目には遭いたくないからだ。なんらかの危険を感じたらすぐ水に突っ込む心持ちでいる。探究心より人命である。
さあ皆さん順位予想はできただろうか?
いざ点火!
試合開始!
タイムラグを抑えるため一生懸命最速で点火した。こんなにナンバーキャンドルが並んで火が灯されることはないだろう。人間は今のところがんばっても3桁までしか生きられないからだ。
わ、3が!2分15秒で!
とかなんとか言っている間に3が早くも消えてしまった。まだ身体の大部分を残したままの鎮火、これは短期決戦になりそうだ。
2も!2分58秒!
3分保たずに2も消えてしまった。素数たちー!奥で6も身体の右半分がえぐれて大ピンチだ。なんだなんだこれはどうなるんだ。
次々と消える数字たち
ここからは9、6、8と大型の数字が次々と姿を消していった。どうやらこの勝負、数字の大きさと強さには相関がないようである。
炎が安定しているのは0、1、7あたり。数字のカタチを見ても安定感があるような気がする。「2の形の椅子を作ったんだよ」と言われても不安で座りたくない。
で、気になる結果はというと…
0とタッチの差で7が勝利!
数字が並びすぎてよくわからない順位表
白熱した試合だったが、決定!一番強い数字は7!
…と結論づけようかと思ったが、気になることもでてきた。
燃え尽きていないのだ。ほとんどの数字は形を残しながら鎮火してしまっている。理由は明快で「芯が途中までしか入っていないから」。これでは本来の彼らのチカラは分かるまい。
うーむやっぱり燃え尽きる様を見てみたい…文字通り不完全燃焼である。
個体差はあれど、だいたい芯の長さはこれくらい
とはいえいくつかの店にも訊いたがやはり芯は途中までしか入っていないとのこと。まあそうだろうよ、冒頭で述べた通り彼らの出番は基本的に一瞬なのだ。
この世にないのなら作るまでである。
最後まで芯の通ったろうそくで第2回戦をするぞ!本当の戦いはこれからだ!
で、芯の通ったろうそくを作った
かわいくできた
というわけで、見た目ではわからないだろうけれど芯の通ったろうそくを作った。すぐできたような感じで出したけれど、以下のとおり地味にがんばった。
※いそいそとロウソクを作るだけの工程が続くので、結果だけ気になる方は読み飛ばしてしまって構わない。
まず型取り用のパテを練って(2剤を合わせるとすぐに固まる)
もともとの数字のろうそくを埋め込む。この形を複製していくのだ
芯を通すための溝を数字の上部につけることも忘れてはいけない。
うまくろうそくが外れたときの気持ちよさといったら
コツはろうそくにヒビを入れて部分ごとに取り除くこと。一気に抜き取ろうと思うとむずかしい。そういえば筆者の親知らずも4つに砕いて抜いてもらった記憶がある。あれは怖かった。本当に。
型ができたら均一の長さに芯を。これで最後まで燃えるぞ!
途中で「あれ!?6がふたつある!?」と焦ったけど、よく見たら逆さの9だった。
あとはろうそくを砕いて、これを鍋で湯煎にして溶かしていく
やっていることはバレンタイン前の女の子と一緒だ。ただろうそくの行き着く先を見たいだけなのに。
色付けにはクレヨンを削って溶かす
流し込んで、数時間冷やしたら…
完成!
これを綺麗に取り出すのが一番大変だった。
化石の発掘ってこういう感じなんだろうなー、とわかった風で6をプルプルしながら採掘した。穴の部分が抜きにくいし、上に突き出た部分がちぎれそうでこわい。6を考えたやつ出てこい!9を考えたやつも同罪だ!
そして戦いの火蓋が切られる(ろうそくだけに)
といった経緯を踏まえて完成したのが芯の通ったナンバーキャンドルである。いよいよ第2回戦を始めよう。
戦いの舞台はこちら
第1回戦より火が強くなることを想定してセキュリティーを強化。舞台をキッチンに移動させ、ちょうどいい大きさの鉢があったのでここに土を入れた。即席スタジアムの完成である。
どうだろう、甲子園球児っぽくなった
そして点火!
で、まあ全然消えない
さっきは5分ほどですべて消えたのに、その時間を過ぎても誰も姿を消す気配がない。ここまで差が明確に出るとわざわざ作った甲斐があるというものだ。
8~!ようやくここで最初の脱落者、7分58秒。
と、耐久戦が続いていたがついに脱落者が出た。8だ。「8…!」と思った。
もうすでに形が残っていないので判別が難しいと思うが、後列の右から2番目が8である。
おれだけだろうか、ピクミンを思い出す色合い
で、ここからが長かった。その後2分半のあいだ誰も脱落せず、耐える時間が続く。それでも10分を過ぎたあたりから4、先ほど強かった1と脱落していき…最後に残ったのが、
ゼロだ!
なんと2位(13分20秒)の「3」をちょうど4分も引き離し「0」が大差の勝利を収めた。第1回戦も2位の好成績だった0、間違いない、君が王者だ!!
なんでゼロが強かったのか、科学系のひとたちに訊いた
そんなわけで順位は以下のとおり。
なにか関連性は見えてくるだろうか
「ゼロが強かったねー」で終わらせようかと思ったのだけれど、せっかくならその理由も知りたい。自分だけでは見当がつかなかったので、理科教員や科学系の大学を出られた方に画像を見せて訊いてみた。
0、3、6、9が強かった考察
・最後までロウを吸い上げられるかが鍵。そういった意味で終盤の芯の糸と、崩れたロウの位置が大事そう。
・0、3、6、9は底が丸く、とけ崩れても丸く綺麗に広がってロウを吸いやすかったのではないか。
・9が0、3より早く消えたのはロウが横に流れているので、そのロス分吸えなくなって消えたのではないか。
確かによく見ると9(一番右端の黄色)はロウが流れてる!
・3、6、9は最初と最後が曲線なので、蒸発して真上にあがる気体のロウが炎に接触しにくいのではないか(ロウを無駄に消費しづらい)
・そもそも0、3、9は置いた位置が端なので周りより温度が低かったのではないか。
これは間違いないです、本気で検討するなら1本ずつ計測しよう
・あったまりすぎてもダメ、燃料が途切れてもダメ、の絶妙なバランスが大事そうだ、おそらく0はこの2点が突出していたのはないか。
逆に1、4、8が弱かった考察
・すべて赤いロウソクなので、そのあたりが要因?
ホントだ、絶対これだ。赤いクレヨンの量が多かったのかも
・8は芯の糸がS字のため、ロウソクに対して糸が斜めになっている。糸に対してロウが接する面積が大きい分、ロウの消費が激しかったのではないか。
右下の8。確かに彼だけやたら芯が入り組んでいるのだ
という具合で、あれやこれや考察していただいた。ろうそくが燃える仕組みやら毛細管現象がどうだとか言う話も出たのだけど、かいつまんで取り上げると上記のような具合だ。
限られた画像から要因を推定して答えを導いていく様子は側から見ていてちょっと興奮した。
ところでナンバーキャンドルの新たな使い道を考えた。「VRカロリー表示」
もちろんこれはあくまで仮説だし、指摘のようにろうそくの位置や出来、色などいろいろ条件がバラバラかつ一回限りのトライの結果なので「実験」としての信憑性はあやしい。
でもこの「0~9、どれが一番最後まで火が灯る問題」を考えるのはどうやらなかなか楽しそうだ。もしすべて同じ条件で揃えたらどんな結果になるのか?
科学に明るい方はお手隙の際にでも思いを馳せてみていただけると幸いだ。
夏休みの自由研究を思い出した
ちなみに、もしチャレンジしたい方がいたら以下の条件を整えると良いそうだ。無色のろうそくが1本ずつ燃えていくという実験中の写真は若干地味になりそうだけど…参考まで。
「複数回計測する」「ろうそくを一つずつ燃やす」「垂直に立てる」「同じ色に揃える」「精製の際の不純物を極力除く」「上からガラスのコップをかぶせる」